天災と天才が表裏一体であるように――
任務自体は成功した。
しかし、被害は甚大だ。
第1独立遊撃隊は今回出撃したメンバーの3割、途中参戦のエリアU.S.正規軍 第8特化強襲小隊に至っては、6割以上が殉職。
つまり、作戦としては失敗した、と言える。
……まぁ、途中参戦組自体は勝手に出てきて、勝手に死んだだけ。
過去の栄光に縋るだけの奴ら。
…………反吐が出る。
あんな奴らに、私達を馬鹿にする資格は無い。
(……とはいえ、言うだけ言って、帰ったけど…………)
呆れ交りの思案を最後に、私は現実へと戻る。
場所はトラックの荷台。
見える景色は焼け焦げ、黒煙を上げる樹海。
腕に抱えるは、25㎜対物砲《AA PB5-L》。
警戒範囲、主要武装の都合上、持つべき武装は長射程の物になるのは必然。
でも、魔獣の気配は樹海の中であり、こちらに向かってくる兆候は無い。
それが幸運と見るべきか、不幸と見るべきか。……普通は幸運か。
暫しの平穏。
不整地の地面による振動を感じながら、別の事を考えよう。
……セルゲイが私を拒むわけを。
(セルゲイの過去を知り得る、人間……)
確実なのは、軍上層部。……でも、彼らが答えるとは思えない。
自分達の利益しか考えない、腐り切った老害。しかし、世界は――
社会は――
現実は――
老害を生かす。
代わりに、弱者と聖者を殺す。
弱肉強食。
どんなに奇麗事をほざこうと、それは変わらない。
(…………反吐が出る)
思い出す必要なんてなかった。
老害は所詮、老害。
分かり切った事を考えるなんて、時間の無駄。
(……老害以外なら……両親か、老害に近い者達……?)
前者はいない。……セルゲイの言葉通りなら、自身の手で殺しているから。
では、後者は?
私の知り合いで、上層部に食い込んでいた人物……。
いたかな?
(……あ)
いた。
すぐそこに。
――グロームだ。
旧エリアRos正規軍 中央政府直轄である、第17特殊強襲中隊《Ъедый・Медвдъ》隊長。
つまり、私達の元上官。
グロームなら、知っているかもしれない。
(……でも)
彼も、答える可能性は低い。
部隊員の事は考えるが、部隊の不利益となる事は避ける人間だったから。
(だから、諦める?)
……諦める気なんて、無い。
老害よりは答えてくれる可能性があるのなら、可能性に賭けよう。
(……さて)
取り敢えずの目的が一つ。
後は、依頼をこなすだけ。
デモンストレーション――売り込み――の依頼はまだ、終わっていない。
先程、依頼主への報告を済ませた時の事。
――突然ですが明日、我が社のエリアRos EI支店に来ていただけないでしょうか?依頼内容は、新製品の助言と試験です。勿論、報酬は増額いたしますし、新製品の方は貴女方専用に調整して、寄贈します。……如何でしょう?――
新たな依頼を請け、私達は了承した。
お互いに、充分こなせる依頼であるし、残してきた第3独立遊撃隊には、グラナデがいる。
外面は信用できないが、実力と内面は信用に足る。……
こちらの利益もあるし。
(会場に着き次第、開発者と話し合いかな)
二つの目の目的も出来た。
……二つあれば、充分か。
「……考え事は済んだか?」
結論が着いたところで、セルゲイは言う。
「……」
首肯。
「そうか。もうすぐ市内だ」
言うや否や、トラックはエリアRos EIの市街地に入った。
十数分後。
《Оружие Показать》会場に着き、AA社のブースに行く。
裏に回り、技術者の待機室へ。
「……何の用だ、嬢ちゃん?」
「ディスカッション」
気怠そうなヘンダー氏の問いに即答しつつ、背負っていたコンテナを下ろす。
「ディスカッション?……あぁ、使用した感想か」
……技術者の目になったか。
これなら、有意義な話ができそう。
「《MF-L》と《MF-Ael》は試した。……《MF-J》は使用していない」
「そうか。……で、使用対象は魔獣だろ。形態は?」
「アルマジロ型。ただ、複合とも見えた」
正確には、アルマジロ、針鼠、陸亀、人間の複合だろうと予想している。
予想に過ぎないから、わざわざ言う必要は無い。混乱と偏見を生むだけ。
