日々の激務に疲れたヒナ委員長が、恋人の先生に身も心も甘やかされます。
空崎ヒナが「ただいま」を言わなくなってから、もう二年が経っていた。
一人暮らしを初めた当初、ヒナは当たり前のようにその言葉を口にしていた。けれど一月も経つ頃にはもう、その習慣はなくなっていた。
理由は簡単で、さみしいからだ。「ただいま」とどれだけ呼びかけても「おかえり」が帰ってこない空間はがらんとしていて、自分の孤独を浮き彫りにするようでつらかった。
今日のような疲れた日には、とくにだ。
「……ふぅ」
夜、そろそろ深夜といってもいい時間に、ヒナはようやく帰宅した。学園と提携しているマンションのロックを解除して、エレベーターで自階に向かう。
「……めんどくさい、今日はご飯、いいかな」
エレベーターを下りて、ヒナは自室へ向かう。鍵をゆっくりと開けて、騒音がしないようにドアを開く。
ヒナは「ただいま」を言わない。「おかえり」がないことがつらいから。
だからこの二年間、その言葉はすっかりご無沙汰になっていて、こういうときに、なんと言えばいいのか思い出すのに時間がかかるほどだった。
「ただい、ま……?」
暗い玄関で、ヒナは言った。
「ただいま」に返事はないはずだった。それなのに、
「ヒナー? 帰ったー?」
遠く、リビングの向こうから声が聞こえる。
足元の大きな革靴を跨いで、ヒナは玄関に上がっていく。すんっと、香ばしい、中華っぽい匂いを嗅ぐ。
リビングの扉に手をかけて、ゆっくりと開く。
「あ、おかえりー。タイミングばっちりだね」
リビングは光に包まれていた。いつもなら真っ暗な空間は明るくて、食卓には出来たての料理が並んでいた。
その向こうに、一人の男性が立っている。彼はワイシャツの上にエプロンを付けて、麻婆豆腐を皿に移していた。
「……せんせい? どうして……」
ヒナは、呆然として言った。
「どうしてって、……あれ、もしかしてヒナ、連絡みてない? 仕事が早く終わったから行くって送ったんだけど」
「え? あ、ごめんなさい……」
「いや、全然、問題ないよ」
先生が、エプロンを脱いで、あらためて言った。
「おかえり、ヒナ」
「~~っ!」
ヒナはたちまち、たまらない気持ちにさせられた。「おかえり」だなんて普通の言葉が、泣きそうなほど胸に来た。
先生といると、そんなことばかりだった。彼の平凡な言葉は、どうしてかヒナの心を暖かくする。
「ん……ただいま、先生」
「どうする? ヒナ、さきにお風呂はいる? それともご飯?」
幸せな二択を迫られて、でもヒナは他の選択を口にする。
「……ハグ」
「ん?」
「ハグがいい……だめ?」
自分でも、子供みたいな台詞が恥ずかしかった。
「もちろん、かまわないよ」
先生が笑って膝を付き、両手を広げる。
「~~っ!」
先生の胸にぴょんと飛ぶ。中肉中背の彼は、でも小柄なヒナには巨人のような大男で、すっぽりと体を包みこんだ。
「よしよし……ヒナ、今日もたくさん、がんばったね」
先生が頭を撫でてくれる。力強い腕がギュッと体を抱きしめてくれる。
ヒナの冷え切った心と体が、ぽかぽかと熱を帯びていく。男の人の体臭と、食卓の匂いがまざりあって、空腹のお腹をクークーと鳴らす。
「はは、ヒナ、お昼ちゃんと食べた?」
「も、もう……先生、笑わないで……」
「ごめんごめん。……じゃあ、お風呂はあとにして、ご飯にしようか?」
先生が言う。けれどもヒナはここでも、他の提案を持ち出した。
「……先生」
もはや言葉にするでもなく、無言で顔を寄せていく、子犬が鼻を押し付けるように、彼の唇を求めていく。
「……ん」
先生もなにも言わずに、つたないキスを受けいれてくれた。ヒナは背伸びをするように、彼の唇をついばんだ。
「ん……んん……」
時間がゆっくりと溶けていく、心と唇がとろけていって、あやふやなものになっていく。
キスはほんの少しだけ塩辛くて、夕食の味見の匂いがした。
――――――――
麻婆豆腐は甘口の、肉豆腐みたいな味だった。辛味を抑えた味付けは舌にやさしく、ヒナは珍しくおかわりまでした。
