されば汝、生きられん。
撃てぬ者、生きるに値せぬ者。ただ粛々と、死を受け入れるべし――
味方から?
なんで?
――私、上から疎まれるような事をしたの?
疑問が頭を過っては消えていく。
その内で、ある一つの事実と仮定が浮かび上がる。
事実の方は、攻撃を仕掛けてきた者が馬鹿だという事。
後部装甲被弾かつ、損害軽微である事から、食らった物は歩兵火器の銃弾、滑腔砲なら榴弾か訓練弾。
本気で主力戦車を破壊するつもりなら、用いるべき弾薬は装弾筒付翼安定徹甲弾か、
これから分かる仮定はおそらく、攻撃者が軍ではない――仮に軍だとしても、装甲車両の破壊方法を知らない、という事実。
(まぁ、マーカーが味方である時点で、目視で確認するしかないか……)
操縦棍を倒して、ペダルも踏む。
履帯に優しくない、超信地旋回。
「後方より長距離砲撃を確認。これより迎撃に入ります」
方向転換を終え、先輩達に言い――
モニターに移る外界を確認する。
先程、後部に見えた友軍はこっちのはず。
はたして、何があるのやら――――え?
ここから7㎞程先。
そこに存在したのは、無骨な鉄塊。
先の依頼で全滅を確認した《HW ADMT-001》。
(
これだから信用できない。戦車に積むべき物じゃなかった。
と、内心で思いつつ、スコープの倍率を上げて、私は三度目の驚愕。
破壊された装甲の孔から、黄緑色の触手のような物が生えていたのだ。
(アレは……《F-P》型魔物の特徴)
栄養剤系《F》から生まれる魔物。植物的な外見を持ち、身体組織もそれに近くなる種別――
もしかして――
(人工知能は搭載されていない?)
魔物化した生物の体内器官は強弱の差はあれど強化、ないし弱体化される。
一般に弱体化されるのは脳髄だが、種類によっては強化されるらしい。
ならば、特定種の魔物から脳を摘出し、それを調整することで人工の生体
(……ふざけてる)
仮に、その生体CPUが《ADMT-001》を制御しているとすれば、別種の《F》が偶発的に合わさり……暴走している可能性が出てくる。
(……いや、仮定じゃない)
事実だ。
目の前に証拠があるのだから。
《
そう、認識した瞬間――
(許せない……)
激しい怒りが沸き起こる。
何の罪も無い
メーカーか?
それとも、整備士か?
目の前にいたのなら、躊躇無く轢殺して家畜の餌にしてやったのに。
(……って、今は関係無い)
あの子達自体に恨み辛みは無いけれど……魔物である以上、害をなす可能性はある。
害悪なら、除去するしかない。
どうせ除去するのならば、せめて人の手で――
(だから…………)
操縦棍を握り直す。
ペダル、ニュートラル。
ギアはハイに。
「本気で行くよっ!!」
咆哮。
ペダルを踏みしめ、一気に前進。
弾種変更。榴弾から装弾筒付翼安定徹甲弾へ。
遠方で
――前部装甲、被弾。弾体破砕。
やはり徹甲弾ではない。
おそらく、種子でも飛ばしているのか。
主力戦車の装甲には豆鉄砲に等しい。
(悪足掻きしないでっ!)
トップスピードのまま、砲塔旋回。
ある程度の狙いを定めた後、速度を落とす。
砲撃。
撃ち出されたAPFSDSが一両の装甲を貫き、抉られる魔物。
絶命。
次!
リロードを待つ間に移動。
飛来する種子をモニター越しに補足。
武装変更。
車体上部、対空/対人25㎜機関砲へ。
迎撃。
破壊。
――155㎜APFSDS、リロード完了。
照準修正。
砲撃。
飛沫。
破壊。
(残る装甲持ちは――5体っ!)
