※この作品はR-18です。

Dirty Works   作:空薬莢

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常に最悪を想定するのは、何事に於いても同じである。
故に、安全策にやり過ぎは無い。
……無論、目的を達成できる、という前提条件があるがーー




Лавина~Два~

 

 

「……そうか」

メドヴェーチ6からの無線を聴き、返答する。

(クソ野郎共……)

エリアU.S.の爆撃機が急行中、積み荷は核。

所謂、戦略爆撃だろう。

だが、軍上層部があの国に支援を頼むとは思えない。

旧体制時代から不仲なのは周知の事実。歴史の教科書にだって載る程に。

何故なら、雪崩で吐き出される魔獣を食い止めるのは、エリアRos(俺達)やエリアS.E.U.(旧西欧諸国の総称。基本的には外交用語)といった中央アジア樹海の周辺国。これら諸国は対魔獣戦のノウハウが豊富であり、核を使う必要が無い。

旧来同様に環境問題が残る上に、不確実性が高いから。

故に、エリアU.S.が本来すべきは食料又は金融支援の筈だ。彼らが盲信する国際連合ーー国連ーーの表(・)向(・)き(・)の理念上は。

(目的は示威行為兼、権力誇示か?)

お前らを殺るのは簡単だ、俺達にも分け前を寄越せ、とでも言うように。

何時の時代にも蔓延る、無能な政治家が考えそうな愚行だ。

全うな政治など存在し得ず、愚行を繰り返すのが政治家という連中だが、彼らは特に愚行がお好みらしい。

(過去に縋り、欲望に溺れ、嘘で塗り固めた見栄に固執する……。そんな自身を成功者、天才と誤認する凡人共(脳味噌の詰まっていなそうな愚者達)。)

ーー満たされた者は、飽くなき欲望の末に破滅する。

愚者の大好きな教典には……そんな感じの事が書いてあったな。

尤もーー

(連中の不祥事(破滅)は、いつも大多数の凡人(連中にとって、取るに足らない生物)に押し付けられる)

一瞬の嘆息。

機関砲の残弾を確認しつつ、上空を睨む。

普通の人間には、雲と空しか見えないだろう。

が、俺には見えていた。ブーメランにも似た、爆撃機群が。

かなり前時代的な……ステルス戦略爆撃機。“精神”の系譜だろう。金食い虫の骨董品だな。

既に爆弾倉が開いている。

投下が近い。

退こう。

最前線に落とさないとも限らない。

担当区域の魔獣は停滞している。

格好の射爆目標。

自国優先は何処も同じだが……奴らはその最たるもの。

敵国の兵力を片手間で大きく削げるならば、好都合。

……確実に、俺達の直上で落とすだろう。……そう、動物的な勘が告げる。

……メドヴェーチ3のような考え方だとは思う。第六感をアテにするなんざ、非科学的も良い所……だが、

(考える時間は無いな)

後退だ。

部隊員は元より、付近の友軍も。

俺の手で守れる分は、守らないといけない。規範がある限り。……これも感傷だろうか?

