2時間ほど経って、ももちゃんは目を開けた。
「あ…お兄ちゃん」
「満足した?」
「うん、こんなにいっぱい、きもちよくしてくれて、うれしい」
僕は笑って、ももちゃんの頭を撫でながら
「もう何も出ないよ」
「そうだね。わたしがお兄ちゃんの全部、もらっちゃったから」
いたずらっぽく笑い返す、ももちゃん。
「お兄ちゃん、ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方だよ。ももちゃんのおかげで、本当に人を愛するって、どういうことなのかわかった気がする」
「うーん…難しいことは、わかんないよ」
「とにかく、僕のお嫁さんは最高だってこと」
時がゆるやかに過ぎていく。
ももちゃんは、ポツリと
「静かだね」
そういえば…普段のこの時間は、薄い壁を通して、周りの生活音とか聞こえているはずだ。
不思議に静まりかえっている。いつからだろう?
「そうだね」
「きっと神様が、わたしたちだけの世界にしてくれたんだよ」
「うん、きっとそうだ」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「愛してる」
「愛してるよ、桃香」
少女を強く抱きしめた。
そのまま言葉もなく、ふたりは横になったままピッタリ密着していた。
ただお互いの体温を、鼓動を、感じあっていた。
もうすぐ日付が変わる。
その時が来た。
長い年月、苦しんで、ようやく幸せを手にした少女が、最後に下した決断。
僕は愛しているからこそ、その決心を尊重する。
ももちゃんは身支度を整えた。
初めて会ったときに着ていた、水玉模様の青いワンピース。ピンクのショルダーバッグ。
なんだか、遠い昔のようだ。
僕の人生で一番大切な7日間だった。
僕が一番愛した女性。
最後の、最高の女性。
ももちゃんは僕の前に、向かい合って立った。
「いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
ももちゃんを抱きしめた。
そう、これはさよならじゃない。
ちょっと出かけるだけだ。
ももちゃんは目を閉じた。
僕は唇を重ねた。
ももちゃん、ありがとう…
少女の体がピクンと動いた。
僕は気付いた。
今この瞬間、ももちゃんはいなくなった。
外見は変わらない。
でも、ここにいるのは…
僕が腕を緩めると、少女は一歩下がった。
僕は尋ねた。
「君は、彩ちゃん?」
彩ちゃんは、小さく頷いた。
「ありがとう、彩ちゃん。ももちゃんを僕に会わせてくれて」
彩ちゃんは何も言わなかったが、その目が潤んでいた。
玄関のドアが開いた。
黒い服の女性が入ってきた。
「彩さん、行きますよ」
しかし彩ちゃんは、女性を睨みつけたまま、動かなかった。
さあ耕平、ここからが勝負だ。ももちゃんとの約束を果たすんだ。僕は悲しみを抑えて、自分を奮い立たせた。女性に向かって
「どうやら、あなたはまだ嫌われてるみたいだね」
女性はそれに答えず再度呼びかけた。
「彩さん!」
僕は笑いながら
「そんなところで威張ってないで、こっちに来てよ。お茶でも煎れるよ」
「要りません」
と言いながらも、女性は靴を脱いで部屋に入ってきた。そして彩ちゃんに
「どういうつもりですか?」