操作兵装を装填中の155㎜砲から、25㎜機関砲へ。
モニターに表示された2つの
装甲に穿たれた破孔に合わせ、
ロック。
トリガー。
吐き出された25㎜焼夷榴弾は破孔から侵入。
着弾。
発火。
激しく燃えた件の個体は黒煙を上げるだけの鉄塊と消し炭と化し、
主砲リロード完了。
照準修正。
砲撃。
破壊。
機関砲に切り換え、残り3体に焼夷榴弾の雨。
破孔に侵入した3体が発火。
絶命。
――対空/対人機関砲、残弾200。
撃ち過ぎだ。
残りは砲塔が損壊した、中身剥き出しの個体。
機関砲でも殺れなくは無いが、弾の浪費に繋がりかねない。
武装、弾種変更。
155㎜APFSDSから155㎜エアバースト式
照準修正。
その間に、主砲同軸25㎜機関砲で数体を屠る。
起爆時間調整。
砲撃。
数秒後、敵群やや上空で弾頭が起爆。
弾殻と爆圧で肉体を抉られた数体が絶命。
次弾装填開始。
リロードカバーで同軸機関砲の操作も開始。
対空/対人機関砲よりは稼働域が狭い同装備では、牽制が関の山。
とはいえ、一体は屠る事に成功。
残りは10体程度か。
『雑魚の排除が完了した。こちらも加勢する』
『俺の分も残してくれよっ!』
味方からの無線。声からして、ミハイルとアランか。
本来は頼もしい筈だが、今は何故か鬱陶しい。
そんな私の思いは、なぜか実り――
『クソッ!増援だ、ミハイルッ!』
『そのようだな。済まないシャール。合流には時間がかかりそうだ』
ミハイルとアランは増援と鉢合わせしたようだ。
同時に、モニター中で一体の魔物が爆ぜる。
『1体破壊』
ノルシェ先輩の狙撃。相変わらず、何処にいるのだか。
『2体』
更にもう一体、爆ぜる。
残りは――9体か。
再装填を終えた155㎜砲に切り換え、砲撃。
飛び散る肉と呼べぬ、黄緑色の繊維質物体。
血とは異なる、透明な飛沫も舞う。
残り8体。
『3体』
3度目の狙撃。残り7体。
再装填の隙を埋めるべく、武装変更。
ただし、残弾僅かな対空/対人機関砲は使えない。同軸機関砲では牽制にしかならない。
(他に武装は……あった)
故に、車体側面に取り付けられた150㎜5連装ロケットランチャーに変更する。
モニターに表示されたのは、弾道予測を視覚的に表す、ガイドライン。
凡その狙いを合わせ――掃射。
後方奔流を撒き散らし、10発のロケットが飛んでいく。
直撃するとは思っていない。
数百年前の実用当初から、ロケット弾というものは弾道安定性が低かった。安定翼を付けても、それはさして変わらない。
だから、昨今のロケット兵装は歩兵用を除き、着発信管と時限信管の併用式になっている。
放たれたロケットは全弾、敵の上空で時限信管により炸裂。
爆圧と弾殻に本体を焼かれ、抉り取られた2体が絶命。残り5体。
『5体』
いや、3体だ。
このままだと、ミハイルやアランの取り分は無くなる。無くなったところで、どうでもいい事だが。
155㎜多目的榴弾の装填はまだ終わっていない。
仕方無く、撃ち切ったランチャーから、対空/対人機関砲に武装変更。
手近な1体に掃射。
身体組織が抉り取られて発火。犬も食わないウォルダンの出来上がり。
残り2体。
再装填完了。
事前に照準修正は終わっているので、すぐさま砲撃。
残り1体。
と、思ったが、魔物の姿が見えない。
『……目標、排除』
ノルシェ先輩に狩られたようだ。
これで全部のはず。
(……ふぅ)
内心、一息吐く。
だが、両手足はグリップないし、ペダルから離れていない。
嫌な予感がするからだ。
『――報告訂正。15時方向、距離6000に1体』
ほら、ね。残っていたよ。
ペダルを踏み込み、グリップ操作。
信地旋回。
砲塔、ニュートラル。
(……いた)
ノルシェ先輩の情報通り、魔物がいた。
全て弔ったかと思っていた、《ADMT-001》の残骸由来の魔物。
だが、今までの個体と大きく違う点があった。
履帯と組合わさった屈強な二脚、車体の破孔から突き出す砲に似た左腕と、杭撃ち機の如き右腕。赤く濁った複眼。
空想の世界に存在する歩行戦車に、こんな感じの物があった気がする。
(……穢いモノを生やしてっ!)
