平穏は時として長く続く。
だが、争乱も長く続く。
負の面は大きな爪痕を残すが故、本質的に平穏は短期間で充分なのだ。
それが、心を壊す悪手だとしても。
1週間後――
ガレージの片隅に、大量のコンテナが鎮座していた。
「――これで全部か、セルゲイ?」
「えぇ。全部です」
コンテナとリストを一瞥し、俺は言う。
今し方、コンテナを降ろし終えた作業員――もとい、レーヴァさんに。
「了解だ。…………死ぬなよ」
「……そう簡単には死にませんよ」
……簡単に死ねるなら、苦労していない。
むしろ、死ぬ事が許されないが故、死ねるならば死にたいくらいだ。
「そうかい」
苦笑し、去っていく姿を見送り、ガレージから出る。
「……もうすぐ?」
待っていたのは、ノルシェ。
「あぁ、もうすぐだ。……全員を談話室に集めてくれ」
「了解」
指示を返し、二人揃って談話室へ向かって歩く。
ノルシェ的に、情報伝達は携帯端末のメール機能で充分、という事か。
「次は死人が出るかも」
「……そうだな。心当たりは…………三人か」
「……一人は確実」
「根拠は?」
「……もうすぐ着く。今は“雪崩”に集中すべき」
「……」
……確かにな。
犠牲は付き物だ。一々心配しては、心が持たない。
(兵士の心配事なぞ、軍部はどうでもいい戯れ言としか思わない。……駒は駒らしく、死ねとしか)
ならば、俺達も仕事を果たそう。
死ぬ事が許されない
談話室へ入室。
「……全員いるな?」
室内を見回し、確認。
欠員無し。
一呼吸おいてから、話し出す。
「もうすぐ、“雪崩”が起こる」
第一声に、疑問符を挙げる者が大半。
当然だ。自然災害としての雪崩が起こるかどうかを、山にも登らず、見ずに予知できる筈がないから。
「……正確には軍内部での“雪崩”と呼ばれる災害だ。簡単に言えば、魔獣の大量発生の事。十数年に一度、何らかの理由により、魔獣が異常繁殖し、餌を求めて全てを喰らうべく、森から出てくる。……俺も明確な経験があるわけではないが、地平線を覆うほどの数らしい」
「……ま、簡単に言えば天災、だね」
呟いたのはグラナデ。
「そういう事だ。現世界に於ける自然現象だから止めようがねぇ。……俺達に出来るのは、生き残る為に、雪崩を塞き止める事。…………今度の依頼は魔獣狩り。数は桁違いだが、基本は一緒。狩り尽くし、生還する…………それだけだ。ガレージに各員用の補充武装が届いている。受領しておけ。明日の早朝、軍の迎えが来る。以上だ。準備に移れ」
「「「「「「「「「「「Да!!」」」」」」」」」」
談話室を出ていく仲間達を見送り、
「俺達も準備に移ろう。……すぐに終わるだろうがな」
「……そうだね」
俺とノルシェも準備に移る。
宣言通り、大した時間はかからなかったが……。
翌朝――
輸送機で数時間飛び、東部防衛拠点へと到着する。
眼前に広がるは、底の知れない樹海。
かつては世界有数の大国があった場所。
今は化物の巣窟に過ぎず、飢えた奴らが機会を伺い、息を潜めている。
いつ始まってもおかしくない。
忙しなく動く正規軍の様子を見れば、それは明白だ。
「俺は司令部に指示を仰いでくる。お前達は待機していろ」
部隊と、物資を積んだ輸送車を一時待機させ、俺は司令部へ向かう。
テントやらは見飽きるほどにあるが、司令部はすぐに分かる。
さっさと入り、司令を探すも、すぐに見つかった。
あからさまに、分かりやすい奴だったから。
「第3独立遊撃隊、ただいま到着いたしました」
敬礼。
「御苦労様。私は正規軍東部方面軍司令、ヴィクター・ゲオルグだ。今回はよろしく頼むよ、セルゲイ・モヴィーク少尉」
「承知しております」
「さて……ここに来たのは挨拶……ではなく、配置についてだろう。こちらも時間が無い、手短に済まそう。……第3独立遊撃隊の任務は……護衛だ」
……馬鹿にしているのか?
