※この作品はR-18です。

名残の雪   作:天城 悠理

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■第八話 『別離』 <中編>

 墓参りが済んだ後、ライドウは雪に『良かったらお茶でも』と誘われ、ホテルの彼女の部屋に来ていた。

「どうぞ、ライドウ様」

「いただきます」

 ケーキと共に珈琲を振舞われ、カップに口をつけるライドウ。そして世間話の一環として、『そう言えば』と話し出す。

「少し前、このホテルに来たことがあるんです」

「知っています。第二次震災復興五記祝の催しがあった日でしょう?」

 ただの雑談であったため、話に花が咲くとは思ってもみなくて、予想外の返しにライドウは目を瞬いた。

「え……?」

「わたくしあの日、會場におりましたのよ」

「それは知りませんでした」

 数ヵ月前、サイガというサマナーが第二次震災復興五記祝の参加者を生贄にし、とある儀式を行おうとした。

 死人使いである彼は、黄泉より参加者の親しい者を呼び寄せ、『共にあの世へ』と誘わせることで魂を引き抜こうとしたのだ。

 ライドウは激戦の末、サイガを退けはしたものの、多くの犠牲を出した。

「雪さんが無事で良かったです」

「わたくしの前には誰も、現れませんでしたから」

 それは彼女に取って、落命した親しき人がいないという意味なのだろう。ライドウの前には母親が現れたのだが、雪はそれを知っていたらしく、その日のことを続けて話した。

「ライドウ様はあの日、お母様に会われたようで……帝都も母様も護りますと、そう仰っていましたね」

「ええ、言いました」

「……お二人の絆が、とても羨ましいです」

「雪さん……」

 捨て子であった雪は、親の顔を知らない。そのせいで母親の話が出て気落ちしているのかと、ライドウが気を揉んでいると、雪は笑って顔を上げた。

「ライドウ様。その後あなたは、使役している悪魔を全員解放して敵地に赴きましたね。……召喚主がこの世を去った場合、管に封印されたままだと、彼等は自由になれないからと。彼等のことを思い、危険も顧みず」

「そんな自己犠牲のつもりはありませんでしたが……雪さんは本当に、よくご存知なのですね」

「……仲魔が心配していましたよ。手駒が一つもなく、あなたはどうやって戦うつもりなのかと。わたくしも同じように思い、最後まで拝見させていただきましたの。あなた達の戦いを」

「そうでしたか。無様な姿を見せてしまいました」

 あの日、サイガと共にドームから落下し、彼がライドウの下敷きとなったのだ。故に『勝った』とは言い難く、ライドウは苦笑した。

「いいえ、とてもご立派でした。それに、あなたが無事でいてくれたことが何よりです」

 雪はライドウの手を取り、そして滔々と言葉を紡いでいく。

「あの日からずっと、あなたと話してみたい。そう思っておりました。……数日前、帝都を訪れた日。わたくしはあなたに会えたらと、そう思いながら筑土町を歩いておりました。そしたらお会い出来たのです。運命だと思いました」

 この話を聞き、ゴウトなら『会えたのは偶然かもしれないが、会えないかと思って来たのなら、それは偶然ではない!』と言いそうであるが、ライドウは『それ程の情熱を持って会いに来てくれたなんて嬉しい』と。そう素直に喜んでいる。

「お母様や仲魔を、とても大切にされているあなたとお話してみたくって。わたくしのことも、そんな風に思っていただけたらと──……」

 言葉の途中で、ふと雪は自分の気持ちに気付いた。これまで漠然と『彼と話してみたい』と思っていたが、それは自分も彼に大事にされてみたいと。そんな想いからくるものであったのだ。

 ずっと自分の居場所が欲しかった雪に取って、彼への想いは家族に対する憧れであり、そして今は──。

(あなたはわたくしが、何より欲しいと思うものを……与えてくれる人。でも……)