お陰で食後は食べ過ぎで動けなくなってしまい。お風呂に入るのは、映画を一本見終わってからになった。
「はー……」
ぴちゃん、と天井から水滴が落ちる。
湯船に浸かって、ヒナは大きなため息をつく。
「くは――っ」
先生もまた、同じようにため息をつく。
いま、二人は同じ湯船に浸かっていた。先生が先に入って、その上にヒナが抱っこされているような格好だ。
「~~♪」
ヒナは、自分でも珍しいことに、鼻歌をうたった。すると先生も「♪」とつづいてくれた。
決して上手ではないユニゾンが反響する。たびたび音を外れた歌は、最後にはクスクスとした忍び笑いに変わっていった。
「♪」
幸せとはこういうことを言うのかもしれないと、ヒナは思った。お腹は麻婆豆腐で一杯で、後ろには愛する人がいて、湯に沈む自分を支えてくれる。
「ヒナ、ヒナ?」
そう、呼びかけてくれることすら幸せで、ヒナは彼の呼びかけに何度も気づかないふりをする。
「ヒナ? あれ、寝ちゃったかな?」
「……ふふ、なあに? 先生」
「あ、よかった。いや、そろそろ髪を洗おうかと思ってさ」
うながされて、ヒナは湯船を抜け出した。お団子に結った髪が水気を吸って、フラフラと体を後ろに引いた。
水のベールが滑り落ちて、貧相な、本当に貧相な体が晒される。
背は低く、胸も尻も小さい。制服を着ていなければ小学生に間違われてもおかしくない体だ。
ヒナは反射的に胸を隠した。羞恥心ではなく。その粗末なものを見られて、失望されることを恐れたからだ。
「相変わらず、ヒナは綺麗だね」
けれど、先生は言う。
それが、ヒナを照れさせる。
「……もう、先生はいつもそれなんだから」
「毎回、思っているからね、仕方ないよ」
先生も立ち上がる。男性の裸身がさらされる。大きな身体はがっしりとしていて、とても自分と同じ生き物には見えなかった。
ヒナは、ちらりと先生の股間を見た。普段はふにゃっとしている肉の棒が、いまは半分ほど固くなっていた。
「……先生は、嘘がつけないから大変ね」
「え? あ、いや、これは……」
「別に、隠さなくていいわ。……嫌じゃないもの」
ヒナは笑った。最初は、それはもちろん恥ずかしかったし、怖かった。固く勃起した男性器はグロテスクで、実際、初夜では恐ろしくて泣いてしまった。
ただ、それも過去の話で、ヒナはもう、先生のペニスを怖いとは思わなくなっていた。むしろ、その滑稽な愚直さに、微笑ましさすら感じていた。
一ヶ月前にはとても信じられないだろう。まさか自分が、男性器をネタに冗談を言うようになるだなんて。
「……先生、私のこと、抱きたくなったの?」
「先生はいつだってヒナを抱きた……じゃなくて、今は髪を洗うの」
「そう? 我慢、できる?」
「ヒナがそういうことをしなければ我慢できます。こら、やめなさい」
握手をするように伸ばした手から、へっぴり腰が逃げ出していく。それがますます可笑しくて、ヒナはくすくすとほほえんだ。
「ほら、ヒナ、椅子に座って」
「はーい、先生」
ヒナは座って、結っていた髪のゴムを外した。長い髪が開放されて、滝のようにうねって落ちた。
「それじゃ、洗うよ」
先生の、泡まみれの手が髪に触れる。わしゃわしゃと、長い髪を揉みこんでいく。
「……あ………あー………」
それが、声が出るくらい心地よかった。筋肉の緊張が解けて、眉間のシワがゆるんでいった。
「どう? ヒナ、痛くない?」
「ん、ちょうど、いい…………」
人に頭を洗ってもらうのが気持ちよくて、ヒナは、夢心地でウトウトとした。
洗髪は、それから三十分以上かかった。神秘を含んだ魔女の髪は長く、手入れにはそれだけの時間が必要だった。
ヒナは少し不安になる。
「……先生、大丈夫? 私の髪あらうの、大変じゃない?」
「全然、むしろ楽しいよ」
「本当?」
「本当だとも。……こら、どこに向かって聞いているんだ」
ヒナがちらっと振り返ると、先生の股間は相変わらず元気そうだった。
それで、すこし安心したのだけれど……でもそれはそれで、どうなのだろうと思う。もしや先生は髪の毛に興奮する変態なのではないか?
