※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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『だって…わたしも、したいもん』

アパートに帰ったのは、夜8時頃だった。ちょっと遅くなってしまった。

車から降りた時、ふと心配になった。

ももちゃんは、まだいてくれるだろうか…

 

彼女は突然やって来た。だから突然いなくなるような気がした。

誘拐されるとか、そんな事だけじゃなくて…

例えば僕よりも、もっと相応しい預り先が見つかって、そちらに移ってるとか…

もちろん、ももちゃんのためには、その方がいいに決まってる。忘れるな、あの子は親戚の子だぞ。僕の気持ちなんて、どうでもいいんだ。

だけど…

 

部屋のドアの前に立つと、中から微かに声が聞こえてきた。ももちゃんの声だ。ホッとした。

 

しかし、なぜか気になって、ドアに耳を押し当てた。

「………うん……そう思うよね……だから、わたしね………そう……………いいかな……ありがとう……」

 

誰かと、電話で話してる?

お父さんか、お母さんかな。別に気にする事じゃない。

ドアは、ロックされてなかった。

「ただいま」

ドアを開けた。

 

「おかえりなさい!」

ももちゃんは、元気よく出迎えてくれた。

「遅くなってごめんね。お腹減ったよね」

「ううん、大丈夫。いっぱいお腹減るとね、ごはんがもっとおいしくなるから」

ももちゃんは、ニコニコして文句も言わない。

 

「ところでももちゃん、部屋のカギ掛けてなかったよ」

「えっ?カギしないとダメ?」

「だめだよ!危ないよ。変な奴が来たらどうするの?」

「心配してくれるの?お兄ちゃん、優しいね」

「いや、普通だよ」

部屋は、ももちゃんの予告通り、綺麗に片付いていた。掃除が苦手な僕には感動ものだ。

 

「ももちゃん、すごいよ!ありがとう」

「キレイになったでしょ?」

誉められたももちゃんは、素直に喜んでいた。

料理より掃除の方が得意なのは、間違いない。

 

「ホント、掃除上手いね。約束通り、オムライス作るよ」

「先にシャワー浴びて。待ってるから」

昨日の事を思い出した。

「わたし先に浴びちゃったから大丈夫だよ。ゆっくり洗ってきて」

今日は、あんな事は無さそうだ。いや、それが当たり前だろう。

 

実際、その日の浴室では何事もなかった。

 

「おいしい!お兄ちゃん、お料理上手だね!びっくりしたよ」

ももちゃんは、喜んでオムライスを食べてくれた。

 

こんなに素直に喜んでくれると、僕も素直にうれしくなる。誰かに誉められるなんて、随分久しぶりだ。

ちょっと照れるけど。

ももちゃんといると、灰色だった僕の生活が、カラフルに変わっていく気がした。

 

「ありがとう。誉めてくれたのは、ももちゃんだけだよ。まあ、僕も独り暮らしが長いから、自然に上達するよ。」

「ずっとひとり?お兄ちゃん、カノジョいないの?」

「いたよ。前にね。でもこんな話し、やめようよ」

 

楽しい思い出じゃない。避けたい話題だ。でも、ももちゃんは容赦ない。

「ダメ、もっと教えて。別れちゃったの?どうして?」

僕は、ためらいながら白状した。

「それは…彼女が違う男と…」

「それってウワキ?ひどーい!お兄ちゃんかわいそう…」

「昔の事だよ。それに多分、僕も悪かったと思うし…」

「お兄ちゃんは悪くないよ!でも…」

ももちゃんの声の調子が変わった。

「お兄ちゃん、その人とセックスした?」

え?

 

「ももちゃん…何言って…」

「だって、お兄ちゃん、その人が好きだったよね?好きな人ならセックスするよね?」

「そんな事…」

ももちゃんの口から、こんな言葉が出るなんて…

 

「ねえ、お兄ちゃん、セックスしたの?」

「しないよ…」

「ホントに?わたしにウソつくの、やだよ」

何だよ、これ。

なんで34歳の男が12歳の女の子に圧倒されるんだよ。まるで、浮気を問い詰める妻みたいじゃないか。

 

しかし、僕は根負けして言ってしまった。

「したよ…」

「やっぱりね。気持ちよかった?ねえ、どんな感じ?」

「そんなの…子供に話してもわからないよ」

「だって…わたしも、したいもん」

セックスしたいって…この子、言ってる意味わかってるのか?

 

「わたし…お兄ちゃんが好き…なのにお兄ちゃん、わたしに触ってくれないよね?どうして?やっぱり、わたしが嫌いなの?」

 

こんなの、子供とする話しじゃない!

話題を変えよう。

「それより、ももちゃんのお父さんの事聞かせてよ。何年も会ってないんだ」

「…お父さんの?」

「ももちゃん達は、今どこに住んでるの?お父さん、どんな仕事してるの?」

「それは、話しちゃダメって、お父さんに言われてるの」

「変だよ。僕に、ももちゃんの事頼んだくせに、自分の事は何も言わないの?」

「知らない!お父さんがダメって言うから!」

 

ももちゃんは、泣きそうな顔になった。

これ以上言うのは、かわいそうだ。

「わかったよ。ごめんね。ご飯食べよう」

「うん…」

また気まずくなった。うまくいかない…

 

でも、ももちゃんは、再びオムライスを食べ始めると、機嫌を取り戻した。

「ホントおいしい!」

キレイに完食してくれた。

「お兄ちゃん、また作ってね!」

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