「……雪さん。あなたも俺の、大切な人ですよ」

 ライドウは雪の手を引き寄せ、抱き締めた。

「ライドウ様……」

 背に腕を回し、雪がぎゅうっと抱き返してくる。だが何故か、彼女の涙が肩を濡らしていた。

「……どうして泣いているのです?」

「……嬉しくて」

 首筋に顔を埋め、すりすりと頬ずりをしてくる雪の背を優しく撫でさすった。そうしていると徐々に落ち着きを取り戻したのか、雪が顔を上げ、潤む瞳で見詰めてきた。

「…………」

 細い顎を指で捉え、唇を重ねていく。

「あっ、んぅ……は、あ……」

 目を閉じて口付けを受け入れる雪の肌に指を滑らせながら、ライドウは彼女の着物を脱がせていった。

「ん……はぁ……あ……」

 部屋はカーテンが開いていて、日中ということもあり煌々としているが、珍しく雪の口から抗う声は出てこない。唇を薄く開き、ライドウの唇を擽るように舐めている。

「ふぁ、あ……、ライドウ様……んっ、んは……ぁ……っ」

 拒否するどころか、雪はいつになく積極的で、両手で彼の頬を包み込み、その口内へと舌を捩じ入れ、奪うように、激しく吸い立てていった。

「ぁ……ふっ、んん……っ、はぁ……あ、んむぅ……ッ……」

 ふっくらとした舌腹による、ねっとりとした愛撫。彼女の欲しがる仕草に、ライドウの身体が熱くなり、下半身に血が集まっていく。

「雪さん……そんなに求めてくれるなら、俺のを……」

 ライドウは唇を合わせたまま自分も裸になり、雪の頬を撫でながら甘くそう囁いた。

「あぁ……はい、ライドウ様……」

 雪は彼の首筋、鎖骨、胸へと舌を滑らせながら、その場に膝をついていき、己の乳房を持ち上げてライドウのいきり勃つ肉棒を包み込んだ。

「っあ……」

 柔らかな乳圧が齎す優しい快感に、うっとりと息が漏れる。

「昨日……ライドウ様がわたくしの胸を使ってこのようにしてらしたけど、こうで合っているかしら……?」

 雪はライドウに尋ねかけながら双乳を上下に擦り動かし、そして肉竿を舐め上げた後、亀頭溝の筋に『ちゅっ』と口付けた。

「んっ……! は、はい……それで、合って……います……っ」

 彼の言葉を聞き、雪は濃艶な笑みを浮かべて逸物の先端を咥え込んだ。あまりの太さに、口端にピリッとした痛みと、顎の痺れを感じながらも頬を窄め、乳房を揺らして剛直の根元を刺激しながら口淫を開始していく。

「あ、む……っ、ふぅ……ん、ンむ……っ!」

「ぅは……! ぁっ……」

 ねっとりとした頬裏粘膜が肉竿を扱き込み、亀頭をぬらりとヌメる舌がねぶり上げる。そんな堂に入った口での奉仕に翻弄されて、ライドウの理性がどんどん蕩けていく。

「っ、あ……! くッ……」

「はぁ……、ぁ……、んぅっ……!」

 ライドウの甘声が鼓膜を震わせ、情欲を煽り立てられた雪は、舌で隈なく肉幹上部を舐め上げながら、下部をもっちりとした乳肌で激しく摩擦していった。

「あっ、はぁ……ッ、あぁ……ん、ちゅぱっ、ちぅ……っ、ちゅく……ッ!」

「ッ、ああ……!」

 情熱的な愛撫を受けて、快楽の電流がビリリと背骨を伝って脳髄を直撃する。そのせいでライドウは、早くも限界を感じたが雪の動きが止まることはなく、彼女はずっしりと重量感のある乳房で剛直の根元をやわやわと揉みしだき、湿り気を帯びた上顎の綿密な襞で、亀頭のぷりぷりと弾力のある箇所を強く優しく刺激し続ける。

「ん……っちゅ、んは……んっ、ンぶっ、れろ……ッ、ぴちゃっ……」

「は、ぅう……ッ」

 雪の﨟たけた技巧に腹奥がずくりと疼き、陰嚢が震えあがる。その微細な変化を肌で感じ取ったのか、雪は肉竿の根元に口付けるかのようにして、口淫を深めていった。

「ン……ッ、ぐううぅ……っっ!」

「っあ……!」

 ただでさえ野太い逸物が射精を目前にし、膨らみ切っているため、雪は苦しげに眉を寄せたが、それでも懸命に深く深く呑み込んでいき、喉奥をしっかり使って『じゅぼじゅぼ』と卑猥な水音を立てて肉竿を扱き込み、彼を絶頂へと追い上げていく。

