いつでも、何処でも。
誰にでも、すぐ側に寄り添うものだ――
『作戦開始だ。各自、配置に着け』
『了解』
「了解」
輸送車が止まり、アブトマット1とメドヴェーチ1が車外に出る。
私は周囲を見回し――
(……彼処かな)
狙撃地点を選定。
下車。
同時に《PB16MF-Ael-J》を分解。格納。
代わりに《KG36K》を取り出し、走り出す。
目標地点までは約4000m。
周囲は樹海だ。
当然――
(……予想通り)
狼型魔獣が現れる。
が、登場と同時に、この世から退場。
頭部、正確には眼窩を撃ち抜き、脳髄を破壊したからだ。
疾走。
射撃。
殺傷。
ただ、その繰り返し。
思い出すのも億劫な程、殺り合ってきた雑魚。
余程油断していない限り、貰いはしない。
『メドヴェーチ1より、メドヴェーチ2へ。目標は確認できたか?』
「まだ。現在監視ポイントに移動中」
『急いでくれ。嫌な予感がする』
「……了解」
メドヴェーチ1の予感――嫌な予感――は当たる。
昔から、その予感に助けられてきた。
(……少し、急ごう)
――細胞仮死状態、解除
――内骨格……修正
《Медвдъ》としての能力を4%限定で解放。
身体機能向上。
より強く大地を蹴り、疾走。
十数分程度で樹海を抜け、目的地である、小高い丘に着く。
腰に巻いたポーチから、小型の軍用単眼鏡を取り出し、眼下の樹海を一望。
……いくつかの魔獣の群れは確認できたが、目標は確認できず。
(……どこに隠れた?)
五感を研ぎ澄ます。
風の音――
魔獣の闊歩する僅かな地響き――
そして――
(……見つけた)
僅かな、呼吸音。
単眼鏡を収納。
《KG36K》の射撃方式を半自動から全自動へ。
振り向き様に、腰だめで弾倉分を樹海の入り口へ叩き込む。
「糞がっ!」
釣られて出てきたのは、黒と朱に彩られた人型。
だが、その腕は人間からはかけ離れていた。
草木の根のように細分化し、のたうつ筋繊維と化した右腕。
左腕は指を持たず、砲塔の如く硬質化した肉と骨の塊。
「まずは貴様からだ……」
異形ではあれど、前回よりも発音がしっかりしている。適合してしまったのだろう。
ならば、より厄介さが増した。
口元のレシーバーに囁くように言う。
「メドヴェーチ2、目標対象との交戦を開始する。場所は――」
中断。
横に飛ぶ。
直後、元いた地点に火柱が上がる。
生体焼夷弾――それも、一般的にはナパーム弾と呼ばれる増粘油脂の物か。
広範囲に拡散する方式……厄介。
『……交戦地点を確認した。持ち堪えろ。余裕だろうがな』
『すぐに向かう』
でも、メドヴェーチ1とアブトマット1への目印にはなったようだ。
(……余裕、か)
そうも言ってられない。
KG36Kを左腕1本で保持。
速射しつつ、コンテナ開放。
《PB16MF》の基幹ユニットを取り出し、《Ael-J》砲身を装着。
電磁投射機構は脱着。
《KG36K》を銃床部に確認できたマウントレールに固定。
複合兵装として、兵装懸架具としての機能もあるのだろう。
元より強化個体用ならば、重量面は度外視されるから、こういう機能も付けられる、と見るべきか。
(……何にせよ)
取り回しに優れる武装では、火力が足りない。
「くたばれぇっ!」
バラ撒かれる生体焼夷弾。
目で追える弾速。数世代前のグレネードランチャー並みか。
避けつつ、砲身複合の散弾銃を速射。
12ゲージのバックショットをバラ撒く。
比嘉に距離は300m。牽制にしかならないか。
なら――
55㎜砲のトリガーに指を掛け、引き絞る。
刹那の多重爆縮を伴って、55㎜ライフル弾が吐き出され――
ガリアンの右腕末端に着弾。
中々素早い。
個体性能は第5世代以上、第7世代未満程度だろうか。
「戦場で考え事とは余裕だなぁ!!」
