しかし、仮初の力に過ぎない。
では、仮初の力の意味とは何か?
一説で言えば、虚勢だろう。
「消エロォ!」
ガリアンの声と共に、生体焼夷弾の弾雨が降り注ぐ。
しかし、兵士達を焼く事はなく、大地を焦がすのみ。
感情に任せた攻撃は単調であり、狙いも甘い為だ。
『
第一独立遊撃隊の面々が115㎜対装甲擲弾筒《JA TRG-4》を構え、発射。
ロケット推進式擲弾達は次々とガリアンに突き刺さり、メタルジェットが体表を貫徹しようとする。
が、
「五月蠅イ蝿共ガ……ハイニナレヨォッ!!」
表皮を損傷させる程度で、反撃の焼夷弾の弾雨が降る。
弾雨とはいえ、今度は狙いが正確。
その為、
『グアァァッ!?』
第1独立遊撃隊の数人が直撃弾を食らい、火達磨と化し、皮膚を焼かれる激痛に絶叫を上げながら絶命した。
『死んだ奴は運が悪かったと思え。攻撃の手と判断力は緩めるな』
すかさず、指示を出す隊長。
運が悪かった、か。
言葉だけで片付けるなら、そうなるのも頷ける。
ならば、運が悪い奴が増える前に、ケリを着けるべき。
私は抱える《AA PB15MF-L》を構え直す。
スコープ中にガリアンの身体を捉え、トリガーを絞り込む。
複数の炸裂音が響き、40㎜ライフル弾が弾き出される。
通常のライフルよりも早い弾速。
多少の損傷は与えられるか?
着弾した弾頭は、肉を抉る生々しい音を立て、鮮血と肉片を撒き散らしながら、めり込もうとするが、やはり、僅かに表皮を損傷させる程度。
(
所詮は歩兵携行兵装か。
多薬室砲の多段加速原理を利用しようと、元が小口径軽量弾頭ならば、効果は低いのは自明の理。
だが、今の私には対装甲兵装は対物ライフルと、これしか無い。
セルゲイは試作品とはいえ、対装甲兵装を保持しているが……。
(牽制役に全てを押し付けてどうする?)
火力支援が仕事の後衛が何も出来ない木偶では、意味が無い。
ともかく、多少でも損害は与えられるのならば、支援を継続しなければ。
現在の装弾は
これが効きづらいならば――
マガジンリリース。
抜き出した弾倉をコンテナに戻し、別の弾倉を装着。
今度の装弾は
おそらく、分厚い筋繊維が貫徹を阻害しているのだから、まずは肉を削ぐ。
ボルトコック。
初弾ロード。
構え直し、再照準。
トリガー。
一秒以下の連続的な炸裂音を伴って、射出されたライフル弾。
先程と同じく、表皮を抉り、筋繊維に食い込む。
そして、数秒後に仕込まれていた遅延信管が点火薬を起爆。
砲弾片と爆轟が筋繊維を抉り、焼く。
与えられる損害は増している。
このまま、支援を継続したい所だが――
『クソッ!アブトマット10、15も殺られた。……隊長、このままではジリ貧ですよっ!』
無線越しに聴こえる、前線の状況は芳しくない。
『見れば分かる。対装甲兵装の使用を惜しむな!……死にたいなら別だが』
『誰が好き好んで死ぬかよっ!』
『相手は元技術将校なんだろ?運動には付き合ってやるぜ!』
が、士気は問題無さそうだ。……というか、やる気が増している。何故?
『……胴体は効き目が薄いな。やはり、脳髄を狙うしか無いか』
「……了解」
セルゲイの呟きに肯定を返し、照準修正。
今度の狙いはガリアンの頭部。
脳髄はおそらく、そこにある。
トリガー。
轟音を上げた砲弾は、脳髄を抉る――と、思ったが、
「小賢シインダヨォッ!!」
弾き飛ばされる。
射線を読まれ、胴部外殻で弾かれたらしい。
(あからさま過ぎか……)
たかだか、距離1600。
開けた場所ならば弾道、射撃地点の予測は容易。
今までが奇跡だったと見るべきか。
(残りは3発……どうする?)
馬鹿正直に脳髄を狙った所で、弾かれてるだけで、弾薬の浪費は確実。
ならば――武装?