「雪崩ともなれば、砲兵の仕事振りが重要となる。故に、今回は移動式特火点として、装甲列車と列車砲が配備した」
後方支援部隊のお守りか。
てっきり前線の戦車部隊の随伴歩兵をやらされるのかと思っていたが……。
この司令に限って、それは無さそうだ。
「君達にはこれの護衛に着いてもらう。……護衛対象の詳細は既に端末に転送済。さぁ、早く配置に着け」
案の定というべきか、命令だけ下される。
しかも、顔も見たくない、とでも言うような口調で。
「了解です、司令殿」
僅かに嫌味を含ませ、退出する。
(……列車砲か。骨董品だが、移動式特火点という意味では良いか)
何世紀も前に、無用の長物と化した兵器。
古くから、鉄道網が発達していたエリアRosの国情を鑑みれば、使い出が無いわけではない。
(……問題はあの司令だ)
ヴィクター・ゲオルグ。……考えるまでも無く、エイノの親父であり、俺が第17特殊強襲中隊に入りたての頃に就任した、あの司令だろう。
だとすれば……俺達は戦力として考えられていない、と見ていい。
何故ならば、多くの軍上層部は特殊強襲中隊を快く思っていない。特に、あの司令を含む一部派閥はそれが顕著なのだ。
当然、同部隊の生き残りが指揮する部隊も同じで、煙たがられる。……もう慣れたがな。
(……余計な犠牲が増えないといいが)
……兎も角、任務は任務だ。責任は司令にある。末端に責任を擦り付けるようなら、正真正銘の屑でしかない。
仮に屑を寄越すならば、それは上層部内の内輪揉めの結果。馬鹿で私欲に塗れた老害達の足掻きに過ぎん。
よりにもよって、この大事な時期ですら、それなのだから。
「……早かった」
待機中の部下達に近付くなり、メドヴェーチ2が呟く。
無視し、
「配置が決まった。今回の仕事は列車砲の護衛だ。件の兵器の所に行こうか」
指示を出して、列車砲の元へと向かう。
もっとも、一際大きい
太く、長い砲身。無骨な機関部。何線にも及ぶ複数の線路。
「……総合的なスケールで見れば、“グスタフ”以上か?」
世界最大級の列車砲として有名なのは、現エリアGerでかつて使われた“グスタフ”と“ドーラ”だ。
砲口径800㎜、戦闘重量は約1340t。稼働に必要な人数は旅団規模。
当時でも馬鹿げた兵器だったが……無論、現在もそれは変わらない。
(詳しい情報は端末に転送済みだったが……専門家に聞く方が早い)
往々にして、教科書や説明書という類の書物は堅苦しく書かれ、読む事が自体に苦痛を感じる者が多い。……口頭説明の方が、理解しやすいかもしれない。
だから、俺はノエルに声をかける。
「ノエル、アイツについての情報はあるか?」
専門は主力戦車や装甲車だったはずだが、基本は車輌全般に精通しているだろう。
もし知っているならば、饒舌になる筈だ。
「アイ……ツ?……え、えぇ!ありますよっ」
口調がハッキリとした。これは知っているな。
「説明を頼む」
「分かりました。今回の護衛対象はRz社とRvF社の合同製作品である《Bg-04》ですね。主砲は420㎜。過去の列車砲と比べると、やや大口径程度に留まりますが、本砲は走行中の砲撃能力を有しています。多薬室撃発機構と、デイビス式無反動機構を併用、弾薬を補助推進内蔵型のベースフリード弾とする事で反動を軽減し、走行中に路線と垂直方向に砲撃を行う事さえ可能です。また、自衛火器として片側5基、計10基の複合近接防御システムが配備されています。これは、25㎜口径の連装機関砲と90㎜口径強制排莢式多目的砲の複合システムです。これら全ては電子制御と人工知能で運用され、砲兵部隊の負担は大幅に軽減されており、分隊単位でも運用可能です。……一応、手動制御も緊急用としては搭載していますけどね。……こんな感じで大丈夫ですか?」
捲し立てるような早口。
まるで趣味に没頭した“ヲタク”と呼ばれる人種のようだ。