「……なるほど。なら、《MF-J》は皮膚を焦がすのが関の山だろう。使えないのは当然か……」
私の言葉で、何かを察したのか、ヘンダー氏は冷静に言う。
使用していない為、これも予想に過ぎないが、的を射た発言。
経験上として、外殻が強固な物が多いドーピング系種、大型魔獣に
榴弾の運用に特化したとも言える《MF-J》では、役不足。用法としても、麻薬系種の群れに叩き込んだり、炙り出しくらい。……それすらも、迫撃砲や
「製品化の際には廃止するように進言するか……っと、話が逸れるな。《MF-L》と《MF-Ael》はどうだった?」
「……まず、《MF-L》から。確かに、既存の対物ライフルと比較すれば、高初速。でも、対応できるのは中堅クラスまでの大型と考えられる。……で、《Ael》の方。これは既存の狙撃用火器と同じ感覚では扱えない。弾速のせいなのか、低伸性が優秀。でも、砲身交換はまだ煩雑。レール兼漸減板をユニット化すべき」
戦闘終了後、試してみた感想だ。
レール兼漸減板は着脱こそ容易だったが、個別に固定されており、結果として交換能率が悪い。
ましてや、狙撃手用の兵装と銘打っているなら、狙撃手に重要視される要素の一つである機動力が下がるのはいただけ無い。それでも使用するならば、効率化しなければいけないのは当然だろうに。
(……いや、難しいのかな)
電気的な理由で。
回路等の知識は疎いから、詳しい事は想像しづらいけど。
「なるほど。レールは全部纏めて交換できた方がいい、か。それはそうだな。技術の確立が最優先って節のせいだ。販売モデルでは直しておこう」
予め、予想していたような回答。
……試していた?
だとしたら、傭兵を舐め過ぎている。
「……私からは以上。……参考にはならないと思うけど」
退屈な話し合い。
有意義かと言われれば、否と答えたくなる程度には。
「参考にはなった。協力感謝する」
「詭弁を吐かないで」
無味乾燥した声で返し、休憩スペースを出る。
(……無駄な時間を過ごした)
そのまま展示スペースへ。
見馴れた銃火器。
やはり、値が張る物ばかり。でも、価格と性能が正比例しているのだから、問題は無い。
(とはいえ……装備は間に合っている)
買うのは弾薬だけか。
最近、消耗が激しいな……。
依頼の頻度が多い。
報酬額と出費のバランスが崩れてかけている。
(……上のせいか)
兵士は駒であり、掃いて捨てられる代替品か、使用期限付きの消耗品。
だから、使える消耗品ほど使われる。
……熟練者が良い道具を好むように、指揮官は有能な、強力な兵士を好む。
(
…………嫌な事を思い出した。
考えを改めよう。
意識を商品へと戻す。
すると、
「おいおい、ここは嬢ちゃんみたいな女の子が来るような所じゃないぜ?戦争ゲームは公園で玩具銃を使ってやんな」
若い男性が声を掛けてくる。
完全に舐めた目と口調。
確かに、私は白色人種としては小柄で、黄色人種程度ではある。人種平均に直せば、おそらく女学生の平均的体型かもしれない。
(グラナデと同じ目で見られるとは思わなかった……)
嘆いた所で、成長期は過ぎている。
発育は絶望的であり、どうしようも無い事。
「……無視すんなよ」
近付いてくる男。
その顔には、下心と苛立ちも混じっていた。
……この人も屑か。
でしゃばらないで欲しい。……言っても逆上するだけだろうけど。
なら、実力行使で理解させるだけ。
「人がせっかく忠告してやってんの……にっ!?」
肩に置かれた男の手を握り、
「痛だだだだだだっ!?」
骨を砕く寸前の力で圧迫。
本当ならば、粉砕骨折させた上で、神経を切断し、腕の一本でも再起不能にしてやりたいけど、ここは無法地帯ではない。
衆人環視の中ではこのぐらいが限度。
「貴方の脳髄は……ただの脂肪か、筋肉?」
「ぐあ゛っ!?」
手首を曲がらない方へと捻り上げ、
「もし、そうならば掛け値無しの駄肉。今すぐ矯正するか、食肉にした方が良い」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
肩を外す――寸前まで、力を加える。
別に外してもいいし、何なら、肩から腕をもぐのもいいかな?