……いや、ドーピング剤系種か、“原形”主体の個体だろうから、再生速度をかんがみて無意味。
…………一撃で殺るしかない。
現在の携行兵装中で最も火力が高いのは、《PB15MF-Ael》。
取り回しが劣悪な同兵装を使うならば、一度ガリアンの索敵範囲外に移動しなければならない。
(狙撃ポイントは……)
頭の中で、周辺の地形を思い描く。
…………樹海か、河川が大半。
不意打ちとしては問題無いが、射線は通りづらい。河川では射線は通るが、必然的に水棲魔物の処理も並列して行わなければならない為、自殺行為。
(……と、すれば…………放棄市街地跡か)
数km先に朽ちて、半ば樹木と一体化した市街地がある。
射角は元より、ガリアンの脳髄自体も狙いやすそうだ。
そこから、狙うのが良いだろう。
手にした《PB15MF-L》をコンテナに格納し、
「……セルゲイ」
口元のレシーバーに囁く。
これから行う行動は超長距離砲撃。
弾道計算等は一人でも可能だが、懸ける時間と演算に割く思考リソースを少なくする為、観測手が必要だ。
『了解だ。……メドヴェーチ1からアブトマット1へ。暫くガリアンの注意を引いてくれ』
私の意図を察したセルゲイが、隊長に告げる。
『……玩具でどうにかなるのか?メドヴェーチ2』
しかし、返される正論。
頼みの綱が試作品では不安しかない、というのは当然。経験を積んだ者ほど、堅実性を重視する。
「……対装甲擲弾筒が効かない以上、脳髄以外には効果が無いとは思う。…………でも――」
コンテナから、5.56㎜カービンライフル《AA KG36K》と、細長い筒状の器具――
「私の役割は長距離狙撃。御荷物じゃない」
だから、行かせて。
『…………了解した。急げよ。……俺も、お前達も
……当然。
心の中で肯定し、無線封鎖。
樹海の方へと踵を返し、走り出す。
(…………距離……約、15000m)
推定所要時間、1800。
樹海に侵入。
同時に、襲い来る狼型魔獣達。
《KG36K》を腰だめに。
トリガー。
当たらない射撃。
当たる筈の無い、5.56㎜ライフル弾。
所詮は牽制射撃。
続いて響く、くぐもった銃声。
纏めて、上がる血飛沫。
「……排除完了。急ぐぞ」
牽制射撃による行動制限から、叩き込めば当てやすい。
が、発砲してしまった以上、移動を開始する。
ゲームに慣れた子供は誤解しがちだが、サプレッサーは音を消す物ではなく、分かりづらくする物。
とはいえ、それは人間相手の場合であり、魔物/魔獣相手では余程の長距離でも無い限り、無意味だ。
残り、148000m。
聴覚が、こちらに向かってくる複数の地響きを認識。
群れが気付いたか。
残弾僅かな、弾倉を交換。
「……状況が悪いな」
同じく弾倉を交換しつつ、セルゲイは呟く。
「確かに。狙撃地点まではまだ長い。……弾薬はどのぐらいある?」
「8.6㎜MB、3マグ。7.62㎜MBは6マグ、120㎜HEAT3発、45㎜擲弾がHE、AP、HEIそれぞれ6発ずつ。9㎜は全弾だ」
……小規模の群れに対応できる程度か。
交戦は出来る限り避けるか――
(……近接か)
ブーツに仕込んだ折畳式ナイフを一瞥。
これでは、低級麻薬系種が関の山だろう。最悪、徒手格闘になるのか……。
人間相手には簡単だが、魔物相手には威力不足……。
(そう、何度も首筋や脳髄を抉れるわけじゃない)
「……軍用マチェーテでも用意すべきだったか?」
「そこまではいらない。大振りで邪魔にしかならない」
聴覚で群れとの距離を確認しつつ、ペース向上。
その途中、
『――ひでぇ有り様だな。流石はアル中共だ』
『そう言うなよ。最近はアル中も、少なくなってきたらしいぜ?』
『ま、何にしても、数頼みがエリアRosの基本戦術だろ。何世紀も前から、な』
僅かな風切り音とエンジンの唸りに紛れる、嫌味ったらしい声を聴く。
「…………邪魔物共が」
吐き捨てるように呟くセルゲイ。
「……同意見」
風切り音とエンジンの唸りから察するに、軍用の輸送ヘリ。
言動から推測される軍は――エリアU.S.。