「ンぶ……! んっ、ぐ……、ンむぅ! じゅぱ……! じゅるッ、ジュブ……ッ!」

 ぬるぬると、唾液いっぱいの口内で激しく肉幹全体を舐めしゃぶられ、吐精感に見舞われたライドウは、たまらず腰を前後に突き動かしていった。

「っ、雪さん……!」

「ンぼ……ッ!? ん……ぶうううぅぅぅ……ッッ!!」

 不意に気管を塞がれ、胃から食道にかけてを細かく痙攣させる雪。

「ぅ……え゛、おぇ……、え゛え゛え゛……ッ!」

 えずくような感覚に、思わず涙を溢れさせるが、限界まで昂ぶったライドウが抽送を止めることはなく、彼女の口内を突き犯していく。

「や……ッ! あ゛ッ、ぉ、えぇ……っ、え゛ぇ゛ぇ゛……ッ!」

 息を吸い込もうとして、パクパクと唇を開閉させるものの、丸々と大きく膨らんだ亀頭が喉奥の窪みにガッチリと吸い付くように嵌り込んでおり、雪は気管が圧迫される苦しみに、意識を朦朧とさせていった。

「……ぅ、お、ぁえぇぇ……、ぁ……っ……」

 酸欠状態に陥った雪の反応が薄くなるが、凄まじい快感に限界まで猛り勃った逸物で、ライドウは彼女を激しく穿ち抜いていった。

「うぐぅッ!? ぅお……、え゛……ッ、あ゛ぁ゛ぁ゛……ッッ!!」

 絞り出すような悲鳴が齎す、小刻みな震えと収縮に、耐えることなくライドウは、脳髄でバチバチと火花を散らしながら灼熱の衝撃を爆発させた。

「く……ッ、ああ……!」

 パンパンに赤く腫れあがり、充血した亀頭がビクビクと脈動し、派手に白濁を噴射する。

「おぶ……ッ! ン……ぐぅ、ンぶ……ッ、ン……ぐぅぅううう……ッッ!!」

 熱い精液が喉の奥深くへと直接注ぎ込まれる苦しみに雪は嗚咽し、嘔吐感に胃を戦慄かせながらも必死に『ゴクゴク』と音を鳴らして、その全てを嚥下した。

「ぁ……おお、ぉぉ……っ、ごくっ……、ん、ごく……ッ……!」

「ぅ……、はぁっ……」

 陰嚢と肉竿とを繋ぐ、精輪管に残った最後の一滴までも出し尽くし、腰を引いて離れていく彼の逸物と、雪の唇との間で透明の橋が架かる。

「……ぁあ、は……んぅ……っ……」

 喉奥を犯された雪は、灼けるような熱さに耐えながら、鈴口に唇を密着させて、精の滴りを丁寧に舐めこそいでいった。

「は……ぁぁ、ん……、んは、あ……あぁ……っ」

「っ、雪さん……」

 物欲しげな面持ちで熱心に肉竿に付着した雫を舐めこすられ、ライドウは滾るに任せて彼女を抱き上げ、ベッドへと連れていった。

「っ、あ……はっ……、ライドウ様……」

「上に……」

 寝台で身を横たえた後、熱く甘い息を漏らす雪の腰を引き寄せ、自身の上に跨らせるライドウ。彼女の重さが、肌に心地よい。

 騎乗位と呼ばれる姿勢に戸惑いながらも、雪は彼の肉竿を膣口へと導くため、腰を前後に動かしてみた。

「あぅ……っ、あぁあ……ッ……!」

 花弁に挟み込まれた肉棒の、張り出したカリの部分に突起が引っ掛かり、びくりと身を跳ねさせる雪。

 女の身体で最も過敏と言われている箇所への刺激に腰が引けてしまうが、『動かなければ入らない』との思いでおずおずと抽送を続けていく。

「っあ! んっ、ああっ……はッ、あぅぅ……!」

 腰を振れば振るほど快感が強くなり、とろとろの蜜が溢れて逸物を濡らしていき、肉芽への摩擦が増していく。

「ああっ、だめ……! っ、ぁぁあああ!!」

 抽送を止めなければと思った時には、もう遅かった。目の奥で眩い光が明滅したと思った瞬間、雪は赤く充血した肉豆を、ヒク付かせながら達していった。

「っ……あ、くぅぅううううッ!!」

