※この作品はR-18です。

性同一性障害ドスケベボディサキュバス   作:タナん

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現代の倫理観を植え付けられたサキュバスは自身の生態について悩むことが多く、自殺者も多い。

 モニターにはYou Loseの文字。

 喜ぶ日は一生ないであろうこの文字を、今日はもう何度見たかわからない。

 

 今日は久々に訪れた練習も学校もない完全な休養日だ。

 僕は朝から友人とボイスチャットを繋ぎながら格闘ゲームに興じていた。

 

「また負けた!」

『何度も言ってるだろ? 柚斗は追い詰められたら一か八かで無敵技打ち過ぎなんだよ』

 

 僕は天を仰ぐように椅子の背もたれへ倒れ込むと、師匠から僕への駄目出しが入った。

 

 彼は都内の難関進学校に通う優等生君だ。

 その頭脳は格闘ゲームでもいかんなく発揮されており、戦略やゲームシステムをかなり深いレベルで理解している。

 そのため彼の格闘ゲーマーとしての腕は僕より遥か高みにおり、僕は練習相手にもなっていない。

 

 それでも彼が僕と遊んでくれるのは、決して弱い者いじめが楽しいとかではなく、格闘ゲームはあくまで僕達の共通のコミュニケーションツールで会話するきっかけのようなものだ。

 

『そういえば葵はどうしてんの?』

 

 そんな葵の事を話題にする彼は小学生の頃、葵に振られて不登校になった友人。

 石渡蓮(いしわたりれん)だ。

 

「ん……最近はあまり話してないから……」

『え? なんかあったん?』

 

 実は一度、葵を含む友人グループ皆で学校に来なくなった彼の家を訪ねたことがあったが、その時は彼の両親を通して門前払いだった。

 今考えれば蓮がその時に顔を出さなかったのは当然だ。

 

 告白して振れられた相手と一緒に友達が家を訪ねてくれば、恥ずかしいとかいじられるとか色々思うだろう。

 振った葵本人も、友達が学校に来なくなったことがショックだったようで、徐々に元気を失っていった。

 

 その後、蓮は両親の仕事の都合で転校することになった。

 その事を朝の会で先生から聞いた僕は、放課後ランドセルを背負ったまま彼の家を訪ねた。

 

 グループでも目立たない僕は、彼からしたら沢山いる友達の一人に過ぎず、それほど仲のいい友達ではなかったのかもしれない。でも友達の少ない僕からしたら蓮は大事な友人だ。

 悲しくなった僕はいてもいられなくなったのだ。

 

 僕一人だったのが良かったのか、今度は家に入れてもらい、蓮と僕は色々なことを話した。

 

 彼は転校するからこそ告白した事。

 比較的葵と距離の近かった僕を羨ましがっていた事。

 都会の学校に行く事。

 そして、葵を自分の代わりに守って欲しいという事。

 

『葵の事、任せたぞ』

『うん……僕……頑張るよ!』

 

 何から守るんだとか、自分の事を男だと認識している葵にそれは失礼だろとか今では思うが、幼い頃特有の純粋さと中二病故に僕は本気でそう誓った。

 それから彼が転校したあとも、僕達のやり取りは続いた。

 幼い頃は電話や書き方を習ったばかりの手紙でのやりとり、携帯を手に入れてからはメール、ネット環境とゲームを手に入れてからはボイスチャットで、とやり方を変えながら続いた交流は僕達を友達から親友と言えるものに変えていた。

 

 そして今に至る。

 

 僕達共通の友人であった葵の話は当然昔はよく話していた。

 けど時は過ぎ、最近ではたまにしか話題に上がらない。

 そのたまにが、この関係がこじれたこのタイミングで来たため、僕の鼓動が大きく脈打った。

 

「まあ色々あって……急にどうしたの?」

 

 蓮の真意はわからないし、何があったかを説明する選択肢はない。

 

 まさか葵と性的な関係を持っているとは言えない。

 当時の葵は角は生えていなかったし、自分がサキュバスだといっていなかったため、蓮は葵を普通の人間だと認識している。

 もし葵がサキュバスだと知ったら、頭のいい彼の事だ。色々推測できてしまうだろうから葵がサキュバスだという事は言うべきではないだろう。

 