対魔獣戦では糞の役にも立たない、口先だけのお調子者共……。
「ペースを上げる」
「……了解だ。連絡は俺がやっておく」
だから、私とセルゲイは更にペースを上げる。
隊長の足枷達がでしゃばる時間を少しでも短くする為に。
「……さて、目的地が近い。お前ら、作戦の説明に移るぞ」
エリアRos SE近郊の上空を飛ぶ、オリーブドラフカラーの輸送ヘリの中で、落ち着いた隊長の声が響く。
それまで好き放題に談笑していた同僚達が口を閉じ、隊長の方を向く。
かくいう俺――レオンも、隊長の発言を待つ身だ。
「数十分前、エリアRos SE近郊のアムール川付近で、エリアRos正規軍と魔物の交戦が始まった。同戦闘は、エリアRos-SEに甚大な被害をもたらす事は想像に難くないはずだ。……俺達、エリアU.S.陸軍第8特化強襲小隊の任務は、魔物の討伐。ただそれだけだ。敵の戦闘能力は未知数だが……なぁに、いつも通りやれば大丈夫さ」
「「「違いねぇ!」」」
隊長の発言を聞いた仲間達は笑う。
でも、俺は苦笑する。
(作戦前のノリじゃねぇよ)
いつもの事だが、この小隊は作戦前の雰囲気が軽い。
もっと張り詰めた雰囲気が普通なんじゃねぇか?……まぁ、緊張しない分、気は楽だが。
「アル中共が弱いだけだろ?俺らなら楽勝だ。なぁ、レオン?」
思案する俺に仲間の一人が、絡んできた。
俺らなら楽勝、か。
「……あぁ。泥酔して同性どうしで掘り合う連中になんざ負けねぇよ」
その通りだな。
あんな連中に遅れを取るほど、
「……あんまり騒ぐなよ、気が散るだろー。俺は野郎の歓声より、美女の甘い囁きの方が聴きてぇよー」
「黙れよジャックテメェは液晶の向こう側でも見てろ」
「全くだ。マスでも掻いてな、ジャック」
無粋な横槍を入れ、針の筵と化した友人。
自業自得だが、騒ぎ過ぎというのは確かかも知れないな。
と、思った直後に隊長が口を開く。
「作戦領域だ」
引き締まる空気。
だが、同調するように起こるのは、
『2番機、大破!第2分隊が全滅した!』
味方の損害だった。
「降下開始。急げよ」
冷静に告げられた指示。
全員が即座にロープとフックを用意し、ラペリング降下を開始。
同時に、俺達は肉腫の雨に晒される。
それがただの肉腫ならば良かったのだが、
「ぐあぁあぁぁぁぁあっ!!」
肉腫を受けた仲間の一人が火達磨と化し、絶命した。
「ファング8ッ!?」
「クソッ!消し炭じゃねぇか!!」
「早く降りねぇと良い的――」
また一人、肉腫の餌食に。
下がり始める士気。
当然か。立て続けに、味方が殉職したのだから。目の前で。
更に追い討ちをかけるように、
「狼狽えるな。戦場なんだ、犠牲は付き物――ごふっ!?」
士気を立て直そうとした隊長すらも血飛沫と共に、腹部に大穴を穿たれる。
(飛んでくんのは肉腫だけじゃねぇのかよっ!?)
見れば、肉腫に紛れて直径20㎝程度の楔も飛んできていた。
「俺は……大丈夫――」
言葉を言い終わる前に頭部が吹き飛び、脳漿と脳片。それに鮮血が飛び散る。
(隊長も死んだな……)
特化強襲小隊の隊員は特殊な施術を受けた《Ripper》と呼ばれる強化兵であり、並みの兵士より遥かに頑丈だ。
しかし、流石に脳味噌か心臓を吹き飛ばされると死んじまう。
「隊長ォッ!?」
「クソッ!」
「急がねぇと!」
冷静さを欠く仲間。
ソイツらを尻目に、
「情けねぇな。……それでも軍人かよ」
「言ってやるな。……お前が異常なんだ」
俺とジャック――ファング6――は着地。
スリングで肩がけしていた5.56㎜突撃銃《RG CR25A3》を保持。
セフティ、リリース。
小銃とは別に、背負う75㎜携行対装甲ロケット砲《AF CRL-2》と、弾薬も確認。
ファング6も、手に保持した7.62㎜汎用機関銃《RG HM20A1》と、背負った《CRL-2》を確認中。
ラペリング降下し終えた味方は、6人か。
一分隊程度しか生き残れなかったらしい。
(小隊の三分の二が殉職か)
中々やれる魔物じゃねぇか!