(……猟奇沙汰、か)
……でも、私に不利益しかない。
だから、寸止め。
「……理解、出来た?」
「出来た、出来たよ!だから放してくれっ!!」
泣き言。
さっきまでの威勢は何処に行ったのか。
……上部だけの人なんて、こんなもの。
手を放す。
「はぁ……はぁ……はぁぁ……」
当然のように、解放された男は片腕を押さえ、荒い息を吐く。
「……」
私は無感情に、男を一瞥し、ブースを去る。
弾薬は軍経由でも買えるから。
「糞、が……テメェ、みたいな……ガキに……っ!」
呪詛のような呟き。
ある種、当然の言葉か。
昔から、似たような陰口は言われていた。
だから、傷付く事は無い。
傷付くような脆い心なんて、塵でしか無いから……。
「……荒事は起きるものだな」
「ここも治安は悪い」
数時間後、私とセルゲイは会場近くの酒場にいた。
夕食は外食とした為だ。
お互いにレストランやらファミレスに行く気にはなれず、酒場に入ったのだ。
我ながら、変な質だとは思う。
「……民間人ってのは阿呆も多いからな。反吐が出る」
ついでに、グロームもいた。護衛は良いのだろうか?
「同感だ、隊長。ウチの近くは酷いものだ。まぁ、スラム近郊だから当然だが」
「立地条件は考えていたのか、セルゲイ?大方、格安の物件に手を出したからじゃないか?」
何故か、セルゲイと物件の話をしている。
(……意外な話題)
二人とも、軍関係以外に話が合うとは思えないのに。
世の中、知らない事が多い。
そう思いながら、旧北欧産ウォッカであるコスケンコルヴァをあおる。
喉を焼くアルコール。
しかし、口当たりは良い。
「マスター。これ、サルミアッキ入り?」
「そうだ。飲みやすいだろ?」
サルミアッキとは、塩化アンモニウムとリコリスで造る北欧の菓子であり、一般には飴が有名である。
原材料から推察できるように、独特の臭いと味を持つ為、しばしばサルミアッキの飴は《世界一不味い飴》とも呼ばれるが、その実、サルミアッキを入れたウォッカは非常に飲みやすくなる。
しかし、その飲みやすさ故に、アルコール中毒者を増やした事もあり、一時期規制されたりもしたとか。
……今は規制されていないけど。
(……甘い)
話には聞いていたが、甘味は強い。
塩気か苦味の強い肴が欲しいところだ。
「で、肴がいるよな?手軽に食えそうなヤツだが、まぁ良いよな?」
出された肴は、ニシンのボイル焼きだった。
……これを酒の肴と受け取っていいのか?
「コイツもおまけだ。エリアJpeではよく出されるらしい“サシミ”ってヤツだ」
更に捌かれた生の鮭やスズキの切り身が盛り付けられた木の皿、それに醤油の小皿も出される。
エリアJpeは昔から特異な食文化を持つという点でも有名だった。
でも、生の切り身か。
出された箸を使い、切り身に醤油を浸けて一口。
(……素材本来の味)
鮮度が重要な食し方だけど、これは良い。
簡単に作れそうだから。
少々、箸が使いづらいのは難点か。
これのせいで、味わえない人もいそうだ。
なんて、不要な心配をしつつ、コスケンコルヴァを飲み干し、
「モスコミュール」
「はいよ」
次の酒を注文。
そして出来るまでの間に、質問してみる事にした。
「何故、エリアJpeの肴を?」
「エリアRos Lim-Eのある人物から教わったんだよ。簡単に作れるしな。……まぁ、品質管理は大変だが」
ある人物?