反撃として飛来するのは、蔓状の筋繊維。
(……余裕、ね)
トリガーから指を放し、《PB16MF-Ael-J》を肩に担ぐ。
そして、砲身下部の刀身を持って筋繊維を斬り裂く。
斬れ味も申し分無い。……でも、某国のナイフには劣るだろう。実用充分な性能だから問題無いが。
(……これは当たりか)
強化個体用汎用重火器としては。
振り上げつつ、牽制の散弾。
後退して止まるボルト。
マガジンリリース。
予備弾倉を装填。
今度は散弾ではなく、スラッグ弾。
散弾よりは効果があるだろう。
だが、装填完了と同時に、焼夷弾の弾雨が襲い来る。
スラッグ弾では分が悪い。
マウントしていた《KG36K》を分離。
ストックを畳み、左腕1本で保持。
弾倉分をバラ撒き、相殺。
サイドステップ。
マグキャッチリリース。
リロード。
ボルトリリース。
初弾を薬室に叩き込み、マウントレールに再結合。
「本当に余裕だなぁっ!!」
再び迫る筋繊維の蔓。
切断。
が、斬った側から再生している。
キリが無い。ならば――
再生したての筋繊維を掴み、
「Ураー」
背負い投げの如く地面に叩き付け、
即座に55㎜ライフル弾を速射。
「ぐあぁあぁぁっ!!」
着弾。
四肢を砕き、リロード。
重ねて4発。
傷口を焼く。
焼いて、塞いでやる。
僅かな時間だろうが、行動を制限できるだろう。
頭部に砲口を向け、トリガーを引く。
轟音。
超音速の砲弾がガリアンの頭部を脳漿と血のスープに変える――事は無かった。
「貴様ら《Медвдъ》の再生力は傷口を焼いた程度で阻害されるか?」
避けられたのだ。再生した両脚で。
やや遅れて、両腕も再生。
「貴様らと同類にされた俺も、同等の性能があると考えるべきだろう」
明らかに、見下した口調。
(……馬鹿にするな)
「まぁ、所詮は貴様らは化物だ。……だが、知能は人間以下なのだろう?ならば、貴様らは劣等種だ」
尚も続く、
戦場で演説を垂れる糞野郎。
……いや、余裕か。
強化個体が持つ、五感の異常発達。それ故の余裕。
なるほど、余程の阿呆だ。
現場知らない資産家や貴族の餓鬼特有の行動。
……反吐が出る。
「こんな劣等種が軍の極秘計画の要とはな……。正規軍の無能さが窺えるというものだ。……そうは思わな――おっと」
不審な口舌の途中で身体を反らすガリアン。
マガジン内に残った55㎜焼夷弾を撃ったからだ。真正面、しかも近距離だから、当然の如く避けられたわけだ。
(……極秘計画?)
疑問はあるが、今は戦闘中だ。後にしよう。
「その程度の射撃が当たるとでも?」
私の思案など知る術も無いガリアンは嘲笑うように言われる。
だが、それでいい。
「相変わらず化物は頭が軽いな。躾のなっていない駄犬のようだ」
向けられる、左腕の砲口。
狙いは足元か。
「そして、駄犬には躾が必要だ。……二度と人間に歯向かえないようになっ!」
憎悪の言葉と共に、砲口が唸る――より先に、砲身が破壊された。
「何……?」
やや遅れて、自身の異常に気付くガリアン。
一方で私は、内心で
(狙いが甘い……)
「着弾確認。ただし、左腕だ」
「……クソッ」
俺は小さく呟き、構えを解く。
起き上がり、スリングを身体に回す。
移動しなければならない。
相手が未熟な新兵等ならば、ある程度の定点狙撃が可能だが、基本的に一発から数発撃った後に、場所を変えるのが普通。
ましてや今回の相手は腐っても、士官。
入隊したての青二才と同格ではない。
予め決めておいた狙撃地点を思い出し、疾走。
「砲撃確認」
やや後方に付いてくる
遅れて、後方では火柱が立ち、木々を焼く。
(鈍い奴だ)
こんなウスノロが新兵器の試験を行っていたと思うと反吐が出る。
本来の10分の1程度の性能しか評価されなかったのではなかろうか?