状況は悪い。
だが、俄然やる気が出てきた。
「……やる気十分だな、ファング4。他の奴らはガタガタだぜ?」
呆れた視線をよこすファング6。
(他の奴らがガタガタ?)
周囲を見回す。
「クソッ!航空支援はねぇのかよっ!!」
と、戯れ言を抜かすのは確か――ファング8。
俺より階級が上の古株じゃねぇか。
……クソが。
怒りが込み上げ、
「泣言ほざくんじゃねぇっ!!あんな贅沢が許されんのは偉いさんか、最重要敵対勢力相手だけだ!!」
咆哮する。
グダグダと下らない事ばかりほざきやがって。
隊長がいなけりゃ、自分のオツムすら管理できねぇ程の甘ちゃんか?
(軍隊から出てけよ、んな奴)
目障りだ。
「テメェこそ戯言ほざいてんじゃねぇよ、ファング4!!」
「そうだ!ルーキーのくせしてデカイ口叩くんじゃねぇ!」
「テメェなんざ、デリヘルに抜かれてりゃ良いんだよ青二才」
一斉に怒りを露にする仲間。
揃いも揃って、年下に諭されんのが嫌なのか?
下らねぇ。
「黙れよ、ケツの重い老害共。黴臭い戯言抜かす暇があるなら、戦闘準備をしたらどうなんだよ。……それとも、アル中共に馬鹿にされんのがお好みか?……それなら、邪魔なだけだ。さっさとくたばっちまえよ。その方が祖国の為だ」
吐き捨てるように言い、歩き出す。
「……ハァ。古参兵の皆さんには悪いけど、八割方俺もファング4に同意してる。……戦意が無いなら、邪魔だけはしないでいただきたいな」
背後から聴こえるファング6のフォロー。
余計な世話だ。
(老害共に媚び
社会的な安定には必要だろうけどさ……。
軍に入った時点で、成功もクソもねぇだろ。
高い金の代わりに、人生自体をくれてやってんだからよ。
「わりぃな。遅くなった」
思案に答えるように、ファング6が追い付いてきた。
「あんな奴ら、ほっとけよ」
「そうもいかねぇよ。……俺には体面ってものがあるからな。ファング4。お前も少しは落ち着きを持て。さもなくば、女の一人も抱けずにくたばることになる」
……で、ボヤきに対する答えは、コイツらしいもの。
「どうでもいいな。俺は祖国の為に殉じれりゃ、それで良いんだよ。女なんて幻想はいらん」
だから、素っ気無い答えを返すだが、
「…………よし分かった。この作戦が終わって帰国したら、お前を更正させてやる」
何かのスイッチを入れるという結果に。
「ハッ!やれるもんならやってみな、ファング6……っと。雑魚のお出ましだっ!!」
同時に、俺の聴覚が複数の足音を拾う。
数からして、魔物。
どうせ雑魚だ。時間をかけてられねぇ。
トリガーに指をかけ、《CR25A3》を構える。
近付く地響き。
まだだ……。
5.56㎜ライフル弾では、近距離でなければ魔物の外殻を貫通できない。
もっと引き付けねぇと――
「ごふっ!?」
しかし、引き付ける前に、腹部への衝撃。
身体をくの字に折り、盛大に胃液を吐く。
遠距離攻撃かよっ……。
予想してなかったぜ……。
「馬鹿野郎。油断するな」
対して、ファング6は手にした《HM20A1》を掃射。
林もろとも周囲の雑魚を薙ぎ払う。
「わりぃ。遅れた分を取り返す、援護を頼むぜ!」
「長くは保たないからな」
「ま、早く終わらせるさ」
《CR25A3》を構え直す。
仮死化させていた体細胞を8割解放。
五感全てがより正確に状況を認識させ、俺は血を蹴る。
それだけで、十数mを駆ける。
駆け抜けた先、眼前に見える、苔に覆われた体表を持つ、陸亀と狼を足して二で割ったような魔物の群れ。
(コイツらが……さっきの攻撃の主か)
肥大化し、突起の目立つ背。恐らく、突起を射出して攻撃できるのだろう。
(ならっ!)
撃たせる前に殺るだけ。
近付き過ぎれば、容易に挽肉になるだろう。
だから、構えたライフルの照準修正。
「さっきのお返しだ!」
ファイア。
激しいマズルフラッシュを撒き散らし、5.56㎜弾が魔物の体表に着弾。
しかし、大半が弾かれ、決定打に至らない。
クソッ!
