※この作品はR-18です。

Dirty Works   作:空薬莢

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足りないから、駄目なのか?
違う。
足りない事に気付かない。
それが問題だ。


鉄錆と硝煙の休息 ~Принудительный готовность покупке~

 

数日後――

朝から依頼が入り、数人が出撃。

依頼に出ていない残(・)り(・)は、日課に等しい自主訓練の後、何故か談話室に集まった。

で、集まった者達はというと――俺、ノルシェ、フィア、ノエルという具合。

肩身が狭い状況。

俺以外は全員が女性。

配置的には、隣にノルシェ。正面にノエル、その隣にフィア。

ノルシェはいい。長い付き合い故に、近くにいる安心感も無くない。

だが、ノエルは何故、俺の前に着いた?

正規軍時代に幾つか作戦行動を共にした程度なのに、いつに間にか慕われていた。

特筆すべき事はしなかった筈。

(……気にするだけ無駄か)

自意識過剰と思われるだろうが、俺とノエルが交わる事は無い。

仮に交わった場合、高確率でノエルが死ぬだろうし。

結論が出た所で、

「……セルゲイさん」

フィアが口を開く。

「どうした?」

「……談話室に籠りきりは不健康だと思います」

正論だ。

では、何をしようか考えると、殆ど思い浮かばない。

軍人として長年閉鎖環境にいたせいで、生理的欲求と、戦力に関わる欲求以外は欠如しているからだ。

だから、俺が発した答えは、

「……もう一度、射撃訓練に行くか?」

という酷く俗世から遠のいたもの。

「弾薬費を考えて」

「セルゲイさん…………」

ノルシェとフィアから呆れられ、

「……整備に…………戻り、ます……」

ノエルは付き合ってられないと言わんばかりに、談話室から退出。

…………当然の結末か。

「少し娯楽文化に関わりましょうよ、セルゲイさん……」

「無茶を言うな。……そういう物からは隔離されていたんだ」

そもそも、軍内部で人為的に造(・)ら(・)れ(・)た(・)俺やノルシェは事実上の生物兵器であり、今の日常自体が本来は異常とも言える。

しかし、フィアがこの事を知るよしは無い。

「まぁ、軍隊って閉鎖環境ですからね……。でも、恋人とかは作らなかったんですか?」

「……正規軍時代は、な」

「という事は……今は?」

「想像に任せるさ」

敢えて答えを濁す。俺はまだ認めていないから。

「…………そうですか」

案の定、訝しげな表情をしたフィアは考え込む。

おそらく、ロクでもない事は言わないだろう。

「…………意地悪」

直後、俺の意図を知ってか、ノルシェが毒を吐く。

「何がだ?」

「…………何も」

短い会話を終え、待つ事数分。

考えが纏まったようだ。

「……セルゲイさん、ノルシェさん」

「なんだ?」

「何?」

「市街地に行きましょう!」

……何だと?

予想に反し、フィアの発言は意味の無いもの。

「…………目的は?」

「買い物ですよ。色々補充する物とかあるじゃないですか」

補充するもの、か。

「弾薬と保存食ぐらいだな。とはいえ、保存食の備蓄は充分だから…………弾薬だけか」

「……それもグラナデと貴女の分だけ。無駄弾が多い」

俺の発言に付随して、ノルシェは毒を吐く。

然り気無く、弾薬の在庫を思い出した結果、ノルシェの言う通り、擲弾とショットシェルの減りが多かった。

擲弾はグラナデが主な消費者だが、アイツはバラ撒いているようで、的確に撃ち込んでいる為、純粋に戦闘回数が多いから。……一方でショットシェルの消費者であるフィアは、命中弾自体が少なく、無駄弾が多い。言うなれば、費用対効果(コストパフォーマンス)が悪い。