『メドヴェーチ1』

「なんだ?」

思案を引き戻すのは、メドヴェーチ2の声。

『後退して』

「分かっている」

直後ーー

空にほんの一瞬だけ、幾筋もの線が奔る。

出所は、樹海の奥深くだろう。

つまりーー魔獣の生体砲弾。

「メドヴェーチ1よりメドヴェーチ隊各員へ。全員後退っ!」

言いつつ、俺は上空を一瞥。

瞬間、空に幾星霜の閃光。

生体砲弾は炸裂型だった。

対空攻撃ならば、そうだろうな。

やや間を置いて見える、大きな火球。

被弾、爆発。

目測の規模から考えて、撃墜確定。

「航空機が墜ちるぞ!全員後退しろっ!!」

急ぎ、周囲の友軍部隊へ警告。

核爆弾ーーまぁ、どうせ水爆だろうがーーはそう簡単に誤爆する物ではないが……万一は想定する。

「あぁっ!?航空ーーマジじゃねぇかっ!」

「何でだよっ!?味方の攻撃機か?」

「違ぇ!軍(ウチ)のヤツはあんな骨董品じゃねぇっ!!」

半狂乱、逃げ惑う兵士達。

練度もクソも有りやしない。

マシな奴らかと思ったが……俺も鈍ったらしいな。退化にしては早過ぎるが。

とはいえ、蜘蛛の子を散らす、という諺通りでも……後退する分、手間は省ける。

その分の思考は、自部隊の指揮に回そう。

『隊長、後退とは何処まで?』

「装甲列車より後方だ。場合によっては、更に後方もあり得るが……急げ!」

無線越しのメドヴェーチ10からの質問に答えつつ、細胞活性化率を変更。

「兄貴っ!一部が樹海方向に走ってやがる!!」

一瞥。認識。

狂乱、ないし発狂した末端兵達。

士気など望むべくも無い肉壁。……いや、肉壁にすらならない。

ならば、結論は簡単。

「致し方無い犠牲(コラテラル・ダメージ)だ。他人の不幸を悼む必要も無い」

「……肥やしになるだけマシ、ってか?」

メドヴェーチ12の呆れた声で思い出す。

嘗ての“ソ連”のエスニックジョークとして、『兵士は畑から取れる』というものがあったらしい。

とある首相ーーいや、書記長だったか?ーーの言い放った言葉らしいのだが、エリアRos(現代)でも通用する事だな。

一部を除いて、兵士の代わりは幾らでもいる。

だから、多少は問題無い。……“多少”の範囲は広過ぎるが。

「そういう事だ。一時後退するぞ」

「了解ーーって、兄貴っ!?」

メドヴェーチ12を小脇に抱えーー地面を蹴る。

数瞬先には、お空の上。

(無駄話をし過ぎた。あれ以上は俺達も挽肉になっていたな)

更に数瞬後に着地。野砲の弾着地点並みのクレーターを作りつつ。

位置は、元々いた列車砲の付近。

遠くに見える爆炎。

墜ちたか。一時的な障害になればいいが……ならないだろう。

死体(にく)の数は多くて十数体。絶対に足りない。

『司令部よりメドヴェーチ1、応答せよ』

すぐに届く無線。

こういう所では、選択が早いな。

「メドヴェーチ1、感度良好。新たな任務ですね」

言わんとする事は分かっている。

『メドヴェーチ1、貴官の現在位置は最後方ではないか。何故後退した?』

ほらな。責任の追及だ。

やましい理由も無い為、包み隠さず話すだけだが。

「前線が危険と判断した為です。詳細としてはエリアU.Sの爆撃機が墜落。積み荷が水爆であった為」

『……なるほど。ヤンキー共も余計な事を』

流石の司令も、核の効果を理解しているようだ。

『だが、脅威は去ったのだろう。前線に戻れ』

だが、彼らにとっては些事。後方にいるから当然か。

「……了解。弾薬補給の後、急行します」

『急げ。通信終了』

通信終了。

続いて、部隊の周波数からの通信。

接続。

『メドヴェーチ6よりメドヴェーチ隊各員へ。聴こえますか?』

「聴こえている。どうした?」

弾薬集積地に向かいつつ、応答。

『エリアU.S.方面から複数の飛翔体を確認しました』

「飛翔体……本当だな?」

『はい。……数は10。状況から察するに、戦略核弾頭搭載型のICBMと思われます。爆撃機の撃墜を想定して、用意していたのでしょう』

クソがっ!

周波数変更。

「メドヴェーチ1より司令部。応答願います!」

『こちら司令部。要件は?』

「ヤンキー共がICBMを打ち上げた模様。現状で確認された数は10」

『本当か?』

「少なくとも、一般兵の斥候よりは信頼できます。詳しくはメドヴェーチ6ーーシャール軍曹からどうぞ」

暫しの沈黙。

『確認した。メドヴェーチ隊は任務に戻れ』

「了解」

通信が切れ、俺は向き直る。

(航空支援は無くなったな)

着弾猶予から察するに、迎撃弾と航空機が用いられるだろう。

俺の記憶が正しければ、航空機による弾道目標迎撃が出来るような兵士は中佐他数名程度。

その何れもが、現代では数少ない近接支援(CAS)対応者。

……いや、爆撃機でも可能だが……如何せん、継続火力が対地攻撃機に劣る。歩兵支援用の手軽さは攻撃機や攻撃ヘリの方が上だ。

(砲兵に頑張って貰うしかねぇか)

本来はその筈だが……想定外に砲兵の練度が低い。

徴兵運用の弊害は、全軍に及んでいるのか。

(そうなると、“仮説”が確信に変わる)