撃ち切り、後退して止まるボルト。
マグキャッチ、プッシュ。
マガジンリリース。
スペアマグ、コネクト。
ボルト、リリース。
ロード。
同時に、眼前に大口を開けた、魔物の顔面。
噛み殺す気か。
「好都合だなぁっ!!」
スリングを肩へ回しつつ、サイドステップ。
鋭利な牙が並ぶ顎を避け、無防備に晒された首筋を掴み、
「くたばれぇぇっ!!」
渾身の力を込めて持ち上げ、パワーボムの要領で地面へ叩き付ける。
鈍い破砕音。
頭蓋を割ったか。
即死だな。
なら、次!
再び、ライフルを構え直す。
今度は頭蓋目掛けて、速射。
やはり、弾かれる。
(何でだよっ!?)
見た感じ、頭はそんなに固くなさそうなのに!
(腐っても魔物は魔物か)
ライフル弾を頭蓋で弾く動物がいないわけではない。
つまり、
俺が単純思考なだけか。
反省しつつ、マガジンエジェクト。
スペアマグ、ロード。
ボルトリリース。
ファイア。
腰だめの射撃。
当てる気は無い。
牽制だ。
瞬く間に全弾撃ち切り、リロード。
残り、4マグ。
『牽制は俺の役目だろうが……』
牽制射撃に本能的な回避を取った魔物達を掃射し、ファング6は呟く。
「俺の射撃じゃ通るわけ無いだろ?」
事実、精鋭部隊にあるまじき低精度しか出せないんだからよ。
『……おいおい、当たらねぇ射撃なんて金の無駄だろう?』
「なら、ナイフで殺れって?せめて、マチェットをくれよ」
小回りが効くが、威力は低いナイフでは余程の腕が無い限り、自殺行為だろう。
ならば、力任せにブチ殺せる
今回の作戦都合上、俺は保有していないが……。
と、思った矢先――
『マチェットが欲しいのか小僧?』
突如として無線に割り込んでくる声と、
飛来する刃渡り50㎝程のマチェット。
キャッチし、飛来した方向を見れば、数人の兵士――先程の腰抜け達――がいた。
『くれてやる。好きに使えよ、隊長の遺品だからな』
再び聴こえる無線。
隊長の遺品かよ……。
『20を過ぎたばかりの餓鬼がでしゃばるなよ。……テメェに活躍されると俺の給料が減るんだからよ』
『大人しく俺達のケツについてな、餓鬼。金魚の糞みてぇにな』
『憎まれ口は後だ。まずは雑魚を片付けるぞ』
兵士達が素早く、俺の前に出ると、射撃開始。
使用しているのは同じ《CR25A3》だというのに、次々と魔物から鮮血が上がる。
段違いの精度。腐っても古参兵は古参兵だな。
俺も負けられねぇ。
射線に紛れて接近。
今度は、辛うじて見える魔物の
マチェットを構えて一気に近寄り、
魔物の首筋に分厚い刀身を突き刺す。
そして抉り抜き、バックステップ。
撒き散らされた鮮血。
返り血は浴びていない。
残りは――8匹か。
どこまで持つか――なんて考えない。
走り出す。
突貫する魔物。
襲い来る顎。
サイドステップ。
頭を掴み、地面に組み伏せる。
「The End」
眼球にマチェットを突き立て、脳髄もろとも抉り裂く。
絶命。
残り、7匹。
『伏せろ、ファング4!』
ファング6からの無線。
従い、伏せる。
直後、頭上を過ぎる7.62㎜弾の弾雨。
『チッ!仕留め切れないか。悪いが銃身と機関部を換装する。援護してくれ』
だが、全てを消し飛ばすには至らなかったらしい。
『了解だ、ファング6。お前ら、子守りの続きだ』
『了解。急げよ、ファング6』
『お前の方がマシなんだからよ』
『いつまで寝てんだ、ファング4。青っ白いケツを蹴り飛ばすぞ?』
「……了解だ」
身体を起こし、マチェットを構え直す。
ふざけてんのは
なんでアイツの方が、評価が高ぇんだよ……。
愚痴りたい気持ちを抑え、敵を見据える。
……残りは2匹だった。
(……手早く仕留めっか)
レッグホリスターに収めていた大型拳銃を抜く。
――
強力な.45口径拳銃弾を20発装填できるマガジンを持つ、俺の愛銃。
当然改造を施し、ドットサイトとマズルスパイク付きコンペンサーを装着済み。
それを構え、マチェットは逆手に持ち替えて、両腕をクロスさせる。
走り出す。
『またか、ファング4!各員、奴の援護も並行しろ!!』
外野が五月蝿いが、フォローはしてくれるらしい。
構えた《FH-02A1》を速射。
避けられる。
予想の範囲内だ。
半マグ程撃ち、魔物との比嘉の距離は10m程。
一瞬で殺り合える距離。
気は抜けねぇ――なっ!!
