※この作品はR-18です。

Dirty Works   作:空薬莢

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悪意からは逃げられない。
逃げられないのならば、立ち向かえ。立ち向かえる強さを手に入れろ。
そうする事が……生きるという事の一面だ――――



誓いと再編

数時間後――

私は市街中心部に向かって、瓦礫の山を走っていた。

目的はざっくり言ってしまえば、お墓参り。因みに、セルゲイさん達から許可を取っているので、集団行動のルール的なものは守っているはずだ。

もっとも、墓参りとは言うものの、お墓は無い。あったとしてもかつての抗争、先程の戦闘で破壊し尽くされた、この惨状で残っているとは思ってはいない。

でも、来てしまった以上、贖罪(しょくざい)と追憶に浸る義務はあるはずだ。

昔の記憶を頼りに中心部へ入り、朽ち果てたアスファルトを蹴り進む。

あの時のまま止まって、壊れた町並み。

止まった時間の末路がこれなら、私はとっく壊れた事になる。

しかし、壊れてしまったとは思いたくない。

思ってしまえば、そこで全てが無為になるような気がするから。

だから、歩みは止めない。

市街に入って歩く事数分。

目的地に着く。

かつてホームセンターだった、建物。

そして、私のお母さんの死んだ場所。

抉れた大地に残るのは鉄筋コンクリートの柱と、コンクリート片だけ。

墓場ではなく廃墟だが、構わない。

「……ただいま、お母さん」

廃墟とすら呼べない、墓地に向かって、言葉を紡ぐ。

「遅くなってごめんなさい。……お墓、用意できなくて……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。謝ることしかできなくて。許されない事をしたのに……」

この手でお母さんを殺したのに、私はのうのうと生きている。

「でも、お母さんは……私に一つの贈り物を残してくれたよね?」

心的外傷後ストレス障害っていう贈り物を。

「その贈り物のお陰で、私は人間を殺せなくなった。……いわば、殺人に対する予防接種をありがとう。……だけど、私は贈り物を捨てなきゃいけなくなっちゃった。……許されざる罪が増えちゃう事を先に謝っておくね。……ごめんなさい」

重ねられた謝罪は効力を失う。

分かってはいるが、言うしかなかった。

私は墓地に向かって跪き、祈りを捧げる。

――理不尽な世界に謀殺された人々に、来世での幸あれ。

届きもしないであろう、願い。

願いは届かない。届かないからこそ、願いは願いなのだ。

欲求を、願いを叶えたいなら……力を持て、と誰かは言ったらしい。

まさしく、その通りだ。

だからこそ、私は祈りもそこそこ、立ち上がる。

「……さよなら、お母さん。…………またいつか、来るね」

最後に一言、墓地に向かって呟いて。

 

 

――同時刻 輸送ヘリ着陸地点。

俺は輸送ヘリにほど近い瓦礫に腰を下ろし、朽ちた市街地を眺めて、思案にふける。

(……生存者の抹殺、か)

考えていたのは《憤怒の血(ヘイト・ブラッド)》事件における、軍の対応。

人命救助など、糞食らえだった軍の対応。

増え過ぎた人口故に兵士一人、市民一人の命など糞以下でしかないのだろう。

(……糞はお前らだ、老害ども)

そう、思った時だった。

「……少尉、嬢ちゃんが見当たらねぇ。何処に行ったか知ってるか?」

少々慌てた様子の中佐がやって来たので、

「……墓参りだ」

フィアのいない理由を告げる。

「墓参り?……おいおい、冗談も大概にしてくれ少尉」

「事実だ。……まぁ、中佐の言わんとする事は理解しているが」

砲兵のお(、)掃(、)除(、)は徹底されていたのか、残党の殲滅は僅か一時間と数十分で終わりを告げた。

しかし、第13戦車大隊は戦力の6割を失うという、大損害を被っており、後方に展開していた第4重野砲大隊にも損害はあったらしいが、全体の1割にも満たない程度であり、戦車大隊に比べれば軽微であったと言える。

そして、増援たる俺達はフィアの負傷こそあったものの、それ以外は損害が無い。

中佐は、墓参りに行ったフィアが帰投中の第13戦車大隊と鉢合わせしたら危ない、と言いたいのだろう。

確かに、あの部隊は設立されて数年しか経っていない上に、若年兵が信じられないくらい多かった筈だ。八つ当たり上等のクソ餓鬼が多いのも頷ける。

「……それでくたばるようなら、その程度の“個体”だったに過ぎないさ」

「辛辣な物言いだな、少尉。……それとも、信頼しているからこそ、か?」

「さぁな……。俺達は待つだけだ」

下手に勘ぐられるのは嫌だが、あえて惚けておく。

「ま、それしかねぇだろうな。……さて、セルゲイ。先程、正規軍上層部から通達があった」

唐突に、話と俺の呼び方が変わる。

通達だと……?あの老害共、今度は何だ?