「俺は充分だが……残りの奴らはどうだ?」
振り返る。
仕様が無いな。
「……済まない。要点だけを噛み砕いて言ってやれ」
「……分かりました。……要するに、走りながら遠くに砲撃が出来て、自衛もしっかり出来る大砲付きの列車……ですかね」
言い終えた直後に、再確認。
…………未だに首を捻る阿呆が数名いるが……まぁ、どうにかなるだろう。
「連結予定の装甲列車についても要りますか?」
「出来ればな」
故に、説明を続けさせる。
「んーー……。あ、Rz社の《С17》ですか。ごく一般的な自国製装甲列車群で、武装も同様。特筆すべき点はありませんが……どうやら、砲兵だけが護衛対象とは限りませんね」
メドヴェーチ6はそう言い、視線で理由を告げた。
繋がれていたのは、何の変哲も無い車両だが……いや、赤字に白の十字が描かれた装飾。
アレらが告げる意味は一つ。
「アレは野戦治療ユニット――即ち、野戦病院です。砲兵と軍医のお守りを押し付けられた、と見て良いでしょうね。…………先輩、ここの司令は誰でした?」
ここで聞いてくるか。
「……ヴィクター・ゲオルグだ」
頭を抱えつつ、答える。
「あぁ、あの人ですか……」
メドヴェーチ6が、若干顔をしかめた。
……奴を知っていたか。
「親父が?」
一方で、メドヴェーチ10――司令の息子ーーは知らなかったようだ。
「知らなかったのか?お前の親父は数年前から東部方面軍の総司令だった」
「……マジかよ」
「何にせよ、俺達の仕事は変わらん。魔獣を殺し、味方を可能な限り守れ。……それだけだ」
兵士としての役割を果たすか、死ぬか。
上の小言は聞き流せ。内輪揉めの腹癒せ程度の行為だ。
「その糞の言う通りだぜ、餓鬼共」
肯定するように聴こえた声は、嫌味を隠せていない。
声の発信源――列車砲の通路を睨み付ける。
俺とそう変わらない男共がいた。
(……砲兵か。しかも、経験の浅そうな餓鬼だ)
本当に、使い物にならない兵士が多いな。
「睨むなよ、お前らが軍で嫌われてんのは知って――ごふっ!?」
ふざけた調子でほざく男が、床に這い蹲る。
「済まない、モヴィーク少尉。コイツには後で教育を施そう」
背後から、部隊長とおぼしき青年に殴られたようだ。
「……アンタは?」
「エリアRos陸軍 第2砲兵大隊 大隊長のヴェルディ・リサーチャ少佐だ」
ヴェルディ……リサーチャ……。
……第10野砲大隊の小隊長だった男だな。
「こちらこそ失礼した。エリアRos正規軍 第3独立遊撃隊 部隊長のセルゲイ・モヴィーク少尉以下、ヴィクター司令の指示の元、貴隊の護衛任務に着きます」
社交辞令には社交辞令を。
軍との面倒事は避ける方が良い。……既に面倒事にはなっているが。
「了解した。配置については少尉に任せる」
……配置は任せる、か。
なら、
「……メドヴェーチ6、お前は砲兵連中を手伝ってやれ」
先にメドヴェーチ6を使って、連中の能力を測ろう。
「り、了解……」
後、早めに通信機越しの会話に移行させないと、指揮が滞る。
列車砲に乗り込むメドヴェーチ6。
それを眺める砲兵達は、
「なんだ、女か」
「顔は良いし、乳もデケェ。上物だぜ」
「ひょっとしたら、処女かもな」
「はっ、そりゃあ良い。後でヤろうぜ」
劣情剥き出しの戯言をほざく。
「識別名が、メドヴェーーチッ!?アレ、ノエル・シャール軍曹じゃねぇか!!」
「謝罪しろよ、お前らっ!」
……約数名を除いて。
知られていたか。……戦車兵界隈では有名だしな。
悪い意味で。
「知っている奴もいたか。現状の正規軍では最高クラスの砲兵の一人だ。お前らでは束になっても彼女の10分の1程度も使えないだろう」
数名の発言を補足するように、大尉が続ける。
「ハッ、嘘くせぇ」
「巧いのは、筆遣いの方だろ?女に
「そうだ。何なら、今から俺のを下ろしてくれよ」
が、砲兵は嘲笑するだけ。