既に“確信”しているけどな。反作用と危険性を考えているいいが……

「……なぁ、兄貴」

「何だ」

「そろそろ降ろしてくんね?」

……メドヴェーチ12を抱えっぱなしだった。

「すまない」

降ろす。

「ったく、ひでぇよ兄貴。女の子は米俵じゃねぇんだぞ?」

「女(・)の(・)子(・)なんて言えるクチか?」

一般人の認識だと、突撃銃を乱射する女の子は、只の女傑か馬鹿だろう。

ゲームやらでは普通にいるが。

よって、メドヴェーチ12は女の子ではない。少なくとも、戦場(現実)では。

「……それ、メドヴェーチ2に対しても言えるか?」

「……戦場ではな」

そう、戦場では。普段は……猫か?今は関係無いな。

『メドヴェーチ1』

思った直後、かかる無線。メドヴェーチ2だろう。

……女の感は恐ろしいな。

まぁ、それも些事。今、考えるべき事では無い。

「前線の様子か?」

『3割が崩壊。再構築には時間が必要』

3割か。かなり掛かるな。と、なればーー

「砲兵、空軍は?」

『全力稼働中。数十名が野戦病院行き。病状は“過労”』

(……不味いな)

踵を返し、弾薬集積所に急ぐ。

ただでさえ、練度に問題がある新造の砲兵が多いのだ。

そんな連中が長時間の連続稼働に耐えられるわけがない。

一刻も早く、前線に戻らないとな。

補給担当の兵士に近寄り、

「所属は?」

「第3独立遊撃隊隊長、セルゲイ・モヴィーク少尉」

認証を済ます。

「名簿確認、認証。何がいるんだ?」

確認するのに数秒。時間が惜しいんだが。

「25x140㎜APHE(徹甲榴弾)を木箱で10、《TRG-4》8本」

「14.5x150㎜APHEの200連弾倉も10箱」

二人揃って、必要な物だけを要求。

「……そんなに持てんのか?」

補給担当は呆れ気味にボヤく。

感想はいらない。早く物資を寄越せ。

「早くしてくれ。現在の戦況は分かるだろ?」

「分かった。5分くれ」

5分か。

集積所を再度一瞥。

忙しなく動く兵士。

(5分でも早い方か)

状況が状況だ。

無線も来た。部隊周波数。

『メドヴェーチ1』

「なんだ、メドヴェーチ2」

『40㎜が枯渇する』

補給要請だな。

「弾種は?」

『徹甲弾(AP)、徹甲榴弾(APHE)、徹甲焼夷弾(API)、徹甲焼夷榴弾(APHEI)』

ほぼ全てじゃないか。

「分かった。移動ついでに弾薬を送ってやる。座標を送れ」

『送信済み。弾薬集積所の兵士にも通達済み』

「了解だ」

無線切断。

「話は着いたか、白熊さん」

「あぁ」

「お前らの荷物と……“女神”への贈り物だ」

コンテナが目の前に置かれる。

「“女神”?メドヴェーチ2の事か」

女神ね……。

遠い目になる。

見た目でしか考えていないな、と。

だが、俺やメドヴェーチ12の様子を尻目に、補給担当は語る。

「そうだ。前線の兵士は『冥界の女神様』だとか、『撃たれたい』、『俺のティーガーを捩じ込んでやりてぇ』とかほざいているぞ?因みに俺は、お茶を一緒にしたいかな。良いよな?部隊長。相手はいないんだろ?そうだよな?いないだろ!?なぁ、教えてくれーー」

「ーー直接聞いてくれ」

コンテナを整理しつつ、返す。

変態の感想は不愉快極まりない。

それに、仮とはいえ彼氏が聞きたい内容でも無い。

「阿呆ばっかりじゃねぇか?」

メドヴェーチ12の感想も俺と同じ。

後、過去に冥界の女神(ヘカテー)の名を関した小銃は存在していた。

今となっては……知らないヤツの方が多いがな。……因みに、現代で言うとエリアFranの企業製。

芸術家の頭はどうなっているのやら。

……と、まぁ戯れ言はさておき。

受け取った弾薬箱は、空対地ミサイル数発程度の大荷物。

まぁ、当然の大きさ。

狙撃砲用の弾薬は対空機銃弾の改造品を原型としており、それらを収める弾倉が辞書以上のデカブツなのは、考えるまでも無いだろう。

そんなのブツの詰め合わせだから、こうもなる。

「……兄貴、大丈夫か?流石に重そうだけど……」

「問題無い」

第7世代の出力を考えれば、軽装ですらある。

弾薬箱を背負い、集積所から離れる。

メドヴェーチ2の座標を確認。

そう遠くはない。

(と、なると……メドヴェーチ12を抱えて行った方が効率的だ)

