※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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7日目
『お兄ちゃん…さよなら…』


「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」

 

ももちゃん?そこにいるの?

僕は目を開けた。

そこには黒い帽子と黒いサングラスの、あの女性がいた。

 

「やっぱり、あなたの愛は偽りですね」

 

何だ?何を言ってるんだ?

 

「あなたが愛したのは、幼い肉体だけ。ただの都合の良い性欲の対象です。それは愛ではありません」

 

そんなことない!僕は心から、ももちゃんを愛してるんだ!

 

彼女は帽子とサングラスを外した。

そこに現れたのは、ももちゃんの顔だった。

 

「お兄ちゃん…さよなら…」

 

ももちゃん!待ってよ!ももちゃん!

 

姿が消えていく。

 

ももちゃん!

 

 

 

 

 

僕は飛び起きた。

自分の部屋のベッドの上だった。

今は朝か?

 

「お兄ちゃん、どうしたの?」

ももちゃんが、キッチンからピョコンと顔を出した。

「え?…いや、ちょっと変な夢見て…」

「大丈夫?」

彼女は髪をツインテールにして、猫の絵が描かれたエプロンを着けていた。可愛い。

「うん、何でもないよ」

いや違う、何だか変だ。

 

「今ね、朝ごはん作ってるの。ちょっと待ってね」

「うん、ありがとう」

たしか、ももちゃんがラブホテルから出ていって、僕は探しまわって…

それも夢か?

どこからが夢だ?

そもそも、ラブホテルにも温泉旅館にも行ってないのか?

わからない…

時計を見た。朝の6時だ。

 

ももちゃんが作ったのは、ご飯と味噌汁と焼き鮭。

ご飯はお粥みたいにベチョベチョ。

味噌汁は辛すぎる。

鮭は焼きすぎ。半分焦げている。

相変わらず料理は下手だ。

 

「おいしい?」

ももちゃんはテーブルで、ほお杖ついてニコニコしていた。

「うん、おいしいよ」

と、僕は嘘をついた。あの時と同じだ。

「よかった。最後にお兄ちゃんにご飯作ってあげられて」

えっ?最後?

「彩ちゃんから聞いたよ。お兄ちゃん、わたしをずっと探してくれたんだよね」

 

やっぱり、あれは現実か…

 

「彩ちゃんね、お兄ちゃんに付いていって見てたの。お兄ちゃんすごく必死だったって。わたしのこと本当に愛してるよって言ってた。すごくうれしかったよ」

「そんなの、当たり前だよ」

 

「わたしね、今日、お兄ちゃんとお別れしないといけないの」

 

突然だったが、それは当然覚悟しておくべきことだった。

ずっと一緒にいられるとか、結婚するとか、そんなのは僕の一方的な思い込みで、最初からわかっていたことだ。

でも実際その時が来ると、さすがに動揺する。

 

「お別れって…そんな…」

「わたしもホントはお兄ちゃんといたい。でも、聞いちゃったの。本当のこと。わたしも知らなかったこと」

 

そして、ももちゃんは話してくれた。

ラブホテルから出た後のことだ。

 

あの夜。

 

ラブホテルの部屋を出たももちゃんと黒い女性は、エレベーターに乗った。

ももちゃんは、考えていた。

わたしがホントの事話したから、どこかに連れて行かれちゃうんだ。もうお兄ちゃんには会えない…

また涙が溢れてきた。黒い女性は無言だった。

 

その時いきなり…

『ももちゃん!なんで彼に話しちゃったの!?』

彩ちゃんの声がした。いつの間にか隣にいた。

ももちゃんは、泣きじゃくりながら言った。

『だって…わたしもう…お兄ちゃんにウソつくの、つらかったの…』

黒い女性はふたりを見ずに話した。

『それは問題ないわ。あの人に話したところで、何も変わらないから。それより、ルール違反をしたのは…』

彩ちゃんの方を向いた。

『あなたよ』

 

ももちゃんは驚いた。

『彩ちゃん?』

彩ちゃんは唇を噛みしめて、黙りこくった。女性はさらに追い討ちをかけた。

『どうして桃香さんに言わなかったの?もう時間がないのよ』

『いいじゃない!あたしが、ももちゃんにあげたんだから!文句あるの!?』

ももちゃんは混乱した。

『何の話しなの?』

 

建物の外に出た三人は、停めてあった僕のクルマに乗り込んだ。あの女性は、どんな鍵でも無効にできるらしい。

『彩さん。桃香さんに、あなたから説明しなさい。それが規則だから』

 

 

僕は、すっかり冷めてしまった辛い味噌汁を飲んで

「ももちゃんに体をあげる前のことだね。その人と彩ちゃんは、どんな話しをしたの?」

ももちゃんは

「わたし、彩ちゃんのこと、何も知らなかった。話してくれなかったから。だからわたしからも、彩ちゃんのこと全部教えてって、お願いしたの」

 

 

斉藤彩ちゃんは、ももちゃんと同じ12歳。北海道で、父親とふたりで暮らしていた。

 

母親は、彩ちゃんが5歳の時、家を出ていった。父親は言った。『あいつは、お父さんと彩を捨てて、他の男の所に行ったんだ』

 

父親は、元プロボクサーだった。引退後は、人材派遣に登録して働いていたが、職場で大ケガをして、辞めざるをえなくなった。

それから彼は変わった。

優しく温厚だった父は、荒れてしまい、彩ちゃんに対しても暴言を吐くようになった。

 

時々、家に恐そうな男が来た。

父はその男と外出しては、多額の現金を持って帰って来た。

子供の彩ちゃんにも、父が何か良からぬ事をしているのがわかった。

 

悪い噂はすぐに広まる。彩ちゃんの父親は暴力で人を脅して、お金を巻き上げていると。

その真偽は定かでないが、そのために彼女は学校でイジメられるようになった。

仲の良かった友達も離れていった。

誰も助けてくれない。教師でさえも。

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