「馬鹿共が……」
頭を抱える大尉。
反対に、メドヴェーチ6の雰囲気が変わる。
「私は砲兵じゃなくて、戦車兵。……リサーチャ大尉、《Bg-09》の設定値を確認させて貰います」
言うなり、砲座へと跳躍。
頭に来たらしい。……この方面ではキレやすいのは昔からだ。
『……随分と杜撰な設定ですね。各種疲労の蓄積度、安全性を考量しても速射ペースを5分は短縮できます』
車上スピーカー越しに、メドヴェーチ6は告げる。
「5分っ!?おいおい過労死するぜ?」
『それは貴方達が軟弱なだけです。先輩方でも3分の短縮が出来そうだと言うのに……』
砲兵の泣き言は一蹴。
過労死は言い過ぎ、だとは思うな。
が、
「買い被りだ、メドヴェーチ6。俺達は所詮、歩兵だぞ?」
俺達への評価も過大評価。
歩兵と砲兵では動きが違う。単純に比べられはしない。
『御冗談を』
どうやら、伝わっていなかったのか。それとも、敢えて無視したか。
……気にするだけ、時間の無駄だな。配置決めに戻ろう。
「……対空防御兼火力増強要員としてメドヴェーチ3を配置する。問題無いか?」
『はい。どのみち、メドヴェーチ3は砲兵の頭数には入れていません』
「どういう意味かなぁっ!?」
「ガサツという事だ。下手に砲弾を運ばせるより、群がる糞を吹き飛ばす方がお前向きだろ?」
「確かに。でも酷いよぉっ!!」
納得して、すぐに怒る。忙しい奴だ。
「……なんで小娘が戦場に――」
「寸胴じゃねぇか。餓鬼はすっ込んでな」
今度の砲兵の反応は、メドヴェーチ6とは正反対。
所謂、醒めた状態。コイツらは巨乳好きか。
野郎としては、至極一般的だが……。
この場合は、的確に地雷を踏み抜いた。
多分、怒らせたぞ?
「馬鹿野郎、アイツがグラナデ・ヴェルファー軍曹だ。下手すると消炭にされるぞ」
ほら、な。知っている奴は焦っている。
「大丈夫だよ~。私やメドヴェーチ6に害を為さなければ……だけど」
メドヴェーチ3は笑ったまま、砲兵達の横を通り――
「邪魔になるなら、その糞みたいな遺伝子しか創れない
去り際に真顔でそんな事を言った。
凍り付く雰囲気。
考えるまでも無く、本気だ。
「それ以上は止めろ、メドヴェーチ3」
だから、制止する。
止めなければ、睾丸を吹き飛ばした上で、
アイツには……破壊への抵抗が無いのだから。
「ジョーダンだって、メドヴェーチ1♪」
振り返る事無く、砕けた何時もの声が返ってくる。
「……メドヴェーチ2、後の人員配置は任せる」
が、聞き流す。信憑性が無い。
「了解。…………各員、端末に転送した指示に従って」
指示を確認。俺とメドヴェーチ2は遊撃か。まぁ、当然だな。
有能な奴はこき使われる。良くも悪くも……って、この場合は上が率先して動くべき、という暗黙の了解故か?
兎も角、アイツのお守りと、武装の配分が先だ。
自前の兵装しか持っていない筈だから、40㎜機関砲と各種対装甲兵装。
普段ならば問題が無いが、今回は対空兵装がいるだろう。
過去の雪崩を鑑みるに、鳥類型魔獣や魔虫(《Abyss》に感染した昆虫類)が確実に出る。
これらは、総じて耐久性が高く、最弱個体でも12.7㎜徹甲弾以上が推奨される。……まぁ、榴弾でも落とせなくは無いが。
携帯端末を起動。
メドヴェーチ2の指示表を再確認。
(輸送車の停車先は……装甲列車の輸送車輌か)
改めて考えれば、動力車輌の出力が凄まじいな。
装甲列車に列車砲。簡易病棟車輌、砲車輌、弾薬車輌、輸送車輌等々を牽引した上に、行進間射撃で脱線しない(らしい)のだから。
輸送車輌に着くと、複数の支援戦車に混じって、俺達が利用した輸送車が停車している。
後部ドアを開き、目的の大型コンテナを引き出す。
「おいおい、なんだよそのデカブツ」
その最中、メドヴェーチ8に声をかけられる。
コイツの担当は砲車輌の護衛の筈だ。……つまりは、サボりか?
