――大抵の場合、目障りな物は即座に処理される。
僅かな時間でさえも、目障りな事に変わりは無いから。
だが、それは誰にとって正しく、誰にとって間違いなのか?
数時間後――
轟音。
視界を染め上げる発砲炎。
双眼鏡の視界に映る、彼方の人形標的の頭部が砕け散る。
「……5体目。所要時間、5.21秒」
俺は呟くように、隣にいる
言うまでもなく、狙撃手はノルシェ。
得物はAccuracy Armament社の25㎜
全長1850㎜、重量27.7㎏。使用弾薬は25x140㎜の携行性劣悪な対物砲だが、威力は高く、主力戦車の装甲こそ抜けないが、装甲車は易々と貫き、大型の魔物でも急所を狙えば、破壊できる。
……元々、対戦車ライフルが呼び名を変えたものが、対物ライフルであり、それを大口径化したものが対物砲。故に、装甲車程度の装甲は貫徹できて当然。まぁ、主力戦車相手でも、キューポラ辺りを狙えば、車長を殺る事ぐらいは出来るのだが。
ともかく、今の砲撃で弾倉内の全弾を撃ち切った。
慣れた手つきマグキャッチが外され、弾倉をエジェクト。
続けて、クリーニングロッドが取り出され、砲身内の掃除。
今日のトレーニングは終わりらしい。
かく言う俺も、自分の分は終わっている。
座って寝たせいで、身体の節々が痛みを訴えたが、さしたる問題ではなかった。
次はどうしようか、と感じた所で、携帯端末が振動。
(……依頼か?)
恐らく、間違っていない。
端末を手に取り、画面を確認。
やはりと言うか、依頼のメールだった……が、
To Accuracy Armament Ind.
――いつも我が社を御贔屓いただきありがとうございます。
今回は一つ依頼を引き受けていただきたく、このメールをお送りしました。
早速ですが、依頼内容について説明させていただきます。
ご存じかと思いますが、本日から一週間程、エリアRos EIにて、総合銃火器市《Оружие Показать》が開かれています。貴殿方には、二日後に行う予定の、我が社新製品のデモンストレーションを頼みたい。
報酬は90,000ルーブル。……それに、新製品を無償で寄贈いたします。
しかし、一つだけ条件があります。
セルゲイ・モヴィーク様とノルシェ・リオート様に、この依頼を引き受けていただく事です。
では、良い返事を期待しています。
(……テストか)
メールを読み終えた俺は僅かに、顔を歪める。
確かに、俺とノルシェは携行火器に限れば、AA社製の銃火器を愛用しており、それ故に、俺達を指定してくるのは、理解できる。グラナデなんかに任せれば、射撃場が幾つあっても足りない。……爆発物でなくてもだが。
「セルゲイ」
「……ん?ノルシェ……っ!?」
背後から聴こえた声に振り返った直後、眼前にあったのはノルシェの顔。
ほぼゼロ距離、というか俺の顔を凝視するな。今は意味が無いだろう。
「…………依頼?」
一瞬、心拍数が上昇した俺を余所に、端末画面を一瞥したノルシェは問う。
「あぁ、依頼だな」
嘘を吐く必要は無いので、メールを転送。
即座に流し読みしたノルシェは、
「…………了承する」
「……おい」
やや間があったものの、了承した。
その間が何を意味するか分からない程、俺も鈍感ではない。
が、この依頼は俺次第という現実。
(どうするか……)
報酬額は、まぁ破格だ。高々、デモンストレーション如きに9万ルーブルも払っているのだから。それに新製品。おそらく、先行量産モデルか。……俺達のダメ出しによって改善されたものだろうから、性能面は問題無く、仮に気に食わなくとも、他のメンバーに譲ってやれば良い。
………問題無いか。
「……請けよう」
俺は依頼主に返信する。
すると、数十秒後――
――快諾ありがとうございます。
では、明日の11:00までに、エリアRos EI 《Оружие Показать》会場、我が社ブースにお越し下さい。詳細はそこでお伝えします。
(……情報漏洩防止か)
念入りに管理するのは当然だな……。
しかし、エリアRos EIか。
《Lim-E》はエリアRos East地域の中でも、最も辺境。
……とはいえ、《EI》は比較的近い位置にあるのだが。
