誰かに決められた流れ、というものは存在する。
が、大概それは当事者にとって都合の悪いものかもしれない。
翌朝――
(……やっぱりかよ)
目を覚ました俺は、落胆する。
予想通りの事が起こっていたからだ。
身体が重い。
疲れが残っていて、反応が鈍いのではなく、単純に関節を決められているようなもの。
要するに、組み付かれているのだ。
因みに、左半身がノルシェで、右半身にスナリャート。
ノルシェはいい。恋人であり、最近は愛着も湧いてきた。
一方で、スナリャートは邪魔。
何処となく、愛らしくはあるのだろうし、ほっとけない感もある。……飽くまで、一般論として
故に、子熊計画抜きならば、多少は気持ちも変わったかもしれないんだが……。
(……取り敢えず、起こすには……)
いつものように、遠心力で床に叩き付ける事は出来ない。
どうしようか?
「……доброе утро、セルゲイ」
と、思った直後にノルシェが起床。
旧公用語が混じっている以上、不機嫌らしい。
「……遠慮無くやればいい」
俺のやろうとする事を察したのだろう。ノルシェは離れ、元自室へと歩いていく。
(言葉通り、遠慮無くやるか)
ベッドから横転するように出る。
当然、スナリャートを緩衝材にして着地。
「はみゅあっ!?」
握力、脚力が緩んだところで離れ、立ち上がる。
「доброе утро」
シャツを着ながら、床に蹲るスナリャートに言う。
「行き過ぎた兄妹愛はロクな事にならんぞ」
「それは……兄さんの決める事じゃない」
「御託は不要だ。着替えてこい」
ジャケットを羽織り、腰にホルスター付きベルトを巻く。着替え終了だ。
武装はどうするか。……取り敢えずは《AP4-KrS》は確定だが。
「……了解」
渋々といった様子で、スナリャートが退出。
彼女が部屋を出ていくと同時に、
「……行った?」
私服を纏うノルシェが戻ってきた。
だが、この間購入したドレスではなく、灰色のカーゴとジャケット。
腰には、大型のホルスターを巻いている。得物は《AA AR-11J》か。
火薬臭い買い物だ、そういう服装の方がいい。
俺もさっさと最後の準備を済ませよう。
壁と一体化したラックから、《AA AP4-KrS》と《AA AP4-KrM》を取り、ホルスターに納銃。
弾倉もベルトに差す。
ナイフは……ブーツに収まっている分で充分か。
ゴロツキ程度ならば、素手でも無問題。
「……行こうか」
「……」
準備が済んだ俺とノルシェは、部屋を出る。
すると――
「兄さん……遅い」
「姉さんが早いだけだ」
私服姿の妹達がいた。
スナリャートは、少女らしい簡素なワンピース。
クローフィは、野戦服のズボンとタンクトップ。
それぞれの性格が表に出たらしい。
(……火薬臭くなってもいい衣装か?)
スナリャートは疑問を感じざる負えないが。
「準備は出来ているようだな。行くぞ」
一銭にもならない思考を放棄。歩き出す。
返答は待たない。
待つだけ無駄。
(愚妹に勧める武装でも考える方が有意義だな)
行き先は決まっているわけだし、思考全てを思案に向けるわけでもない。
夏ってのは……いや、限定するべきじゃないな。
夏に限らず、馬鹿と屑は一年中、湧く。
肉欲と物欲を本能のままにブチ撒ける為に。
(……向かってくるならば、退場させるだけだ)
この世から。
幸いというべきか、戸籍を持たぬ馬鹿がいくら消えた所で、国も世界も俺達を責めない。
それ所か、感謝される事すらあるからな……。
(歴史を紐解けば、酷い御時世だな)
数十分後――
「……ここだ」
のんびり歩いた後、目的地に着く。
――火器専門店 “Tienchin”――
“弾雨”を意味する某国の言葉。
「……久し振り」
「数日ぶり、程度だがな」
ノルシェの問いに答えつつ、入店。
出迎えは多数の銃火器と、重火器。
何れもが、欧州系企業の製品。
それもその筈。
この店は、欧州方面の火器を専門に扱っているからだ。
「……久しいな、坊主」
入店にやや遅れて、奥から金髪の青年が現れる。
「……そう歳は離れていないだろ、店主?」
この店の店主で、名前は確か――ヴァンドル・レーヴァ。
元エリアRos正規軍 第2補給中隊の補給兵。
除隊理由は不明だが、不名誉除隊らしい。
「まぁ、数年程度の差だな。……で、今日は何の用だ?AA社の新製品は入ってるが、お前らは無償で貰ってるだろ?」
この間の騒動の時に受け取ったアレら、か。
もう販売されていたとはな。……どうせ高価だ。買うのは金持ちの屑共だろう。……可哀想に。
と、内心で思いつつ、
「……アイツの武装選びだ」
何食わぬ顔で物色するスナリャートを顎で指す。
「アイツの――って、おい……。何処で捕まえたんだ、あんな上物」
「妹だ」
質問に答えると、ヴァンドルは暫し沈黙し――
「…………マジかよ」
唖然とする。
「あぁ。…………何なら、貰ってくれて構わないが?」