「対空兵装と予備弾薬だ」
「そりゃあ、良い。俺にもくれよ」
「お前の腕では、金の無駄遣いだ。砲車輌の25㎜を使え。そっちは税金で賄われてる」
固定銃座の25㎜は対地対空両用で、威力も充分だ。
全体的に値が張る対空兵装を、お前のような馬鹿には任せられん。
「あんなんいつもブッ放してて、つまらねぇ。たまにはデカイを撃たせろよ、隊長」
「…………なら、メドヴェーチ11あたりから《StSS-1》あたりを分捕ってこい」
主兵装の《StSK-2》なら、殺られるだろうが。
「チマチマ撃つのもなぁ……」
無視して、列車砲へと向かう。
(腕が悪く、デカイ一発を好むくせに、狙撃は嫌い…………糞だな)
やはり、馬鹿につける薬は無さそうだ。
「あの馬鹿は……。暇なだけですよ、隊長」
駐機された支援戦車の脇を通る途中、メドヴェーチ7に声をかけられる。
「暇、か。置いてくるべきだったか」
……いや、使えない奴に留守を任せては…………な。
肉壁にする方がまだマシだ。
「しかし、《KT-26》は久し振りに扱いますよ。ここ数年は《BT-27》に乗ってばかりですから」
「支援戦車と
支援戦車というのは、比較的最近出来た区分で、旧来で言う所の駆逐戦車、対空戦車に近い。
主力戦車が自走砲ならば、支援戦車は固定銃座のような扱いだ。
つまりは、速力と投射火力に優れるが、脆い。
現代魔物戦では、それでもいいのだが。……主力戦車であろうと、一発食らえば即死が普通だから。
「えぇ。……鳥撃ちよりも、猛獣狩りが主体であると良いのですが」
「……期待は持つな。どうせ、叶わん」
メドヴェーチ7に対して吐き捨てるように言い、今度こそ、列車砲へと急ぐ。
希望的憶測は俺達を駄目にする。確実に、な。
大型のコンテナ数基を抱え、走る事数分。
列車砲に着く。
メドヴェーチ3は…………いた。
砲座の脇ーー縁に座り込んでやがる。
(アイツ……)
弛んでやがーーーーいや、違うな。
アレでも警戒中だ。
嘆息。
一息に砲座へと跳躍。
「コイツを使え」
メドヴェーチ3の後ろに、コンテナを降ろす。
「プレゼントぉーー?」
「あぁ。お前の大好きな爆発物だ」
「わぁい」
メドヴェーチ3は、わざとらしく喜び、開放する。
「…………対空ミサイル?しかもAA社製。相当痛い出費じゃ?」
「弾薬込みで1億8,000万Rubぐらいだったか。支払いは軍持ちだった。大方、金持ち共から搾取したんだろ」
コンテナの中身は、無骨な長方形のランチャー。
連装対空ミサイルランチャーの《AA ZFR-00》と、《AA SRW-01》だ。
彼女の発言通り、どちらもAA社製。
自腹ならば、かなりの出費。そもそも、粗悪品だろうとミサイル自体は高価なのだが。
「2連装と6連装……どうする?」
「当然、6連。2連装だと忙しそうだしー」
「片手で撃つ気か」
「勿論。迎撃用に40㎜も使うよ」
6連装MSLと40㎜機関砲の併用……無茶と言えば無茶だな。……普通は。
まぁ、コイツは出来るが。
「そうか。後は150発弾倉が一コンテナだが……足りるか?」
もう一つのコンテナの中身を告げる。
「
「あの体たらくですからね……。メドヴェーチ3の不安も分かります」
制御端末を操作しつつ、メドヴェーチ6も同意を示す。
「とはいえ、今回は航空支援もありますから、そちらを頼りにすべきかもしれませんね」
「そういえばそうだった。この地区は第一陸上支援飛行隊と、第4統合飛行隊か。……聞いたことが無いな」
「だろうな。つい数ヶ月前に発足したばかりの部隊だ」
心配になったのだろうか、大尉がやって来た。
「調整は終わりました。……同砲の運用は砲兵で行いますか?」