エリアRos Lim-Eの…………ウェブリーか。
顔が広いね、あの人。
正規軍時代に何をしていたのか。
「あの人はスゲェよ。レパートリーが多過ぎる。一体何処で覚えたんだか……。っと、モスコミュールだ」
グラスを受取り、次はボイル焼きを食す。
食べ慣れた味。
塩気が強いから、酒も進む。
「良い食べっぷりだな、嬢ちゃん。しかし、何杯目だ?」
「……10杯目」
「飲み過ぎだろ……。ブッ倒れないでくれよ」
「平気。“ザル”だから」
強化個体は大なり小なり、各種薬物等に耐性が付く。
上位個体は一般的な劇物の類いが効かない。
が、アルコールも際限無く無害化されるようになる。
昔からアルコール中毒者が多いエリアRosとしては嬉しい作用と言えるが、人間にとって一種の一過性精神安定剤とも言えるアルコール酔いが無くなる事は、場合によっては不便だろう。
私は不便に感じた事が無いが。
「話が合わないからって、食欲に逃げるか、ノルシェ……。意外と可愛くなったな」
「余計な世話」
からかうグロームをあしらい、セルゲイを見る。
「……刺身か。マスター、俺にもくれ」
私の手元を見て、同じものを注文していた。
「了解だ」
準備に取り掛かるマスターを尻目に、
「…………何のつもり?」
問う。
「いや、美味そうに食ってたから、どんなモノかと。生憎とエリアJpeの料理とは縁がなかったしな」
「……そう」
少し落胆。
セルゲイは私に気が無いのか。
あの言葉は嘘だったのか?
唐突に脳裏を過る、不安。
何故?
(……考えない事にしよう)
この事を問いただすのは、真実を知ってから。
ひいては、明日の仕事を終えてからにしよう。
私は雑念を振り払うように、グラスを傾ける。
事の前でする
翌日――エリアRos EI近郊 AA Ind.エリアRos支店工場
「――では、始めましょう」
無骨な鈍色に彩られた射撃場に、男の声が響く。
スーツの上に、制服と思われる灰色の作業着を羽織った事務職らしき男。
……挨拶に来ただけだろう。
「昨日頂いた意見を元に、我が社の技術班が改修した製品の批評をお願いします。……後は、任せます」
案の定、男はそれだけ言うと、射撃場を出ていく。
事務職は現場に出ない。
当然だ。事務の仕事は数字と文字に向き合うか、客に媚びを売って製品を買わせるか位だろうから。
本当は違うかも知れない。……でも、大抵の平社員からすれば、会社の上層部に近い事務職に対する意見はそういう感じではないか?
「……さて、事務屋が戻った所で早速始めたいが、良いか?」
仕切り直すような、技術者の言葉。
「構わない」
「……」
セルゲイと私は肯定を返し、作業開始。
互いに割り当てられたレーンに移動し、試験対象を渡される。
私の試験対象は《PB15MF》シリーズ。
(……セルゲイは《KrG37》シリーズか)
お互いの主兵装。
使い慣れた系統。
だからこそ、正確な評価を下せるのは確か。
(……始めよう)
レーン近くの台に置かれている、複数のコンテナに近付く。
開放。
中に収められていたのは、巨大なサムホールストック付きの機関部と、砲身。
《PB15MF-Ael》に似ているが、微妙に違う。改良点が見えるのは有り難い……かな?
