当然の理であり、誰しもが知っている事。
しかし、分かっていても希望的憶測は止められないのかも知れない――
ーー翌日。
セルゲイの操るバイクに乗り、工場の乱立する雑多なストリートを移動する。
既に、エリアRos EIには入っている。まぁ、まだ外縁部だが。
故に武装はサイドバックに格納。
街中での発砲沙汰はスラム内か、緊急時以外、面倒な事態しか引き起こさないから。
面倒事は出来れば避けたい。
という、私の思いは届いたのだろうか、
「あと十分で着く」
「了解」
何事も無く、市街中枢へ到達。
《Оружие Показать》の開催される市立競技場はもうすぐ。
(新製品……どんなのかな)
なんて、考えながら街並みの観察と、もう一つのある事を考える。
――どうやって、認めさせるか、について。
彼には私の気持ちを伝えている。
そして、答えも聞いているが……認めたくない答え。
咎人だからどうしたというのか。
人殺しなど、私達の間では日常茶飯事だったはず。……いや、今もそうだけど。
親殺しにしても、別段珍しいものではない。毎年、何百件もの親殺しが事件として上がるのだから。人口爆発の弊害にしては妥当な線。
(……なら、何故?)
セルゲイがそこまで潔癖だとは思えない。
嘘を……ついているの?
もしくは、何かを隠している?
(調べないと……)
自分の知るセルゲイは、第17特殊強襲中隊時からだけ。それ以前は一切知らない。……同様に、私の過去も彼は知らないはず。
過去のセルゲイに私を拒む理由があるならば、知るべき。
知って、どうにか対処する。それが考えうる、最善策だろう……。
もっとも……情報源が無いから、そこからだが…… 何とかする。
「到着だ」
彼の声。
視線を前に向けると、そこにあったのは穴が空いた灰色の無骨な壁。
穴の先は駐車場。
出入口の詰所に近付き、職員の指示に従って中へ。
指定された場所でバイクを駐車。
一応だが、武装を確認する。
腰のホルスターに収まる、中折れ銃身式の12.7㎜口径リボルバー《AA AR7》。
スリングで背負う、25㎜対物砲《AA PB5L》と14.5㎜対物ライフル《AA PB3》。
ブーツには、小型の
(……全部ある)
バイクでの移動の為、弾薬はあまりないが。……いざというときはメーカーから貰えばいいかな。
セルゲイも、7.62㎜バトルライフル《AA KrG35》と、9㎜自動拳銃《AA AP4》。それに、
冷静に考えれば、武装の見本市に武装して行くのは非常識な事甚だしいが、それは過去の話。
入場時に弾薬を預ければ、銃火器の保持は可能であり、ナイフの所持はそもそも合法になっている。……治安が悪い故に。
(……街中に魔物が出ないとは限らないし)
《F》のジャンキーは後を絶たないから。ナイフ如きでは、一般人など魔物の餌に過ぎない。
と、思いつつも受付で弾倉を預け、会場へ。
様々なメーカーのブースが立ち並び、顧客を引き込まんとする欲望剥き出しの会場。
見ていて反吐が出る。
特に反吐が出るのはActive Warrior社。
製品が短機関銃と散弾銃。そして、趣味丸出しの戦闘用ナイフのみ。
特に戦闘用ナイフは無駄に大振りで、実戦ではとても使えない代物に感じる。
短機関銃と散弾銃にしても、閉所戦闘では使えるかもしれないが、見た感じ、瞬間火力重視に見える為、突発的な自衛要素以外は厳しいだろう。
総じて、火力と派手さを求める最近の若人向けであり、私達のような軍人やそれに類する者から見れば、反吐が出るのは当然とも言える。
(……物色は後)
雑念を抱いてどうする?今は依頼が先決のはず。
セルゲイは無言で淡々と歩いている……ように見える。
気持ちを引き締め、Accuracy Armament社のブースへ向かう。
受付で渡されたパンフレットを一瞥。場所の確認。
(……案外、分かりづらい場所)
それに、かなり奥の方にある。
元々、高性能高価格のメーカーで、一部の精度ジャンキーや頭の軽い資産家、後は正規軍のプロ達ぐらいしか顧客がいないのは確かだが……それは過去の話。
