『アオのハコ』
夜は長く、そして迷うもの。
あれこれ悩んで、それでも行動してしまう。
あとを考えていたら、踏み出せないから。

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あるアオい夜にて

 どうしたものか、と私は天井を仰ぐ。

 考えても仕方がない事だけど、でも何も考えずにいる訳にもいかない。無意味な悩みを巡らせ、私は溜め息を一つ。

 ああ、どうしようかな本当に。

 どうするべきか、どうなるものか。

 ――私がこうやって悩んでるというのに、隣では健やかな寝息が立っている。まったく、能天気で羨ましいわ。

 いっそ起こしてしまおうか、いやでもなあ。

 さすがにそれは、不味いか。今この状況で目を覚まされたら、私が終わってしまう。

 さてと、本当にどうしようかな。どうにか現状復帰しないといけないのに、この寝顔を見ていると和んでいけない。

 一先ず服を着直して、掃除をしよう。ちょっと荒らぶり過ぎてしまったな、これは。

 まったく、どんな初体験だって話だよね。

 

 

 

 大喜くんは物凄く睡眠が深い、そう知ったのは少し前の事だ。時間が来れば自然に起きられるし寝起きも悪くないけど、一回寝ると滅多なことでは途中で起きない。前に体育館の上フロアで仮眠していた時も、話しかけたんだから起きてしまうかと思ったのに爆睡していた。……聞いてほしくて言ったんだけどなぁ、蝶野さんとの事を知りたくて。そりゃあ付き合う付き合わないなんてデリケートな話をしてくれるほど、私を信頼なんかしてないだろうけどさ。それでも隠し事されるのは、辛いから。

 でもまあ実際、あそこでそんな話をしてたらスゴく気まずかったろうし寝ててくれて助かったのも事実なんだけど。

 それはそれとして、そのせいで最近良くない遊びを覚えてしまった。即ち、寝ている大喜くんを使(・)っ(・)た(・)遊び。

 足音を殺して部屋を出て、抜き足差し足ほんの数歩でお隣へ。鍵のない扉を静かに開けて、その内側へと入り込む。

 何度やってもこの瞬間は心臓が高鳴る、興奮の一瞬だ。

 そして部屋の主――大喜くんへと這うようにして歩み寄っていく。

 灯りは窓から差す月光だけ、そんな中でも僅かな感じ方の差から周囲の様子は把握出来る。肌感覚というか気配というか、バスケで鍛えた危機察知能力というか。足元に何があるか、指先の数センチ先はどうなっているか、そんな事が結構な精度で認識可能なのは私の自慢の一つ。鍛練ではどうにもならない体格差を補うため、無理矢理に叩き伸ばした戦闘スキル。下手をすると190cm近いデカブツ相手にも戦わないといけないのが、バスケってものだから。

 ああ、そんなスキルをフルに使って私はこんな事を。バスケ命じゃないのか、私。

 とは言え疼く身体はもう、止まらない。

 すやすやと眠る大喜くん、そのベッドから溢れた手にそっと触れる。何度も私を救ってくれた暖かく優しいそれを、あろうことか私は――。

「……、んぅ……」

 自身の口内へと迎え入れていた。

 

 最初はただ、部屋に忍び入る程度で済んでいたのに。気がつけばこうして、大喜くんを使ってしまう。それも最初は寝顔を見ながらショーツ越しに弄って満足するくらいだったのが、今やこうやって大喜くんを味わいながら自分の指を直に肉の裂け目へ食い込ませている。こうやってオナニーするのが、止められなくなっていた。

 こんなことが許されるはずはない、そう思えば思うほど快感が溢れて仕方がないから厄介すぎる。激しく喘げば気付かれる、痕跡が残れば後で発覚する。その避けようがない事実さえ、興奮を煽るスパイスにしかならない。

 身の破滅をちらつかされながらも、私は自分を抑えきれないまま延々と耽ってしまう。それも日々、エスカレートさせながら。

 大喜くんは、美味しい。気持ちいい。もっともっと、味わいたい。

 すっかり私のよだれまみれになった大喜くんの手、それを足の間へと滑り込ませる。他人の身体が触れたことなんか勿論無い、穢い場所へ。

 微かに立った粘液質の水音と共に、むず痒いような快感がやって来る。

「ぁー……あぁ……っ」

 そのまま脚で挟むように、大喜くんの手を擦り付けていくと忽ち私の奥から飛沫が垂れ落ち、床に汚い染みを刻んでいく。翌朝これを見て大喜くんは、何を思うんだろう。頭の隅でそう思えど、腰は止まってくれない。

