彩ちゃんは全てを恨み、絶望した。
何もかも大嫌いだ。
誰にも愛されていない。自分が何のために生きているのか、わからない。
死のうと思った。
誰も知らないところに行って、ひっそり消えよう。
誰にも見られたくない想いを書き綴った日記、それをショルダーバッグに入れた。
それから父親が家に隠しておいた300万円を持ち出した。こんな汚いお金は、どこかに捨ててしまおう。父親を困らせてやろう。
彩ちゃんは家を出た。
北海道から離れて、できるだけ遠いところに行こうと思った。
電車を乗り継ぎ彼女は、2000キロも離れたこの町に、なんとなく降り立った。
公園のベンチで彩ちゃんは、ぼんやりしていた。
ここ、どこだろう。何だか疲れたな…
『斉藤彩さん』
突然の声に、彩ちゃんは驚いた。
そこには全身黒ずくめの女性が立っていた。
あたしの名前を知ってる!もしかして警察の人?
逃げようとする彩ちゃんに女性は
『わたしは敵ではありません。あなたにお願いがあります』
『お願い?』
『あなたにしかできない事です。話しを聞いてくれますか?』
彼女は迷ったが、元々死ぬつもりだ、怖いものなどない。
『いいよ。何するの?』
女性は微笑んだ。
『場所を変えましょう』
一瞬で、ふたりは全く別の場所に移動した。
廃工場のような薄暗い建物の中。
目の前に椅子が置かれていた。
『そこに座りなさい』
何が起こったのかわからないまま、彩ちゃんは腰掛けた。
黒い女性は彼女に、ももちゃんの話しをした。
満たされぬ想いを抱えたまま、20年間苦しんでいる、彩ちゃんに瓜二つの少女の魂。
にわかに信じがたい話しだが、たった今ここに瞬間移動した事実がある。この女性は只者ではない。
彩ちゃんは尋ねた。
『それで?あたしに何ができるの?』
『その魂の願いを叶えるために、あなたの体を貸してほしいんです。7日間だけ』
『貸すって…そんなことできるの?』
『できます』
『別にいいよ。その子のためになるなら。そのときは、あたしが代わりに幽霊になるの?』
『察しがいいですね。その通りです。体の安全は保証されます。例えば事故などで重傷を負っても、あなたに返されるときには、完全に元の状態に戻します』
彩ちゃんは、こんな突拍子もない話しを受け入れる自分が不思議だった。
『彩さん、いいですか?必ず7日以内に体を返してもらうこと。それが重要です。もしそれを過ぎたら、あなたの体は永遠にその子のものになります。もう戻れません。7日間だけです』
『でもそれって、その子がかわいそうじゃない?せっかく生き返ったのにまた幽霊に戻るなんて』
『戻りません』
『えっ?』
『一度他人の体を借りた魂は、そこから出たら完全に消滅します。何も残りません』
『そんなの、ひどすぎるよ!』
『それが規則です。それからもうひとつ。7日間だけ貸すことと、魂の消滅のことは、必ず彩さんが説明すること。わかりましたね』
『そんなこと…言えないよ…』
『できなければ魂は救えません』
『…わかったよ』
そして女性は彩ちゃんの体から魂を抜いた。
ももちゃんは、そんな衝撃的な話しをしながら、その表情は驚くほど清々しかった。
「びっくりするよね。この体、わたしがもらったと思ってたのに。7日で返すとか、わたしが消えちゃうとか」
「消えるって、そんな…何とかならないの?」
「ダメなの。なんかね、それがタマシイのゲンカイなんだって。だから無理なの」
魂の限界…
僕の前からいなくなるだけじゃなく、魂もなくなるなんて…
ももちゃん、どうしてそんなに平気でいられるの?
ももちゃんは微笑んで
「そんな悲しい顔しないで」
「でも…」
「わたしね、お兄ちゃんといられないなら、消えちゃう方がいいの」
たしかに、また肉体のない状態に戻っても、ももちゃんを待っているのは、未来永劫の孤独だけだ。
それは僕が死んだ後も続く。彼女はさらに孤独になる。
それでも、自分の存在がなくなるなんて、平気なはずはない。怖いのが当たり前だ。
もし僕なら、とても耐えられない。
「それよりわたしが心配したのは、彩ちゃんのことなの」
「彩ちゃん?」
「だって、まだ生きてるのに死にたいって思ってるんだよ」
自分の体験を話した彩ちゃんは、黒い女性に向かって
『ももちゃんをだまして、あたしの体に入れて、今さらなんでそんなこと言わせるの?ズルいよ!』
女性は無表情に
『あなたがどう思っても関係ありません。私が決めた規則でもありません。あなたが桃香さんに早く告げないのが悪いんです』
ももちゃんは何も言えなかった。
突然聞いた事実にショックを受けていた。