※この作品はR-18です。

Dirty Works   作:空薬莢

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終わりにしよう、創られた幻想を。
終わりにしよう、創られた恋心を。
そして築こう、私の想う……“本当”を。
本当の……真実の想いを。
創造しよう、私の意思を!




奔流たる想いを

 

 

先に動いたのはセルゲイだった。

瞬時に3発の9㎜ゴム弾が撃ち出され、私の前頭葉目掛けて空を切る。

だが、当たる事は無い。

見えているという事は、避けられると同義だから。

横っ飛びしつつ、牽制代わりに二射。

当然、当たらない。

牽制だから構わないが。

回転したシリンダーの先端から空薬莢が排出され、コンクリートとぶつかって、澄んだ音を響かせる様を尻目に、私は廃墟の屋上から転げ落ち、

振り子の如く下層に飛び込む。

着地と同時に、コンクリートを蹴り、地表へと跳躍。

転がって衝撃を殺しつつ、再着地。

《AR10》を構え直し、サイドステップ。

擦過する9㎜硬質ゴム弾頭。

反撃に一射。

避けられる。

(……やはりね)

安直な狙いでは当たらない。

全力の1%以下の能力しか解放していないとはいえ、銃弾の軌跡ぐらいは見える。

だから、必然的に――近接格闘戦か、超長距離からの狙撃等でしか無力化は出来ないだろう。

「っ!」

バックステップ。

直前までいた地点が陥没。

「このぐらいは避けられるな」

陥没地点から立ち上がりながら、セルゲイは言った。

比嘉の距離、5m程度。

「……当然」

言葉と共に、三点射。

避けられる。

なら――

《AR10》を横に傾け、速射する。

所謂、反動を利用した流し撃ち。民間人は馬賊撃ちと勘違いするけれど。

計12連射したが、これも当たらない。

(……想定内)

強装弾でも無い限り、亜音速程度の拳銃弾は、そうそう当たらない。

《AR10》を腰のホルスターへ。

後は徒手格闘で応戦しよう。拳銃の距離じゃない。

軽く拳を握り込み、肩幅で脚を開く。

体勢を整えたセルゲイも、同様に構えを取る。

互いに摺足で距離を詰めつつ、出方を窺う。

残り、3m。

まだだ。

一息に詰められる距離だが、一息も時間があれば、準備時間としては充分。

残り、1.7m。

まだ遠い。

1.4m。

もう少し。

1.1m。

あと少し。

80㎝。

(今っ!)

地を蹴る。

セルゲイも、蹴っていた。

行動は同時。

互いに振り絞った右腕。

右ストレートか……いや、違う。

右腕はフェイクだ。

「ぐっ……!」

「っ……!」

鳩尾に食い込んだ左ボディブロー。

距離を取り、体勢を立て直そうとするが、セルゲイは攻勢に出る。

左ジャブ。

――サイドステップ。

右フック。

――斜め左前へショートステップ。

左ニーキック。

――サイドステップ。

回避し、左脚を軸として逆廻し蹴りを叩き込む。

「甘いぞ」

腕で防がれる。……当然か。見え透いた反撃だから。

「っ!」

代わりに繰り出された右ローキックを食らう。

真人間ならば、足首が折れていただろう……なんて、考察する暇は無い。

続けて、二段廻し蹴りが来るので、防御しつつ、バックステップ。

「蹴りばかり?」

地に足が着いた瞬間、前方へショートダッシュ。

回避は終わっている。

「ぐっ……」

がら空きの背骨へ飛び膝蹴り。

「まだ、ある」

すかさず肩を掴み、追撃で三発膝を入れ、両手を胴へ。

「オマケ」

投げっぱなしジャーマン・スープレックス。

立ち上がろうとして――

「っ!?」

今度は私が胴を掴まれ――

「っ!!」

パワーボムを食らう。

お互い、完全に殺す気に等しい投げ技をかけた事になる。事実、受け身を取るのが遅かったら頸椎が折れていた。

「今のは殺す気だったな……ノルシェ」

「……手を抜くのは、諦めだから」

距離を取り、仕切り直す。

 

 

(……手を抜くのは諦め、か)

ノルシェから距離を取った俺は、先程の会話を思い出す。

彼女にとって、これはただの決闘ではないのだから、ある意味当然か。

(……死力を尽くした戦いの後に芽生える愛情でも狙っているのか?)

陳腐で、下らない理論だ。大昔の少年漫画ぐらいだ、そんな理論が通用するのは。

(力で捩じ伏せ、従わせる。……それがこの世界の規範だろ?)

完膚無きまでに敗北させろよ、ノルシェ?