「……また、クソみたいな指令か?」

「…………あぁ。クソみたいな指令だ。他の奴らも集まれ」

中佐の指示に従い、ノルシェとグラナデが寄ってくる。

「よし、集まったな。……先程、軍上層部からお前らに辞令が下った。実にクソッタレなものだ。お前ら全員と嬢ちゃん、後は例のウェイトレスは《エリアRos正規軍 第3独立遊撃隊》として軍に復帰及び、徴兵する。……それに伴い、セルゲイ・モヴィーク元少尉を部隊長、ノルシェ・リオート元曹長を彼の副官とし、近日中に追加人員を送る、とのことだ」

本当にクソッタレな指令だな。俺達は復帰なんて望んでいないのに。

「《第3独立遊撃隊》?……新設するんだ~」

俺の思案などいざ知らず、グラナデはいつもの調子。

「……新設っちゃあ新設らしいが、部隊の通称(ネーム)は過去の部隊からパクられたみてぇだ」

何故か、中佐が俺の方を見る。

冗談だろ……。

ある可能性に至り、横目でノルシェを見ると――どうやらノルシェも同じらしい。

俺は察した。《第3独立遊撃隊》の通称を。

「セルゲイとノルシェちゃんは気付いたみてぇだな。……そう、この部隊の愛称は《Ъедый・Медвдъ》、だとさ」

「…………Худшее(最悪)」

珍しく、ノルシェが怒りを露にする。

まぁ、怒るわけだ。俺も、ノルシェも…………あの部隊は嫌いだ。……いや、嫌いになってしまった、か。

その名を冠する部隊に再び入隊するなど、本当ならば嫌なもの。

(……だが、それは私情だ)

軍は憎い。

だが、それがどうした?それもこれも、何もかも私情だ。

公私混同は避けるべき。便利屋をやっている以上、こういうこともある。

「現状の通達はそれだけか?」

「……いや、あと一つだな。…………基本的には、今まで通りって事。軍関係の作戦は依頼って形らしい。……要するに、軍関係の依頼が増えるってこと」

……飽くまで、体裁だけか。老害共らしい。

「…………了解した。近い内に、正式な命令書でも来るか」

「あぁ。……分かってるとは思うが、言っとくぜ。……上は糞だ。この指令も、裏があるだろう」

そう、上は糞。これが常識。糞じゃない上などほんの一握り。

「忠告に感謝する。……エンジンを暖めておいた方がいい、中佐」

感謝の意を示しつつ、フィアの姿が見えたので、遠回しに伝える。

「……あぁ。そうだな」

中佐も、戻ってくるフィアに気付いたようだ。輸送ヘリへと戻っていく。

離れていく背中を一瞥。

(……さて、俺も戻ろう)

戻ろうとした時――

「……説明、頑張って」

ノルシェがそう呟き、輸送ヘリに戻る。

――――説明。

この言葉指す内容は、俺達のような“人外”について。

どこまで話して良いのやら…………と、考えるまでもない。

言えるのは――

「…………上部だけしか言えないな」

虚空に向かって呟き、俺もヘリに乗る。

(アイツも、俺(、)達(、)についてはあまり知らない方が幸せだろうな……)