(出発は今の方が良いかな)
高速道路網は事実上、ならず者と軍の戦場である。
意外と、時間を取られるかも知れない以上、早めに行く事に損はないだろう。
結論が纏まり、俺はノルシェに言う。
「……ノルシェ。準備を始めておけ」
「分かった」
そして、諸々の準備を始めた……。
1時間後――
「……バイクで?」
準備を終えた俺とノルシェはガレージにいる。
目の前には、無骨な大型バイク《AD HPM31-H》。
一応、正規の軍属時代からの愛車で、兵装の携行能力と多少の装甲を持つ事から、中々気に入っている物だ。
「あぁ、バイクで。装輪輸送車は待機メンバーに使わせる」
「……了解」
俺はバイクに乗り、ノルシェもその後ろに乗る。
イグニッションキーを捻り、エンジンを吹かす。
ある程度暖まった所で、アクセル。
道路へと躍り出た直後、カーブ。
市内をのんびり通過し、インターチェンジに到着。
「お、今日はセルゲイとノルシェか。……何処に行く気だ?」
「悪いが、答えられない。……急ぐからな」
守衛の戯れ言を適当に流し、料金支払い。
「ハァ……。まぁ、良いけどよ」
その様子を見た守衛は、呆れ混じり。
(……息抜きしたいのも分かるがな……)
このご時世、ハイウェイやアウトバーンといった、速度制限の緩い、ないし存在しない場所のインターチェンジ付守衛なんて物は暴走族やら自由業者、密輸団体との闘争、検閲が仕事だからな。……その大半は殺処分だが。
「途中で奴らに絡まれたら、殺って構わんぞ。その分、俺の手が汚れずに済むからな」
「直接か、間接かの違いしか無いがな。……ともかく、了解した」
銃弾だって安くは無い。経費削減は何処でも考えることだな。
「幸運を、傭兵」
ゲートが開く。
アイドリングしていたエンジンを始動。
一気にアウトバーンに侵入すると、
(……昼間なのに、車両が少ないな)
車線変更を気にしなくて良いほどまでに、空いていた。
これは……明らかに、奴らのせいだな。
「……ノルシェ。サイドバックに《AA J2A1-K》、《AA KG36B1》を収納している。いざという時は、背後を頼む」
「分かった」
後に起こるであろう自体を想定し、背後のノルシェに火器の所在を告げ、速度を上げる。
早めにアウトバーンを抜けたいところだな。
と、思った矢先に聴こえた、雑多なエンジン音。
これは…………後方数百mから。
(ただのジャンキーなら良いが、それはないだろうな)
スピードジャンキーが使うような、バイクの音ではない。
多種多様な、明らかに効率が悪そうな音も含んでいる。
ほぼ確実にチンピラか、ギャングだな。
「……後方200m、チンピラ。数は12」
やはりか。
(出てこなければ良いものを……)
内心で呆れ、後方確認。
趣味の悪い装飾過多の大型バイクを操る、馬鹿共が見えた。
同時に、奴らが9㎜自動拳銃《UM-01》を握っている事も確認。
向こうは、俺達を獲物と見定めたか。
ならば、
「ノル――」
轟音。
「……一人」
指示を出す前に、ノルシェが一人射殺したようだ。発砲音からして、5.56㎜
容赦が無い。……敵対者には無くていいのだが。
「全滅させる必要は無い。……どうせ、ICの駐屯兵に殺られる」
「二人目」
聞いてないな。
狙えるなら、撃つのか。
…………いや、目障りなだけだろう。
ゴミは排斥されなければならない。
当然の事だ。
「3……4人目」
ノルシェにとっては、300m以近の射撃は児戯も同然である為、一定のペースでドライバーは排除されていく。
この分だと、数分後にケリが着く。
そう思いながら、アウトバーンを疾走するが――
「……増援」
すぐさま、悪い知らせが舞い込んできた……。
自身の乗るバイクを操るセルゲイに増援の報告を済ませつつ、後方を見る。
十数台の派手で、無駄な装飾の大型バイク。
その全てに、チンピラが二人乗りしており、後方の奴が握っているのは――7.62㎜機関銃《UM-03》。密造品か。
(バイクで汎用機関銃の使用……馬鹿)
反動が大きく、固定射撃が推奨される機関銃を不安定な走行中のバイク上で使用する。