 そしてサキュバスや性的な事を抜きで、今の僕達を取り巻く環境を説明するのは難しい。

 だから僕はどうともいえない言葉で取り繕うしかなかった。

 

「えーと……観戦は考えるとは言ってくれてる」

 

 だから僕はどうともいえない言葉で取り繕うしかない。

 

『ふ~んお前ボクシングなんでやってんの?』

 

 更に蓮は僕の中に踏み込んできた。

 理由は色々ある気がするけど、ごちゃごちゃとしてどれが自分の言葉なのかわからない。

 本当に何でやってるんだろう。

 

「……葵が辞めるなって言ったから……」

『え? そんな理由? ボクシング楽しくないの?』

「……殴るのも殴られるのも好きじゃないし……」

 

 乱雑に放り込まれたおもちゃ箱から、一番目立つおおきなおもちゃを取り出すように、ひねり出した理由。

 本心には違いないけど、他人を理由にしている自分に反吐が出る。

 

『俺分かんねぇけどさ……他人だけを理由で頑張れるもんなのか?』

「その……何か頑張らなきゃって思って……」

『やっぱ葵の事好きなの?』

「そんな訳ないじゃん」

『ふ~ん』

「……」

 

 数秒の沈黙がながれた。

 大戦前のロビーの戦闘意欲を掻き立てるBGMをバックに、適当に意味のないボタンをカチャカチャ押して沈黙を紛らわせる。

 モニターに蓮の顔が映っているわけでもないのに、気まずくてモニターから目を反らす。

 

『やっぱ試合怖い?』

 

 怖い。

 

「……正直最近寝れてない」

 

 その事は親にも言っていない。

 特に隠してる意識があったわけではないけど。

 

『柚斗ってさ……ごちゃごちゃ考えすぎなんだよ。世の中意外と単純だと思う』

「何急に?」

『俺は色々あったけど葵に告白出来てよかったと思ってる。だって好きだったし』

「話のつながりが……」

『まぁ……いいわ! 今日は寝れないならとことんサンドバックになってもらうわ!』

「なに言ってんだよ」

 

 僕はふふっと軽く笑いが漏らすと、再びコントローラーを手に取る。

 

「僕は急成長中な上、リアルファイトもできるんだよ。今日中には勝つよ」

『師匠の偉大さ見せてやるさ』

 

 何年も会っていないため、今はどんな顔に成長しているのかもわからない。

 でも確かに僕達は今も友達だ。

 

 

 

 

 数日が立ち、試合が始まった。

 

 ジャブをコツコツと当ててポイントを稼いでいく。

 僕のファイトスタイルはアウトボクシング。

 

 足を使って相手に打たれないように立ち回り、ヘッドギアの上から拳を当てる。

 

 左のわき腹に衝撃が走った。

 内臓がギュっと縮こまるような感覚に、口から空気が漏れる。

 

 ボディブローを喰らってしまった僕は、身を捩りながら後ろに下がる。

 相手は僕を逃さないように、僕が下がった歩数と同じ数だけ踏み込んで、ダメージを負った左脇腹に追撃を掛けてくる。

 

 なるほど、前評判どおりのハードパンチャーだ。

 

 ヘッドギア越しにも関わらず頭がグラグラする。

 今にも飛びそうな意識を必死につなぎ止め、なんとかガード上げるがまたボディーにパンチを貰ってしまった。

 

 下がりそうにあるガードをなんとか意志の力でそのまま上げていると、そのガード越しにパンチが頭を揺らす。

 

 ロープ際まで後退した僕を仕留めようと相手が詰め寄ってくるが、ここでゴングが鳴って1R目が終了した。

 

 3分3Rでインターバルが1分。

 

 ゴングに救われた僕はコーナーの椅子にどかっと座り込んだ。

 駄目だ。まだ1R目なのに一方的にやられている。

 

「とにかく手を出せ! ジャブがないから……」

 

 セコンドについてくれた館長のアドバイスを聞きながら葵の姿を探す。

 

 

 なんでこんな事をしてるんだろう。

 

 痛いだけでこの試合に意味なんてない。

 