「う゛っ……。元々、散弾銃は“数撃ちゃ当たる”兵装なんですよ……じゃなくて。どうしてそう戦闘関係以外に目を向けないんですか!?」

「金の無駄だからだ。不必要な物に金を払――」

「それで人生は楽しいですか?」

反論は途中で否定される。

正論だが、何も知らないから言える言葉。

……余計な世話だ。

「俺やノルシェの人生に“娯楽”は用意されてはならない。……詳しくは知らない方がいいがな」

生物として歪な存在など、知りたくもないだろう。

「……用意されてはならない?軍の連中がそんなふざけた事を決めたんですか?……だったらクソ食らえです。さ、セルゲイさん、ノルシェさん。娯楽文化に浸りましょう!」

何も知らないフィアは意見を曲げない。

恐らくだが、真実を知っても曲げないだろう。

……そう感じさせる気概。

「…………拒否権は無いんだな」

折れる方が楽に事を進められそうだな。

「当然ですっ!出かける準備をして、談話室に来てください」

返答が紡がれた後、ノルシェは席を立ち、

「…………了解。行こ、セルゲイ」

「ちょっ、待てよノルシェ!」

俺の右腕を掴み、談話室の出口へと歩く。

当然、俺は半ば引き摺られる形で退出する羽目になる。

 

数分後――

俺とノルシェはある程度の武装を装備し、談話室に戻る。

「…………なんで普段着のまま何ですか?」

しかし、既に中にいたフィアはジト目だ。

「……普段着も何も、俺はこういう類の服しか持ってない」

「右に同じ」

戦闘用の衣服以外では、下着類等、生活必需品以外は不要だからな。

「…………でしょうね。お二人の戦績を考えると、休日は鍛練か、本当の意味での休息でしか無かった筈ですから」

返答はフィアではなく、私服のミハイルからだった。

「……ミハイル。お前は何故、談話室に?」

しかも、私服姿で。

「そこの後輩に捕まりました」

「……両手に花では、火種が増えるだけですからね」

…………なるほど。過去の教訓か。あの時はスラム街だったが、市街地にも頭の緩い不良はいる。

市街地で流血沙汰は問題になるからな。

「……了解だ。で、行き先はLim-Eの市街地で良いんだな?」

「そうですね。……高速道路では、達の悪い不良まがいに絡まれるだけですから」

「…………口が悪くなったな」

「周りがそうでしたから」

雑談しつつ、ミハイルを加えて、外に出る。

快晴。

刺すような陽光。

出掛けるにはうってつけ、という事か。

「……で、まずは何処に行くのかな?」

市街地に向かって歩きつつ、ミハイルはフィアに問う。

「洋服屋さんです」

返答しつつ、横目で俺とノルシェを一瞥。

「だって、セルゲイさんもノルシェさんも見た目は良いのに、服が堅いんですよ。……少しはお洒落にした方が良いですから。特にノルシェさん」

「……?」

小首を傾げるノルシェ。

「……!」

が、意図に気付いたらしい。

「丁度良いお店も見つけてますし。……後、5分程で着きますよ」

……近いな。

暫し、俺達は無言で歩き、目的地である店に着く。

「ここですよ」

店名は“Тонкий лед(薄氷)”。

……エリアRosの国民は店名で遊ぶのが趣味なのか?縁起でも無い単語だ。

「…………ふざけているな」

全員の意見を代弁するように、ミハイルが呟く。

「店名の由来よりも、商品の質ですから♪さ、行きましょう」

フィアは大して気にせずに、入店を促す。

言ってる事自体は正論。

(……腹、括るか)

せめて、懐への損害が少ない事を祈ろう。

入店。

内装は至って普通。

衣服が乱雑に陳列されているわけでもない。

ふざけているのは名前だけか。

安堵。

「…………高そう」

店内を一瞥したノルシェは言う。

「…………衣服にかける金は少ない方が良いんだがな……」

「手遅れ」

…………そうだな。

周囲を見回すが、フィアとミハイルはいない。

(……察したか)

二人で選べ、という事だろう。

……しかし、俺に美的センスは無い。

些か失礼だが、ノルシェも期待薄。

(こういう場合は、店員の意見を参考にするべきだ)