第7世代なら、着地で骨折……とはいかないだろう。

「装備はしっかり持ったか、メドヴェーチ11」

「へ?あぁ、持っーーはごぶっ!?」

女子が出していい声じゃないな。

「跳ぶぞ。吐くなよ?」

「誰が吐くかっ!?」

大丈夫そうだ。

「なら、行くぞ」

両手に荷物を抱え、前線へと跳躍する。

第二幕の始まりだな。

 

 

(弾が……足りない)

私ーーメドヴェーチ11ーーは火力投射を続けている。

何発の25㎜弾を撃ったのか。

少なくとも、1000発以上は撃っている……かな?

(向こうも、そろそろ弾切れ……だよね?)

視線を横へ。

やや離れた位置では、メドヴェーチ2が涼しい顔で対物砲を撃っている。

……余裕そうだ。

互いの周囲に散らばる空薬莢は、数える気すら失せる程の数だと言うのに。

(それだけ撃っても、減らない)

砲兵は職務放棄なの?

つい数分前に、近接航空支援を担当していた部隊が撤収したし。

理由は、政治的懸念。

外国からの、核攻撃阻止だとか。

(余計な事をする阿呆……)

善意なんて、使用済み避妊具(コンドーム)以下の価値しか無いのに。

それとも、アレなの?

見返りとして、土地や技術を要求?

だとしたら、なんとも前時代的思考としか言いようがないよ。

かつて、“世界の警察”を自称した程の超大国が、落ちぶれたものだ。

自らが嫌った、某共産主義国家(アカ)と同じ所まで墜ちたのだから。

『メドヴェーチ11』

「何か?」

『補給物資』

直後、私達の間にコンテナが突き刺さる。

「……弾薬箱?」

『メドヴェーチ1からの支給品。これで暫くは足りる筈』

言いつつ、メドヴェーチ2はコンテナからの補給を行っている。

確かに、中身は大量の弾倉みたい。

有り難く、受け取ろう。

徹甲弾。

徹甲焼夷弾。

徹甲榴弾。

貫通力と、殺傷力の折衷案。

貫通力だけでは、魔獣は殺せない。

殺傷力だけでは、魔獣の外殻を……外皮を破れない。

だからこそーー

弾倉交換。

ボルトを引く。

初弾が薬室に収まる。

再び、死を与える力を。

照準線が示す、死への道標を。

銃爪を引く。

ーー確実な……いや、確実に少しでも近い、死を与えよう。……折衷案を以て。

放たれた3発の砲弾は、回転し……一体の魔獣へと向かう。

頭蓋に当たり、鮮血と肉片が舞った。

結果は……成功。

『集中力が切れている。補給兵に転向する気?』

メドヴェーチ2の声が耳に響く。

補給兵に転向……楽は出来そう。

兵站管理は狙撃のそれよりは……きっと楽。

飽くまで、個人の感想だけど。

(でも、暗に死ねと言われている……)

メドヴェーチ2は私に対して、当たりが強いから。

「了解。掃討に戻ります」

誰だって、死にたくは無い。

精々、給料分の仕事をしようかな。……1ルーブルたりとも、貰った事無いけど。

照準修正。

射撃。

直撃。

照準、変更。

射撃。

繰り返す。

弾倉が空になるまで。

射撃し、照準を合わせ直して、また射撃。

やがて、遊底が後退。

弾切れの合図。

弾倉交換。

ボルト解放。

射撃、再開。

『メドヴェーチ1よりメドヴェーチ隊各員へ』

同時に部隊長の無線。

『崩壊した前線は40%再構築完了。だが、火力支援が圧倒的に不足しているようだ。メドヴェーチ6、砲兵のケツを蹴り上げてやれ』

『既に限界です。近接航空支援については……重爆であれば、数分で可能かと』

重爆ーー重爆撃機ーーは、一時的な火力はあるが、継続性は無い。

『……陸支隊は?』

『司令部に問い合わせます』

メドヴェーチ6の声が途切れーー

『……“運動会”は完遂。現在帰投中。弾薬補給の為、少なくとも半日は出撃不可能』

『アレの指揮官は“中佐”だ。補給については1時間で終わらせる筈だ』

……整備班が過労死しない?