「ヒナ? なんだかろくでもないこと考えてない?」
「大丈夫、私、どんな先生でも受けいれるから……」
「なんだろう。いいことを言われているはずなのに悪寒がするな……」
お湯がかかる。リンスがゆっくりと流れていく。
先生が最後に、香油を体全体に塗り込んでくれた。髪、というよりは頭皮を揉むような動きはマッサージに近くて、ヒナはどんどんとろけていった。
「それでね、先生、ヘルメット団がまた暴れていたの。そしたらイオリが怒っちゃって……」
ヒナは夢心地でお喋りをした。それは誰もが友人とするような、よくある職場の愚痴だった。
けれど、ヒナはいままで、そんなことをしたことがなかった。風紀委員長であるヒナのそれは聞くものが聞けば立派な情報漏洩であり、また組織批判と取られても仕方がなかった。
だから、ヒナはいつも一人だった。
いつも、いつも、一人だった……。
「――でもね、最後は私、ちゃんと解決できたの」
「そっか、ヒナはえらいね」
先生が頭を撫でてくれる。それが嬉しくて、あたたかい。
「ほんとう? 先生、私、えらい?」
「ああ、えらいよ。ヒナは努力家で、やさしくて、世界で一番立派な風紀委員長だ」
「ふふ、ありがとう、そう言ってくれるのは、先生とアコだけよ」
「いやいや、みんなも心のなかではそう思ってるよ。……ただ、そうだなぁ」
険しい顔。
「ヒナはいつも、なにがあっても動じないだろ? どんなトラブルを解決しても『当然』って顔をしているじゃないか」
「それはだって、……委員長がいちいち慌てていたら、みんな不安になってしまうもの」
「うん、それもわかるんだけど。……でもそれが続くと、みんな、だんだんと慣れてしまうんだ」
ぴちゃん、と天井の雫が湯船に落ちる。
「ヒナ委員長は天才だから、こんなの普通のことなんだって、ヒナがどれだけ努力していても、大変な事件を解決しても、『それが当たり前なんだ』って思われてしまう。……本当は、そんなことないのにね……」
先生の手が、ヒナの肩にそっと触れる。キヴォトスにその名を轟かす風紀委員長の肩は、しかしそうしているとひどくほそくて、まるでガラス細工のようだった。
「そんなこと、全然ないのにね……」
「……ん……」
ヒナはその手に体重を預けた。重たく沈み込む体がしっかりと支えられて、心をすくい取られていく。
自然と涙が浮かんでいく。
「うん、うん……そうなの……私そんなに、強くないから……」
「私は分かってるよヒナ。君がたくさん、がんばっていることにね」
「うん……うん…………ひっく……」
分かってくれる人がいる。それだけのことが、信じられないくらい嬉しかった。
涙をながすたびに、心が軽くなっていった。
「ありがとう先生……先生?」
だからだろうか、ヒナはふと、気付いた。
「……もしかして、先生も、そうなの?」
「ん? なにがだい?」
振り返る。不思議そうな男性の顔を見る。
もしかしたら、先生もそうなのかもしれない。
その考えは、突然ヒナの中に湧いたものだった。
冗談ばかり言って、どんな大変なときもひょうひょうとしている先生の態度。でもそれは、自分の冷静さと同じものかもしれなかった。
「先生も、そうなの? ……いつも飄々として、どんな事件があっても諦めないで『先生が生徒を助けるものだ』って……」
ヒナは、それこそ先生の存在を『当たり前』のように感じ始めていた。
最初はありがたいと……、いや、あり得ないとさえ感じていたのに、いまでは先生の存在を、生徒のために全力を尽くす『大人』がいることを、当然のように受け入れていた。
本当は、そんなの当たり前じゃないのに。
「先生も、がんばっていたのね……」
「ヒナ?」
「……よし、よし」
ヒナは振り返って、先生の頭に手を載せた。短く刈り上げられた髪に指を滑らせて、その大きな額を撫でていった。
「先生、えらい、えらい……」
「……まいったな」
先生が、初めて見る顔をする。
一切の表情が抜け落ちた、疲れ切った男のもの。
それは枯れた老人のようにも、泣き出しそうな少年のようにも感じられた。
ヒナはそんな彼の首に手を回して、頬を寄せた。
「ん……」
二人は温かい湯気のなかで、互いの唇にすがっていた。
――――――
髪を乾かして、服を着る。
歯をみがいて、水分補給をする。
「ヒナ、靴下は?」
「いい、……どうせあとで脱いじゃうもの」
「こら、そういう事言わないの」
寝室までの短い距離を、先生と手をつないで歩いていく。
扉を開く。ちょっと子供っぽい自室に彼を誘って、いそいそとベッドに飛び乗った。
「先生」
「ああ」
一人では大きすぎたベッドが一気に狭くなる。