幸い、組み方は同じようだ。
即座に組み上げ、二脚架を展開。
レーンで伏射姿勢に移行する。
ボルトリリース。
マガジンセット。
コック。
「今回使用するのは、軟質合成樹脂弾だ。完全被甲弾とは弾道が異なるが、そこは経験でどうにかしてくれ」
「……了解」
スコープを覗く。
照準線は十字型の蓄光式ミルダットか。
クロスヘアやサークル、ジャーマンレティクル等よりは遥かに使いやすい。
立ち上がる的。
距離計が示す距離は916m。1000ヤードか。
室内射撃場である為、風向は無視。
前回の射撃経験から、落下量はおそらく1ミル以下。
ならば直射で問題無い。
トリガー。
轟音と高音。
発砲炎と電光。
一瞬にして、立ち上がった的が吹き飛んでいた。
軟質合成樹脂弾で、この威力。
元々、対物砲に分類されていた為、解ってはいたが……麻薬系種や対人には過剰も良いところだ。
「威力は申し分無いようだな。漸減板の交換作業を試してくれ」
「了解」
指示通り、砲身に付属するコックキングレバーに似たボルトを倒し、漸減板の固定を解除。
引き抜く。
今回は、4枚纏めて引き抜けた。改良されているようだ。
「……」
やはり、想定済みの意見だったか。
舐められていた。
……不愉快。
(全ては筋書き通り……ということ?)
それならば、どんなに楽な事か。
現実、そうはいかない筈だ。
(……でも)
人にもよる。
神様が優しくないように、現実も優しくないという誤情報。
神様とて、現実とて横暴で不公平。理不尽で当たり前。
「……これ以上は不要」
だから、私は《PB15MF-Ael》をテーブルに置く。
“茶番”に付き合うつもりは無い。身内で勝手にやればいい。
「……不要?」
「そう。不要」
短く返す。
「……理由を聞かせてくれるか?」
「軍人で遊ぶな」
これ以外にどう言えろと?
「我々は遊んでいるつもりは無いが?」
「虚言を言わないで」
そう言った矢先、私の端末が振動。
依頼か?
端末起動。
メールではなく、通信。
相手はグロームだった。
「どうしたの?」
応答。
『エリアRos EI近郊で魔獣が確認された』
魔獣が、ね。
「……それで、私やセルゲイ、隊長に駆除依頼が出た」
『そういう事だ。準備にかかる時間はどのくらいだ?』
準備にかかる時間はどのくらいか。
技術者連中が堅物でなければ、数分以内に説得は出来る筈。
加えて、射撃場は工場併設とはいえ、すぐに場外に出られる。
ならば――
「…………5分でケリを着ける」
このぐらいか。
『了解だ。射場入り口に高機動車を転がしておく』
「了解。通信終了」
端末をしまい――振り返る。
「セルゲイ」
「聴こえていた。悪いが依頼は途中放棄だ」
眉を潜める技術屋達。
無視して撤収しようとすると、先程の事務屋が再入室。
「……そのようですね。先程、我々の護衛から連絡があった。試験は実戦的であるほどいい。構いませんよ」
……隊長か。
余計な手回しを。
「……ほら、持ってけよ」
聞き覚えのある声。
振り返れば、そこにいたのはヘンダー氏だった。
迷彩塗装の施された携行兵装コンテナを二基保持している。
「嬢ちゃんとその“彼氏”の分だ。先日戦闘データから突貫的とはいえ、専用に調整はしてある。この前よりかは使いやすいと思うぜ。……後、」
私にコンテナを渡しながら、
「昨日の対応は悪かったな。……アレは上の指示だったんだよ」
簡単な謝罪をした。
上からの指示、ね。
何処でも上は性根が腐っているのかも知れない。そうでなければ、生き残れない筈だから。
無言で受け取ったコンテナを背負い、余剰スペースに本来の携行兵装を格納。
横目で確認したが、セルゲイも同じ。
「行くぞ」
「了解」
準備万端。
出口目指して走り出す。
「戻ってきたら感想を頼むぜ」
ヘンダー氏の気怠げな声を背に。
扉を開け、正面に見える、オリーブドラフカラーの高機動車。
「セルゲイ、ノルシェ、早く乗れ」
運転席には隊長の姿。
「「了解」」
肯定を返し、セルゲイは後部座席、私は銃座に着く。
「出すぞ」
すぐさま、唸るエンジン。
タイヤの擦過痕を作りつつ、転回して走り出す。