保守整備部門を酷使するのは、根本的な組織体制に問題有り……の筈。

いや、昔から東欧国家は人を酷使するけれども。

『ーーだが、前線兵士の士気に疑問は残るな』

一部では戦場の女神とも呼ばれる砲兵。

砲兵がもたらす安心感は士気に影響するね。

『メドヴェーチ6、重爆の要請。荷物は収束

徹甲焼夷弾(CAPI)。速達便でな』

故に、安心感の提供が必要、と。

『了解。爆撃座標指示の提示を』

『樹海外端。間違えようが無いだろう。俺達は時間稼ぎだ。中佐の凱旋飛行に花火を贈答する』

(……爆撃が花火か)

軽口を言える程度には、私達に余裕があるわけだ。

まぁ、弾薬が切れるまでは……かも知れないけど。

じゃ、仕事だ。

細胞仮死状態、限定解除。解放率15%。

視神経、脳神経を重点的に強化。次いで、腕力強化。

傍らに置いたコンテナから、もう1挺の狙撃砲を取り出す。

今まで使っていた物と同じ、25㎜口径半自動式狙撃砲。

初弾装填。

双方の照準器機能変更。

額にかけた眼鏡(ゴーグル)にも似た装置を掛け、照準器と有線接続。

視界に赤い放物線が投影。

予想弾道線だ。

弾種は、徹甲焼夷榴弾(HEIAP)。

強化した視力を以て、弾着予想点を視(・)認(・)。

距離は凡そ5000m。

信管は充分に作動する。

射撃開始。

弾着は確認せず、速射し続ける。

弾薬(タマ)は充分。

砲身は赤熱。

まだ、大丈夫。

射撃精度は気にしていないのだ。

白熱して、焼け落ちるまでは……撃てる。

予備の砲身も弾薬と一緒にあったし。

『重爆が戦域に到着。弾着予想時刻まで約600』

メドヴェーチ6の状況報告が耳に届く。

(600秒ーー10分か)

止まる遊底。

弾倉交換。

『メドヴェーチ11、残弾は?』

「7割程。……1時間は保ちます」

『上々。気にせず消費して』

「補給要請はしてあるんですね」

返答は無い。

答えるだけ野暮、という事だろう。

横目でメドヴェーチ2を一瞥。

『仕事に戻れ』

対物砲と迫撃砲の併用。

相変わらず、どういう手腕なのだろう。

常識的に……というか、考えるまでも無く、併用できる物じゃなーー

(いや、出来る)

かつて、電子制御式の連発式銃器を専門としていた会社があった。

その会社はとうに潰れているが、系譜は途絶えていない。

つまり、電子制御式の迫撃砲を使用しているのだろう。

それならば、弾着観測を対物砲の照準器で、操作は神経伝達のシナプスを利用して可能。

やっている事は、医療用操作端末(BMI)を疑似再現しーーというか、現行世代の軍用兵器用操縦機構(ArmyManeuverSystem)を機器無しで行っている……という事だ。

尤も、こんな馬鹿げた事をする以上、脳神経への負荷は高いのだが……。

(やっぱり、どういう手腕?)

強化個体世代的には、私と変わらないのに。

……いや、第7世代だからこそ、か。

再生能力と自己適応性が著しく向上しているから。

(従軍期間も私より長いし、そういうことか)