「ふふ、ふふふ」
抱きしめて、抱きしめられる。男物のパジャマの、なれない肌触りを楽しんでいく。
まるで、小説で読んだお泊まり会のような、親しい人との就寝はそれだけで楽しくて、ヒナはクスクスと笑っていた。
「ヒナは、寝ていて」
「うん」
先生が苦笑しながら、寝かしつけるように枕に導く。
角を枕に埋めながら、ヒナは際限なくドキドキしていく。彼のすることすべてが楽しみでしかたがない。
キス。
「ん……」
大きな舌が、熱い湯のように口中を満たした。
ヒナはツバメの子供みたいに口を空けて、彼の舌を味わった。ぬるぬると抜け出していく舌を追いかけて、彼の口中に舌を入れた。
大きな犬歯。ちょっとすきっ歯な下の前歯。歯磨き粉のミントの味。
透明なツバが混じり合って、やがて独特の粘りをおびはじめる。息継ぎのたびに離れる唇に、よだれの橋がかかっていく。
「……んっ!」
先生の手が、胸に触れる。
パジャマのボタンが一つだけ外されて、冷めた腕が入り込んでくる。胸の僅かなふくらみに触れて、ピンと張っている乳首にさわる。
「れろ……ちゅぷ……えぅ……」
舌をクチュクチュとうねらせながら、ヒナは自分の乳首に集中していく。こりこりとやさしくつねられて、眉間にシワがよっていく。
「はぁ……はぁ……んぷぁ……」
先生の口中に息を吐く。そこにはもう、歯磨き粉の清涼な匂いはなくなっていて、発情しきった獣の匂いで満ちていた。
ぎゅうううう。
「~~~~っ!!」
乳首がいたいほどつねられて、でもヒナは声すら発っすることができなかった。喘ぎ声はぜんぶ先生に食べられて、舌のうねりに化けていった。
ぎゅううううううううっ。
「ぷはっ! ま、まって先生、まって!」
「おっと、ごめん、強すぎたかい?」
「そうじゃなくて、その……」
もじもじと腰をひねる。
「イ、イッちゃいそうだったから……つい」
「え、もう? ……乳首だけで?」
「う、うん。……なにか、おかしい?」
ヒナはおどおどとした。自分でも、同世代と比べて性知識が不足しているのは知っている。変なことをいったのではと不安になった。
「いや、ぜんぜん、まったくもっておかしくないよ」
「本当に? ……先生、なんだか嘘をついてるときの顔してる」
「いやいや本当に、むしろ、嬉しいよ。……ちゅ」
「あ、……もう」
何かをごまかすように、ぷつんぷつん、とボタンが外される。胸に冷めた空気が触れる。
「乳首でいけるなんて、ヒナは才能があるよ」
「もう、なんの才能よ。……あ、ああ……」
べろりと、乳首が舐められる。先生の口が、小さな乳房をまるごと含む。
「あ……ん……くぅ……」
反対の乳首もつままれて、こりこり、ぷにぷにと責められる。二種類の刺激がここちよくて、ヒナはたちまち上り詰めていく。
「ふふ……せんせい……ふふふ……」
ヒナは目の前の頭をやさしく撫でた。尊敬している先生が、自分の小さな胸に夢中になっている姿は滑稽で、不思議な満足感を抱かせた。
「あ……せんせい、そこ……あ、ああ」
乳房がまるごと吸い上げられる。脇をなでる指先が、痒みのような快感をあたえる。
股をぎゅっと閉じる。先生の頭を掻き抱いて、もっともっと、と求めていく。
「あ、あ、……だめ、だめになっちゃぅ……」
「ダメじゃないよヒナ」
こりりっ……!
「いっていいよ。ほら、ほら……」
「あ……あ、あ、………………あぐっ!!」
体がビクビクと震える。股間から胸を経由して、脳みそに電流が走っていく。
胸がもたらす絶頂は鈍くて浅く、頂きを掠めるような快楽だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「……ヒナ、いっちゃった?」
「ん……せんせい……」
ちゅっとついばむようにキスをする。
「すごいね、ヒナ。乳首でいけるなんて、えらいえらい」
「えっと……それって褒められることなの?」
「もちろん、そんなに感じてくれるなんて、私はうれしいよ」
先生が頭を撫でてくれる。それで、ヒナはもう余計なことは考えないようになっていった。
「えへへ、先生……ん」
キス。もう何度目になるかもわからないキス。
キスにも、いろいろな種類があるのだと、ヒナはここ一ヶ月で知っていた。触れ合うだけの挨拶みたいなキス、緊張をほぐすマッサージみたいなキス。
そして、欲と欲をぶつけ合う、性交みたいな、いやらしいキス。
「んちゅ……れろ……ぷちゅ……」
キス、キス、キス。まるで心が溶けてしまったみたいなキスをする。他にはもうなにも考えられなくて、舌で彼を味わった。