サイドステップ。
擦過する、魔物の前足。
「うらぁっ!!」
魔物の脇腹へと、背中からのタックル――所謂、
即座に反転。
眼球にマチェットを抉り込みつつ、もう一匹の魔物へと、残弾を速射。
マガジンリリース。
マチェットを引き抜くついでに、マグパウチからスペアマグを抜き、ロード。
スライド、リリース。
ファストアモ、ロード。
同時に倒れ伏した、最後の魔物。
『雑魚が群がる前に移動だ。デカブツの元に急ぐぞ!』
無線越しの指示。
『『『了解』』』
正論だ。
故に――
「了解だ」
俺達は樹海の奥へと走り出した。
同時刻――放棄市街地内。
「残弾はどのくらいだ?」
「5.56㎜は3マグ。40㎜は6割ぐらい」
セルゲイの質問に答え、止まる《KG36K》の
弾切れだ。
「リロード」
マガジンリリース。
スペアマグ、セット。
ボルトリリース。
(……あと少し)
弾倉交換を終えた《KG36K》を構え直し、思う。
あれから、樹海を駆け抜け、半ば植物と同化した、放棄市街地に突入。
やはりというべきか、ここにも魔獣はいた。……少数だが。
魔獣を排除しつつ進んでおり、狙撃地点までは300mぐらい。
残る魔獣は5体。
五感が認識する範囲内――周囲10㎞圏内で、他に存在する魔獣と魔物は、ガリアンだけ。
照準の中で、また一体、絶命する魔獣。
気にせず、次の標的へ。
照準した直後、絶命した。……セルゲイだね。
「これで全部だな。……残りは何mだ?」
「約215m」
周囲に気を配りつつも、疾走。
数分で狙撃地点に着く。
崩落した、家屋跡。
射角充分。約10㎞のガリアンがはっきりと確認できる。
偽装も、遠目からは植物と瓦礫で視認しづらい。
背負っていたコンテナを瓦礫の影に下ろし、中から巨大な《PB15MF-L》の機関部と砲身を取り出し、結合。
続けて、《Ael》用の砲身も取り出し、結合。
ひび割れ、雑草の茂るフローリングに身を投げ出し、全長3mを越す《PB15MF-Ael》を構え、二脚架展開。
既に、砲口はガリアンに向けており、わざわざ索敵する必要はない。
スコープの接眼レンズに顔を近付け、
「セルゲイ」
横目で確認した、隣で双眼鏡を覗くセルゲイに声をかける。
「距離、10570。風向風速、北東2.3m/s。気温24℃の湿度70%」
「了解」
各種データを聴き、即座に計算する。
使用弾薬は40㎜口径の電磁投射用徹甲弾。
これのデータは無いから、40㎜徹甲弾のデータで流用すれば、10570m先での落下量は48.445833333……約、48.5ミルとなる。が、電磁投射と口径漸減による高弾速を加味すれば、これよりは少なくなるだろう。
湿度、気温を考慮し、上に9ミル弱移動。
風は微風。良い条件だ。こちらも公式データが不明だが、計算上100mで0.64㎝。10570mでは……約676.48㎝。スコープの設定に従い、左に13ミルほど移動。
肺の空気を3割吐き出し、呼吸停止。
計算通りに、ガリアン本体の頭部に狙いを定めてトリガーに指を掛け、絞り込む。
火薬の爆縮する轟音と、弾頭を覆う導電体が削れる甲高い音が合わさりながら、超音速の砲弾が弾き出される。
弾着は――。
「上に40㎝逸れた。掠ったぐらいだな」
外したか……。
想像以上に低伸性が高い。落下量は100mで0.025㎝ぐらいかな。
計算し直し、上に3ミル、左に12.5ミルとする。
深呼吸し、3割吐き出す。
呼吸停止。
照準修正。
再び、トリガーを絞り込む。
約10秒後、スコープの中で赤い飛沫が飛ぶ。
「右に12㎝逸れたな。頭部の3割を吹き飛ばしたが、まだ動くようだ」
「……最大出力で撃つ」
砲身に付属する、セレクターを操作し、出力を最大に。