思案終了。

宙を薙ぐ脚を避け、

「っ!?」

反撃に膝蹴り。……直撃。

「ぐはっ……!?」

だが、顔面に肘を食らう。

人体構造上、最も威力が出せる(寸勁等の特殊なものを除く)のは肘と膝である。

普通の軍人の肘打ち自体、殺傷能力が充分にあるもの。第7世代強化個体の肘打ちともなれば、魔物すら絶命させられる。……マトモに受けたなら。

今回はなんとかモロに食らわなかったが、口の中が切れた。

「追撃」

「ごふっ!?」

続けて繰り出された右フックはモロに鳩尾へ。

骨が、内臓が軋み、数本の血管が内出血を起こす。

痛みは……耐えられる。

なら――

「調子に……乗るなよっ!」

腹部にめり込んだノルシェの腕を掴み、

「っあ!?」

頬に向けて、右フックを返す。

マトモに受けたらしく、怯む。

好機。

右手を肩へ。

右膝は顎。

「ぐぅ……っ!」

一発。

「ごっ……!?」

二発。

「……あ゛っ!!」

三発。

何度も。

何発も。

ノルシェが降参するまで。

ただ、膝蹴りを叩き込む。

顎。

鳩尾。

顔面。

胸部。

しかし、ノルシェは倒れないし、降参もしない。

お互い、耐久力が異常なのは想定済みだが――

「ごふっ!?」

鳩尾に衝撃。

両手に込めていた力が緩む。

「……Не шаг……в тон(……調子に……乗らないで)」

ノルシェの口調に、旧公用語が交じる。

……完全にキレた合図。

「隙を晒す方が……悪――がはっ!?」

「γмереть и закрытые(口閉じて倒れろ)」

更に、膝蹴りが入り、

「ぐはっ!?」

顎を蹴り上げられた後、脳天に踵が落下。

地面にめり込まされ、数㎝地面が陥没。

(……本当に、第1世代以下なら死んでるぞ……)

耐えられる事自体が異常者の証だと、再認識。

立ち上がろうとして、

「……Капитуляция(降参)?」

背中に乗られた。

本当の馬乗り。

「そんなわけない…………か」

「がっ!?」

毛髪を掴まれ、地面へ顔面強打。

「два(二発)……три(三発)……четыре(四発)……пять(五発)――」

ピザ生地でも練るように、何度も顔面を叩き付けられる。

当然、眼下は血の池。

折れた歯の欠片等も散乱する。

それでも、第7世代強化個体(オレ)は死なない。……死んでしまっては互いに困るが。

(意趣返しか。なら……)

やり返そう。

「Но ваш депозит(御預けだ)」

「っ!?」

肘打ち。

背中に感じていた重みが消える。

体勢を立て直し、怯んだノルシェの腹部を蹴り飛ばそうとし――

「ぐっ……!」

「っ!」

相討ち。

ノックバック。

「……」

「……」

互いに無言。

もう……言葉は要らないのだろう。

(……もし、そうならば俺はそれに則ろう)

言葉の代わりが痛みならば。

諦めさせるには、心をヘシ折るには……相手の土俵で、得意分野で完膚無きまでに……潰(・)す(・)。

(お前の為だ。……終わらせてやる)

だから、俺は拳を握り込んだ。

偽りの恋に終焉を。

――悪意混じりの愛に終焉を。

 

 

(……流石、セルゲイ)

体勢を立て直し、正面に位置するセルゲイを見据える。

互いにそれなり以上のダメージは受けているが、行動に支障は無い。

(……でも……そろそろ終わらせたい)

僅かだが、空が赤色に染まり始めている。

もうすぐ、黄昏。

制限時間。

(……次の攻防で……おそらく決めてくる)

少なくとも、距離を取ったセルゲイの顔を見る限りは、そう思える。

(まぁ、同感だから良いけれど)

決着を着けよう。

拳を握り直す。

脚は肩幅で。

摺り足。

出方を窺う。

セルゲイも同じ。

円を描くように、移動する。

「……来ないのか、ノルシェ?」

「安い挑発は要らない」

見え透いていた。

「……セルゲイこそ、余裕なの?」

「どうかな?」

言葉を聞く限りは、余裕そう。

飽くまで、表面上だけど。

(……考えるだけ、無駄)

今は……目の前の状況が先決。

距離は2.2m程度。

まだだ。

緊迫感と閉塞感の円舞曲。

距離、1.3m。

ここで、セルゲイが前方へのショートダッシュ。

私は、斜め前方へのステップ。

攻防が始まる。

セルゲイは左脚を軸に急制動。

正対し、再び疾駆。

同時に、引き絞られた右腕。

正拳突きか、右コークスクリューあたりか。

どちらも、マトモに受けたら危険。

(殺られる前に潰す)