ヒナはキスだけに集中する。手も足もクッタリと投げ出して、こぼれ落ちるヨダレをぬぐいもしない。
官能が、じわじわと戻ってくる。
「んっ……!」
先生の手がそろそろと動く。首から胸へと皮膚をつたって、だんだんと下にうつっていく。
「んん……ん……」
先生の手はじれったいほどゆっくりしていた。ヒナは舌で抗議する。早く触ってほしくて腰元をくねらせる。
胸骨をなでられる。へそをくすぐられる。
パジャマの裾を乗り越えて、指先がパンツに入ってくる。
触れる。
「んん! ちゅぅ……んじゅ……ちぅ……!」
指が無毛の丘を下っていく。ヒナのもっとも敏感な部分に触れる。包皮につつまれたクリトリスを撫でて、うすい小陰唇を指先でころがす。
ぐじゅっ、と指が液体に埋まる。子供のような未熟な性器は、もう十分に濡れていて、差し込まれた指をきゅうきゅうと締めあげた。
「どう? ヒナ、まだ痛む? 怖くない?」
「ん、ふふ、先生、心配しすぎ、もう平気よ」
ヒナは、不安そうな先生の頭を撫でる。
怖い、というなら、それは先生の方だろう。彼はときどき、自分を宝石のように思っているふしがあって、触れるたびにおどおどしていた。
だから、初夜のときは大変だった。性器を破られてポロポロと泣くヒナに、先生は本気でへこんでいた。
「本当かな? ……ヒナは痛みを隠すから、信用できないよ」
疑わしそうな目。思えばあのとき自分は体に傷を、そして先生は心に、見えない傷を追っていたように思える。
「本当よ先生、私、もう全然痛くないんだから。ううんそれどころか……えっと……その」
言葉が詰まる。流石に、その先を口にするのは勇気がいった。
「も、もっと……おまんこ……いじってほしいから」
かーっと、頬が熱くなる。
「最近は、先生の言う『感じる』っていうのも、ちゃんとわかるようになったから、……だからもっと触ってほしい……お、おまんこの、奥までふれて、いっぱい激しくして欲しいの……」
ヒナは、羞恥心に震えながら、それでも懸命に言葉を紡いだ。彼の傷がすこしでも癒えるようにと、言葉でやさしく心を撫でた。
「だから、せんせい……ヒナのこと、いっぱいいかせて……おねがい……」
「…………ちょ、ストップ」
先生が、耳たぶまで真っ赤に染めて、たまらなそうに顔をそらした。
ふぅふぅと荒く息を吐いて、酔いを冷ますようにかぶりをふる。
「……せんせい?」
「まったく、君は本当に……ああ、もう、ヒナ……」
「あ……」
キス。噛みつくような激しいキス。
「~~んっ……ぢゅぅ……っ! じゅるる」
大人の舌が、ヒナの口腔を満たしていく。相手を気遣うような優しさが消えて、欲望のままに口を襲う。
つぷん。
「んっ……んんんっ……んんん~~~~!」
中指が膣を犯していく。じゅぷじゅぷと愛液を泡立てて、ぐるんと内周をひとなでする。
「んちゅ! ……ぴちゃ……ぷちゅ……じゅるる……!」
口と膣で、同じ音が鳴っている。。
親指の腹がクリトリスを押す。
「んんっ!」
そこはヒナのもっとも弱い部分で、分厚い包皮ごしでも背筋が跳ねるほどに感じられた。
「……本当に、痛くはないみたいだね」
先生が、ようやく安心したように言う。
「も、もう……さっきからそう……ん……言ってるのに……」
「ごめんよヒナ。見くびっていたよ」
「あ……」
中指につづいて、人差し指も入ってくる。それでも、もう血が出たり避けることはなかった。
「……すごいな。もうすっかり大人の女性だ」
「ふぅ……ふぅ、……ヒナ、えらい?」
「ああ、とってもえらいよ」
先生が頭をなでてくれる。
「ヒナは、本当にすごいね。こんなに小さいのに、すごい感度だ。うれしいよ」
「ふふ……よかった……せんせい、もっと、もっとヒナのこと、ほめて……」
性器を指が、心を言葉がほぐしていく。ヒナはその両方をだらしなく開いて、先生にやさしく撫でてもらう。
「よしよし、ヒナはえらいね。こんなに小さいのに、がんばって、今日だって、こんなに遅い時間まで仕事をして、本当に偉いよ」
「うん……うん……」
「私はヒナを誇りに思うよ。きっとみんなも、ヒナに感謝しているはずだ」
「…………ほんと?」
ヒナは、また涙をこぼした。高ぶった性器が愛液を流すように、心が汁を垂らしていた。
「ひっく、せんせぃ、私……がんばってるよね? たくさん努力……してるよね?」
「もちろん。ヒナぐらいの頑張り屋さんを、私は他に知らない。君は世界で一番の風紀委員長だ」
「ほんと? せんせい……ほんとぉ……?」
先生が際限なくヒナを褒める。頭を撫でて、クリトリスをいじって、その孤独を癒やしていく。
