描写甘い
「ん……ふぁ…」
鏡花は大きくあくびをすると、膨らみきったお腹に手を当てた。社会人一年目で妊娠してしまった時には後悔もしたが、今では大切な赤ちゃんである。
ん、と体を伸ばせば、昨日の掃除の疲れが残っているようだった。
(今日はゆっくりしようかな……)
そう思いながらベッドから起き上がろうとした時だった。
「っ!……なに、これ」
づく、とお腹の奥に痛みが走った。便秘や下痢ではない。今まで感じたことのない痛みに、軽いパニックに陥っていた。
(なんだろう?まさか陣痛?)
陣痛には個人差があると聞いていたので、まだ大丈夫だろうと高をくくっていたが、どうにも落ち着かない。とにかく電話しようとスマホを手に取った瞬間、着信が入った。
『鏡花、おはよう。……どうしたの?』
「陣痛、きたみたい」
『は?……すぐそっちに向かうわ。絶対安静よ、良いわね!』
電話を掛けてきたのは鈴だった。妊娠してからというもの、彼女には世話になりっぱなしである。
「痛っ……痛み、強くなってる……」
先程までの比ではないほどに強い痛みが襲う。息をするだけでも辛いほどの激痛だ。
(早く来て、鈴……)
しかし、それから10分経っても彼女はやって来なかった。もうすぐ正午になるという頃になっても連絡はない。
事前知識はするりと抜けてしまって、破水もしていない今は息まないように深呼吸を繰り返すばかりだ。
そんな時だった。インターホンが鳴る。痛みを堪えつつ急いで玄関を開けるとそこには息を切らせた鈴がいた。
「鈴……っあ、」
「鏡花!」
大きな荷物を抱えたその姿に安心して、鏡花は玄関に座り込んでしまった。ぐぐ、と股ぐらを押し広げるような痛みが走る。
「立てる?」
「…………ん」
半分抱えられるようにしてリビングに戻ると、鈴は鏡花をソファに寝かせて出産の準備を始めた。
そして30分ほど経った頃だろうか。ついにその時が来た。
陣痛が一気に強くなり、その間隔が短くなっていく。
何かが出る感覚がして、それとほぼ同時に股の間に温かいものが広がるのを感じた。
ーーー 陣痛が始まってから約6時間後。時刻は既に正午を迎えていた。
「ふぅーーっ、ふ、はふっ」
「鏡花、悪いけどもう少し待って。もっと出てきてから息まないと」
鏡花にとって地獄のような時間が訪れた。もう破水もしてしまって、陣痛に合わせて息むという段階で我慢を強いられる。産道が徐々に広がる中で、鏡花の意識は薄れかけていた。
鈴の方も大変だが、彼女の場合は産婦人科医の娘ということもあり、ある程度の知識がある分余裕があった。しかし、鏡花の場合は何も知らない上に出産の経験もないのだ。当然不安も大きく、焦りもある。
(お願いだから、あと少しだけ頑張って……!)
祈ったところで状況が変わるわけではない。鈴は鏡花のお尻の穴と膣口の間にテニスボールを押し付けた。
「ぁ……?なんか、楽に、」
「応急ってか、緊急措置だけど」
痛みを和らげて、息もうとする体の反応を抑える。腰の下には厚手のタオルを敷いて上体を反らさせた。
そうこうしているうちにまた一段階陣痛が強くなった。
(今ならいけるかしら……)
鈴が鏡花に声をかけようとした時だった。
ボトッ……! 突然、水っぽい音が聞こえた。それと同時に陣痛とは違う痛みが鏡花を襲う。
一瞬何が起きたのか分からず呆然とした鏡花とは対照的に鈴は原因をその目で見ていた。
(下痢……)
栓になっていた硬めの便が腹圧で押し出されて、泥状の下痢便が開ききった鏡花の肛門から溢れ出していた。
ここでようやく気が付いた鏡花が無意識にそれを止めようと力を入れ、
「っあぁあ!」
「鏡花!(今産んだら赤ちゃんが汚れる!)もう少し待ってて!」
「も、無理……でちゃうよぉ!」
再び陣痛が襲い来る。痛みに耐えかねて鏡花は鈴の制止を振り切っていきんでしまった。すると、ビチャリと音を立てて鏡花の中から羊水が飛び出た。
(まずいっ……)
慌てて鈴が鏡花を押さえ込むが、すでに手遅れだった。
「んぅううう〜〜っ!」
アーモンドのような形に開いていた膣口が真円に近づいていく。それと同時に鏡花のお腹も動き、膨らみが下の方へと移動してきている。
「あぁもう!」
これだけ進んでしまえば鈴には対処できない。せめてとばかりに鏡花のお尻にタオルを押し当てて、これ以上下痢が漏れ出すのを防ごうとする。
しかしそれは無駄な抵抗だった。
(やばい、もう出る……)
陣痛の度に肛門が開く感覚。鏡花は必死になって息もうとした。
(ダメだ、息んじゃだめだ……っ)
それでも生理現象に抗えるはずもなく、お腹の中がぐりぐりと動くのに連動して下痢便が吹き出していく。
出産のほうも佳境を迎えていた。鏡花の膣口にはまり込んだ赤ちゃんの頭は、息みに合わせて出てこようとしている。
しかし、それを阻んでいるのは下痢便だ。赤ちゃんが出てくるよりも先に下痢が外に出ようとして、肛門が広がってしまう。
そして、とうとうその時が来た。
ブチュルルルルッ!! 汚らしい音と共に鏡花の股間から勢いよく赤ん坊が飛び出してきた。
鈴は肛門から手を離して赤ちゃんを手元に抱き、臍の緒を切る。その背後では鏡花が後産の痛みと下痢の感触に耐えきれず、半ば失神したように寝転んでいた。
ーーー その後すぐに目を覚ました鏡花は泣き叫ぶ我が子の声を聞いてほっとしていた。母子ともに健康であることを確認し、鈴は産婦人科に電話をする。
幸いにも医師はすぐに来てくれるようで、その到着を待つ間に鈴は風呂場で鏡花の後始末をしていた。
「ぁ…………ず、すず」
「どうし、鏡花っ、それ」
お腹に違和感を覚えて中腰の姿勢で体を洗っていた鏡花はふと、出産で緩んだ膣口から何かが垂れているのに気が付いた。
それは赤ん坊の足だった。
双子、そして逆子。
最初の出産で疲れ切った鏡花は紙のように白い顔でそれを見つめていた。