 背を大きく仰け反らせた雪の割れ目の内部から、小刻みな震えが伝わってきて、彼女が絶頂を迎えたのだということが察せられる。

「俺のを使って気を遣るなんて……雪さんは本当に、いやらしい人ですね」

 嬲る言葉を吐きつつライドウは、彼女の尻たぶをむんずと掴み、花弁を更に広げさせ、肉幹との密着度を深めていった。

「あっ、あン……! ちがっ……違います……! わたくし、そんなつもりでは……っ」

「では、どんなつもりですか?」

 ライドウは雪の臀部を掴んだまま軽く持ち上げ、どろりと濃い愛液を垂れ流す肉壺へと自身を埋めていった。

「ひぁ……っ!? あ……やぁああああッッ!!」

 絶頂の熱が醒めやらない内に、深々と猛り勃つ剛直を捩じ込まれ、一突きで潮を噴いてしまう雪。たまらず腰を浮かせ、逃れようとするが──グイとライドウに太ももを押さえ付けられ、その動きを阻まれる。

「やめっ……、あぁあぁぁぁーーーッ!!」

 挿入を深められるたび達してしまい、過度な快楽にほろりと涙を零す雪。しかしライドウの責めは止まることなく、グイグイと彼女の身体を己へと引き寄せ、亀頭で子宮口を抉り込むと同時に、恥骨で肉豆をコリコリと刺激する。

「や……ぁ、いやッ! あ……っ、ああぁぁぁッ!!」

 中と外とで同時に絶頂を迎え、全身を震わせる雪の口から甲高い悲鳴が漏れる。

 見ると彼女はツラそうに眉根を寄せているが、しかしまだ繋がったばかりだ。これで終われるはずもなく、ライドウは静脈の浮いた逸物で、ゴリュゴリュと膣壁全体をこすり立てていった。

「ひ……ぃい! もっ……だめぇ! くはぁぁあ……!!」

 叫ぶ雪の白い肌に、幾つも玉のような汗が浮いていて、熱のせいかいつもより彼女が纏う沙棗花の香りが濃い気がする。

 媚薬が含まれているかのような淫靡なその匂いに、くらりと眩暈を覚えつつも、ライドウは目の前で大きくたわんで揺れる乳房を鷲掴みにして腰の動きを速めていった。

「ぅは、あ……! ライドウ様のぉ……意地悪っ……! んっ、いやああぁぁっっ!」

「心外です」

 三箇所同時に責め上げているにもかかわらず、ライドウは悪びれもせずにそう言ってのけ、柔らかな乳肉に指をずぶりと沈めながら、その中央の突起をこね回した。

「ひぁ!? あっ……あーーーーーーッッ!!」

 性感帯の全てを捉えられるという凄絶な快感に、目を大きく見開きながら、雪は全身を戦慄かせ、深々と絶頂へと達していった。

「……くッ!」

 雪が気を遣るに伴い膣肉が強く収縮し、張り詰めた肉幹が喰い締められる。その柔肉は逸物全体を食い縛ったままぞよぞよと蠕動し、射精を促してくる。

 ライドウは欲望に抗い、滾る肉棒で彼女の肉穴をまさぐり、パンパンと高らかな音を響かせながら、腰を激しく打ち付けていった。

「うは、ぁ……! あうぅ……っ、ひぁッ、はっ……、あぁぁ……!」

 雪は絶頂を繰り返しているが、快感に快感を重ねられたせいで半ば意識を手放しており、白痴的に緩んだ面で、涎を垂らしている。

 そんな、とろんと蕩けた無防備な様はとても官能的で、腹奥から込み上げてくる劣情に身を任せ、ライドウは彼女の身体をもみくちゃにしていった。

「や……ッ! ひっ、……い゛ぃぃぃ……ッ!!」

 突き犯される子宮と、すり潰される肉芽。そして荒々しく揉まれる乳房という激しい責めに、雪は声にならない悲鳴をあげたが──彼女の肉の柔らかさ。そして温度を身体の至る所で感じられて、昂奮を焚き付けられたライドウは、尚も手と腰とを動かし、愉悦と嗜虐の悦びに身を震わせていった。