「……ひっく、でも私、本当はそんなに立派じゃない……」
ヒナは、あらためて自分を見下ろした。いやらしく発情して大股を開き、メソメソと泣いている貧相な娘。それが空崎ヒナの本当の姿だ。
「先生が一番たいへんな時だって、私この部屋で一人で泣いていた……。心がぽっきり折れちゃって、立ち上がることもできなかった……」
どんなときにも冷徹な風紀委員長が、でも本当の窮地に追い込まれた時どうなるか、ヒナはもう知っている。
すべてを投げ出して引きこもり、メソメソと泣いて過ごすのだ。
「それの、なにがわるいんだい?」
けれど先生は、そんなヒナさえ肯定した。
「私はむしろ、そんな状態で働いているほうが不安だったよ。きっと無理して、重大な事故につながっただろうからね。そういう意味ではあのときヒナが逃げたのはファインプレーだ」
「……でも、先生は逃げなかった」
「それも偶然さ。……ヒナ。私だって、そんなに立派な大人じゃないんだよ」
先生が、またあの顔をする。疲れ切った大人の顔。
「そんなことない。先生は、立派よ」
「立派な大人なら、生徒に手なんか出さないよ」
愛撫が止まる。
「……私が、本当に君の言うような人間だったら、こんなことはしていないさ。私は結局、責任の重さと、人恋しさに負けたんだ。……あまりに綺麗な幼い雛に、手を出さずにはいられなかった……」
「……先生」
ヒナは言葉を失った。自分にはよくわからないけれど、それが先生のなかでの悔いだということはよくわかった。
「で、でも……それは私が告白したから……」
「だとしてもだよ……それでも我慢するのが大人なのに、私は弱くて、ずるかった……」
「……そっか」
「……ああ」
「…………そう、なんだ」
そして、ヒナはわらった。
「なら、よかった」
「え?」
「先生が弱くて……ずるい人で、よかった。おかげで、こうしていられるもの」
ヒナは、疲れた男を抱きしめて、その口に舌を差し入れた。怯える男の舌をねぶって、発情した吐息を呑ませる。
「んちゅ……そっか、ダメでもいいって、こういうことなのね……先生が立派でなくて、よかった。生徒に手を出しちゃうようなダメな人で、うれしい。……ん、ちゅっ……」
キスで男を誘う。きゅうきゅうと膣を締めて、男の指を愛撫する。
「でなきゃ、わたしとはセックス、してくれなかったんでしょ? 今日のことだって、一つもなかったんでしょ? なら、嬉しい。先生……せんせい……」
「ヒナ……」
ぬるり、ふたたび指が動き出す。中指が膣を、そして人差し指と親指が、包皮につつまれたクリトリスを責める。
「あ……あ……ああっ!」
くりくりと、二本の指が器用に包皮を剥いていく。
親指が、綿毛を撫でるようにやさしく、むき出しのそれに触れていく。
「ああ! あああ!!!!!」
それだけのことで、ヒナは背中をのけぞらせた。直接ふれられる陰核は信じられないほど敏感で、心臓を撫でられてるようだった。
こりっ……!
「ひあ! あっ! うぐうううう!!」
シーツをぎゅうっと掴んで、ヒナは耐える。
「せんせ! らめ! もう、いっひゃう!」
「いいよ、いつでもいきなさい」
先生がほほえむ。
「すごいねヒナ、もうしっかり感じるようになって。本当に、大人になったね。えらいよ」
クリトリスをなでられる。
「う……ひっく……私、えらい?」
「もちろんだよ。ヒナ、クリトリスで感じられて偉いね、おまんこもビチャビチャですばらしいよ」
「ああ……うれしい……せんせい……ああ……」
ぴちゃぴちゃと水音が激しくなる。愛液がとめどなく溢れ出る。
「よしよし、よしよし」
先生が触れるだけのキスをして、頭をずっと撫でてくれる。空崎ヒナを、魂の底から肯定していく。
「~~~~っ!」
それがヒナにはたまらない。枯れきった孤独が満たされて、心の隙間が満たされていく。
「せんせい……もう……いきそ……」
「ああ、うれしいよヒナ。私の指で、いってくれるんだね?」
ぴちゃぴちゃ……こりこり……ぴちゃ。
「あ、あ、あ……ああ! あああ!」
ぎゅううううううううう。
「ああああああああ!!!!!!!」
悲鳴のような、色気も艶もない喘ぎ声。
紫色の瞳から、ポロポロと涙がこぼれていく。
「ああ……ひっく……ひっ……ああ……ああ!!」
まるで拷問を受けているような、それが空崎ヒナの嬌声だった。
「ひぐ……うう……ううううう……」
「ヒナ、いい子だ」
先生が泣く娘をなだめている。その体を抱くようにして、膣内をクチュクチュとかき回す。
「いく……いっちゃう……先生、先生……」
「いいよヒナ。ほら、我慢せずに――イキなさい」
「――!!」
きゅぅっ!!