弾道計算をやり直す。
出力は1.4倍。
これと先程の結果を参照し……上に1.8ミル、左に8ミル移動か。
呼吸。
停止。
トリガーに指をかけようとして――《PB15MF-Ael》を抱えて、横に転がる。
直後、元いた場所を音速で通過する70㎜径の杭。
バレたか……。
同じ場所で撃ち過ぎた。
(別の狙撃ポイントは……ここから400mと1600m)
……駄目だ。移動中に弾雨に晒される。
「移動するか?」
セルゲイが問う。
「……暫く様子見」
瓦礫の後ろに隠れながら、返答。
杭が飛んでくるが、散発的。
おそらく、視界の縮小によって狙いが定まらないか、注意の大半が第1独立遊撃隊に向いているか、だろう。
――なら、隙は作り出せる。
「メドベェーチ2より、アブトマット1へ。聴こえる?」
無線を入れ、隊長――グロームに呼び掛ける。
『メドベェーチ2か。効果はあるみたいだが、奴は発狂したぞ。どうする?』
「次弾で仕留める。……10秒程度、ガリアンを引き付けてほしい」
『……10秒か。やってみよう』
無線が切れる。
「聴いていた?セルゲイ」
「あぁ。……狙撃準備に戻れ。流れ弾は俺が迎撃する」
「了解」
言いつつ、瓦礫の裏から這い出て、伏射姿勢を取り直す。
その横で同じく伏射姿勢を取り、《KrG37》を構えるセルゲイ。
先程の結果から導き出した、弾道予測へ、凡そ合わせて、待機。
呼吸する以上は、必ずブレるから。
グロームがガリアンの隙を作るまでは、私に出来るのは待つ事だけ。
断続的に響く轟音。
セルゲイが、8.6㎜ライフル弾を以て、飛来する杭や肉腫を迎撃している音。
スコープの視界に写る、火炎は肉腫が爆発した証。
杭は軌道を逸らされ、木々を抉っているようだ。
なんとか、なっているのかな。
と、思ったのも束の間。
「最後の弾倉か……」
《KrG37》の残弾が20発となっていた。
これを撃ち切ってしまうと、7.62㎜ライフル弾で迎撃しなければならなくなるが、杭の軌道を逸らすのは困難だろう。
(……15分経過か)
でも、焦ってはいけない。
焦りも弾道を狂わせる。
心を無に。
ただ、粛々と定められた目標を果たすだけ。
スコープの中のガリアンがこちらを向く。
今!
空気量調整。
呼吸停止。
照準修正。
トリガーを絞り込む。
先程よりも遥かに甲高い音が鳴り響き、蒼白い光条が撃ち出され、遅れて肩を叩く、強大な反動。
僅かに後退しながら、弾着を見届ける。
結果は――
盛大な血飛沫と、薄桃色の肉片が飛び散る。
絶叫も聴こえない。
距離が離れすぎている。
が、何かが落下する轟音は聴こえた。
(成功……したのかな?)
まだ分からない。スコープの視界は真っ赤。
悠久にも似た数瞬後。
“紅”が去った視界。
そこに写るガリアンは――頭部を大きく穿たれ、跪いていた。
絶命している。
『アブトマット1より第3独立遊撃隊へ。……ガリアンの絶命を確認。よくやったな』
グロームからの無線が結果を確定させ、
(……ふぅ)
私は内心で僅かに安堵し、五感を研ぎ澄ませる。
合流するまで、帰り道が安全とは言えないから。
――以上、《Оружие Показать Три ~愚者には無慈悲な銃爪を~》でした。
今回は疲れました。……終盤のノルシェの弾道予測を、かなり大雑把にとはいえ、計算で出して書いたせいです。
ポケットコンピュータがあって助かりましたよ。とても。
……というか、専門書とポケコンが手放せない執筆って何だよ……とは思いますけどね。
ともかく、これでⅣ弾倉目の4割ぐらいが終わりました。
ネームドタイトルとは無関係に近い話が続きます。
では、今回はこの辺りで。
拝読ありがとうございました――