※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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『馬鹿な人ですね』

僕は彩ちゃんの手を取ってキーを渡した。

「外に僕のクルマがあるから、その中で少し待ってて。このお姉さんと話しがあるから」

女性は

「そんな勝手は許されません」

しかし彩ちゃんは僕に頷いて、部屋を出ていった。

 

女性は厳しい口調で

「何ですか?あなたは。今度は彩さんを狙っているんですか?」

僕は笑って

「そんなことしないよ。あなたに引き渡す。その前に頼みがあるんだ」

「桃香さんは戻りません」

「わかってる。まあ座ってよ」

僕は彼女に椅子を勧めた。

女性は渋々座って、脚を組み、腕組みした。警戒している。

 

「僕の頼みは、僕からももちゃんの記憶を消さないことだ」

 

女性は軽蔑するように言った。

「あなたのような人は、大勢見てきました。でも無理です。それが規則ですから。記憶も痕跡も消します」

「そうかな?規則規則と言うけど、あなたはその規則を自分で曲げてるよね?」

「何を言っているのか、わかりません」

 

ここからが正念場だ。僕は畳みかけた。

「あなたが彩ちゃんにした説明、どうも違和感がある。7日間ルールと消滅のことを、彩ちゃんに言わせる件だ」

「それも規則です」

 

「おかしいだろ?魂を救うはずなのに、そんなのは混乱とトラブルを招く。事前にあなたが説明して、納得させてから肉体を貸す。それが本当の規則のはずだ」

「例えそうでも、あなたに関係ありません」

これはもう、認めたも同然だ。

 

僕はさらに

「ももちゃんも彩ちゃんも、純真で素直で優しい子だ。そして賢い」

「そうですね」

「彩ちゃんは自殺しようとしてた。体を返してもらうつもりはない。それも予想してたはずだ。おかげで、ももちゃんは魂の消滅とかを知らずに、与えられた体を存分に楽しんだ。生きることを謳歌した。そんなももちゃんを見せて、彩ちゃんに生きる欲求が芽生えるのを、あなたは期待した」

 

彼女の顔の半分はサングラスに隠されていて、表情はよくわからない。しかし僕は、女性が動揺しているのを感じた。もう一息だ。

「ラブホテルから連れ出した後の展開も、あなたの思惑通りだ。ももちゃんは、自分の幸せのために彩ちゃんを犠牲にするような子じゃない。彩ちゃんの真実を知ったももちゃんは、自殺させないように説得する。あなたが言うよりも、効果的だ」

 

僕はとどめを刺した。

「あなたは、ももちゃんだけでなく、彩ちゃんも救いたかった。そうだろう?それが本来の役目じゃなくても」

「どう思うかは、あなたの勝手です」

「それからこの部屋、今朝からずっと、外の物音が何も聞こえない。おそらくここは遮断されていたんだろう。ももちゃんの最後の一日を他人に邪魔されないように。それもあなたがした事だと思う」

 

女性の態度が、少し軟化した。

「わかりました。認めます。でもそれがあなたの願いと何の関係がありますか?」

 

「あなたが優しい人だということだ。規則を曲げて彩ちゃんを救った。僕の望みも聞いてくれる人だ」

「それは別です」

「あるんだろう?方法が」

 

彼女は根負けしたように

「ひとつだけあります。でもお勧めできません」

「僕は何も恐れない」

 

「わかっていませんね。あなたのしたいことは、数日前に知り合っただけの、今は存在しない少女を覚えておく、それだけのために全てを犠牲にすることですよ」

「覚悟してる」

 

「普通の人としての未来も幸せも、なくなります。何の楽しみもない。誰とも深く関われない。永遠の孤独です」

「構わない」

 

「桃香さんは戻らない。何の意味があるんですか?ただの自己満足ですよ」

「そうだよ。それが悪いか」

 

黒い女性は、諦めたように言った。なぜか、少しだけ微笑んだように見えた。

「馬鹿な人ですね」

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