ーー最適化済み。

端的に言える答え。

そして、これ以上語るべくもない答え。

経験は、越えられない“壁”だ。

『残り300』

時間は半分。

遊底が止まり、

白熱した砲身が溶け落ちる。

弾倉を弾き飛ばし、砲身の固定を解除。

交換。

薬室閉鎖。

初弾、装填。

火力投射を再開。

乱れ飛ぶ砲弾が描く軌跡。

それを視認する暇は、相変わらず無い。

足止めになっているかすら怪しいが、続けるしかない。気休めだろうと、前線の兵士達にとって、火力支援は心強いものらしいから。

『残り100』

遊底後退、停止。

弾倉交換。

再開。

銃身が紅く染まる頃、喧しい音が聴こえる。

爆撃機の音だ。

『こちらДм-1。夢を届けに来たぞ』

Дм……Дед Мороз(ジェド・マロース)か。洒落た符号だね。

『了解。子供達は就寝中です』

『好都合だ。迅速に行動しよう。各員、プレゼントは持ったな?』

『『『『Да』』』』

『では諸君!良い子達に祝福を!悪い子達に絶望を!!さぁ、配達の時間だ!!』

『『『『Ураーー!!』』』』

爆音を響かせ、爆撃機が飛んでいく。

その軌跡から、雨が降る。

“雨”は大地を濡らーーさず、爆ぜた。

煌々と燃え上がり、炭化していく魔獣の大群。

ただの焼夷弾であれば、致命傷には至らない。

しかし、マローズ隊が降らせた“雨”は、“徹甲焼夷弾”。

魔獣の硬い外殻を貫き、内部から焼き尽くす。

如何に強靭な奴らと言えど、内蔵強度は

普通の獣と然程変わらない。

故に、体内(なか)から、焼かれて絶命。

不味そうな魔獣の外殻包み焼きが出来上がる……と言うわけ。

肉が焼ける匂いは、魔獣達にとってはご馳走の合図。

焼き上がった同胞に食らい付き、香ばしい(かもしれない)肉を貪る。

早い者勝ちの晩餐。

『第二攻撃隊、到着!!』

『子供達が起きちまったぞ!プレゼントがねぇと大騒ぎだ!!』

『了解。起きちまった悪い子には……眠ってもらおう』

『永遠になぁっ!!』

再び、“雨”が降る。

新たなご馳走が出来上がり、晩餐会は続く。

(……爆撃機乗りの精神……イカれてない?)

馬鹿や阿呆、腑抜けの集まりだとばかり思っていたのに……。

自分達の本領故か。いや、近接航空支援の代替なのだが。

『メドヴェーチ2、11。贈り物だ、受け取れ』

直後、二個目の弾薬箱が地面に突き刺さった。

メドヴェーチ2の要請だろう。

『メドヴェーチ11。何秒あればいい?』

何秒……。弾薬の補充と再装填の所要時間か。

「10秒」

『了解。……後、緊急退避の準備も』

「何故ですか?」

疑問を返しつつも、弾薬の回収は完了。

やや遅れて、弾倉の交換も。

『ヤンキー産爆撃機の第二波が来る』

「えぇ……」

まだ来るの、あの保安官気取り。

いや、まぁ……後詰めだろうけどさ。

正確性の無い予想を立てつつ、射撃再開。

『弾薬補給完了。1200秒の火力支援後、後方へ退避。理解できた?』

「はい」

『上々。メドヴェーチ1、1200秒で撤退して』

『了解。上はヤンキー第二波は素通りさせる方針だ。東部方面は全軍撤退中。俺達は殿。逃げ遅れはするなよ?』

『通信終了』

「肝に命じます」

無線終了。

遊底後退。

再装填。

射撃再開。

無線周波数を共用へ。

『急げ!死にたいのかっ!?』

『うるせぇ!これで全速なんだ!!』

『殿は何やってんだよ!魔獣の勢いが収まらねぇぞ!?』

変わらず、前線は混乱しているらしい。

私達への愚痴ばかり。

当然か。

(残り700)

眼鏡の隅に写るタイマーの時間。

弾薬は使いきれそうだ。

『つぅか、どんだけ後退すればいいんだ!』

『知らねぇよ!』

『上のクソ野郎共がぁっ!!』

情報統制もされているらしい。

現在までに使用された水爆の最高火力は……確か半径20kmぐらいだったか。

記録上、最初期の対魔獣戦に於いて多用された筈。

それ以降は、費用対効果のあまりの悪さから、ユーラシア大陸の国家群は使用しなくなった。

今回は……間引きが目的故、利用する。

上の考えは、そういう事だろう。

(他の地域はどうなっているのやら……)