狙いは逸れやすく、使用者のみで反動を受け止めるしかない為、精度は著しく悪化し、反動によってドライバーに無駄な負荷を与えかねない。
射撃の定石も知らない奴だからこそ、実行する馬鹿丸出しの運用方法。……反吐が出る。
密造銃器を使う人間にも反吐が出る。同様に、密造する人間もだが。
だから、私はグリップを握る5.56㎜アサルトカービン《AA KG36》――《AA SG36》の小型モデル――を構え直す。
射撃方式は3点バースト。
銃火器上部のアイアンサイトをチンピラに重ね――トリガーを絞る。
軽めの反動が三度、肩を叩き、3発の5.56㎜ライフル弾が撃ち出され、
数瞬後に、紅い花が咲く。
遠目からには、鮮やかな紅の飛沫が綺麗だが、近くで見れば、薄ピンク色の肉片と脳片、脳漿が飛び散る、汚い物。
頭部を失ったドライバーに、バイクを操る能力など無い。
着弾の衝撃によって、スピン。
周囲のチンピラが乗るバイクを巻き込みながらクラッシュし、アウトバーンに放り出されるのは、ドライバーと射手。
その内の何人かは運悪く、走行中のバイク前ヘ。
苦悶の絶叫と共に、肉と骨が拉げる音。
ある者は撥ね飛ばされて、アスファルト上をバウンド。頸椎が折れて絶命。
また、ある者はタイヤとアスファルトで擦られ、鮮血を撒き散らすライン引きの染料となり、
「邪魔なんだよっ!」
ドライバーに射殺される者もいた。
轢殺され、関節が折れた歪な死体と、鮮血に彩られた死体。
かつて仲間であったそれらはアウトバーン上に放置され、健在者が私達に迫る。
が、黙って殺らせるつもりはない。
照準修正。
発砲。
射殺。
再度修正。
発砲。
射殺。
何度も、何度も。
チンピラが乗るバイクが見える限り、淡々と銃口を動かし、トリガーを絞る。
一人射殺する度、クラッシュするバイクによって複数人巻き込めるとはいえ、それは最初のうちだけ。
いかに戦術を練らない、戦闘を知らない連中でも、適応はできるから。
距離を取り始める、チンピラ達。
「10秒後にカーブ。……しっかり掴まってろ」
同時に聴こえるのは、セルゲイの注意喚起。
(……カーブ?)
纏めて屠るには、なんと丁度良い報告か。
《KG36B1》のマガジン内残弾は数射分。
……充分。
同銃をバイクのサイドバックに戻し、ソードオフセミオートショットガン《AA J2A1-K》を抜く。
即座にマガジンは外し、別の物に交換。
マガジン内の装弾は12ゲージのフラッグ弾。
交換終了と共に、《KG36》へと持ち換え――
照準修正。
発砲。
撃ち出された5.56㎜ライフル弾は人間の肉ではなく、ゴムを――バイクのタイヤを貫く。
クレー射撃の要領で、敵と判断したバイクのタイヤ全てにライフル弾を撃ち込み、《KG36》はサイドバックヘ。
同時に、私の乗るバイクは急カーブ。
殆どドリフトといっていい。
私達に追従しようとしたチンピラ共は、パンクした前輪タイヤでは制動が効かず、スピン。
次いでクラッシュ。
放り出されるチンピラ共。
それらを確認しつつ、私の手は《J2A1-K》を抜いており、
チンピラ共の中央へと、発砲。
撃ち出されたフラッグ弾が安定翼を広げ――飛翔。
着弾。
小規模の爆発が発生し、数人が破片と爆圧で絶命。
追い討ちをかけるように、クラッシュの際に破損したタンクから燃料が漏れ、
高温の爆風によって、瞬く間に発火点へと到達。
爆発。
絶叫と共に、火達磨が量産。
「…………敵性対象、排除完了」
もがき苦しむ、チンピラ共と、人間であった炭化物を確認した後、《J2A1-K》もサイドバックに戻し、私はセルゲイに告げた。
「了解だ。……次のICで一旦、休憩する」
「分かった」
そして、短い会話の後、バイクは少し、速度を落とした――
――以上、Ⅳ弾倉目、第一話でした。
久し振りに出てきた、チンピラ共。……ロクな登場はしないけれど。
さて、今回のバイクシーンには、実は推奨BGMがあります。
《Holocaust》です。
……エロゲの曲じゃないか、と思った方。……嘘だと思って、掛けながら読んでみてください。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。