※この作品はR-18です。

Dirty Works   作:空薬莢

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憎悪と嫉妬は激しく、染み付きやすい感情。
そして、精神を容易く狂わせる。
では、元から狂った者はどうか?
答えは簡単。
後戻りが効かなくなるだけだ――





Оружие Показать Два~牙抜きし憎悪~

翌日――

私とセルゲイは市立競技場の地下駐車場に呼び出されていた。

「……では、デモンストレーション地点へと向かいましょう。……乗ってください」

目の前には大型の軍用トラックと、AA社の社員らしい若い男性の姿。

そして、

「……俺達は引率みたいな物らしい」

何故か、グローム達、第1独立遊撃隊も。

「……無いとは思いますが不測の事態の為です」

……この若造が。不測の事態なんて愛人同然と考えるべきなのに。

「保険は懸けておいて損は無いが、その言い分は無視できんな」

案の定、グロームが口を挟んだ。

「無い、とは言い切れん。……余程平和ボケしているのではないか?生半可な気持ちで戦場に立たないで貰いたいな」

続く言葉は辛辣。

下手に場慣れした兵士や、英雄願望に取り憑かれた兵士も厄介だが、それ以上に厄介なのは言うまでもなく民間人。

仮にも教育を受けてはいる……はず兵士は、ある程度行動を予測できる。止められる可能性は低いが。

市民の行動も予測はできても、抑える事は困難だ。生存本能に忠実で、他人の話に耳を貸す気も無く、ただただ逃げ惑うのが関の山だから。

(……だからこそ、戦場には関わらないでほしい。メーカーならば尚更)

私達は、端から友軍の存在を考慮しないに等しい部隊だったが故、余計にそう思うのだろう。

「これは失敬。別に貴殿方を侮辱したいわけではないのですが」

「ならば、余計な事を言うな。……出発だ」

相手の反論を許さず、グロームはトラックに乗り、同調するように私とセルゲイも搭乗。

やや遅れて、社員が運転席に着いて、トラックは発進する。

サスペンションで殺しきれない振動を感じながら、件の40㎜多薬室対物砲《AA PB15MF-L》のチェック。

本体自体の整備は良好。

装着した望遠照準器(スコープ)《AA ZL-21SG 4-60x80》も問題無し。

40x200㎜ライフル弾装填済みの弾倉も充分にある。

そこでふと、正面を向けば、セルゲイが8.6㎜バトルライフル《AA KrG37》の動作確認中だった。

一瞥する限りでは、彼も問題無さそう。

後はデモンストレーションで撃つ事になる対象が何か、という点か。

(魔獣か……それとも……ただのデカブツの群れか…………)

後者ならば願い下げ。

態々、新兵装を使うまでもない。やらせるならば、そこらの新米狙撃手にでも持たせればいい。

私に持たせるのだから理由は――――

(広告代わり……?)

優秀な兵士の称賛を得た兵装というのは比較的売れやすい。

軍部も、末端の兵も他人の言葉に踊らされる。実に滑稽であり、愚鈍だとも思える。

自ら考える事、実行する事を放棄し、全ては他人任せ。

……かつての母国――社会主義国家の末路――のようだ。

そう、思った時、私は耳に届く、僅かな地響きと、飛翔音。

(……地響きは…………魔獣の?飛翔音の方は……)

同時に肌に感じた僅かな空気の振動。

銃弾?砲弾?

いや、地響きの大きさからすれば、魔物か魔獣。

つまり――

念の為に持ってきていた、14.5㎜対物ライフル《AA PB3》を保持しつつ、トラックの荷台から顔を出す。

(やっぱり……)

こちらに飛来する、赤黒い肉塊が見えた。

あれがただの肉塊だとは思えない。

素早く《PB3》を構え、弾道計算。

各種データを元に、照準修正。

トリガーを絞り込む。

轟音。

撃ち出された14.5㎜ライフル弾は風に流され、肉塊中心のやや右方に着弾。

しかし、大穴を穿ち、肉塊は火の玉と化した。

やはり、可燃性の液体を内包した生体焼夷弾。

魔物/魔獣の標準的な長距離攻撃手段だ。

「チッ……言わんこっちゃねぇな」

銃声を聴き、吐き捨てるようにグロームは呟くと、指示を飛ばす。

「各自、長距離砲撃に注意しろ。当たれば、骨まで焼かれるぞ」

焼夷弾の火炎というのは、比較的鎮火しづらく、骨まで焼く。

ショック死でもしない限り、肉の焼ける悪臭と、耐え難い激痛。加えて、一酸化炭素等による呼吸困難に悶え苦しみながら、ゆっくり死へと向かうしかないのだ。生き地獄、という言葉が相応しいか。

