※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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永遠
『うん。ずっとずっと、お兄ちゃんと一緒だよ』


木々がざわめいていた。

風が吹いているのだろう。

しかし僕はそれを感じることができない。

暖かいのか寒いのか、それさえもわからない。

 

家族も友人もいない。

人としての生活は失われた。

眠ることさえない。

 

肉体はある。生きている。

見た目は普通の人間だ。

もし誰かに包丁で刺されたら、血は流れる。

でも痛みは感じない。死ぬこともない。

いや、死ねないのだ。永遠に。

 

美しい風景だ。

季節は春か。

新緑に彩られた山。きらめく湖。

 

あれから何年経ったろうか。

 

僕はもう、山下耕平ではない。今は名前もない存在だ。

 

斉藤彩ちゃんは、あのときの記憶を消された。

体も、僕が抱く前の処女の状態に戻された。

今は結婚して、子供もいるらしい。

幸せであればと願う。

 

古びた木の柵に、たくさんの絵馬が掛かっていた。

風に煽られて、カタカタ音を立てている。

そのひとつを手に取った。

 

『ふたりの愛が永遠に変わらぬ事を誓います』

と印刷された文字。その後ろに、ほとんど消えかかった署名。

『耕平と桃香』

痕跡も全部消すと言ってたのに、残っているじゃないか。

もしかして僕のためか?いや違うな。ただのミスだろう。

 

永遠の孤独だと、あの人は言った。

それは違う。

ももちゃんがいる。僕の中に。

 

僕を真っ直ぐに愛してくれた、一途で清らかな心。

一点の曇りもない、純真で美しい少女。

輝く笑顔。おいしそうに食べて、無邪気に喜び、飛び跳ねる姿。

しなやかで美しい体。

滑らかな白い肌。僕を包んでくれた、湿った温かい柔肉。

僕の腕の中で悦びに震える、あの表情。

 

あの日々の全てを、鮮明に詳細に覚えている。何一つ、忘れることはない。

だから自分の選択を、後悔していない。

僕が永遠に生きるなら、それは彼女も同じだ。

そうだよね、ももちゃん。

 

『うん。ずっとずっと、お兄ちゃんと一緒だよ』

「愛してるよ、桃香」

『わたしも。お兄ちゃん、愛してる』

 

ベンチに座って、ぼんやりと風景を眺めている男がいた。

かすかに、その体が光っている。

あの男か。

 

僕は近づいて声をかけた。

「松野明宏さんですね」

男は驚いて、僕を見た。

「お、俺が見えるのか!?どうして?俺、死んでるのに…」

僕は黒い帽子を少し持ち上げて、挨拶した。

「初めまして。私は魂を導く者です」

 

 

 

 

         

 

         ーー 完 ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで完結ですが、1000文字以上ないと投稿できないので、このあと無意味な記号を入れます。見苦しいですが、了承ください。

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