 すぐに頭の芯は焼け出し、そして暴発する。

「ん、……ぅぁ……ぁ……っ」

 ガクガクと身体が痙攣し、汚液を撒き散らしながら私は床に崩れ落ちた。

 ああ、またやってしまった。オナニーだけでも罪悪感があるのに、他人の部屋でそれもこんな風に。

 思えば最近の私は、あまりにも大喜くんをそ(・)う(・)い(・)う(・)目(・)で見すぎている。純粋に私を気遣ってくれる後輩をオカズに、私は何をしているんだ。

 今日で止めよう、とこの前もその前も思った。でも、気がつけば身体が疼いてしまう。今回だけ、これが最後、と何度思ったか。

 なのに都合のいい欲望は、エスカレートするばかり。

 ノロノロと起き上がって、私は大喜くんの掛け布団に手をかけた。こんなにも勝手をしてそれでも、満足できないから。

 この疼きを鎮めるにはもう、進むしかない。それが許されない事だと分かっていても、だ。

 

 引き下ろした下着の中、初めて見るそ(・)れ(・)は寸足らずの蛇のよう。そして持ち主のイメージとは全く違う、噎せ返る程の牡臭さがやって来る。

 大喜くんのそれは、暗がりの中でも存在感を放っていた。思わず息を呑み、そして思う。これがそのいわゆる……オトコノコなのか、と。

 本来ならば、私が触れることなど有り得ない。こういうのは、蝶野さんの役割だ。大喜くんを好きな、そして大喜くんからも憎からず思われているクラスメイトの女子。私が割り込んでこなければ二人はなんの問題もなくお互いを意識しあい、そして結(・)ば(・)れ(・)た(・)だろう。

 大喜くんだって、私に触れられたくなんか無いだろうな。

 それを分かった上で続けてしまうんだから、酷い話だ。

 いつぞや渚たちと深夜テンションで観たアダルト動画の真似をして、幹をなで回しながら先端に舌を這わせていく。確かこういう事をすると、大きくなっていくとかいかないとか。

「ん。うぁ……ぁっ」

 舌先に伝わってくる苦味は、何処か覚えがある。――そうだ、あれはオナニーした後に濡れた指先をつい舐めてみた時だ。機関としては正反対なのに、発情して出てくるモノの味は似てくるなんて何だか不思議だな。

 丹念に舐めていくと、段々と苦い粘液が溢れてくる。こういう所も似ているな、男の子も濡れるって事か。

 張り詰めた肉の塊はどんどん硬度を上げ、その角度も変わっていく。萎びたようになっていた姿からは信じられないくらいに逞しく隆起し天井を向くその偉容は、どう形容したら良いのやら。

 言葉には出来ないししないけど、色んな想いがお腹の奥で渦を巻いているのが分かる。

 さぁ――、ここからだ。ここからが、本(・)番(・)だ。

 

 天使の寝顔で横たわる大喜くんを跨ぐように、ベッドへと上がる。お互い下半身は剥き出しで、隠すものは何もない。

 私の中で澱み続ける想いはいったいなんなのか、どれほど悩んだだろう。そしてそれに引きずられ、幾度となくオナニーしにこの部屋を訪れた。私を支配するこの衝動はきっと、――性欲だ。

 私は確かに大喜くんが好き、でもこの気持ちは性欲から派生した傍流に過ぎない。大喜くんを都合のいいオモチャくらいにしか考えていない、だからしゅっちゅうからかって楽しんでいたんだ。それを自覚して私は深く恥じ、でも安心してしまった。大喜くんに触れたい、弄びたい、それは決して蝶野さんの恋路を阻んでやろうという悪意からのものではないと分かったから。

 そりゃ良いことではないけど、でもコッソリと使うくらいなら蝶野さんだって許してくれる。……多分。

 さっきまでの罪悪感は何処かへと溶けて消え、言い訳染みた詭弁を胸に私は大喜くんめがけて腰を落としていく。

 入り口に先端が触れた瞬間には異物感を覚えたけれど、もう少し進むとそれは感じなくなる。それよりゆっくりと自分の内側が拡張されていく、今まで知らなかった不思議な快感の方が遥かに大きい。

