※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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2日目
『どう?おいしい?』


「お兄ちゃん!起きて!」

目を開けると、ももちゃんの笑顔があった。

ゆうべは寝不足で、しかもソファーで丸まっていたから、身体中が痛い…

 

部屋の時計を見ると…8時35分…えっ!?…ヤバい!遅刻だ!

慌てて起き上がる。

 

ももちゃんは朝から元気だ。

「ねえ、わたし朝ごはん作ったんだよ!一緒に食べよ」

えっ?そんな事してくれたのか?でも時間が…

「あ、ごめん…もう行かないと…」

彼女の顔が曇った。

「そっか…お仕事だもんね…」

それが、あまりにも悲しげで…

「いいよ。食べよう。僕も一緒に食べたいし」

「ホント!?」

顔がパッと輝く。

どうせ遅刻だ。あとで会社に電話しよう。

 

ももちゃんが作ったのは、フレンチトーストと、ベーコンエッグ、コーヒー。

「美味しそうだね」

「がんばって作ったんだよ。食べてみて」

しかし…

フレンチトーストは激甘…どれだけ砂糖入れたんだ?

ベーコンは焼きすぎで噛みきれない。

玉子も焦げている。塩が多すぎる。

 

ももちゃんは、僕の顔をじっと見ている。

「どう?おいしい?」

「うん、おいしいよ」

「よかった!」

キラキラした笑顔で喜んでいた。

 

コーヒーを飲んだ。…メチャメチャ苦い。

きっとももちゃんは、普段コーヒーなんて飲まないから、豆の量が分からないんだ。

まあ…僕のために頑張ってくれたんだ。その気持ちだけで、うれしいよ。

 

「お兄ちゃん、今日は遅くなるの?」

「うーん…わからないな」

「そっか…」

彼女は寂しそうな顔をした。

 

「ももちゃんは?今日はどうするの?」

「今からお部屋の掃除するの」

「えっ?そんな事しなくていいよ」

「ダメ!だって汚いよ。この部屋」

そう言われると、返す言葉がない。

 

「それなら、せめて朝ごはんと掃除のお礼がしたいな」

「わたし、お兄ちゃんの作ったごはん、食べてみたい」

「そんなのでいいの?じゃあ、ももちゃん、オムライス好き?」

ももちゃんは大喜びだ。

「うん!大好き!」

「決まりだね。僕が帰るまで待ってて。あ、そうだ、ももちゃんのお昼ごはんは?」

「コンビニで買うからいいよ」

部屋を出ると、ももちゃんが、ドアの前で手を振った。

「いってらっしゃい!」

 

なんか、いいな。こういうの…

僕は温かい気持ちになりながら、車に乗り、会社に向かった。

 

ももちゃんが家に来てまだ2日目だ。なのにもう、すっかり馴染んでいる。

まるで、ずっと前から一緒にいたように…

余程、人懐っこい子なのか。

 

僕は結構、人見知りする方だ。なのにもう、あの子が妹みたいに思えてきた。不思議だ。

いや、年齢から考えたら、娘か…

それとも…

また、あの風呂場での事を思い出した。

だめだ、もう忘れよう…

 

仕事中も僕は、ももちゃんの事を考えていた。

すると会社の部下が近寄ってきた。

「係長、今度の土曜、空いてます?」

「土曜?何かあるの?」

「合コン行きませんか?人が足りなくて」

数合わせか…

ももちゃんの事は誰にも話してないが、彼女をひとりにはできない。いや、例えももちゃんがいなくても、そんなものに興味はない。

 

「悪いけど、用事があるんだ」

すると部下は渋い顔をした。

「係長、付き合い悪いですよ。飲みに誘っても来たことないし。仕事だけじゃなくて、部下との交流とかも必要だと思いますけど」

彼は言いたい事だけ言うと、仕事に戻って行った。

 

部下との付き合いだけじゃない。僕は今、これといった友人もいない。

20代の頃は、それなりに遊んでいたが、会社で役職に就いた頃から、ストレスで人付き合いが面倒になってきた。元カノと別れてから、さらにひどくなった。

 

趣味もなくなった。そういう気になれない。

朝起きる。仕事に行く。帰って寝る。

僕の生活は、それだけだった。

休日は、ほぼ一日中寝ていた。

 

わかってる。おそらく多くの人が、そんなふうに暮らしているのだろう。

僕だけが、特別つまらない人生だとも思わない。

 

女性とは、過去3人付き合った。

2年前別れた彼女は言った。

『耕平君といると、退屈なの』

つまり僕は退屈な男だ。

 

ももちゃんは、そんな僕を慕い、頼ってくれる。僕と一緒にいたい、僕を好きだと言ってくれる。あんなに可愛い子が…

もし、ももちゃんが子供じゃなかったら…僕は…

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