今は、エリアGer正規軍制式採用小銃の発注もあり、儲けはそれなり以上にあるはず。
ならば、奥で細々とブースを開く必要は無いだろうに――
(……いや、意図的に細々と開いているのか)
わざわざ、同盟国の軍人に性能評価依頼を出すような状態。
新製品は余程有用と見える。
と、思いながら歩く事数分。
目的地であるAccuracy Armament社のブースに到着。
「さて……」
セルゲイと揃って、ブースを一瞥。
見覚えのある製品しか展示されていない。
デモンストレーション前に置いても意味が無い……もしくは、ブースに置けるような代物ではないかのどちらか。
結論が出たところで、ブースにいた男性の一人が近付いてくる。
筋肉質な体躯に、剃り上げた頭部。職人気質な外見。……おそらく、メーカー側の仲介人か。
「来ましたか」
「……アンタは仲介人か?」
私と同じ事を思ったらしいセルゲイは、男に問う。
「えぇ。依頼を請けていただきありがとうございます。私は研究開発部門主任のアーデル・レーベホルンと申します」
「御託は後だ。依頼の詳細を教えてくれ」
「……そう焦らずとも、説明します。……奥にどうぞ」
男――アーデル氏に案内され、私達はブースの奥へと向かった。
ブースの奥、倉庫代わりに使われているスペースに着く。
様々な銃火器、或いは重火器が綺麗に陳列されている中、簡素な長テーブルとパイプ椅子が数脚置かれていた。
「お掛けになって結構ですよ」
「いや、立ったままで大丈夫だ」
アーデル氏の好意をセルゲイは断り、
「私も大丈夫」
同じく断る。別に疲れてはいない。セルゲイも同じような理由か……いや、単に時間が惜しいだけかな。
「……そうですか。では、依頼内容の説明に移ります」
残念そうに顔を歪めるアーデル氏だったが、すぐに元の調子に戻り、説明が始まる。
「先のメールにて説明した通り、お二方には弊社新製品のデモンストレーションを行っていただきます。セルゲイ様には、バトルライフル《AA KrG37》とロケット推進式対装甲擲弾筒《AA PGW-4》、ノルシェ様には対物砲《AA PB15MF》シリーズを扱っていただきます。……それぞれの使用火器についての説明は後程。……何か質問はありますか?」
使用する武装についての説明ぐらいしかされていない。
知り過ぎてはいけないのか?
いや、試しているのだろう。……ふざけてる。
が、依頼主に真っ当な奴を期待する事自体が間違い。
だから私は、一つだけ問う。
「……デモンストレーションのプログラムは不明?」
「はい。……兵装ごとの得手不得手を考慮したプログラムですが、ユーザーはある程度は各種状況への対応能力を知りたい傾向にあります。故に、翌日までプログラムの内容は秘密とさせていただきます」
返ってきた答えはある意味、予想通り。
理由としては分からないでもない。
私とて、ユーザーであり、信頼性の無い兵装は使いたくないのは当然。……プライドで粗悪品を使い続けた某国が異常なだけ。
そうでなくとも、報酬額自体が破格なのだから、これぐらいの理不尽は受け入れるべき事。
「……了解。使用火器の説明、頼める?」
理由に納得できたところで、先に進もうとするが、
「……アーデル氏。少し席を外していいか?」
セルゲイはアーデル氏にそんな事を問う。
「理由をお聞かせ願います」
「別の依頼が入った。……拒否権の無い依頼が」
拒否権の無い依頼。
おそらく、正規軍の指令。いや、ほぼ確定で。
「…………軍からの、ですか」
「……何故、そう思う」
「ただの勘です。……エリアRos正規軍はお得意様の一つですから」
「…………答えはどうなんだ?」
「席は外して構いませんよ。ノルシェ様はどうなされます?」
唐突に話の矛先が私へ。
「……」
視線をセルゲイへと向ける事にする。
「……出来れば、いた方がいいな」
出来れば。……つまり、行った方がいいらしい。