ノエル程ではないが、兵器の方が可哀想だとは思える。
「メドヴェーチ1、奴の狙いは未だにメドヴェーチ2のままだ。……第二狙撃地点へ急ぐぞ」
「了解だ。少し急ぐ事にする」
走る足を止めずに、細胞に新たな指示を送る。
――細胞活動率を0.01%から0.1%へ。同時に、内骨格も修正。
活性化させた細胞によって、筋繊維を強化し、同様に骨格も調整する。
より強く大地を蹴り、走る。
「残り200m」
アブトマット1の誘導。
数瞬で駆け抜けられる距離だが、間が悪い事に、目の前には狼型の魔獣がいた。
ライフル、ナイフを抜くよりも早く、駆け抜けてしまいそうだ。
故に――
魔獣の首筋を蹴り、頸椎をヘシ折る。
殺傷。
死体を投げ捨て、目的地に到着。
スリングを外しつつ、地面へと身体を投げ出す。
スリングに繋がるのは、一挺のライフル。
――《Accuracy Armament KrG-38》
それがこのライフルの名。
先日、技術者に助言をした結果生み出された、分隊支援用半狙撃銃。
.338MM弾でも、魔獣相手の場合は威力不足という事実に対し、AA社が出した答えは、電磁投射機構と火薬を併用した11.2㎜口径のライフル弾を用いる事。
要するに、メドヴェーチ2が使用している対物砲と同じ方式にしたというわけだ。
スコープを覗く。
「距離2000、風向は西、風速1.3m/s。後の条件は同じだ」
「了解」
観測手の提示する情報を元に、照準を合わせる。
通常のライフルよりも速い銃口初速から来る落下量の少なさを考慮し、上下方向は無調整。
風は微風だからほぼ逸れないだろう。
――左に0.5ミルずらし、トリガーを引く。
轟音。
遅れて、蹴り出された空薬莢が地面を叩く。
その頃には、既に移動の準備が終わっている。
「着弾確認。右肩部」
「またか……」
“失敗作”であろうと、強化個体は強化個体らしい。
避けきるに至らないのは、世代の問題だろう。
(遠距離狙撃でケリを着けられるのはメドヴェーチ2ぐらいか)
不本意ではあるが、近接戦闘に移行すべきか。
「……拳と脚の準備が必要そうだな、メドヴェーチ1」
「あぁ」
アブトマット1も同じ結論に達したらしい。
互いに得物を構え、疾走する。
メドヴェーチ2と合流するべく、樹海を抜ける途中、
「……調子に乗った餓鬼には折檻すら生温い、か?」
「…………懐かしい台詞だな、隊長」
アブトマット1の口にした台詞は、かつての戦友の言葉。
――今は亡き、原隊の仲間の言葉だ。
アイツらも、上層部や士官学校出の餓鬼は嫌いだったな。
(…………感傷は後だ)
今は、目先の糞野郎に墓石をくれてやる方が先。
「残り400m。約100m先は樹海の外だ、気を付けろ」
「了解」
脚を止めずに、装備確認。
主兵装――問題無し。
副兵装――問題無し。
弾薬――充分。
全て問題無し。
――残り10m。
洩れ出る陽の光。
鮮明に聴こえる銃声。
既に初弾は薬室に装填され、放たれる時を待っている。
射撃方式は低出力半自動。速射機能は無い。
「会敵だ」
樹海を抜け、小高い丘に出る。
メドヴェーチ2とガリアンが交戦中。
スコープ越しに見た姿ではあったが、生で見れば、確かに異形だ。
人間であった部分が多いからこそ、両腕の異形さが際立つのか。
(……攻撃手段は少なそうだがな)
筋繊維による殴打、圧迫、刺突の他には砲状器官からの生体焼夷弾や強酸弾といったところだろう。
ごく一般的な魔獣に比べて多いが、人間の攻撃手段としては少ない。
トリガーに指を掛け、素早く三度引く。
3発の11.2㎜ライフル弾が放たれるが、全て避けられる。
偏差込みでの射撃とて、正面切ってでは無理か。
(……最大でも第6世代相当まで…………いや、おそらく第6世代相当の過剰摂取変異個体だ)
そう思う理由は二つ。
一つは、前段階の時に頭部に見えた識別情報。
最初のキリル文字が“実験体”を意味する旧エリアRos公用語で、続く数字は世代+製造番号の筈だ。故に、あの場合は《実験体 第6世代 3433番目》という意味になる。
もう一つは、単純に今までの戦闘経験からだ。
幾ら強化個体や魔物、魔獣といえども、超音速のライフル弾を避けられるのは、偶然を除けば第1、7世代相当以外には存在しない。
が、正面切ってならば第5、6世代相当は避けきれるという実証記録がある。
故に、ガリアンは第6世代相当だろう。
(正攻法でも殺れなくはないが……使わない事に越したことはない手段だからな……)
つまりは、強化個体としての能力を
「グロォォォォムゥー!」
ガリアンが咆哮する。
因縁の相手だったのだろうが?
