※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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6日目
『おかえりなさい』


僕は身じろぎもせず、ひとりベッドに座っていた。

何時間経ったろうか。

昼も夜もない閉ざされた部屋だが、もう真夜中を過ぎているはずだ。

 

ひとりになると、豪華な部屋が余計に広く感じられる。

防ぎようのない虚脱感が、じわじわと侵食してくる。

 

ソファーの上に、キレイに畳まれたウェディングドレスが、寂しげに置かれていた。

ももちゃん…結婚式したかったよね…ごめんね…

 

彼女は生まれて12年間、病気で苦しんで、その後20年間、僕への想いと孤独に苦しんだ。

 

僕などには想像もつかない、軽々しく同情することすら許されない苦しみだ。

あんな小さな少女が、それに耐えてきたんだ。

それに比べて僕は…

 

ももちゃんは、ようやく健康な体と、願いが叶う幸せを手に入れた。僕に話さなければ、気付かれる事はなかっただろう。

 

彩ちゃんは家出少女だった。もし、ももちゃんが警察とかに見つかれば、彩ちゃんの親許に連れて行かれるだろう。

しかし、北海道はあまりにも遠い。このまま発見されない可能性も充分ある。

 

つまり、あの告白さえしなければ、僕とずっと一緒にいられた。

…『これを聞いたら、わたしの事キライになるから』…

なのに、話すことによって僕の愛が冷めてしまうリスクを犯して、打ち明けた。

 

それは、ももちゃんの誠意だ。

愛する人に偽ったままでいたくない。どこまでも純真で真っ直ぐで清らかな心を持っているからだ。

 

なのに僕は…

そんなももちゃんの真心を踏みにじった。全てを知って受け入れる寛容さが、なかった。

いや、そもそも僕の愛が浅かったのだ。

 

ももちゃんの可愛い顔と体に惹かれて、セックスの快楽に溺れて…それが当たり前のようになって…どれ程幸福なことか、忘れていた。

愛してるとか言いながら、そんなの本当の愛じゃない。

 

僕は……最低だ……

元々、ももちゃんに愛されるには、相応しくない。その資格もない、下劣な男だ。

このままひとりで、のたれ死んでしまえばいい。醜い心の僕には、それこそがお似合いだ。

 

でも…

 

それでも僕は、ももちゃんに会いたい!

会って、心から謝って、もう一度やり直したい。

愛が足りなくてもいい。どうせ肉欲だけだろうと言われても構わない。

 

やっぱり、ももちゃんに会いたい!会わなければならないんだ!

 

僕は部屋を飛び出すと、廊下を走った。

一階まで、隅々を探し回った。

クルマに乗り込むと、ももちゃんと行った場所全てを辿っていった。

海水浴場…温泉旅館…

もちろん、ももちゃんはいなかった。

 

正直、あの女性とどこに行ったのか、皆目見当もつかない。でも、とにかく探そう。

 

やがて僕の街に戻ってきた。

すっかり夜も明けていた。

ももちゃんの話しに出た廃工場が、どこかにあるはずだ。

しかしそれは、見つけられなかった。

ショッピングモール、ファミレスと探して…

 

とうとう、憔悴しきった僕は、アパートの駐車場に戻った。

昨夜一睡もしていない体は、ひどい頭痛と倦怠感に襲われていた。

クルマの中で、グッタリしていた。

もう絶望しかなかった。

 

やっぱり…いなかった…

当然だろう。最低な僕は、ももちゃんに嫌われたんだから。許してもらえるはずもない。甘いんだよ。バカだな。

もう永遠に失われたんだ。いいかげん認めろよ。自業自得だ。

 

僕はフラフラとクルマを降りて、よろけながら階段を登った。

部屋が何号室だったのか、それさえも忘れそうになっていた。

 

頭を押さえながら部屋に入った。

「おかえりなさい」

声がした。ももちゃん?

 

でも誰もいない。幻聴だ。

 

もう限界だ。寝不足と疲労で、気が遠くなってきた。

僕はその場に倒れ込んだ。

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