「……了解。……席を外させていただきます」
「分かりました。火器の説明は私を含めたスタッフの誰かに聞いていただければ、お答えしますので。……明日は頼みますよ」
「了解した」
「……」
了解を得て、私達が部屋を出ようとした直後、
「――ここにいたのか」
落ち着いた青年の声と共に、一人の男性が入ってきた。
筋肉質な体躯、長めの銀髪。
身体を包む、防弾耐火繊維製ジャケットとカーゴパンツ。
やや歳をとっているのか、僅かに皺が出ていたが私達には見覚えのある人物……いや、忘れもしない人物。
「「……隊長?」」
故に、私とセルゲイは呟くように言う。
――グローム・ジャール。
元、エリアRos正規軍 第17特殊強襲中隊 隊長。つまりは、かつての上官であり…………第17特殊強襲中隊の生き残り。
「……隊長は止めてくれ。今はお前達の上官ではないからな。……ジャールか、グロームで構わん」
男性――ジャールは苦笑。
やはり、隊長だった。
「……積もる話は色々とあるかもしれないが、今は“依頼”の話が先だ。……アーデル氏、済まないが席を外して貰えないか?」
横暴にも等しい要求が紡がれる。
拒否されるかと思いきや、アーデル氏は腕時計を確認し、
「…………構いませんよ。部下が休憩時間になったようなので」
了承。部屋を出ていく。
隊長……それを見越して来たの?
アーデル氏が部屋を出た事を確認したジャールは口を開く。
「……数日前、エリアRos SEの戦犯刑務所が何者かに襲撃され、駐留していた正規軍 第87歩兵中隊が全滅。一名の囚人が脱獄した」
「あそこが……。魔物、魔獣ではなく、人間にか?」
疑問符を浮かべるセルゲイ。
私も同意見だった。
エリアRos SEは刑務所と留置場が大半を占める都市であり、魔獣の生息域である旧エリアChi跡の樹海にほど近い為、度々魔物や魔獣に襲撃されるから。
「それは不明だ。……話を進めるぞ。脱獄者はガリアン・レーヴァ。正規軍第1技術試験中隊、第3小隊の隊長だった男だ。……お前達も関わった《霊甲の嘆き》事件の主犯格だな。……軍上層部はガリアンの脱走を重く見たらしく、第1、3独立遊撃隊に彼の抹殺を指示した……。つまり、俺とお前達で脱獄者を殺ればいいだけ」
「でも、私達は別の依頼がある。……脱獄者がエリアRos EIに来る保証は無い」
最悪、留守番メンバーを使う?
と、考えるが、その必要はなかった。
「…………いや、来る。……アイツの脱獄理由は俺を――《Медвдъ》を根絶やしにする為、だろう。……加えて軍にも恨みがあるだろうから、アイツには、この祭典を掻き乱す価値がある」
「話を聞いた限りでは、隊長自体が体の良い餌だな」
辟易したのか、セルゲイが吐き捨てるように言う。
「……軍が俺を呼んだのは、それもあるだろうな。……上の指示は以上だ」
苦笑したジャールは私達に背を向け、
「俺はAA社の警護、という名目でこの祭典に参加している。……必要な時は連絡してくれ」
部屋を出ていく。
その背中が見えなくなった頃、
「……火器の説明を受けに行こう」
セルゲイが呟く。
「……」
首肯を返し、私達も部屋を出る。
――以上、第2話でした。
今話は軽い説明回のようなもの。さらっと酷い設定が混じってますが、そんな世界観ですから。
次回から、登場火器が増えますね。好きなものとはいえ、設定組みには疲れるものです。……詳細にやり過ぎてるだけでしょうけど。
尚、現在三つの企画を立ち上げています。詳しくは僕の活動報告を一読の事……ですが、一つだけ紹介します。
本作の二次創作をやってみたい方を募集しています。
魔法が出ようが、人型機動兵器が出ようが、成層圏へコンビニに行くノリで旅立とうが一才口を出す気は無いです。お好きなようにやっていただいて構いません。
興味のある方、やる上で情報が欲しい方などは僕に直接メッセージを送信してください。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。