まぁ、最終的には悲劇しか待たんが。
断るだろうし――
「被害を増やさない」
「……冗談に決まってるだろ……。察してくれよ」
俺だって、知り合いが魔獣になるのは御免だ。……面倒事的な意味で。
「……」
が、背中に刺さるのは蔑みの視線。
…………後で埋め合わせだな。
「……さて、目に毒な光景を見たことだし、仕事の話に戻ろうか」
「あぁ」
刺さる視線は無視しよう。構ってやるのは帰宅後だ。
「まず、だ。そこの嬢ちゃんの適正は?」
「分からん。……が、現行の主兵装はFR社の《StSS-1》だ」
「《StSS-1》だって?あんなゲテモノを使うのかよ。素直に汎用機関銃を持たせろよ」
店主も同意見か。……普通の感性ではあるらしい。
「そういう目的で来たんだ。……分隊支援火器で良いのはあるか?」
「欧州系では――特に無いな。最近は突撃銃の小改修を施して製造される奴が多いな。……セルゲイ、《ストーナー M63》って銃火器は知ってるか?」
「あぁ。20世紀半ば頃に製造された奴だな。機関部を基本として、部品の換装で様々な銃種に変更できる。信頼性は低かったらしいが」
懐かしい代物だ。今や、その筋の収集家の玩具どころか、骨董品兼置物扱いだ。
「その通りだ。最近はあぁ言う種別が再発してるんだ。……信頼性も良くなったしな。……その類なら、紹介でき――」
「――これ、下さい」
ヴァンドルの言葉は遮られ、スナリャートは会計を要求。
「…………正気か?」
スナリャートが保持していたのは、大型の対物小銃。
全体的な大きさからくるレイアウト以上に長大な機関部。
太く長い銃身――いや、アレは25㎜の
――《FR StSK-2》。
信頼性と威力が増した、《StSS-1》の後継機種。ごく最近、発売されたモデル。
元が元である為、要はゲテモノに代わりはないが。
「当然。……幾ら?」
「1,600,000Rubだ」
元兵士ではあるが、現在のヴァンドルは一人の商人。
金を払う以上は、製品を提供する義務があるのだろう。
「意外と安い。……請求書は軍に送って」
「…………了解だ。持ってきな」
……今のやり取りで確信、理解する。
(……まぁ、弾薬自体はノルシェの《PB5L》と共通だからな。戦果さえ振るえばいいか)
兵站面での苦労は多少緩和される。フィア並みに無駄撃ちするならば、本気で矯正するまでだ。
「――なぁ、兄貴」
折り合いがついた所で、今度はクローフィの声。
「……欲しい火器が見つかったか?」
少しはマトモであってくれ。
「弾幕形成に向く火器が欲しいかな。出来れば、短機関銃か突撃銃で」
「《AB-42Kv》では不満だと?」
「悪くはねぇんだけど……威力が、ね。5.56㎜だからなぁ」
……単純な火力不足か。
5.56x40㎜MB弾は対人用ライフル弾薬。魔獣相手ならば、最低でも6.8x48㎜MBだろう。腕が伴っている事は前提条件だが。
で、クローフィ的には単発の火力を上げたい。
元はJA社の火器。……信頼性は絶対条件だな。と、なると…………アレか。
「店主、《KrG-35-MK》はあるか?」
「……おい、セルゲイ。あんなジャジャ馬がいるのかよ?」
ヴァンドルの意見はある意味当然だ。7.62㎜MB弾を利用するバトルライフル《KrG-35》の全自動モデルである《KrG-35M》を短縮化したものだから。
反動制御性の更なる悪化と、多少の威力低下も起こしている。……とはいえ、5.56㎜MB仕様の《AB-42Kv》よりも威力がある事に代わりはない。
「必要らしいからな。改造代込みで二挺欲しい」
言いつつ、背後のクローフィを指す。
「……そっちの嬢ちゃんが使うんだな?……ま、選択は人それぞれだ。どういう改造をするんだ?」
「クローフィ」
「あいよ、兄貴」
クローフィと代わり、
「銃床の折畳化、《AA GW31》又は《JA Ge-00》対応のマウントレールの装着。排熱打撃用バレルシュラウドの装着」
「……正気か?」
注文内容を聞いたヴァンドルが眉をひそめる。
当然の反応だ。
「正気だよ。こういうのが性に合うんだ」
「……ひでぇ
……とはいえ、過去にもあったような注文らしい。
成金連中だろうか?……知る必要性は無いだろうけど。
「酷いCQBか……。どういうのがあったのかな?」
「戦闘用散弾銃の回転銃身式機関銃化や、銃剣付
おい……。
「いや、それは当然だろう。趣味の範疇だ」
思わず、口を挟む。
態々、刃物を弾体に使用する意味は皆無だから
「あぁ。対人用途ですら有用性は微妙な所だ。馬鹿な便利屋が増えんのは嘆かわしい事だな、セルゲイ」
……依頼主は便利屋かよ。
「全くだが、それは現場でくたばる俺達の意見であって、役所や軍上層部連中にとってはどうでもいい事だ。アイツらからすれば、便利屋は代替可能な消耗品。正規軍兵士よりも運用費は安いしな」
「世知辛ぇよ」
事実を言って悪いか?