「あ! あ! あ! ああ! あああああああああ!!!!」
全身の筋肉がこわばる。
悪寒に似た快楽が、脳みそのすべてを埋めていく。
先生を抱きしめて、身を絞るように泣き叫ぶ。
「~~っ! ~~~~! ~~~~~~~~~~~~~!!! ~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
ヒナは、無言で絶頂に達した。
すべてがからっぽになっていく。
頭がチカチカして、筋肉が震える。
快楽のいただきで、ヒナは先生にしがみつく。
「………………あ…………あああ…………」
やがて、こわばりが解けていく。
体がくったりとベッドに落ちて、浅い呼吸を繰り返す。
「よしよし、ヒナ、よくいけたね。えらいよ」
先生が顔を撫でてくれる。
「……ふ……ふふ……せん……せい」
ヒナは彼の手に頬ずりをして、ふやけた笑顔で名前を呼んだ。目の前にある親指を口に含んで、感謝を舌で伝えていた。
「せんせい……」
こりり、と太い指をかじる。もう二回もいったのに、ヒナはまだ満足していなかった。
「ヒナ……」
それは先生も同じだった。
ヒナの視線の先で、先生の股間が苦しそうに張り詰めていた。
――――――
枕をどかして、うつ伏せに寝転ぶ。
長い髪をサイドに流して、両手を顔のとなりに伏せる。
いわゆる寝バックの姿勢で、ヒナは先生のペニスを待った。
「……いくよ」
先生が、左手でヒナの尻をより分ける。ペニスの先端が膣口をまさぐる。
「んっ……!」
避妊はいらない。ヒナはもともと生理が重く、仕事のためにもピルを飲んでいた。
「あ……あ……ああ……!」
パクパクと口を開く。内蔵が押し上げられていく。
ミチミチと音を立てて、亀頭が秘所をかき分けていく。ぴったりと閉じた幼い膣が、先生の形に変わっていく。
「あ……ぐ……くぅ……」
ヒナはシーツを噛んで、最初の注挿を耐えた。
「……全部、はいったよ、ヒナ」
その言葉に、ぷはぁ、と大きく息を吸う。なんとか背後を振り向いて、視界の端で先生を見る。
「ほんとう? ……先生?」
「ああ、ほら」
「あ♡」
先生が腰をぐりぐりと押す。尻まで密着した快感に、ヒナは自分でも知らない声を漏らす。
「……よか、ったぁ……」
嬉しかった。これまでヒナの性器は未熟すぎて、最初から先生を受け入れることは出来なかった。
それが、一ヶ月。ようやくちゃんと挿れられた。
「すごいよヒナ。成長したね」
「ふふ……そうでしょう、せんせい……せんせい……」
先生がひざまずいてキスをする。ヒナも、精一杯背中をそらして口づけをする。まるでアシカが芸をしているような、ちょっと滑稽な気分。
「う、う、う……」
注挿が始まる。ぬるっ、ぬるっ、とペニスが出入りする。
「んんっ!!」
ぱちゅん、と先生の腰が打ち付けられる。水音がますます激しくなる。
ぱちゅん、ぱちゅん、ぱちゅん!
「あ……ああ! ……あああ!!!」
ヒナが喘ぎ声をあげる。先生のペニスが深々と埋まる。
「先生……先生……ん……ん……ん」
先生がのしかかってくる。ヒナがベッドとの間で押しつぶされる。
それが心地よい。
まるで分厚い布団のなかにいるように、ヒナはシーツに顔を埋める。肺を絞られて息もできないのに。その息苦しさが気持ちいい。
「うう……ううう……先生……」
ヒナはシーツの生地を噛んで、先生がくれる重みに耐えていた。
両手にそっと、手が重なる。それは繋がりであると同時に拘束で、ヒナはもうどこにも逃げられない。
「うっ……! うっ……! うっ……!」
先生がヒナの上に寝転ぶようにして、腰をパンパンと打ち付ける。
苦しい。重い。きもちいい。
「ひぐっ……ぐぅ……ひっく……うう……ううううううううう………………」
ポロポロと涙が溢れる。シーツを握りしめる。
浅い呼吸のなかで、ヒナはまたくまに上り詰めていく。
「……いいよ、ヒナ」
それは先生も同じだった。
「なんて、しめつけだ。……っく……」
苦しそうな、先生の喘ぎ声、それがヒナをぞくぞくさせる。
「あっ! ……ああ! あああ――!!」
「イキそうなんだね? 嬉しいよ」
断末魔みたいな喘ぎ声に、先生がますます興奮していく。
「私で感じてくれているんだね? かわいいよ、ヒナ」
「ひやぁっ!」
首筋に口づけ、そのままうなじを舐められて、ヒナは新たな性感を知る。
ぞわぞわする、ぞくぞくする。