距離を確認して、身体を捻り――

「Ура!」

ミドルキック。

狙いはセルゲイの頭。

「そう来るか」

だが、防がれる。

「余裕そう?」

ならば、連撃だ。

蹴りを防いだ腕を軸にして――

「ぐおっ!?」

セルゲイを地に伏せつつ、跳躍。

空中で身体を捻り、

「Πогруженный(沈め)!」

胴回し蹴りを叩き込む。

「チッ……!」

これも、防がれるが、衝撃でノックバック。

好機。

「……безответственный(そろそろ)――」

片足をセルゲイの首に絡ませ、

「Умереть(倒れろ)!」

「ぐあっ!?」

顔面に膝蹴り。

続けて、両足を絡ませ、

「Еще один выстрел(もう一発)!」

バク転の要領で、地面にめり込ませる。

フランケン・シュタイナーと呼ばれる投げ技の一種。

でも、まだだ。

着地。

立ち上がりかけたセルゲイの両足を、足払いで刈り取り、

脚のバネを利用した、飛び膝蹴りを顎に叩き込みつつ、

「Ура!」

「がっ!?」

肩を掴んで、頭突き。

体勢を変え、腹に乗りつつ、右腕で首を掴み――左手は貫手。

「ごぶあっ!?」

地面に着地。マットはセルゲイだ。

吐血が顔を紅く染める中、左手を一閃。

「……私の勝ち」

――したが、眼球の数㎜上で止める。

本気で殺る気ならば、既に頭蓋骨もろとも、脳味噌に風穴を開けていた。

「……そうだな。…………俺の負けだ」

セルゲイも理解しており、何処か遠くを見るように言う。

「一応聞くけど……身体の調子は?」

頬の鮮血を拭いつつ、セルゲイの上から離れる。

「問題無い。むしろ、調子が良いくらいだ」

立ち上がりながら、答えられる。

「…………ドM?」

が、私が出した結論はセルゲイへのマゾ疑惑。

本当ならば、間接技のレパートリーを増やさなければいけないだろう。

「……おい」

まぁ、億分の一くらいの確率だけど。調(・)教(・)でもしないと駄目かな。

……しないけど。

「冗談」

「笑えないな」

それについては同感。……なら何故言った、と言われそう。

「……笑えない冗談はさておいて」

仕切り直すように言い、セルゲイと正対する。

「殴打した後で言うのも難だけど…………受(・)け(・)入(・)れ(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)?」

――私を、とまでは言わない。野暮だ。

「……あぁ。それが“決まり”だったからな」

やはり、遠くを見るように言われる。

(…………子熊計画のせいか)

忌々しい。

けれども、今は結ばれた事を喜ぶべきか。

顔には出さないけど、ね。

「……嬉しそうだな、ノルシェ。口許が緩んでいるぞ」

「っ!?」

……冗談だよね。冗談の筈だ。

「だらしない顔はせめて他人がいない場所でしてくれ」

「…………そうする」

背後に向き直る。

ここは他人がいる場所の近く。

それも、最低の他人がいる場所の。

「おい、例の雌豚と色男だ」

「雌豚じゃねぇ、雌ゴリラと蚊蜻蛉だろう」

「……お前、“タチ”だったのか?」

「何だっていいだろ。“殺る”か、“犯る”かの違いだ」

寝起きで機嫌が悪いらしい、スラム街在住の塵達がいた。

空は黄昏。

「……彼女が出来て早々、社会不適合者によるリンチ会場にご招待……か。災難だな」

「……同感」

互いに塵達を一瞥し、ホルスターに収めていた得物に手をかけた。

「現状の装備は?」

「《AR-9》、《AR-10》、《AR-11J》が各一挺とブーツナイフ二本。そっちは?」

「《AP4》が改造品を含めて二挺。後は戦闘用ナイフが一本だ。……お互い、手抜きだったようだな」

自嘲気味な答え。

「同感……」

だから、私も自嘲気味に呟き、臀部付近の大型ホルスターに収めていた大口径リボルバー《AA AR-11J》を左手、右手で《AR-10》を抜き、《AR-10》はシリンダーオープン。

