※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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『そんな悲しい顔しないで』

彩ちゃんは全てを恨み、絶望した。

何もかも大嫌いだ。

誰にも愛されていない。自分が何のために生きているのか、わからない。

 

死のうと思った。

誰も知らないところに行って、ひっそり消えよう。

誰にも見られたくない想いを書き綴った日記、それをショルダーバッグに入れた。

それから父親が家に隠しておいた300万円を持ち出した。こんな汚いお金は、どこかに捨ててしまおう。父親を困らせてやろう。

彩ちゃんは家を出た。

 

北海道から離れて、できるだけ遠いところに行こうと思った。

電車を乗り継ぎ彼女は、2000キロも離れたこの町に、なんとなく降り立った。

 

公園のベンチで彩ちゃんは、ぼんやりしていた。

ここ、どこだろう。何だか疲れたな…

 

『斉藤彩さん』

突然の声に、彩ちゃんは驚いた。

そこには全身黒ずくめの女性が立っていた。

あたしの名前を知ってる!もしかして警察の人?

 

逃げようとする彩ちゃんに女性は

『わたしは敵ではありません。あなたにお願いがあります』

『お願い?』

『あなたにしかできない事です。話しを聞いてくれますか?』

 

彼女は迷ったが、元々死ぬつもりだ、怖いものなどない。

『いいよ。何するの?』

女性は微笑んだ。

『場所を変えましょう』

 

一瞬で、ふたりは全く別の場所に移動した。

廃工場のような薄暗い建物の中。

目の前に椅子が置かれていた。

『そこに座りなさい』

 

何が起こったのかわからないまま、彩ちゃんは腰掛けた。

黒い女性は彼女に、ももちゃんの話しをした。

満たされぬ想いを抱えたまま、20年間苦しんでいる、彩ちゃんに瓜二つの少女の魂。

にわかに信じがたい話しだが、たった今ここに瞬間移動した事実がある。この女性は只者ではない。

 

彩ちゃんは尋ねた。

『それで?あたしに何ができるの?』

『その魂の願いを叶えるために、あなたの体を貸してほしいんです。7日間だけ』

『貸すって…そんなことできるの?』

『できます』

 

『別にいいよ。その子のためになるなら。そのときは、あたしが代わりに幽霊になるの?』

『察しがいいですね。その通りです。体の安全は保証されます。例えば事故などで重傷を負っても、あなたに返されるときには、完全に元の状態に戻します』

彩ちゃんは、こんな突拍子もない話しを受け入れる自分が不思議だった。

 

『彩さん、いいですか?必ず7日以内に体を返してもらうこと。それが重要です。もしそれを過ぎたら、あなたの体は永遠にその子のものになります。もう戻れません。7日間だけです』

『でもそれって、その子がかわいそうじゃない?せっかく生き返ったのにまた幽霊に戻るなんて』

『戻りません』

『えっ?』

 

『一度他人の体を借りた魂は、そこから出たら完全に消滅します。何も残りません』

『そんなの、ひどすぎるよ!』

『それが規則です。それからもうひとつ。7日間だけ貸すことと、魂の消滅のことは、必ず彩さんが説明すること。わかりましたね』

 

『そんなこと…言えないよ…』

『できなければ魂は救えません』

『…わかったよ』

そして女性は彩ちゃんの体から魂を抜いた。

 

ももちゃんは、そんな衝撃的な話しをしながら、その表情は驚くほど清々しかった。

「びっくりするよね。この体、わたしがもらったと思ってたのに。7日で返すとか、わたしが消えちゃうとか」

「消えるって、そんな…何とかならないの?」

「ダメなの。なんかね、それがタマシイのゲンカイなんだって。だから無理なの」

 

魂の限界…

僕の前からいなくなるだけじゃなく、魂もなくなるなんて…

ももちゃん、どうしてそんなに平気でいられるの?

 

ももちゃんは微笑んで

「そんな悲しい顔しないで」

「でも…」

「わたしね、お兄ちゃんといられないなら、消えちゃう方がいいの」

 

たしかに、また肉体のない状態に戻っても、ももちゃんを待っているのは、未来永劫の孤独だけだ。

それは僕が死んだ後も続く。彼女はさらに孤独になる。

 

それでも、自分の存在がなくなるなんて、平気なはずはない。怖いのが当たり前だ。

もし僕なら、とても耐えられない。

 

「それよりわたしが心配したのは、彩ちゃんのことなの」

「彩ちゃん?」

「だって、まだ生きてるのに死にたいって思ってるんだよ」

 

 

自分の体験を話した彩ちゃんは、黒い女性に向かって

『ももちゃんをだまして、あたしの体に入れて、今さらなんでそんなこと言わせるの?ズルいよ!』

女性は無表情に

『あなたがどう思っても関係ありません。私が決めた規則でもありません。あなたが桃香さんに早く告げないのが悪いんです』

 

ももちゃんは何も言えなかった。

突然聞いた事実にショックを受けていた。

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