「殺す……今度こそ殺すっ!!」
倍増する殺気。
憎悪がありありと浮かぶ顔。
「……黙れよ、蛆虫が」
対して、
「大地の糧となれ、化物共ォーッ!!」
二度目の咆哮と共に、全方位へバラ撒かれる生体焼夷弾と、生体徹甲弾。
しかし、全方位への乱射であり、避けるまでもなく当たらない。
憎悪に身を任せた攻撃など、脅威ではない。むしろ、隙を晒す愚行。
「狙いが甘いぞ、蛆虫。弾薬の浪費は金持ちの特権か?」
だから、アブトマット1はわざと挑発した。
より長く、大きく隙を晒させる為に。
本来ならば、この程度の挑発に乗るような低能は士官ですらないが、
「臭い息を撒き散らすなっ!テメェの鮮血を撒き散らせ!!」
射撃方式を高出力半自動へ。
同時に、アブトマット1が《KrG35-M》を速射する。
7.62㎜ライフル弾では豆鉄砲も同然故に、牽制だろう。
(……無駄にしたくないな)
そう思いつつ、俺は銃爪を引く。
轟音。
極音速で放たれる銃弾。
しかし、右肩部に大穴を穿つだけ。
牽制射撃ありとはいえ、避けられるか。
なら、射線を変えろ。
排出された薬莢が地面を叩く、その前に地を蹴る。
背後に回り込んで三点射。
今度は左肩部に大穴が穿たれた。
(……またか)
射線を変えても反応される。
……火力を増す方が効果的か?
弾薬の残りは8割程度。
本来ならば余裕があるが、十字砲火を敢行するとなれば別。
一か八か。
(……まぁ、失敗したら殴り殺すか、蹴り殺すかのどちらかだが)
一般歩兵ならば自殺行為だな。
視線をメドヴェーチ2へ。
交錯。
(……了承か)
続いて、アブトマット1の方を確認しようとして――
『長くは保たない。殺るなら迅速にな』
無線で了承される。
全員が賛成か。
《KrG38》の弾倉、蓄電池を交換。
コッキングレバーを引いて、初弾を薬室に叩き込み――
もう一度ガリアンの様子を確認。
「どうした?一発も当たらないぞ、蛆虫。訓練生からやり直す事を推奨しよう」
「黙れっ!!成り上がりのくせにっ!偉そうに指図するなぁっ!!」
相変わらず、アブトマット1の挑発に乗っている。
……わざとか?
(……だとしても、だ)
作戦は変えずにいく。
《KrG38》を構え直し、位置変更。
ガリアンの視認範囲外へと移動し、
即座に照準調整。
完了次第、間髪入れずに銃爪を引く。
跳ね上がろうとする《KrG38》を腕力で押さえ込み、撃ち続ける。
(こういった場合は全自動射撃機構が必要だな。……ほぼ使わない機能だが)
「視えてるんだよ、小熊がっ!!」
放たれる銃弾は振るわれた右腕の筋繊維で防がれる。
やはりか。
二方向からの射撃では対応されるようだ。
「ケッ、“小熊計画”の重要素材とて、この様か。全く……お笑い草だなぁっ!!」
全方位への生体焼夷弾と徹甲弾の弾雨。
「貴様こそ笑い草だ、蛆虫」
その暴力をスライディングで避けつつ、俺とアブトマット1は撃ち切った弾倉を交換。
十字砲火を再開。
注意を引け。
止めは俺でも、アブトマット1でもなく、メドヴェーチ2が指す。
「どうした、熊さん達よぉっ!!数撃ちゃ、殺れんのか!?」
「ほざけ、蛆虫。退行か?」
言葉の
……俺も混ざるべきか。
銃身を支えていた左手を放し、コンテナから45㎜擲弾射出器《AA GW31》を取り出し、銃床下部に装着。
左手を《GW31》のグリップへ。
「熊を舐めるなよ、青二才」
銃爪を引く。
11.2㎜ライフル弾に混じって、45㎜擲弾が飛ぶ。
「青二才はテメェだろうがぁっ!!」
擲弾が横から殴打され、明後日の方向に弾かれ、
「いい加減――」
ガリアンは再び、全方位への乱射を敢行しつつ、身体を捻り、右腕を振り絞る。
よく見れば、筋繊維の蔓に無数の瘤が発生していた。
(……纏めて薙ぎ払う気か)
横目でアブトマット1を見るが、彼も同じ事を考えているようだ。
瘤の中身は大気中で爆発、或いは燃焼する体液だと。
範囲攻撃――面制圧は強化個体にも効果的と言える……が、
(……仕舞いだな)
俺達は確信した。