取れる手段はそんなもの。

だから俺は、

「あの――」

店員に声をかける。

「はい、何でしょう?」

店員が振り向き、俺と――やや後方にいるノルシェを一瞥。

「…………そういう事ですか」

すぐに察する。

「服の好みとかありますか?」

「実用性」

店員の質問にノルシェは即答するが、言葉が足りない。

「…………」

案の定というか、悩ませる。

「…………動きやすさ等の方です」

助け船を出す。

「そちらですか……。お客様の服装はそういう類ですね……」

ノルシェの服装は野戦服のパンツにタンクトップ。

所謂体操服程では無いにしろ、動きやすい服装ではある。

「…………まずは似合いそうな服装、という点を重視して頂けると助かります」

店員を悩ませた所で、俺達に得は無い。

ならば、本来はあるべき方向に進めるべきだろう。――即ち、ノルシェを着せ替え人形にする事だ。

「そう、ですか。分かりました!彼女さん、こちらへ」

店員に試着室へと誘導されるノルシェ。

すれ違い様に交錯した目は、蔑みの色を帯びていた。

(…………悪いのはお前だ)

誰に言うでもなく、内心思う。

愛していると言うならば、男を籠絡させる為の服装や、一般的な女性らしく洒落た服装に興味を示すべきだろう。

無論、落とされる気は無いのだが。

「彼氏さん、こちらに」

件の店員から手招きされる。

余計な考えはここまで、という事か。

店員の元へと向かえば、試着室の前。

そして、着くなりカーテンが開かれ――

「……」

「…………」

互いに沈黙。

理由はノルシェの服装だ。

蔓や葉、枝等を編み込んだ暗緑色系のフード付ポンチョに、同様の処理を施したワンピースタイプの作業着。

所謂、狙撃手用の擬装服。……要するにギリースーツである。

おかしいだろう。

内装的に少女趣味系や、正装を含む一般的な衣服を取り扱っているのが普通。何故、ギリースーツがあるんだ?

「……あの、何故ギリースーツが?」

「ニッチ層向けです」

来るのかよ、そんな連中。買いに来る連中は、面倒くさがりな仮想世界の英雄ぐらいだろう。本職ならば、自作する。

植生その他諸々、擬装効果を最大限に発揮するには、現地製作の必要性があるし。

「……他の、無い?」

「お気に召しませんでしたか?」

「……」

首肯するノルシェ。

「……そうですか。では、別の服を用意してますので、そちらはどうでしょう?」

「……」

無言でカーテンを閉める。

数分後。

「……あの」

別の衣装もふざけていた。

端的に言えば、作業着。

より正確に言えば、ワンピースタイプの作業着(ツナギ)にチューブトップ。サンダル、バンダナ。

「…………Является ли дурак(馬鹿にしてる)?」

ノルシェがキれ始めた。

「……これも駄目ですか。では、三着目はどうですか?」

「…………」

再び閉められるカーテン。

今度はマシであってくれ。

……正確には普通の服であってくれ、か。

とはいえ、願いは所詮、願い。

願望なんて叶うものではなく、絶望しかけた奴が気休めに思う事。

期待しない方が賢明だろう。

「Кажется, в третий раз(三度目の正直)……」

考えが読まれたのか、やや蔑みの色を帯びる声が響く。

三度目の正直?……冗談だろう。

期待を捨て去り、試着室へと目を向ける。

 

――そこには、等身大の人形が立っていた。

 

……いや、立っているのはノルシェだが、人形にしか見えなかったのだ。

黒を基調とする、フリルとレースに彩られたワンピース。同色のニーソックスとロングブーツ、それにカチューシャに似た、ヘッドドレスと呼ばれる装身具付き。

世間一般には、ゴシック&ロリータ――通称、“ゴスロリ”と呼ばれる種別か。

似合ってはいる。……が、何処か犯罪臭がするのは服のせいだろう。

“ロリータ”という言葉、元を正せば小説の題名であり、同小説の内容を乱暴に纏めれば、幼女に恋をしたが故に、破滅した男性の物語。……そういう起源を知っているせいか、余計に思うのか?