弾倉を交換しつつ思う。

“雪崩”は旧欧州、地中海近郊の国家群にも同時多発的影響がある筈で、謂わば周期的に起きる天災。

自国の事で手一杯なのは自明の理だが、今後の事も考えると重要ではある。

というか、政府や軍上層部的にはそっちが重要だろうけど。

一兵士に政治なんて、語れるものでは無いが。

『残り200』

最後の弾倉を装着すると共に、メドヴェーチ2が告げる。

後少しだ。

一息に残弾を吐き出す。

ある程度の足止めになる程度の死骸(撒き餌)を作り、弾倉を落とす。

融け落ちそうな砲身は最後の予備と交換、コンテナ内に二挺の狙撃砲を格納。

そのまま、コンテナを背負う。

自衛用の突撃銃だけを手に持ち、メドヴェーチ2の方を確認。

既に、巨大な兵装コンテナを背負い、手には突撃銃。

『時間。行くよ』

短い無線と共に、私とメドヴェーチ2は空を舞った。

 

 

同時刻ーー戦線最後方装甲列車上

俺ーーメドヴェーチ1ーーは機銃座に付いていた。

足止めをしているとはいえ、魔獣が来ないわけではない為だ。

尚、既にメドヴェーチ隊の大半は列車内に集まっている。

合流できていないのは、メドヴェーチ2と11の二名。

『爆撃機編隊が戦域に侵入』

メドヴェーチ6の無線を聴き、空を一瞥。

くの字に似た機体と……至極一般的な四発機らしき機体の混成編隊が確認できる。

(今度は、“精神”と……“空の要塞”か)

第一波で多数の機体が撃墜されたが、アイツらは機体名に自国の地域名が付けられる程度には製造価格と維持費用がかかる金食い虫であり、第二波で機数が少ないのは理解できる。

その穴を埋める為に用いたのが、“要塞”の方というのも、まぁ納得だ。

既に数世紀は前の機体を幾度も近代化改修、補修した骨董品だが、航続距離と積載量の観点から言えば、今回の運用は概ね適切と言える。

(時間だな)

機銃座から離れ、列車内に滑り込みつつ、扉を閉める。

直後、樹海から複数の閃光が迸り、空に爆炎が煌めく。

燃え盛る鉄塊が墜ちる。

しかし、十数発の爆弾も落ちーー

ーー樹海上に“太陽”が誕生。

核の炎、と呼ぶべき物。

衝撃波が俺達を襲い、列車が大きく揺れた。

巨大な火球が樹海を焼き、数える気にもならない量の魔獣を塵にしているのだろう。

「隊長……メドヴェーチ2、11はどうなったのでしょうか……」

心配そうに言ったのは、メドヴェーチ10。

コイツも大概、心配性か。

「すぐに戻る」

簡単には死なん。

……と、言うより殉職していたら、まず友軍に甚大な被害が出る。

二人とも第7世代以上の個体だからな。

「ですが……」

尚も食い下がるが、遮るように口を挟む奴がいた。

「随分と余裕だな、隊長」

メドヴェーチ8だ。

にやけたような表情から察するに、碌な事を言わないだろう。

「内心、泣いてんじゃねぇの?恋人が塵になっちーーごふぁっ!?」

案の定、というべきだろうか。俺を侮蔑するような言葉を吐き、背後から蹴り飛ばされた。

「黙れ。不愉快だよ」

蹴り飛ばした相手は、メドヴェーチ3。

(コイツが本気でキレるのは珍しいな)

