さぁ、賽を投げろ。
それが、悪意故の結末しか生まぬ賽だとしても。
犠牲無くして、得られる物だと、俗物でしかないのだから。
プロローグ
某日 エリアRos Lim-E IC――
(……ようやく、着いた)
高速をおり、一般道に入りつつ、私は思う。
エリアRos Lim-E。
エリアRosという国家の最東端。
かつてはウラジオストクと呼ばれた街。
(ここに、兄さんがいる)
もっとも、私がこの地に
“上”からの命令、第3独立遊撃隊への編入。
実にどうでもいい理由。
思惑のようなものがありありと浮かぶ、糞以下の価値しか持たない命令。……そんな下らない戯言しかほざかない老害達のせいで、私はここに飛ばされた。
「……エリアRos Lim-Eか」
思案に耽っていると、助手席から聴こえる相方の声。
私と同じ理由で、僻地に飛ばされた存在。
彼女も、同じ事を思っているのだろうか?
「……」
考えるだけ不毛。
まずは目的地を目指そう。
ギアをセカンドからサードに。
アクセルは少し踏み込む。
戦闘中でもない市道で、曲芸をかますつもりは無い。
法定速度内での、やや急いだ安全運転。
「ここにアタシの姉貴がいるんだよなぁ」
その最中、相方は車窓を眺めながら言う。
「……兄さんもね」
運転中でも余裕はある。少し、話に付き合おう。
「そうだったな。……姉貴のお兄さんもいるんだった。部隊長だっけ?」
「そう。セルゲイ・モヴィーク少尉。第3独立遊撃隊 隊長。元は第17特殊強襲中隊 第一小隊所属の選抜射手兼観測手」
兄さんは有名な兵士だった。
……いや、特殊強襲中隊自体が有名だった、か。
魔獣狩り等を専門とする連中。戦闘能力は言わずとも分かる。
一般兵にとっては、ただの化物に違いないとも言えるが。
「……詳しいな。ストーカーか?」
「……兄妹の事は兄妹が一番知っている。そんな俗説、知らない?」
「あー……なるほど。そういう事か」
納得したように相方は言い、再び車窓見物に没入。
運転への集中力配分を増やす事にする。
十字路を左折。
視界に映る、廃墟街。
この近辺の筈――
「消え失せろ生塵共ぉっ!!」
「脳漿をブチ撒けろー☆」
――なんて、目的を忘れる事態に遭遇する。
人が宙を舞っているのだ。
…………いや、その表現は適切じゃない。
かつて人であった骨付きの肉塊が鮮血と脳漿を巻き上げながら、舞っている。
火薬由来の硝煙も抱いて。
その中心に位置するのは、二人の若い女性。
どちらが嗤い、
手にした得物の引鉄を弾き、
巻き上げられた血肉に狂喜する。
――異常。
戦場に身を置き続けた者は精神に異常をきたし、一般社会の害悪と化す。
……市民の、一般的な軍人の感性では当然思う事。
間違いではないが――
(…………到着、か)
ゆっくりとクラッチとブレーキを踏み込み、停車させる。
ある店――――便利屋の前で。
「邪魔するぜー」
「……」
下車し、便利屋に入る。
上の指示通りならば、配属先はここの筈。
ならば、早く部隊長に会わなくては――
「…………убираться」
その前に出会ったのは私とそう変わらないくらい若い女性。
白髪、色白、碧眼。
全体的な特徴も、私や相方と似ている。
(……ノルシェ・リオート曹長)
第3独立遊撃隊 副隊長。
担当は後方支援全般。主としては火力支援を担当する。
…………有名で……優秀な兵士だ。
しかし、第一声が“出ていけ”。
歓迎されていないみたいだが、上の意地の悪さを鑑みれば当然か。
……尤も、私達には帰る場所がない。
故に、相方が口を開く。
「おいおい姉貴、そういうのはねぇんじゃねぇか?」
「
だが、無意味。
「姉貴っ…………実力で、分からせれば良いのかよ」
「……」
話は平行線。
副隊長の方は不明だが、相方の方は牙を剥く寸前、といった具合。
…………大人しく、出ていこうか。
行き先が完全に無いわけではないし。
そう思い、私が踵を返そうとし――
「…………いい加減にしろ。役割からは逃れられん」
諭すような声を聴く。
振り返る。
灰色のやや長い髪。碧眼。感情が希薄な青年が立っていた。
「お前らが補充兵だな。……まずは実力を見せてみろ」
……やや高圧的な口調。
…………兄さんだ。
「どうやってだ?」
「簡単だ。表のアホを沈めてみろ。……無理だろうがな」
確かに、無理だろう。
兄さんの言う表のアホとは、先程の狂人の事。
片方に見覚えはあった。
より小さい方。
グラナデ・ヴェルファー元軍曹。……元正規軍第100歩兵大隊所属。
使い潰される事が前提の為、必然的に生きている限りは実力が着いていく、地獄を生き延びた強者。
所詮は新兵に過ぎない私達に勝ち目が無いのは当然。
――と、私は事の無謀さを理解しているが、相方の方は理解していないらしく、
「あんな幼女ごときに負けるかよ」
意気揚々と、外へと出ていった。
直後、罵倒と銃声の多重奏が奏でられたのは言うまでもない。
結果についても…………ね。
――以上、第Ⅴ弾倉~~プロローグでした。
今話から第Ⅴ弾倉に入ります。
実質的に言えば、今章のサブ主人公は2人います。
基本的にその片方と、セルゲイの視点で話が進む予定。
で、作中に出てきた狂気の沙汰――を行っていたのはグラナデとライヒです。因みに、当初の予定ではキャットファイトでした。……ガチレズの。
現状で言えるのはこのぐらい。
今話から登場した二人が誰か、分かった人は真面目にDirty Works、及び関連小説を読んでいると言えます。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――