戦車に手足など邪道も良い所。
これ以上、戦車を穢さないでほしい。
自然と指に力が入る。
大抵の人間は、好きな物を侮辱されれば怒るもの。私も一人の
弾種変更。多目的榴弾からAPFSDS。
一撃で楽にしてあげる。
装填作業の開始と同時に、機関砲に操作系を変更。
移動開始。
その間に、ノルシェ先輩は狙撃を続ける。
何れもが、的確に価値ある箇所を撃ち抜いているが、目立ったダメージは見受けられない。
仕方無いことか。対物ライフルでは、主力戦車の装甲を抜けないのだが、大概の魔物からは、そんな常識すらも欠如している。
故に、狙撃された方向に左腕砲状部位を向け、何かを撃ち出す。
ソフトボール大の肉腫だ。
見た感じ、生物を貫徹するような硬度は持ち合わせていないだろう。
と、すれば《F》を撒き散らす事を主目的とした生体榴弾か、強酸や可燃性物質を内包した物か。
絨毯砲撃であったなら厄介である。
が、先程の砲撃は単発。
先輩方やミハイルが被弾する事は無いだろう。
(さて――)
155㎜APFSDS、装填完了。
スコープを覗く。
FCSから送られるデータを参照し、照準修正。
トリガーを引く。
砲撃。
側面装甲を狙って放たれた砲弾は鈍重な戦車では避けられるものではなく、ましてや対象は複雑な二脚である。
私の脳裏に装甲を抜かれ、崩れ落ちる魔物の姿が投影される。
だが、それは現実にはならなかった。
砲弾は着弾したものの、末端部であり、与えた損害は微々たるものだ。
(……次は、仕留める)
と、思い、次々と155㎜APFSDSを放ち続けるが、いずれも末端部へ着弾するのみ。
(なんでっ!?)
あの車両の自重は80t以上。それに魔物を寄生させたアレは100t近くの筈で、機敏には動けないはずだ。
ましてや、こちらが使用しているAPFSDSの弾速は1700m/s。別の言い方をすれば、マッハ5――音速の5倍。
何故、外れる。
魔物の身体能力を見誤ったか?
(……何にしても)
私はモニターの隅に表示されたデータを一瞥。苦い顔を浮かべる。
・155㎜APFSDS――AMMO―0/20
・155㎜HEAT-MP(AB)――AMMO―8/15
・155㎜HEAT-MP――AMMO―15/20
・EMPTY
155㎜砲の残弾に、主力戦車に対して有効な弾薬が残されていない。
(……いや、まだ……ある)
切れたのは、155㎜
《AD BT28-OFO》の主砲は155㎜
ガンランチャーとは、砲弾とミサイルの双方を発射可能な大口径砲の事だ。
弾種変更。
155㎜HEAT-MPから155㎜HEAT MISSILEへ。
スコープを覗く。
簡易化されたレティクルを対象上部に移し、FCSが攻撃部位を捕捉。
モードはバンカーバスターから、トップアタックに。
薬室に納められた155㎜HEAT MISSILEのシーカーに情報伝達。
数秒後、レティクルがロック完了を示す赤から、発射可能を示す青に変化。
発射。
通常の砲弾同様、発射薬の圧力でミサイルが押し出され、
暫く飛翔した所でロケットが点火。
角度を変えて、敵対象へと飛ぶ。
数秒後に、ミサイルは真上から着弾。
いかな、現行の車載型対主力戦車用弾薬としては陳腐化してきた成形炸薬弾でも、薄い上部装甲ぐらいは貫徹できるはず。
予想通り、メタルジェットは上部装甲を貫徹。しかし、内部の魔物を殺傷するには至らない。
(やはり、一発では殺れないか……)
再度、対象上部をロックオン。
発射。
着弾。
上部装甲が完全に抉れる。
よし、これなら――
弾種変更。
155㎜HEAT MISSILEから155㎜HEAT-MPへ。
装填作業の合間に照準修正。
同時に、飛来した肉腫が前部装甲に着弾。潰れ、破裂し、耳障りな水音を撒き散らす。
飛散した液体は瞬く間に燃え上がり、装甲温度は1200℃に達する。
(あっつぅ……)
当然、内部はサウナもかくやという高温。
滝のように汗が流れ、張り付いた野戦服が不快だが、耐えられないほどではない。
むしろ、弾薬の誘爆が心配。
が、高温になっているのは前部装甲と、コクピットだけで、それ以外は問題無いようだ。
ダメコンがパイロットよりも、砲弾薬の保護を優先したか。
(まぁ、良いけどね……)
――155㎜HEAT-MP 装填完了。
人工音声が告げる、射撃可能のサイン。
既に照準修正は終わっている。
(今、楽にしてあげるから――ゴメンね、介錯しかできなくて)
私はボロボロの《ADMT-001》に謝り、トリガーを引き絞った――
はい、Ⅲ弾倉目のネームドタイトルです。
最後の魔物はやり過ぎた気がする。……余計なモノがついていますが、元ネタはとある可変戦車です。分かる人は分かりますね。
特に話す事が無いので、今回もこの辺りで。
次回はⅢ弾倉目エピローグ。
拝読ありがとうございました。