(……どうでもいい事は考えない)

今は、飛来する生体焼夷弾の迎撃が先。

ボルトを起こし、後方へと引き絞る。

排出器(エジェクター)が空薬莢を掴んで引き出し、薬室外へと蹴り飛ばす。

続けてボルトを戻し、弾倉内のスプリングに押された次弾を薬室に叩き込む。

照準修正。

発射。

着弾。

爆破。

ボルトオープン。

エジェクション。

ロード。

再照準。

発射。

目に移る生体焼夷弾をただ無心に迎撃し、捌ききれない物は、友軍に任せる。飽くまで私は第一次迎撃役だ。

本来であれば、狙撃用の単発式ライフルでの迎撃など効率が悪く、確実性にも欠けるが、今は仕方無い。散弾や短小弾では威力不足で迎撃できない。

5発目の14.5㎜ライフル弾を撃ち、ボルトオープン。

蹴り出された空薬莢が地面を叩く前に、マグキャッチリリース。

弾倉を抜き、スペアをロード。

ボルトクローズ。

初弾装填。

同時に音を鳴らす空薬莢。

構え直して次の目標を――――近い。

けど、問題は無い。

発砲。

破壊。

爆炎がスコープの視界を黒く染める。

気にせずにボルト操作。

次弾を薬室へ。

(さて……次は……)

五感にやや意識を持っていき、次の迎撃対象を探すが、現在は無かった。

トラックは既にエリアRoS EIの外におり、近くには河川――おそらく、アムール川か。

対岸に鬱蒼と茂る樹海。

おそらくも何も、対象は樹海の中だろう。

そして、私の予想通りならば、先の砲撃を行った奴がデモンストレーションにて、私達が破壊すべき的。……ここまでやられれば、誰だって分かる事だけど。

「さて。お気付きでしょうが、今回のデモンストレーションにて、貴殿方が相手をするのは《F-D》型の過剰摂取個体です」

思案する私を余所に、AA社社員は声高に言う。

大方、予想通りの内容と、

「……グローム氏の言う通り、元は軍の脱走兵と思われますので、取り逃した場合、大惨事は免れないでしょう。……確実な撃滅と、有用なデータの提供をお願いします」

予想はしていた糞みたいな必然を。

「予想通りの状況説明をありがとう。さっさと街に帰れ。結果は俺達が生きて帰ったら直に進言してやる」

「それは困りますね。技術者として、この眼で成果を見てみたいも――」

社員の反論は途中で遮られ、

「死にたいならば好きにしろ。……だが、これだけは言っておく。貴様のように調子に乗ったクソ野郎ほど、物言わぬ髑髏に近い」

吐き捨てるようにグロームが言い、私達に向き直る。

「俺達第1独立遊撃隊が前に出る。セルゲイ、ノルシェは支援を頼む」

紡がれた指示も、ある意味予想通り。

新兵装などという得体の知れない物に背中を預ける、と言えるのは、隊長が私達を知っているからだろうけど、同時に前線に出てくるな、とも取れる。

(……どうでもいいか)

私達の依頼は、飽くまで新兵装のテストと、脱走兵の始末。どうせ、デモンストレーションなど無いのだろうし。

トラックから降り、《PB15MF》のメインユニット、各種砲身と弾薬を纏めたコンテナを背負う。

総重量を考えれば、普段のグラナデ並みで、もはや狙撃手というよりは重機関銃手やらの方がしっくり来る。隠密性など皆無だ。

(……とはいえ、コンテナ自体には迷彩塗装が為されてはいるけど)