などと、思案していると、

「似合いますね……。お人形さんみたいです。彼氏さんはどう思います?」

「…………似合ってる?」

店員とノルシェに感想を求められ、

「……あぁ」

肯定する。世辞は言っていない。

「それは良かったです。……因みにこの服、クラスⅣの防弾性能付きですよ」

……いるのか、そんな機能。

クラスⅣの防弾性能とは、15mの距離から放たれた7.62㎜対人徹甲弾で貫通しない、という程度であり、民間用の防弾衣としては

些か過剰である。普通はクラスⅡA(5m先からの.357強装弾を受け止める程度)で充分だろう。

(……この店の品揃えは本当に何なんだ……)

俺は頭を抱えた――

 

十数分後――

結局、似たようなゴスロリドレスを数着購入、内一着に着替えたノルシェを連れ、店を出る。

尚、半ば無理矢理俺の服も選ばされたが、全て拒否。

店員が執拗に、パンクロックやデスメタルバンド系の衣装を奨めてきたからだ。

で、店を出た直後――

「わぁ……似合いますね、ノルシェさん」

「……そうだな。良い所のお嬢さんといった風貌だ」

フィアとミハイルに会う。

「……何処に行っていた?」

「ベンチでモルスを飲んでいましたよ」

「俺はオクローシカを」

……つまりは、張り込みというわけか。良い趣味とは言えないな。

「そんな事より、ノルシェさんの服、セルゲイさんが選んだんですか?」

「いや、店員の見立」

虚勢を張った所で、意味は無い。

「……店員任せですか」

明らかに落胆するフィア。

「……何か、した?」

「気にするな」

小首を傾げるノルシェにそう返し、

「次の目的地は…………火器量販店で良いか?」

仕切り直す。

「…………」

が、フィアは非難の目。

「お前の浪費した分の弾薬を買うんだ。一人で行くか?」

「…………分かりましたよ……」

渋々、といった感じで肯定。

無駄撃ちの多いお前が悪い。

目的地が決まった所で、方向転換。

そして歩きながら、俺はミハイルに問う。

「……ミハイル。お前は分隊支援要員が多いが、副兵装に拳銃は持っているが?」

「汎用機関銃に狙撃銃。手榴弾に各種弾薬なんて持っていたら、装備できる箇所が無くなりますよ。グラナデ嬢のようにコンテナを背負えと?」

弾倉が嵩張る種別ばっかりだな。……でも、一挺ぐらいは持てそうだ。

「いや、何処の市街地も柄の悪いゴロツキは出没するからな。小回りの効く武装を持っておく必要はある。……大口径の物ならば、ある程度魔物相手にも通じる」

「……つまり、対人用と?」

「低級魔物用でもあるな。……フィアはよくやるだろう?」

やや後方を歩くフィアを一瞥。

大口径自動拳銃を用いた方が戦績が良いあたり、末期かもしれない。

「…………確かに。そういう人もいるでしょうね。ごく稀でしょうが」

やはり同意するか。

近接偏重さは改善しなければならないな。

訓練内容の再編が必要か――クソッ!

思案中断。聴覚が僅かな異音を、嗅覚が硝煙の臭いを捉えた。

ホルスターに手を添える。

「……戦闘準備。各自、装薬は実弾」

ノルシェも事に気付いたらしい。

「どうしたんです、セルゲイさん?」

しかし、フィアは気付いていないようだ。

「目的地の火器量販店に強盗がいる。恐らくだが、スラムのゴロツキ共だ。ならば、基本的には《F》の服用者だからな。殺処分しかない」

「……こんな街中で何をしでかしているのやら」

説明を聞いたミハイルが嘆息。

「ミハイル、フィア。火器かナイフは持っているか?」

まずは装備確認だな。

「一応、.45が二挺」

「……ブーツナイフが一本って所です」

厳しいな。

拳銃ぐらいの武装は全員に欲しいところだ。

「フィア。ミハイルに《HCB02》を貸せ。二挺共だ」

「何故、二挺共なんですか?」

何故、気付けない。わざとか?