既に法定速度を超過しているが、幸いにも街の外である上に、公道を走る車両は無い。
事故を気にせずに飛ばせるというわけだ。
「メドヴェーチ2、無線を合わせておけ。384-275だ」
車内から聴こえる、メドヴェーチ1の声。
ヘッドセットを着け、周波数を合わせ、
「隊長、聴こえる?」
通信試験代わりに、アブトマット1に声をかける。
『あぁ、聴こえる。聴きたいのは依頼の詳細だな』
「……」
無言の肯定。
『……つい数時間前、哨戒任務に着いていた第48歩兵大隊が消息を絶った。場所はEI東南80㎞の放棄市街地。彼らの最後の無線には、魔獣は一体だけ、それも人型であったとの事。この報告を聞いた軍上層部は、即座に俺達の派遣を決めたらしい。……よって、依頼内容は該当の魔獣一体の排除だが、どうもキナ臭いとは思わないか?』
「……キナ臭い?」
私は疑問符を返す。
『あぁ。人型という点だ。魔獣は本来、《F》の原型と言われている《Abyss》を接種した生物の事だが、人型の魔獣は目撃例自体が極少数。で、一昨日の依頼で俺達は魔獣化したガリアンを相手にしている。俺の推測だが、ガリアンは過剰摂取の突然変異体だと思う。ここから導き出される結論は分かるな?』
アブトマット1に言われ、気付く。
そういう事か。
「確認された人型はガリアン・レーヴァだったものの核」
『そういう事だ。往生際の悪いお坊ちゃんだな』
……同感。
内心で同意しつつ、コンテナから《KG36K》を取り出す。
《PB15》では取り回しが悪過ぎるから。
たとえ魔獣相手に効果が皆無な5.56㎜ライフル弾とはいえ、近距離でならば、脆弱部位に叩き込む事は容易である為、さほど問題では無い。
狙撃可能な状況になるまでは、どうにかする。
『作戦は簡単。メドヴェーチ2が狙撃しやすいように俺とメドヴェーチ1で誘導する。後は、一撃で決めてくれれば仕舞いだ』
『そう簡単にはいかないだろうが……』
『無論、失敗時には近接戦闘でケリを着ける事も念頭に置いておけ。過去に経験があるだろう?』
確かに、私とメドヴェーチ1、ひいてはアブトマット1は過去に魔獣を徒手空拳で殺した経験はある。
不可能ではない。
(……一応、準備はしよう)
《KG36》のスリングを肩に。
コンテナ解放。
中に収められた《PB15MF》の基幹ユニットを取り出す。
砲身は……。
三種類収められている。
一つは《MF-L》の砲身。
一つは《MF-Ael》の砲身。
最後の一つは見覚えの無い物。
基本形状は《MF-Ael》に近いが……砲身下部にもう一つの砲身がある。
(……弾倉式)
引き抜く。
中に収められいたのは、合成樹脂製の弾薬。
散弾銃の弾薬。
つまり、下部の砲は散弾銃。
更に併設されるように、分厚い刀身――銃剣――否、砲剣というべきかが装着されていた。
(近接戦闘に対応させようとした汎用対物砲か)
中途半端な性能と思われるが……。
この場合は、問題無い。
見覚えの無い砲身を装着。
側面に彫られた刻印は、
―― 《Accuracy Armament PB16MF-Ael-J 55x300㎜/12GA》
次の型番に進んでいた。
口径も違う。より大口径化している。
(55㎜……色々使えそう)
補助兵装の散弾銃もそうだ。暴徒鎮圧用とも言える
支援用としては充分過ぎる弾種だ。本体の取り回しは悪いが。
『もうすぐ作戦領域だ。各自、準備は良いか?』
空気を読んだように、隊長の――アブトマット1の声が響く。
『問題無い』
即答するメドヴェーチ1に続いて、
「……同じく」
肯定。
さぁ、任務を始めよう――
――以上、《Оружие Показать Четыре ~悪足掻きの残火~》でした。
次回から恋の話、と言いましたがどうやらもう少し先の話になりそうです。
ある重要なキーを刺すタイミングを間違えたせいですが。
また、本文中に書き散らかされた各種銃火器用語は番外編の方でおいおい解説します。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――