気休め程度の価値だろう。

そう思いつつ、先行する第1独立遊撃隊に続き、河川を進む。

通常ならば、ゴムボートなりが必要な所だが、それは過去の話。

河川の所々に、異常発達した植物の蔦や根の道が出来ており、泳ぐ必要は無い。

「過剰摂取個体……ね。そんなヤベェ奴なの?」

「隊長曰く、だがな。まぁ、生体焼夷弾をバラ撒くような長距離砲撃タイプなら、近距離戦に持ち込めれば楽だとは思うけどな」

漏れ聞こえる、彼らの声。

(……そんなに、生温くはない)

過剰摂取個体は、純粋な魔獣の上位個体より多少は弱い程度。しかも、情報通りならば、今回の相手は《F-D》。

ドーピング材系《F》の低級レベルの中では、特に攻撃性が強いタイプだから、油断は出来ない。

「……来るぞ」

やや前方を歩くセルゲイは静かに呟き、8.6㎜バトルライフル《AA KrG37》を構える。

私も《PB3》をコンテナの余剰スペースに格納。

代わりに、5.56㎜カービン《AA KG36K》を取り出し、ボルトコッキング。

直後――

魚型魔獣の群れが襲い掛かる。

(……低級か)

と、思いつつも、構えた《KG36》を数射。

いかな魔物よりは強力な魔獣とはいえ、銃弾を避けられるような個体は余程上位でなければ存在しない。

予想通り、現れた魔獣の大半は、躱しきれず頭蓋に風穴を穿たれ、薄桃色の肉片と脳漿。それに鮮血を飛び散らせて絶命する。

撃ち洩らした個体も、8.6㎜ライフル弾によって、同じく絶命。

「……雑魚の処理も必要だな」

「…………依頼遂行上障害となる個体は。それ以外は弾薬の無駄」

セルゲイの呟きに、いつもように淡々と返答し、奥へと進む。

見れば、第一独立遊撃隊も魔獣と交戦中だ。

流石に、援護は要らないかも知れないが……過信が禁物か。

そう思いながら、私とセルゲイは得物を構え直す。

 

「クソッ!魚まで魔物化してんのかよっ!!」

「戯れ言をほざくな!喰われるぞ!」

一方で、第1独立遊撃隊の隊員は焦っていた。

彼らとて、エリアRos正規軍の猛者ではあった、何処の国の正規軍でも、魔物や魔獣と頻繁に凌ぎを削るわけではない。

魔物/魔獣との戦闘回数が非常に多いエリアRosでも例外ではなく、精々群れから追放された、所謂“はぐれ”や、元人間の変異体の相手が殆ど。

故に、第1独立遊撃隊の中で魔物/魔獣慣れしているのは隊長であるグローム・ジャールだけだ。

(……喚く暇があるなら、さっさとやれよ)

手にした7.62㎜バトルライフル《AA KrG35-M》の弾倉を交換しつつ、グロームは思う。

不測の事態に弱過ぎる。

やはり、コイツらも所詮は、一般正規軍上がりだ。

(俺の後ろで交戦中のアイツらと比べても仕方無いがな)

掛け値無しで、魔獣/魔物殲滅回数が多かったのは第17特殊強襲中隊――つまり、今は無きグロームの古巣。

生き残りはグロームを含めて三人。他は全員、殉職。隊員数僅か三人の中隊など聞いた事が無い。部隊区分で言えば、よくて“分隊”、普通は“班”だろう。

(だから解体され、左遷されたわけだ)

再び全弾撃ち切り、ボルトオープン。

ロック。

キャッチ、リリース。

マガジンを引抜き、スペアロード。

ボルトコッキング。

部下達は未だに手こずっている。

「急げよ。一ヶ所に固まっていると、良い餌だ。進んで撒き餌になりたいなら別だが」

注意を促し、蔦の道を疾走。

左右の水面から、疾走者を引き摺り込まんとする、大口開けて飛び出す、魔獣達。

馬鹿みたい開けた口に7.62㎜ライフル弾を投入。

(悪いが、材料代が高いんだ。一人1発で勘弁してくれよ)

物言わぬ、深紅の魔獣達に内心で断り、先へ。

対岸まで、後600mぐらいか。

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

「言わんこっちゃねぇ!何やってやがる、アブトマット12」

「腕が!俺の腕がぁぁぁぁっーー!!」

「隊長!アブトマット12が腕を喰い千切られましたっ!」

「衛生兵っ!止血器具とモルヒネを持って来い!」

「んな事分かってる!脚を止めるな。腕だけじゃ済まなくなるぞ。アブトマット12の治療は移動しながらでも出来る。援護を頼む」

「「「了解」」」

(俺やセルゲイ達はともかく……。コイツらは大丈夫か……)