「お前はPTSD持ちで、完全に克服していない。前線に立たれては邪魔だ。ノルシェのサポートに回れ」

「……嫌です」

「…………死にたいのか」

こっちとしては戦場以外で死なれると面倒だ。

「荒療治が必要なんです」

荒療治、か。

目には目を、歯には歯を。心的外傷には心的外傷を、か。

簡単そうで難しいものだが、本人がその気ならば、やらせるとしよう。

ゴロツキ相手ならば、多少の余裕は持てる。死にそうならば、俺やノルシェでカバーする。

結論が出たので、

「…………好きにしろ」

説得を諦め、ホルスターから9㎜自動拳銃《AA AP4》を抜き、ミハイルに渡す。

同時に、店に近い物陰に隠れ、残る各員も続く。

全員が隠れ終えた所で向き直り、言う。

「全員に装備が行き渡ったな。……ブリーフィングを始める。……現状で判明しているのは、強盗が入ったという点だけだ。数は不明。よって、伏兵に注意しろ。次に、各員の分担だが、俺とミハイルで突入する。ノルシェは後方支援を頼む。フィアは……独自判断で動け。基本は臨機応変に。戦術を練っている暇は無い。……最後に、店はスラム街の近くだ。警察が介入する可能性は低い。増援は期待するなよ。以上、状況開始」

言い切り、ホルスターから11.2㎜自動拳銃《AA AP4-KrS》を抜き、移動開始。

周囲に人はいない。

スラム街近郊だという事もあるが、好都合だ。

追走するミハイルとフィアを一瞥。

「正面からは危険だ。ミハイルは裏口に回れ」

「了解」

裏口へと移動する為、ミハイルが一時離脱。

フィアは追従。

正面入口に近付きつつ、店内を確認。

数は8人。武装はいずれも粗悪品。《丙式歩兵槍》と《UM-03》か。

何より、全員が左腕部変質の軽度魔物化状態。腐食した筋繊維から、《F-M》型服用者と確認。

「オッサン……さっさと有り金出せよ」

「まさか、通報してんじゃないよなぁ?」

人としての意識もあるようだ。

(……そろそろか?)

身を隠し、様子を伺う。

そして数秒後、ガラスの砕ける音が響き、嗅覚は鉄錆の臭いを捉える。

「вляпаться(突入)」

ドアを押し退けつつ、店内へと侵入。

「狙撃だ!身を隠せっ!!」

行動が遅い。

怒号を上げる男の頭部に照準。

発砲。

装弾はホローポイント。

着弾。

変形した弾頭が脳髄を抉り、血飛沫。

絶命。

追加で、もう一人が紅い華を咲かせる。

ノルシェだな。

残り6人。

「一人目っ!」

フィアが一人殺ったか。

しかし、脳天に4発。撃ち過ぎだ。

……まぁ、ほぼ人間のままの標的を撃てるようになったのは評価できる。

残り5人。

銃声。

いや、4人だな。

「邪魔すんじゃねぇぇっ!!」

「失せろっ!!」

直後、ようやく攻勢に転じるゴロツキ側だが、行動するには遅過ぎた。

俺は既に照準が終わり、銃爪も引いた後。

ゴロツキ達の顔面に迫っていた銃弾。

手にした火器の銃爪が引かれる事は無く、持主は顔面の孔を増やして、絶命。

同時に、ノルシェの支援射撃、フィアの速射。

そして――

「拳銃よりは、こっちの方がしっくりくるな」

ミハイルは最後の一人の喉元を掻き斬る。

表は片付いたな。

裏は――

「……隊長、裏に数人いた」

やはりいたか。

「全員殺ったか?」

「当然。……店主、清掃も終えているから安心してください」

……ほう。出来るな、ミハイル。

「あ、あぁ……。助かるよ」

怯え気味の店主を一瞥して、向き直り、

「……店内の掃除を始めるぞ。顧客の為にな」

俺達は店内の掃除を始めた。

後処理は重要だからな。

 

 

数時間後――

掃除、買い物共に終え、俺達は帰省。

諸々の処理の後、各々自室へと引っ込んだ。

で、俺は自室にいるわけだが――

「…………いつまでそこにいる気だ?」

「安心できるまで」

ベッドの上から動けずにいる。

理由は、膝にノルシェがのっているから。

服装は先程購入したドレスのまま。

絵面的には『父親に甘える娘』、といった感じか。

「暫く退く気は無いか」

「……」

首肯。

身を寄せられる。

「……暖かい」

「…………そうかい」

遠い目をして返答。

(これが望みか、老害共)

若者の色恋沙汰は酒の肴になるか?