自ら不幸に飛び込むような奴ではないだろうな、フィアは。

右側面の銃座に着き、フィアを待つ。左側面にはノルシェが着いている。

因みに、グラナデは簡易椅子の上で寝ている。任務以外はフリーダムだからな。

「済みません、お手数かけました」

十数分後、フィアがヘリに搭乗。

「よし、全員乗ったな?出すぞ」

直後、確認もそこそこに輸送ヘリは上昇。

作戦区域からの離脱を開始する。

ここからは側面機銃手(ドアガンナー)たる、俺とノルシェ、操縦手の中佐は気が抜けない。

魔物が絡んでこなくとも、一部のならず者(馬鹿)が対装甲兵装や対空ミサイルを撃ち込んでくる可能性は高い。

奴等の扱う武装は、型落ちした旧式も良い所の粗悪品だが、その威力を侮ってはいけない。ヘリ程度なら、余裕で落とせる威力がある。

何より、費用対効果で考えれば、ヘリは美味い餌。

「……北700m。敵影確認」

「同じく南西400m、敵影確認」

考えた側から、馬鹿共が湧いてきた。分かりやすいな。

「了解した。……丁度そこは戦車大隊(餓鬼共)の帰り道付近だ。無力化すんのは対装甲/対空兵装(ランチャー)持ちだけでいい」

『了解』

地上で片膝立ち(ニーリング)を取るランチャー持ちは良い的。

7.62㎜多銃身機銃付属の簡易サイトに対象を捉え、トリガーを引き絞る。

モーターが駆動。零コンマ5秒で銃身がスピンアップ。2秒間トリガーを絞り、離す。

鉄の暴風を撒き散らし、対象をただの肉塊へと変えて空転が止まらない内に、次の対象を捕捉。

数回繰り返し、ランチャー持ちは一掃。

『クリア』

タイミングは被る。流石だ、ノルシェ。

「了解。……一気に抜けるぜ。吐くなよ、嬢ちゃん?」

「吐きませんよっ!?」

「なら、吐く方に200ルーブル」

「何を言ってるんですか、グラナデさ―――きゃあぁあぁぁぁっ!?」

言葉の途中でブースター点火。フィアの抗議は悲鳴の変わる。

懐かしい光景だな。

(……あぁ、懐かしい)

必死に手摺に掴まるフィアを眺め、俺は追憶。

過去、輸送ヘリでの帰投中に体験した一コマ。

よく、二人の若い兵士が口論をしていたな……。兵糧のミートパテを取り合って。

彼らを、隊長がウォッカを飲みながら楽しげに眺め、副隊長は見て見ぬ振り。俺とノルシェは側面警戒に徹していたな。

……懐かしい。

だが、その日常は二度と見れない。

あの部隊は――――本当の《Ъедый・Медвдъ》は、もう存在しないのだから。

そうだ。もう…………無い。無いんだ――

「……思い出した?」

思考の深みに嵌まりかけたところで、ノルシェに声をかけられ、現実に戻される。

グリップを握る手が力を込めすぎて白い。

「…………あぁ。ア(、)レ(、)依然の頃を、な」

「…………そう」

納得した様子で、ノルシェは俺の隣に座り、

「……あの頃」

呟き、再び俺の方を向いて、言葉を続ける。

「話すの?……前身の事」

前身とは、旧《Ъедый・Медвдъ》の事。

今回発覚したフィアが同(、)類(、)だという事、老害共の通達を説明する以上、避けて話せば不自然になる。

「……上部だけだ」

だから、ほんの上部だけでいいだろう。

フィアは、本当の事を知る必要が無い。

知らなくていい事の1つだ。

「…………それがいい」

ノルシェも同意を示し、左側面の機銃に戻っていく。

(……気を抜き過ぎだ)

改めて、精神を戦闘時の状態に。

危険地帯はまだまだ続く。

移動している限り、飛行している限り、側面機銃手と操縦手が気を抜ける時は無い。

「チッ……。前方200mに敵影。もう一回飛ばすぞっ!」

「7時方向100m」

「14時方向400m」

ほら、な。休まらない。

心の中で嘆息。

――掃射。

挽肉と化した馬鹿共を一瞥。

(……出てこなければ、死なずに済んだかもな)

25㎜機関砲弾か、7.62㎜小銃弾。

どちらで死ぬのが幸せか。

圧倒的に後者の方が幸せだろう。……投射器の速射速度関係から、痛みを感じる前に死ぬだろうから。

(……何だっていい事か。出てくる方が悪い)

邪魔するなら、殺す。

依頼だから、殺す。

社会不適合因子だから、除去する。

ただ、それだけ。

馬鹿共は善良な市民(護るべき対象)ではなく、社会のゴミ。

ゴミ掃除も、俺達の――ひいては軍人の仕事――

捕捉できる敵を全て始末した俺は、内心で吐き捨てる。

(お前らにくれてやるのは…………死か、塀の向こう側へのチケットだけだ)

当然の如く、この思考に答える対象は誰一人いない。

返答を求めているわけでもないが。

 




――あけましておめでとうございます。
《Darty Works Ⅱ弾倉目 Activity Gunners》編、エピローグでした。
急いで書くとクオリティが落ちる気がします。骨組みはさして揺らいでいないのに。
まぁ、それは追々修正するかも知れません。

余談ですが、作中に登場した意味の分からないであろう部隊名はロシア語です。某翻訳サイト利用なので、文法ルール等が間違っているかも知れません。
間違っていたら、ご指摘を頂けると幸いです。
では、興味のある方はⅢ弾倉目をお楽しみに。
拝読ありがとうございました。
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