※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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『うれしい。約束だよ』

彩ちゃんは、そんなももちゃんの肩に手を置いた。

『大丈夫、ももちゃんは消えないよ。あたしね、最初から決めてたんだから。ももちゃんに体をあげるって。どうせ死ぬつもりだったから』

 

その言葉を聞いたももちゃんは、我に返った。

『だめだよ!そんなの』

彩ちゃんの手を握って

『お願い、彩ちゃんは生きて』

『だって、お兄ちゃんとずっと一緒にいたいでしょ?お兄ちゃんも、ももちゃんのこと愛してるよ。ももちゃんは幸せになっていいんだよ』

 

『わたし、もう死んでるんだよ。20年も前に。わたしもね、このまま大人になって、お兄ちゃんと結婚したい。でもね、彩ちゃんがまだ生きてるなら、まだ戻れるなら…この体、もらえないよ』

『でも、ももちゃんが…』

『わたしはいいの。彩ちゃんのおかげで、お兄ちゃんに愛してもらったから。もう幸せだよ』

 

彩ちゃんは、涙を流して

『ももちゃんが消えちゃうなんて、そんなのイヤだよ…』

『彩ちゃん、ホントはもう死にたいなんて思ってないよね?』

『えっ?』

 

『わかるよ。わたしとお兄ちゃんが愛し合ってるの見て、彩ちゃんもしてほしいって思ったでしょ?それって、生きたいってことだよ』

『ももちゃん…』

『彩ちゃんはね、わたしに初めてできた、大切なお友達なの。大好きなの』

『あたしもだよ、ももちゃん』

『彩ちゃんも絶対、幸せになってね』

 

ふたりの少女は、抱き合って泣いた。

 

 

これが、ももちゃんを取り巻く全ての真実だ。

 

 

まだ幼い少女ふたりが、お互いを思いやり、生死の決断をこんなにも迷いなく、きっぱり下している。

僕は何も言えなかった。

あまりにも身勝手な自分を恥じた。

ももちゃんと離れたくないなどと言う資格はない。

これはももちゃんと彩ちゃんの問題で、僕はただの傍観者に過ぎないのか。

 

「わたしね、すごく幸せだよ。だって本当は、お兄ちゃんに会いたくても会えなくて、ずっとずっと、ひとりぼっちだったんだよ」

「ももちゃん…」

 

「でも今は、お兄ちゃんがこんなに愛してくれる。わたしのホントのこと知っても」

「関係ないよ。ももちゃんはももちゃんだ」

「わたしより彩ちゃんの方が、ずっとかわいそうなんだよ。お友達を助けたいって思うの、当たり前だよね」

 

覚悟を決めたももちゃんは、美しかった。

わずかな時間で成長したようにも見えた。

 

ももちゃんの最後の大切な時間を、僕の悲しみなんかで曇らせてはいけない。

 

「でもね、ちょっと寂しいのは、お兄ちゃんも彩ちゃんも、わたしのこと忘れちゃうことかな」

「えっ?忘れないよ!忘れるわけない!」

「だめなの、それも規則だって。わたしに会った人は、わたしのこと覚えていたらダメなんだって」

記憶を消すということか。全てなかったことにするわけだ。徹底している。

規則か。

規則?…ちょっと待てよ…

 

そのとき、僕がももちゃんの話しから感じていた、疑問が解けた。

そうか!そういうことか!

 

「ももちゃん!あの女の人は、また来るの?」

「来ると思うよ。どうして?」

「来たら話しをするよ。僕がももちゃんのこと忘れないようにしてもらうんだ!」

「無理だよ」

「いや、絶対大丈夫!ももちゃん、彼氏を信じて!」

 

ももちゃんの顔が輝いた。

「ホント?ホントに信じていいの?」

「約束する。それに僕が覚えていれば、ももちゃんはずっと僕の中で生きてるんだよ。消えたりなんかしない」

「うれしい。約束だよ」

それが僕にできる精一杯だ。

 

でも、ももちゃんがこの体にいられるのは、今日までだ。

どう過ごしたらいいのか。

 

「ももちゃん、どこかに出かけようか。どこに行きたい?」

ももちゃんは首を横に振った。

「ここにいたい。最後までここで、お兄ちゃんと、ふたりだけでいたいの」

「ありがとう。僕もその方がいいよ」

 

ももちゃんは、椅子から立ち上がった。

「ねえ、お兄ちゃん」

可愛いフリルの付いた水色のTシャツ。よく似合ってる。

「桃香を、きもちよくして」

僕をじっと見つめながら、Tシャツの裾を捲った。

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