モルモットを眺めるのは楽しいか?

俺はテメェらの手駒になる気は無い。

むしろ、さっさと地獄に墜ちてくれよ。

テメェら老害がいなくなれば、少しはマシな世の中になるだ――ん?

違和感。

現実に引き戻される。

「離れないで」

目の前には、ノルシェの顔。

キスでもされたか。

「受け入れて」

「…………無理だな」

「……」

抱き付かれる。

身体の密着度が増す。

「私が“不能”になれば良いだけだから。……簡単な事」

「……まぁ、そうだろうな」

口で言うのは簡単だ。

「信じてない?」

「可能性は零じゃない」

万が一、という現実は確かに存在する。

「……強情」

「それぐらいは知っていただろう?」

「知ってる」

強くなる抱擁力。

更に近付く顔。

「……だから、何度でも言う。……受け入れて」

「強情なのはお前もだ」

ノルシェの額を押し退ける。

今は、そ(・)う(・)い(・)う(・)気(・)分(・)じゃない。

……でも、いい加減……少しは折れてみるか。

「甘えてくるのは構わない。……が、繋(・)が(・)る(・)事だけは駄目だ」

「…………強情」

僅かに拗ねたノルシェは抱擁を止め、全体重を俺に預けてきた。

「…………でも、崩し甲斐があるのは良い」

「……そうかい」

手をノルシェの頭へ。

軽く、撫でてみる。

柔らかい髪に混じり、指に触れるヘッドドレスの布地。

ある種、心地よい感触か。

「……数時間前の戦闘、この服のまま行ったんだよな……」

そのわりには、硝煙の匂いも、土臭さも無い。

「確かに、この服のまま。……意外と機能的」

ノルシェの返答に驚愕する。

機能的、だと?

凡そ、戦闘から無縁の服だろ。クラスⅣの防弾性能があるとはいえ。

「防弾以外にも、高衝撃吸収性。各所に武装保持用のホルスター付かつ、通気性良好、防臭抗菌」

「……何が目的なんだ」

遊び過ぎだ、企業。隣の島国に毒されたか?

「……大丈夫。普通の物も購入済み。……クラスⅡAの防弾性能有りだったけれど」

「…………防弾は標準装備か」

「らしい」

嘆息。

……本当に、治安が悪いのも考え物、か。

生物である以上、治安が良くなる事は無いだろうが――今は考えない方が良いか。

膝の上に座る、ノルシェを優しく抱き締める。

求めているのは温もりだろうから――

 

 

 




――以上、鉄錆と硝煙の休息 ~Принудительный готовность покупке~でした。
ロシア語の意味は、“強制された購買意欲”。ある意味、今話を皮肉ってます。

ですが、所謂デート回である事に代わりはありません。
そしてDirty Worksなりの平穏です。……………………平穏ですよ?普段と比べると。

まぁ、ノルシェの私服姿に関する描写を書きたかった、という点が殆どでしたが。

美少女ゲーム(一般名称はエロゲ)に於いて、クール系(又は無口系、電波系)ヒロインはゴスロリ服等、フリルやレースを多用する衣装が私服にあることが多いです。……人形っぽい娘が多いからですね。
故に、ノルシェにも着せました。……自分に絵心が無いのが恨めしい。脳内イメージは出来ているのに。……取り敢えず、ワ〇ハイの〇亜の私服か、す〇ひびの由〇姉ぇの
私服辺りを想像してください。

……と、まぁ今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――
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