「はぁっ、ああ……!」

 手に吸い付くかのような、もっちりとした乳肌の感触。ぐにぐにと恥骨を押し潰してくる肉豆の動き。とくとくと息衝きながら、優しく激しく抱き締めてくる柔肉の脈動。それら全てがライドウの欲を煽り立て、射精衝動を昂ぶらせる。

「く、ぅは……っ!」

 脳髄が煮え滾り、悪寒と発熱とが交互に襲いくるかのような感覚。その狂おしいまでの猛りを全て、彼女にぶつけていく。

「はぁ、あ……くぅ……ッ!」

「ぅはあ……! あっ、あーーー……ッ!!」

 絶頂を味わい続ける雪の柔肉が、大きくうねって肉竿全体を揉み込み、昂奮の極致へと追い立てていく。

「はぁ……ぁ、あ、あ、……はっ、ライドウ……様っ……! んっ、……あぁ……ッ……!」

 トドメとばかりに、雪の呼ぶ声が耳に届き、胸を震わせる。たまり兼ねてライドウは、陰嚢を細かく痙攣させながら、精輪管を勢いよく駆け上がってきた白濁を鈴口から噴出させた。

「うく、あぁ……ッ!」

 膣奥の窪みに、ぐっつりと亀頭が嵌り込んでいるため、精液が胎内へと直接注ぎ込まれていき、その大量の精が齎す刺激と熱さに、雪もまた追い上げられて達していく。

「くは……ぁ、んん……! んぁ、は……ッ、ああああっっ!!」

 甲高い嬌声をあげた後、雪は『もう耐えられない』とばかりに、ぐったりと身体の力を抜いていった。

「ん……んぁ、はぁ……」

 脱力して倒れ込んできた雪をライドウは抱き留め、連続絶頂により激しく高鳴る胸の鼓動が早く落ち着くようにと、掌で優しく背を叩いてやる。

「雪さん。よしよし……」

 『ぽんぽん』と一定のリズムが繰り返され、ゆっくりと雪の乱れた息が整っていく。

「……ん、ぅ……あ、ライドウ様……」

 僅かに顔を上げ、微笑む雪と瞳が交差する。ライドウは彼女に笑みを返し、『大丈夫ですか?』と頬を撫でた。

「……ライドウ様は、酷いです……」

「雪さんは昨日、痛みをと仰いました」

「痛いだけでは、ありませんでした……」

「なら何がありました?」

「……そういうところが、酷いと言うのですよ」

 赤くなり、唇を尖らせる雪の拗ねた仕草がとても可愛らしく、ライドウは彼女の頬をツンと突ついた。

「怒ってますか?」

「怒ってません」

 そう言いつつも、雪は小さく頬を膨らませている。

「仕返ししてくれてもいいですよ」

 頬に触れていた指を、『どうぞ』と雪の唇に軽く押し付ける。

「えっ、駄目ですよ。そんな……いけません」

「いいんですよ。俺もあなたを感じていたいから」

 『痛みを感じる時は、あなたを感じていられるから』という雪の言葉を引き合いに出し、指先で彼女の唇を擽るライドウ。

 雪は少し逡巡した後、『そう言って下さるなら……』と甘く優しく彼の小指に歯を立てた。

「これじゃ噛むと言うより接吻みたいだ」

「だって、可哀想なんですもの」

「あなたらしい」

 ライドウは笑みを深め、雪を真似て、彼女の小指を甘噛みした。

「んっ……」

「何だか、初めてかもしれないな」

「……初めて? 何がでしょうか?」

「こういう、恋人らしい時間をあなたと過ごすのが」

 そう口にすると、雪は少し驚いたような顔をした後、ぎゅっとしがみ付くかのように、抱き付いてきた。

「ライドウ様……わたくし、今日のこと……ずっとずっと忘れません……。あなたが忘れてしまっても、それでもずっと想っている……」

「俺だって、忘れはしませんよ」

 優しく雪の頭を撫でるライドウ。雪はそんな彼の姿を、脳裏に焼き付けるべく見詰めて──

(……いいえ、あなたは忘れて。もうすぐ全てが終わる。夢から醒めたわたくしには、何も残らないと思っていたけど……あなたと過ごした思い出だけは……きっと──)

「ライドウ様」

「はい?」

「ありがとう」

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