 実力差がこんなにはっきりしてるのに何で止めてくれないんだろう。

 

 苦しい。

 

 怖い。

 

 勝てるわけがない。

 

「……の時にクロス合わせろ。頭が下がる癖があるぞ」

 

 

 不味い途中から話を聞いてなかった。

 だけど恐ろしく正確に測られた1分は決して戻ることなく、僕は再びリングへ戻される。

 

 2R目。

 

 1R目同様試合は一方的だ。

 

 審判も試合を止めるか悩んでいるようだ。

 

 なんとか手を出したり、クリンチをして時間を稼いで止められないようにするが、ここで粘って意味があるのかと弱気になってしまう。

 

 葵の姿を探す。

 

 が、やはりどこにもいない。

 

 葵がいないのに頑張る意味がない。

 

 2R目が終了し、最終ラウンドが開始した。

 

 痛みが僕の性根を腐らせ、脳が現実から逃れようとするのか試合中にも関わらず色々な事が脳をめぐる。

 

 館長が悪い。

 しょうもない事で葵からボクシングを取り上げた。

 

 日比野律が悪い。

 仕方がない事で怒って上手く行っていた全てをぶち壊した。

 

 葵の母が悪い。

 葵をあんな歪な姿で産んだから。

 

 葵が……

 

 僕の出したフックに合わせて、相手がカウンターで僕の頬を突き刺してきた。

 かすかに僕の拳が相手に触れているが、僕の頭が吹き飛ぶ。

 

 その瞬間、何かが切れた。

 

「んぁああああ!!」

 

 足を止めて殴る。

 

 殴られても殴る。

 

 館長が何か言って気がするが聞こえない。今はただ目の前の奴を殴る。

 

 殴られて頭がぐるぐるし、腹を殴られて息が詰まる。

 

 こんな苦しい思いを僕にさせるこいつが憎い。

 

 死ね。

 

 避けられて体が泳いだ隙を突かれて殴られるが、そのまま足を進めて距離潰す。

 

 死ね死ね死ね。

 

 どいつもこいつも最悪だ。

 

 僕の邪魔をするな!

 

「ぜぇはっ……はぁ……はぁ……げほっ」

 

 そして気付けば僕は膝をマットにつき、相手は全身をマットについていた。

 

 中に押し込められた人間は倒れるまで殴り合わなければならない。

 

 口には猿轡(さるぐつわ)の如くマウスピースを咥え、自分で外す事すらできない手枷(グローブ)をつけられる。

 

 蹴りは使えず、殴るところも制限された状態で行われる、極限まで命を削りあう正方形の監獄。

 

 ボクシングは究極の不自由だ。

 

 だけど今、僕は自由だった。

 

 

 

 柚斗の試合が始まってすぐ、俺は会場を抜けた。

 

 俺が柚斗にボクシングをやめるなといったのに……

 

 リングに上がったその姿を見てあまりに悔しくて、その場にいられなかった。

 

 あいつはどうあがいても俺の手に入らないものを持っている。

 

 それを無駄にしてほしくなかったという思いは本当だったはずなのに、行き場のない理不尽な苛立ちを感じること自分自身に腹が立つ。

 

 このストレスをなんとかして吐き出したい。

 

 そのストレスを解消する手段としてセックスがしたい。

 

 俺の体は空腹時だけではなく、ストレスがたまった時もサキュバスとしての本能が目覚める様になってしまった。

 

 都合のいい相手として柚斗を頼ろうとしている自分の性根の腐り方が嫌いだ。

 

「おーい君~可愛いね」

 

 数人の男がへらへらしながら話しかけてきた。

 いつものナンパ。

 いつもなら無視する軽口だ。

 

「うぜぇ」

「は? なに? お前……」

 

 何か言っていたが、その鼻っ柱を殴りつけた。

 

 男は鼻血を吹き出しながら尻餅をつく。俺は丁度いい位置になった男の顔面を前蹴りで蹴り飛ばした。

 

 俺は男達を殴った。

 

 本能をねじ伏せる様に。

 

 そして気付けば鼻血を手で抑えながら逃げていく男たち。

 

「俺は……男だ……」




自営業を始めて忙しいです。ごめんなさい。
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