幸せなど幻想だ。
幻想に溺れる者には、望まぬ結末が与えられる。
だからこそ、幻想を幻想だと知るべきだ――
ガリアン・レーヴァ元技術少佐の討伐から数週間後――
「では、討議を始めよう」
エリアRos国内某所の会議室。
鎮座する円卓には、軍服を纏う老人が座っている。
彼らはエリアRos正規軍の上層部。
つまり、高級将校や将軍と呼ばれる類の存在。
今回、上層部が集まった理由は一つだった。
「今回諸君らを招集したのは他でもない。“子熊計画”に進展が訪れた」
「ほぉ……」
「漸くか」
「手間をかけおって……」
議長の言葉に対する反応はいずれも、呆れが混じっている。
彼らにとっては、苛立たしい事態が続いたせいだろう。
「とはいえ、良い知らせと悪い知らせがある。……諸君、どちらから話そうか?」
しかし、進む議題。
「「「「「良い知らせからだ」」」」
全会一致で、先に告げられる事となったのは、朗報から。
「承知した。……進展、という時点で察しが付くと思うが……先日、“聖水”が“聖杯”に注がれた。少数とはいえ、塵芥の処理という手土産を用意して、な」
「ほぉ……ヤりおったか」
「駒風情が。漸く自らの役目を果たしたか」
「獣は獣らしくしていればよい」
飛び交う意見は、肯定よりの侮蔑か。
計画の駒に与える情等無いのだろう。
その証拠に、
「……次に悪い知らせだが……“聖杯”が役割を放棄した。おそらくだが、もう計画の目的を果たすには至らない」
「……嘆かわしい」
「俗物風情が……与えられた役割すら果たせぬとは……」
「所詮は獣。飼い慣らせぬ道理……」
悲報を聞いた老人達は、すぐに態度を変えられた。
――完全な嫌悪と侮蔑に。
「……」
全員を一瞥した議長は、溜息一つ。
このままでは、無駄な時間を費やすだけ。
「故に第3独立遊撃隊へ《Ъм-870》、《Ъм-1500》を投入しようと思う。……諸君はどう思う?」
議題を進める事で、空気を変えると、
「……小娘二人か。少なくはないか?」
「構わんよ。計画が進むならばな」
「どちらも適性個体だろうな?」
「……」
「……」
幾つか、反対とも取れる意見はあるものの、概ね賛成の意が示された。
「……諸君の意見は聞き届けた。では、第3独立遊撃隊への配属は決定事項とする。……尚、数が少ない、という意見も存在したが、それについては問題無い。第1、第2独立遊撃隊にも数名は投入せよ、との大臣からのお達しだ」
意見総括。反対意見者も納得するであろう事情を含ませて。
対する老人達はというと、
「それはまた、性急な事だ」
気にも止めぬ者、
「本腰を上げたか」
賛同する者、
「何か理由があるのだろう。……我々には知り得ぬ事かも知れないが――」
勘繰るような意見を述べる者。
そして、議長は口を開く。
「――残念だが、“熊”を増やさなければならない時が迫っている。……あれから10年以上経っているのだよ……」
「「「「「!」」」」」」
硬直する老人達。
理由は、言葉の意味を察したから。
緊張感が出始めた円卓。
満足げに議長は続け、
「来る“雪崩”に備えて、我々は準備を進めねばならない。……まずは――」
真剣さを増した討議は続く。
思惑と、真摯さを交えて――
同日――エリアRos Lim-E 第3独立遊撃隊事務所――
「…………老害共が」
唐突に振動した携帯端末を開き、原因たる電子メールの内容を一瞥した俺は、苛立つ。
予想通りの行動を上層部が取ったからだ。
――通達――
第3独立遊撃隊へ人員補充を行う。
セルゲイ・モヴィーク少尉、ノルシェ・リオート曹長の適切な指導を期待する。
尚、補充人員の詳細な情報は追って通達する。
――以上。
補充人員。
この言葉が意味する事は、老害達が俺とノルシェの現状を知り得ている、という事実。
お互いに、“子熊計画”を全うする事を拒んだが故に、切られた次策。
送られる人員はほぼ確実に第7世代強化個体。
そうでなければ、“子熊計画”の“聖杯”とはなり得ない。
(……いや、待て?もしや……)
思い返す。
戦闘時の身体機能を見る限り、俺、ノルシェ、グラナデを除く全員が第6世代までかつ、現行の最弱個体である第3世代型も存在している。
老害達が第3独立遊撃隊を
では、何故低位個体まで混じらせた?
(…………分の悪い賭けに出やがったな)
もっと早くに気付くべきだった。
俺とノルシェに与えられた役割は、“子熊計画”の聖水と聖杯だけでは無い。
致命的な流血を伴う、限り無く零に近い賭け。
それが実行されなければならない理由もあるはずだ。
「……セルゲイ?」
「…………ノルシェか」
思考中断。
「…………」
同時に、俺の端末を覗き込んだノルシェ。
数瞬後、
「
「おい」
普通は言うべきではない言葉が飛び出した。
……ノルシェも同意見という事か。
「拒否できない?」
「無理だ。俺達に拒否権は無い。……それに、指導はしっかりしなければ、俺達が死ぬ」
予想通りならば、だが。ほぼ的中だろう。
「Чёрт」
「…………同意見だ」
半ば呆れるように返し、端末を閉じる。
嘆くだけ時間の無駄だ。
思案再開。
指導方法、内容をある程度纏めようとし――
「……」
膝上にノルシェ。
先日から何故か気にいったらしく、よく腰掛にされる。
その上、可愛がり過ぎると、寝てしまうので、注意が必要。……今はする気が無いが。
(……まぁ、考えられなくはない、か)
軽くノルシェを抱き締め、思考の海に没入する。
邪な感情に流されなければ良いのだが――
――以上、第Ⅳ弾倉13話目、《 悪意と思惑と必然と――》でした。
短いですね。
まぁ、プロローグとエピローグは、短くてもどうにかなる、と考えているせいか。
シリアスに混じって、微妙にイチャコラしようとするノルシェ。……実際、そういう系のキャラは好きだったりします。無表情ならば尚良し。
…………どうでもいいですね。
次回からは第Ⅴ弾倉。
今話であった通り、キャラが2名増えますよ。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――