「ああっ♡!」
声に、どうしようもなく甘いものが交じる。
「ヒナ……好きだ……愛してる」
「♡♡♡♡♡!!!!」
「ヒナ……ヒナ……ヒナ……」
「ああっ! せんせ……ヒナも……ヒナもぉ!」
先生がヒナの両手を離した。
でもそれは開放ではなく、あらたな拘束のためだった。
ぎゅううううう。
「っっっ!!!????」
指が、シーツと肌の間に入ってくる。左手が乳首をつまみ上げ、右手が股間に伸びていく。
「っ!? ☆っ+!!!♡♡♡♡!?☆」
柔らかだったベッドに、突然固い突起物が現れる。先生の手はヒナの弱点にピッタリとよりそって、ぎゅうぎゅうと絞ってはなさない。
そこへ、ずん、と体重がかかる。
「ひぁ! いや! いやぁああああああ!!!!」
ずんっ。クリトリスが押しつぶされる。
ずんっ。乳房が絞られる。
ずんっ。頭がおかしくなる。
「いく……イクイクイク……いく……」
「いいよ。ヒナ……」
かがみ込んだ先生が、ヒナの喘ぎ声を食べていく。
「一緒にいこう。……ちゅ……」
「ん……んんんん~~~!」
無理やりな姿勢で、二人はすべてでつながっていった。
「ぴちゃ……れろ……んじゅ……ぴちゅ……えおえお……ちゅぅぅ……くちゅ……」
もはや喘ぎ声も出せずに、ヒナは先生の口にすがりつく。性器をさんざんに犯されて、クリトリスをいじめらぬかれる。
「んんっ……んんんん! んんんんんんん!!!!!」
「っく……ヒナ……」
「せんせぇ……えろ……ちゅ……んん……んんんんんんん!!!」
「ヒナっ! ヒナっ! ヒナッッッ!!!!」
「ひぁ! あああああああああ!!!!!!」
どぐんっ! とペニスが爆発する。先生の腰が深く埋まる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」
お腹の奥に広がる熱とともに、ヒナは静かに絶頂した。
涙と、鼻水と、ヨダレと、潮と、。
ありとあらゆる液を漏らしながら、ふかくふかくしずみこんでいく。
どぐん、どぐんと精液が吐かれる。腹の奥が
熱を持つ。男の体がのしかかる。
そのすべてが幸福だった。
「あぅぅぅぅ……あぁぁぁぁ…………」
いつまでも嗚咽を漏らしながら、ヒナは絶頂にすがりついていた。
なにも見えない。
なにも聞こえない。
快感すらもわからない、真っ白な場所にいる。
「……ヒナ」
ただひとり、同じ場所にいる人が、ヒナのとなりに倒れ込む。
「せんせい……」
ふたりはやはり、キスをする。
あまい、絶頂の残り香の中で、舌と舌を絡め合う。手と手でお互いを求めあって、同じ形にはまっていく。
冷めていく体が、疲労と眠気を思い出していく。
「ん……」
そこから先を、ヒナはあまり覚えていない。
ただいつまでもキスをして、先生の身体を抱いていた。
しあわせで、ただしあわせで、ヒナはその幸福につつまれていく。
夢なら覚めないでと願いながら、さらなる夢へと、落ちていく。
…………………………。
――――――
目が覚めると、ヒナは自分がしっかりとパジャマを来ていることに気がついた。
まるでおねしょでも確認するようにパンツをめくってみる。精液はもちろん、愛液も潮も見当たらない。そのパンツにしたって新しい清潔なものだった。
となりの枕には誰もいない。
ヒナは、愛用の毛布を抱きしめて、リビングへとつながる扉を開けた。
「あ、おはよう、ヒナ」
そこでは先生が、ブラックコーヒーを片手にタブレットでニュースを見ていた。
ヒナはぼうっとしたままテーブルについた。
ことん、と愛用のマグカップが目の前に置かれる。中身はミルクと砂糖がたっぷりはいった、ヒナ好みのコーヒーだった。
「………………熱っ!」
「おっと、そうか、ヒナは猫舌だったか」
ごめんよ、とあやまりながら、先生がまた何かを学習している。
きっと次はこのコーヒーも、ちょうどいい温度で出てくるのだろう。
つくづく、かなわないなと思う。いまの短い時間で、自分がどれだけ読み取られたかもわからない。
でも、
「わたしも、負けないから」
「? なにがだい?」
「ふふ、ひみつ」
ヒナはにっこりと笑って、ふーふーと冷ましたコーヒーを飲んだ。
今はまだ、先生に支えられてばかりだ。
けれど、いつかは必ず、ならんでみせる。
彼の世話を焼けるくらいの、大人の女性に絶対になる。
そう、ヒナは今日の朝焼けに誓うのだった。
おわり