 そのまま降りていった腰はでも、落ちきる前に中途半端な所で停止する。私の一番奥……それ以上進めないという所まで、大喜くんが到達してしまったから。想像以上の高度まで達しているのに根本までは入らない、つまり大喜くんのは普通より長いということか。それとも私が浅いのか、どうなんだろう。

 まあ、比べようもないか。

 子宮が押し潰される圧迫感、それは少しだけ苦しくもある。そこから逃れようと腰を再び浮かせると――。

「い"っ、ぁ……っ」

 内側がゴリゴリと引っ掛かれる暴力的なまでに激しい快感が襲ってきて、思わずバランスを崩しそうになる。そうなると重力に従い降下した身体の中が押し上げられ、そこからまた自然に身体が上がってしまう。この繰り返しが醸し出す圧倒的な快感の濁流に、腰が止まらない。気付けばスクワットのように身体が上下し、あの日動画で観たなんと言ったかそう……騎乗位を思わせる動きになっていた。 

 揺れるベッドはギシギシ音を立て、食い縛っている筈の口からも切れ切れに喘ぎが漏れてしまう。もし今大喜くんが起きたら、私の人生は確実に終わる。なにもかも、すべてが終わる。それなのに……いや違う、だからこそ気持ちいい。

 腰を叩き付ける度に突き上げられる子宮に、少しずつ違う感触がやって来た。僅かではあるが一回ごとにめり込む深さが変わっていく気がする。このまま続けたら、何十回目かにはも(・)っ(・)と(・)奥(・)まで届くのではないか。取り返しがつかない程の最深部で、大喜くんを感じられるのではないか。

 そう思った少し先、私の中で大喜くんが震えるのがハッキリと分かった。そしてその意味も、なにもかも。

「あ。あぁ……出て、る……」

 ドクンドクンと脈打って広がっていく、熱い液体。これがきっと、射精だ。大喜くんの精液が、胎内に放たれている。

 その熱は私の身体を緩ませ、制御を奪うに十分すぎた。

 ガクンと膝が崩れ、私はそのまま――大(・)喜(・)く(・)ん(・)に(・)着(・)地(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。根本まで全て、呑み込んで。幾度となく突き上げられた上精液が潤滑剤になり、私の子宮は大喜くんのオトコノコを受け入れられたのだ。

 それを理解できた瞬間、意識が反転しかける。それでも気を失わなかったのは、私の最後の理性が為せる技だろうか。

 だけど身体は弛緩し、身動きは取れない。へなへなと倒れ込みながら私はただ、大喜くんの健やかな寝顔を見詰めていた。

 

 

 さて、だ。どうしよう。

 片付け自体はどうにかなる、今までより少し大変なだけで。問題はそういうことじゃなく、やってしまった事の重大さだ。

 性欲が満たされたせいか思考はクリアで、その分自分の愚かさが身に染みる。ああ私と来たら、何でこうも見下げ果てた先輩なんだろう。

 明日からと言うか翌朝から、どんな顔をして大喜くんに会えば良いんだろう。蝶野さんにも顔向け出来ないし、でも学校休めないし……。

 それに、大丈夫なのかな私の身体。入っちゃいけない所まで入るし、射精もされたし。自業自得なんだけど、さ。

 大喜くんが起きなかった事だけが唯一の救いかな、うん。

 これでもし実は寝たふりしてるとかだったら、本当にどうにもならない。

「……………………寝てるよ、ね?」

 思わず呟いてしまうけれど、勿論返事はない。ただ天使の寝顔から健やかな寝息が漏れているだけだ。まあ大喜くんがそこまで器用なわけがないし、考えすぎか。

 とりあえず身体の疼きは解決したし、これからはオナニーの回数も減るだろう多分。きっと、メイビー。善処します。

 そろそろ片付けて、部屋へ戻ろうかな。悩むのは、その後でいい。

 楽しく悩もう、これからも。

 月は沈んで星影も無い闇の中、私は大きく伸びをする。面白くなってきたじゃない、なんて嘯きながら。

  


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