「爆ぜ死――」
憎悪を載せた右腕が振るわれようとする――事は無い。
振るう直前に、ガリアンの頭部が薄桃色の脳片と鮮血に変わったからだ。
『…………
遅れて、メドヴェーチ2の声が無線越しに届き、頭部を喪った
スコープの中で、肉が爆ぜる。
鮮血が撒き散らされ、不味そうな薄桃色の蛋白質の破片も舞う。
実際、肉食動物の肉は不味いらしいが、魔物の肉は一般的な肉食動物の肉よりも遥かに不味いかもしれない。……そもそも、魔物や魔獣の肉は《F》が含まれているので、食用ではないが。
「目標破壊。……合流する」
『了解だ。……早く帰ろう』
返答はアブトマット1からだけ。
メドヴェーチ1からは無い。
(……何かあったのかな)
……急ごう。
気になる事もある。
構えていた《PB16MF-PAel》を分解、コンテナに格納。
代わりに《KG36K》を取り出し、一息に丘へと疾走。
敵に遭遇する事は無かった。
丘に着くと、頭部の無いガリアンの死体の前に佇む二人の姿。
「……早かったな、リオート」
アブトマット1もとい、グローム中佐は視線を向けずに言う。
「……狙いは相変わらずだな」
セルゲイも同じだ。
「…………」
死体に近付く。
……頭部が無いだけの、
おそらく過剰摂取個体だった筈なのに、原形を保っている。
(……よほど、意志が強かったのかな…………)
それとも、憎悪がそうさせたのか。
化物を殺すのは人間であるべきだ、という感じの。
ならば、ちっぽけな、下らない意思だ。
「……育ちが良いのも考え物だな」
唐突に、グロームが呟く。
「大した実力が無くても、それなりの地位に着けて、それなり以上の地位や情報も簡単に手に入る。……まぁ、本人の努力次第ではあるが、俺達のような下層連中よりは、遥かに出世しやすい」
続く言葉は、一般論。
なんて事無い、言葉――の筈だが、
「……それ以上は言わないでくれ、隊長」
セルゲイの返答には怒りがこもっていた。
何故?
「……“アレ”か?」
「…………」
「図星か。……安心しろ、セルゲイ。俺から言うつもりは無い」
…………“アレ”とはなんだろうか?
セルゲイとグロームの会話を聞きながら、疑問が沸く。
“アレ”に当たる事柄…………物質の類いか、或いは――
「長居は無用だな。……輸送車を拾いに行こう」
しかし、思案はセルゲイの発言で中断させられる。
「……そうだな」
グロームも賛同。
二人は踵を返し、歩き出す。
(……このままだと、聞きそびれるかもしれない)
そうなれば、疑問が払拭される事は無い。
払拭されない疑問は、迷いに繋がる。
ならば、今…………今、聞こう。
「セルゲイ」
“アレ”の目星は着いている。
「……なんだ?」
振り返らず、歩みも止めずに、セルゲイは返答する。
私はセルゲイの背中に向けて、投げかける。
「“アレ”は…………“子熊計画”の事?」
セルゲイの歩みが止まる。
「……そこの
振り返り、正面から見据えられる。
「……知らない方が良いぞ」
「知らない方が、後悔すると思う」
視線は逸らさない。
逸らせば、それで終わりだから。
「…………」
沈黙。
「…………」
重苦しい空気。
「…………」
戦闘とは異なる緊張感。戦闘よりも、精神が磨り減る。
「…………覚悟は、あるんだな?」
永遠にも似た沈黙の後、言葉が紡がれる。
最終確認。
「当然。……無ければ聞かない」
私は肯定し、
「……了解だ。戻ったら話す。……今は依頼の完遂が先だ」
セルゲイは溜息を吐いた――
――以上、Оружие Показать Пять~真実の断片~でした。
これにて、第Ⅳ弾倉~Оружие Показать~のネームドタイトルは終わりですが、章自体はまだ続きます。
まだ、この章で明かすべき謎を出していませんし、恋の結末も書いていませんしね。
…………まぁ、殆どの方は、謎の方は薄々気付いていると思いますけどね。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――