不安になるグローム。

この仕事が終わった後は鍛え直さないとな……。

そう思いながら、走る内に、対岸へ到達。

反転し、ライフルを構え直す。

治療しながら移動する部下達を襲う魔獣を射的同然に撃ち続ける。

撃ち漏らしも、すぐに水底へ沈んでいく。

後続のセルゲイらが対応してくれているのか。

(……世話をかけるな…………)

ボルトオープン。

弾倉交換。

ボルトコッキング。

「急げ!!」

弾が無くなる。

後、200mだ。

マトモ(一般正規軍基準)に訓練しているお前らは200mを走り切るのに一分も掛からんだろ?

……まぁ、状況が状況だからな……。5分ぐらいは掛かるかな。

とは思ったものの、実際は2分と20秒ぐらいだった。

「隊長。アブトマット12の処置は終了しましたが、すぐに病院へ行った方が良いです」

「いえ、隊長……俺は……やれ……ます。やります……よ。片腕がありゃあ……銃は撃てる」

そう言って、残った腕で持つ5.56㎜突撃銃《JA BA42》を掲げる、アブトマット12。

「……無理はするなよ」

一応、身を案じてやる事にした――

 

 

私の目の前で、片腕を失った一人の傭兵がグロームに宣言している。

腕を喰われたみたいだ。

(……油断するから)

道が細く、両脇は水面なのだから、バランス良く警戒しなければ。

……と、過ぎた事を指摘しても意味は無いけれど。

片腕があれば、銃が扱えるのは確か。……精度は保証できないけどね。

(……ここからが…………本番、だよね)

《KG36》を格納。

デカブツ相手に突撃銃はやりづらい。

だから、取り出すのは新兵装。

《PB15MF》のメインユニットと、通常砲身。

組み立て、マガジンセット。

ボルトコッキング。

初弾装填。

セーフティ、リリース。

「……来るみたいだな」

準備が終わった私に届く、セルゲイの警告。

確かに、私の耳にも、魔獣が原因と思われる激しい振動を感じる。

やはり、デカブツ――

直後、樹海が割れ、目標が姿を現した。

瞬時に距離を取りつつ、私は目標の外観を見る。

全高は8mぐらいか。

形態は四足歩行。

全身から、砲身に似た突起が針鼠の如く突き出している。

巨大なアルマジロみたいなタイプ。

《F-BD》型の特徴ではあるが――

「キサマ…………キサマラ……」

過剰摂取個体ならば、片言でも人語を話すわけが無い。人としての知性も、能力も消し飛んでいる筈だから。

私達を一瞥した魔獣だが、

「キサマハ…………」

何故か、グロームを凝視する。

そして――

「グローム…………ソコニイヤガッタナァァァァアァァアッ!!」

咆哮。

「ブッコロスッ!!キサマハ…キサマラハ……イカシテカエサネェェェェエェェエェェェぇェッーー!!」

同時にバラ撒かれる、生体焼夷弾の雨。

着弾地点の予測は容易だった為、余裕を持って避けられるたが、魔獣の頭部、その側頭に、奇妙な刻印のような物が見えた。

(……《И т 6-3433》?)

Ит……この頭文字が指す物……。

情報通りならば、この魔獣は――

(……そういう事か)

そこまで思い出し、理解した。

Итとは、Испытательное тело(被験体)の頭文字。

つまり、この魔獣こそが、脱走兵――ガリアン・レーヴァの成れの果て。

グロームも気付いたらしく、

「コイツはガリアンだ。……実験台にされたようだがな……」

静かに言い、

「並みの魔獣より手強いぞ。各自、注意しろ!」

仲間へと注意を促した。

同調するように、全員がそれぞれの得物を構える――

 




――以上、第四話でした。
河川上チキンレースなんぞ誰もやりたくないですね。
というか、冷静に考えれば、全力疾走しながら、止血作業って人間の出来ることではありませんが、彼らも強化個体である上に、正規の軍人ですからね。訓練次第という事で。……どんな訓練だ、という突っ込みは野暮です。

では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。
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