「なぁ、店主……。話の腰を折るようで悪いけど、私の注文は通ったのか?」
「あぁ。そっちは大丈夫だ。料金は正規軍持ち。要望通りに仕上げてやるさ」
「なら良かった。話の続きをどーぞ」
安堵したクローフィは下がる。
「…………だ、そうだ――」
「――セルゲイ」
……今日もか。
「仕事が入ったようだ。……また来るぜ、店主」
「了解だ。行ってきな!」
ヴァンドルの見送りを受けながら、俺達は店を出た――
十数分後、便利屋談話室――
「依頼内容の説明に入る。…………役場からの依頼。内容は、ならず者集団“Justice Trigger”の排除。手段は問わないらしい。……添付された資料によると、“Justice Trigger”はエリアU.Sからの移民で構成されており、設立自体はここ数年以内、との事。主に《F》と武装の密売、取引先はエリアU.S.が有力らしい。……同時に、国内の情報も流れていると思われる」
「なるほどな。最近、警察気取りの無能がでしゃばる原因の一つかもな。……で、出撃可能な奴は……」
俺は談話室内を見回す。
「セルゲイと私以外ではスナリャート、クローフィ、ライヒ、エイノの四人」
確認しきる前にノルシェが答えを述べる。
頭を切り換え、組合せを考えよう。
(相手はならず者。……武装の大半は近~中距離用だろうから、長距離支援と乱戦の組合わせか?)
だとすれば、ノルシェに支援を任せ、突入組はクローフィ、ライヒ辺りか。
幾分、不安はあるが――
「……もう一件、依頼が来た。……小規模大型魔獣群の殲滅。場所は……Lim-E近郊の海岸」
無慈悲に告げられた追加依頼。
……二件同時かよ。
構成は仕切り直しだが、すぐに決められる。
大型魔獣相手ならば、経験者が出るべきだから。
これは俺とノルシェで片付け――
残りは消去法。
「“Justice Trigger”の排除はスナリャート、クローフィ、ライヒ、エイノで行え。魔獣の相手は俺とノルシェでやる。異論はあるか?」
振り分けた結果を告げると、
「無い」
「無いぜ」
「ありません」
「ないよー」
異論無し。
「よし。各自、行動開始だ」
「「「「
そして、各々が戦闘準備の為、談話室から出ていく。
「重装は久し振り」
「…………そうだな」
やや遅れて、俺とノルシェも談話室を出る。
さて……どの程度の魔獣だろうか――
準備は念入りに、だな。
――以上、必然たる交響 でした。
……初っ端から『羨ま……けしからん』、『爆ぜろリア充』……なわけですが、本編(正史)では不倫や浮気はありませんし、一夫多妻も起こりません。セルゲイはノルシェとしか交わりません。
……まぁ、If√では構想がありますが。
で、本編の大部分を占めた、銃火器店の描写。
今回登場したのは、大口径の三点バーストリミッター限定半自動式対物砲と、《AA KrG35》の派生モデルです。
前者である《StSK-2》は前モデルの《StSS-1》同様、実戦では使い物になりません。はっきり言って、浪漫火器ですが、魔物相手には使える。その程度の代物です。機構を脳内構成するのは楽しかったけれど。……尚、値段は日本円で約288万円。※2017年2月上旬為替レートに当て嵌めた場合。
高価な事で有名なH&K社の《PSG-1》や、米軍他で使用される対物ライフル《M82A1》がおおよそ80万円程度なので、如何に高いかが分かりますね。まぁ、ドイツ製の高性能光学照準器等を積むと、あっさり100万円を越えますが。
DW世界基準で同レベルの事をやると、軽く500万円ぐらいにはなりますかね……。
弾薬単価が現実より高めである事を踏まえると、便利屋は大変です。……軍もですが。
次に、派生モデルの《KrG35-MK》。
末尾のアルファベットはそれぞれドイツ語で『機械』、『短い』を意味する単語のイニシャルです。尚、『KrG』もドイツ語のイニシャルを取った形で、意味は『戦争小銃』。早い話、バトルライフルの意味ですね。
この辺は、ミリヲタや大学以上に進んだ方はすぐに解ったと思います。
では、今回はこの辺で。
次回は再び狩りの時間。
拝読ありがとうございました――