空薬莢と残弾を排出し、装弾器具(ローダー)使用。

シリンダークローズ。

《AR-10》は納銃。

ハンマー、コック。

「準備はいいな?」

「問題無い」

「……了解だ。……さて――少し騒がしい、目覚しの時間だ」

「…………総員起こし?」

間の抜けた掛け合いをしつつ、行動開始。

近くの廃虚に入り、中にいたならず者を蹴り飛ばし――

「Ложиться спать(寝てろ)」

転倒した所で、顔面を踏み抜く。

出来たのは、頭部に赤い華が咲いた死体。

折り畳んでいた銃身、銃床を展開。

スコープのカバーも外し、構える。

照準修正。

トリガーを絞り込む。

撃針が弾薬底部の雷管を打撃。

発生した火花によって、発射薬が爆縮。

14.5㎜の弾頭が押し出され、旋条で回転が加えられて撃ち出された。

瞬く間に着弾し、血の華が咲く。

同時に、複数の“噴水”も出来上がった。

二射目――――発射。

結果は確認せずに、移動開始。

「ここにいたか、雌豚ぁっ!!」

「ブチ込ませろぉっ!!」

「たっぷり可愛がってやるぜぇっ!?」

が、進行ルート上に、数人のならず者。

私に気付き、血迷った目で走り寄って来る。

《AR-11J》をホルスターに戻し、代わりに《AR-10》を抜き様に、三射。

「「「ぐあぁあぁぁっ!?」」」

着弾。

絶叫を上げて、のたうち回る。

(やはり効くか)

撃ち込んだのは9㎜口径のキャニスタースラグ。

跳弾の危険性が低い弾種の一つだが、軟目標に対する殺傷能力は非常に高い。

何故ならば、軽量で脆い被甲の弾頭内に少量の爆薬と鳥撃ち用の散弾。点火用の着発信管を内包しているからで、着弾すれば、対象の体内を無数の散弾が抉る。

傷の酷さはホローポイントやソフトポイントに匹敵する。

……いずれ、出血死するだろう。

のたうち回る塵を無視して、次の狙撃ポイントへ。

《AR-11J》に持ち換え、スコープを覗く。

照準修正。

発射。

轟音。

血飛沫。

修正。

発射。

移動。

(残りは……10人か)

移動しつつ、広場に見えるならず者の数を確認。

すぐにカタが着く数だ。

(次の狙撃地点で最後……にしても良いか)

考えが纏まった所で、第三狙撃地点に到着。中にならず者がいたが、全員の頚椎を折るのは容易い事だった。

で、三度目の狙撃に移ろうとしたが――広場にあったのはならず者の死体だけ。

(……セルゲイが終わらせた?)

だとすれば、ここにいる必要は無い。

《AR-11J》を納銃。

代わりに《AR-10》を抜き、廃墟から出て――左側面に肘打ち。

「ごぶっ!?」

顎が砕けたならず者が、地面をのたうち回る。

「……Блин, надоело(うんざりする)」

射殺。

「ここ――ごぶあっ!?」

「ぐふぁあっ!?」

「ぐあっ!?」

野次馬か何かのように、出てくるならず者をクレー射撃の如く、射殺していく。

「Блин, надоело」

呟き、撃ち続ける。

そして、装填数分を撃ち切ると、ならず者側も品(・)切(・)れ(・)と化した。

「……生きてるな、ノルシェ?」

代わりに、セルゲイが出てきた。

「……この程度では、死ねない」

抑揚無く答え、シリンダーオープン。

リロード。

「そうだな。……お互い、この程度では死ねないな」

「……同意」

自嘲気味に言い合い、私は《AR-10》を納銃。

「…………帰るか」

「……」

セルゲイの問いに首肯し、帰路に着く――

 

 

 

 






――以上、《奔流たる想いを》でした。
……端的に言うと、今話はノルシェの告白、或いは口説き文句と、いつものスラム街。
正直、夜の営み(殺)という状況か。凄まじく痛い打撃の応酬でしたが、一発でも、鍛え上げた軍人が粉砕骨折して、胴体泣き別れレベルの威力。
…………因みに、アレでも互いに0.01%程度の能力しか解放していない上に、手加減しています。
次回は本気でイチャコラ…………できるといいな。プロット的には無茶かもしれないけど。

尚、作中に出てきた《キャニスタースラグ》という弾薬は実在しません。似たような弾薬に、《グレイザーセフティスラグ》という物はありますが。

…………っと、本編自体についてはここまで。
次に、今話は推奨BGMが複数用意しています。最も、曲ごとに大きく印象が変わりますし、かけるタイミングも違いますが。

・R.G.B...

→前書きの時点からかける事を推奨。本編からかけると、前奏のせいもあって、盛り上がりに若干かける。


・星の加護を受けし者


→前書きの時点からかける事を推奨。本編からかけても比較的悪影響は少ない。


・It Has To Be This Way

→本編から、或いはノルシェの「…………そうする」からかける事を推奨。


・Theme of CRYSIS CORE『疾走の戦域』

→本編からかける事を推奨。
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