まぁ、キレた理由は何となく分かるが。

「事実だろ。水爆に巻き込まれちゃ、いくらメドヴェーチ2でもくたばーーっぅぐぉっ!?」

憎まれ口に腹が立ったのだろう。

起き上がりかけたメドヴェーチ8の顔面に回し蹴りを叩き込み、

「まだそんな事を言うの?」

一切の感情を排除した、冷たい声と共に、踵落としで床を舐めさせる。

「止めろ、メドヴェーチ3!」

「それ以上は駄目だ!」

流石にマズイと考えたメドヴェーチ7、9の両名が止めに入ろうとする。

「大丈夫☆手加減してるから♪」

いつもの調子で、そう返す。

確かに、加減している筈だ。でなければ、メドヴェーチ8は死んでいる。

「それにさ。メドヴェーチ2は戻ってくるよ、絶対に♪」

『メドヴェーチ3の言う通り』

メドヴェーチ2の声が聴こえ、扉が開く。

入ってきたのは、無表情な少女。

何時も通りのメドヴェーチ2だ。

「無事だったか」

「信用してなかったの」

やや怒っているような、そんな気がする返答。

当然の反応だがーー

「どうかな」

一先ず、返答は濁そう。

行動指針の方が重要だ。

「……再会を喜ぶ暇は無い。メドヴェーチ11も早く入れ。そして、扉を閉めろ」

バツが悪いのか、入ってこないメドヴェーチ11を入れさせ、扉を施錠する。

「今後の行動について話そう」

「エリアU.S.の核攻撃により、一時的に魔獣の攻勢は抑えられている。が、この状態はもって二日程度だろう」

「マジかよ……。あんだけ核落として二日だけか……」

頭を擦りながら、メドヴェーチ8は言う。それなりに効いたようだな。

「それは“雪崩”全体を基準とした場合だ。俺達の担当する東部方面に限れば、鎮静化するだろう。……試算だが、数億ぐらいは消し飛ばしただろうからな。……つまり、中央戦線や西部戦線に送られる可能性が高い。戦域移動も視野に入れておけ」

『あの……その事なのですが……』

メドヴェーチ6から、無線が入る。

「何だ?」

『……エリアU.S.Sの戦略爆撃機編隊がユーラシア中央樹海外縁の各戦域へ核攻撃を敢行中のようです』

もたらされる情報は馬鹿げた事実。

元よりあの国は力押しが普通だが、今でもか。

「纏めて掃除しているわけか。そうなると、適正規模に減らすまでの時間は短縮されるな。お前ら、一週間程度で帰れるぞ」

「一週間?隊長、冗談は止めてくださいよ」

今度はメドヴェーチ10が口を開く。

ある種の模範的反応だ。

「通常は数ヶ月の防衛戦だな。が、今回は待ての出来ないヤンキーが使った玩具が強過ぎた。暫くは樹海が立ち入り禁止区域になる」

第1、第6.5世代以下の強化個体は、放射能の影響を受ける。

それ故に、《Abyss》由来の植物が浄(・)化(・)するまでは、樹海に近付けなくなる。……俺やメドヴェーチ2等の極一部の個体や学者以外は。

「まぁ、それも“雪崩が収まってからだ。さぁ、迎撃準備だ。メドヴェーチ2、3、5、11は火力支援。メドヴェーチ6は情報収集と無線管制。残りは銃座に着け。後、防護マスクを忘れるな。内部被曝は強化個体でも起こる」

部隊員を一瞥。

意見のありそうな奴はいない。

「異論は無いようだな。行動開始だ」

ブリーフィング終了。

各々が行動を再開する。

(さて……面倒事が起きそうだ)

嫌な予感を感じつつ、俺は防護マスクに手を伸ばす。

必要の無い、と思いつつも。

体面、という物は重要だからな。

 

 




ーー以上、Лавина~Два~でした。

まずはお久し振りです。
非常にモチベーションが上がらない日々が続きまして、ここまで遅くなりました。
まぁ、今も仕事でストレスフルな訳ですが。

沈む話はこのくらいにして。本編の補足等々に移りましょう。
と、言っても……初っ端から水爆の大安売りです。
墜落した機体は精神の系譜、とボカシましたが要するにB-2とかB-21ですね。“精神(スピリット)”は愛称。ミリヲタ諸氏にとっては基礎知識でしょうけど……。
配備から数世紀も経てば骨董品にもなります。ましてやステルス機は維持費も掛かるから……。
空の要塞の方も、《B-52 ストラトフォートレス》の事。どれだけ長生きなのやら……と、言いたいところですが、系譜の別機体です。流石に老兵に鞭打ち過ぎになる。大体、500年程度は現役という化物が誕生してしまいます。
因みに《Abyss》由来の植物は、放射能ごときで枯れるほどヤワではありませんし、数年で無害化させますが、核爆発で消し飛びはします。
とは言え、魔獣相手の核攻撃は、大陸を丸ごと消し飛ばす前提の運用が必要。
米国保有の水爆なら、何発いるかね……。

『そんなことをすれば大地が汚染されるぞ!』※元ネタ:某パイロット

……まぁ、そうなれば、めでたく“核の冬”というわけです。サ〇コフレームみたいな気の利いた物も、本作にはありませんし。
まぁ、参考にしたのは40~50年代のヤンキーですから。
核兵器万能論、ミサイル万能論…………色々か。所謂、逆無敵の人状態か。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。
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