「あぁ」
大尉が端末の画面を覗き、
「……軍曹、これは本気か?」
疑問を投げ返す。
「勿論です。……この程度すら扱いきれぬ砲兵は不要です」
「…………なるほど。なら、うちは歩兵部隊に改称しないとな。……が、それは雪崩の後だ。この調整で使わせてもらう。……アイツらの慌てふためく様が目に浮かぶがな」
自嘲気味に言う大尉は、何処か楽しそうだ。
「……そうだ、軍曹。悪いが、最悪の場合はコイツを頼む」
「了解です、大尉。このぐらいなら、娘達の方がじゃじゃ馬です」
「「……だろうな」」
俺と大尉は苦笑した。
翌日ーー
「メドヴェーチ1より各員へ。準備は出来ているな?」
装甲列車の車上で、俺は問う。
隣では、メドヴェーチ2が伏射姿勢をとっており、《PB-15MF-L》も握られている。
『メドヴェーチ3、何時でもいーよー』
『メドヴェーチ6、右に同じです』
『メドヴェーチ4、大丈夫です』
『メドヴェーチ7、問題無し』
『メドヴェーチ9、右に同じ。俺以下も大丈夫そうだ』
「解った。……先遣隊が消息を絶っている。開戦は近いぞ」
「メドヴェーチ1」
「なんだ、メドヴェーチ2」
「始まる」
照準器を覗いたまま、一言。
耳を澄ます。
(…………複数の地響き。距離は…………約120000)
振動の間隔からして、獣の類。
120㎞先は樹海。
ここから分かる事は一つ。
つまりはーー
「…………みたいだな」
ーー開戦だ。
程無く、
『奴等だ!!』
『レグザ1よりHQへ。雪崩が始まった!!』
『HQより全部隊へ。攻勢に出ろ!奴等に我らが庭の土を踏ませるな!!』
『『『Да!!』』』
全部隊に号令が伝わり、地獄の釜の蓋が開く。
ーーさぁ、始めよう。生き残りをかけた
ーー以上、 『目前にある地獄』でした。
戦闘準備と開戦。
色々と新しい兵器が出てきましたが、これらの設定にはわりと疲れました。
他の人でも骨が折れる場合がありますが、それは大抵、浪漫や派手さの面だと思います。
が、僕の場合は統合性とコストでした。
まず第一に、ミサイルランチャーの値段。作中でセルゲイが言った価格は大体、5億4000万。厳密に言えば、両ランチャー共に再装填が可能なので比較は出来ませんが、参考例として、アメリカの“FIM-92A(C)スティンガー”が一基(一発)418万円、対戦車ミサイルである“FGM-148ジャベリン”では181万5000円ぐらい。
これら現実の歩兵携行用ミサイルランチャーでも、大体のリーマンの数年の年収が一発で吹っ飛ぶわけです。
当然ながら、艦艇や航空機搭載用ともなれば、更に高い。リーマンの一生分の稼ぎが一発で吹っ飛びます。
それぐらい、ミサイルは高価な物なんだ。湯水の如く使える物じゃないんだ。
更に言うと、高校生のバイト代(月収)程度は重機関銃(M2ブローニングとか)を乱射しているだけで、簡単に吹っ飛ぶよ。※ライフル弾は一般的な5.56x45㎜NATO(SS1
09)で30~100円ちょいぐらい。12.7x99㎜BGM(M82とかM2の使用弾薬)に至っては、平均して、700円ぐらいが単価となる。
第二、列車砲と装甲列車。
現代戦に於いて、この二つはデカイ的以外の何物でもありません。列車砲に至っては所謂、ロマン兵器です。
が、魔獣相手には一定の有用性があります。
装甲列車の利点がその理由。詳しくはW〇kiとかを参照の事。
難しいと感じるならば、メッセージでも送ってください。番外編のアレで解説します。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございましたーー