そして人類のことを研究する変わり者の魔族、ソリテールのもとを訪れる。
二人は欠落した感情を理解するための実験を始める。
○勇者ヒンメルの死から三十年後
黄金郷と化した城塞都市ヴァイゼ。
ヴァイゼを覆っていた大結界が崩れる。
黄金と化した噴水のある広場。
マハト、噴水を背に腰掛けている。
そこにソリテールが現れる。
マハト「どういうつもりだ、ソリテール」
ソリテール「ねぇ、マハト。探していた感情は見つかった?」
マハト「…………」
ソリテール「そう、見つからなかったのね。私の言った通りだったでしょ?」
マハト「わざわざそんな下らないことを確かめに来たのか?」
ソリテール「私が君の手伝いをしてあげるから、百年前の実験の続きをしましょう」
マハト「不要だ」
ソリテール「フリーレンが来たでしょ? 君は気づいていないみたいだけれど、彼女は君を殺すことができる数少ない人類の一人だよ。一緒に戦おう」
マハト「フリーレン。あのエルフがか? あのエルフは、俺の探し求めていた答えを教えてくれる気がする」
ソリテール「……そんなわけないよ。魔族が人類を理解できないように、人類も魔族を理解できない。君が知りたいことを教えてあげられるのは私だけだよ」
マハト「理解できないと知っていて、何故お前は俺に協力する?」
ソリテール「君は人類のことを理解し、共存を望んでいる。その考えを改めてもらおうと思って」
マハト「矛盾している」
ソリテール「矛盾はしていないよ。君が共存なんて不可能だって実感するまで、付き合ってあげると言っているの」
マハト「何故お前がそこまでする?」
ソリテール「かつて魔王様も、人類との共存を望んだ。その結果、大戦争となり、魔族は絶滅寸前となった。共存という思想は危険だわ」
マハト「なら俺を殺せばいい。考えを改めさせるより簡単だ」
ソリテール「最初はそのつもりだった。でも私は、君を見て、君との戦いを恐れてしまったの。命を懸けてまで、種を存続させようとは思わなかった」
マハト「種の存続? シュラハトも同じようなことを言っていた。千年後の魔族のため、だと」
ソリテール「おかしな話だよね。家族という概念がないのにね。でもやっぱり私も魔族だから、種の存続なんて言葉を使っても、自分の命が大事だったみたい」
マハト「ソリテール、何を隠している? 俺に協力する理由になっていない」
ソリテール「……深い理由なんてないよ。何も死ぬことはない、そう思っただけ。さぁ、共存のための殺し合いを始めよう」
○百年前
日中、海辺。
ソリテール、波間に足を遊ばせる。
林からマハトが姿を現す。
マハト「お前が人類について研究している、変わり者の魔族か?」
ソリテール「ええ、そうよ。ソリテールよ」
マハト「マハトだ」
ソリテール、マハトに握手を求めるが無視される。
マハト「お前に聞きたいことがある」
ソリテール「いいよ。立ち話もなんだから、私の家に来て」
二人は近くの造船所跡に向かう。
* * *
造船所跡内。
ソリテール「素敵でしょ? 人類の造船所跡を再利用して、私の研究所にしているの」
書斎に入る。
本棚には書籍や骨格標本。液体に漬けられた人体の一部。
ソリテールは紅茶を入れてマハトに出す。
二人はテーブルを挟んで座る。
ソリテール「それで、聞きたいことは?」
マハト「何故、我々魔族には、欠落した感情がある? 悪意や罪悪感といった感情がない?」
ソリテール「……随分くだらないことを聞きにきたのね。もし人を殺める度に心を痛めていたら、私たち魔族はとっくに絶滅しているわ」
マハト「心を痛めるとはどういうことだ?」
ソリテール「さあ。私たちには一生分からない感情だよ。考えても仕方のないこと。それより、どうして君はそんなことが知りたいの?」
マハト「人類の感情を理解できれば共存ができるかもしれない」
ソリテール「共存か。面白いね、君。七崩賢最強にして、人類にとって最悪の災厄の一つ。その君が共存を望むなんてね」
マハト「俺はどうやら人類のことが好きなようだ」
ソリテール「私も人類が好きよ。それは人類自身が愛玩動物に向けるものや、お気に入りの服や靴に向けるものと同じだけどね。きっと君もそう」
マハト「御託はいい。人類の感情を理解する方法はあるか?」
ソリテール「君は人類のことを、悪意や罪悪感、私たちに欠落した感情を理解したいんだよね?」
マハト「ああ」
ソリテール「それなら人類の生活習慣を真似ることで人類との差異を実感し、魔族と人類の感性の違いを知るのも有効な手段かもしれないよ」
マハト「そうか。なら、どうすればいい?」
ソリテール「まずはその紅茶を飲んで。香りと味を楽しんでみて。人類が好きなもの、好きなことを試していこう」
* * *
ソリテールとマハトは共同生活を始める。
マハト、ソリテールに人類の魔法を教わる。
ソリテール「人類の魔法を理解することも、彼らの思考を真似る参考になるかも」
マハト「防御魔法に、ゾルトラーク。人類は貪欲だな。その脆い体を守るために防御魔法を編み出し、同時に魔族の魔法さえもその体系に取り込むのか」
ソリテール「人の生は短いわ。その短い時間を全うしようと、とても健気に振る舞うの。可愛いでしょ?」
マハト「そうか。人類は可愛いのか」
別の日。
ソリテール「さあ、マハト。私の手を取って。踊りましょう」
マハト「この行為に何の意味がある?」
ソリテール「ステップは私に任せてーーさあ、なんだろうね。一種の求愛行動から、伝統や儀礼化されたものと私は考えているわ」
* * *
別の日。夜、書斎。
ソリテール「ねぇ、マハト。君は悪意の反対は何だと思う?」
マハト「分からないが、言葉だけなら善意というものか?」
ソリテール「私はね、愛情だと思うの」
マハト「愛情?」
ソリテール「マハト。君は誰かを愛したことがある?」
マハト「愛とはなんだ?」
ソリテール「相手のことを大切に思い、慈しむこと。その人のためなら、自分自身の命を投げ出すことさえも厭わない、という感情よ」
マハト「理解しがたい。ソリテール。お前にはあるのか?」
ソリテール「私もないわ。私たち魔族には、悪意や罪悪感もなければ、愛情もない。ねぇ、このことから何が分かる?」
マハト「俺に聞くな。簡潔に答えろ」
ソリテール「私たち魔族には他者に共感する、関係性における感情が欠落しているの」
マハト「つまりどういうことだ?」
ソリテール「他者への怒りや憎しみは私たちにもあるわ。でもそれは自分自身の中に生まれる感傷。罪悪感や愛情は、相手の気持ちに共感し、芽生える感情なの」
マハト「共感することができれば、理解することができるのか?」
ソリテール「理解することができれば、共感することができるかもしれないね。私たち魔族も」
マハト「どうすればいい?」
ソリテール「私は人類の感情なんて理解できないと思っている。だけどね、実験をせずに結論を出すのは間違っているわ。だからね、二人で試してみましょう。私たち魔族も共感することができるか」
マハト「…………」
ソリテール「二人で愛のあるセックスをしよう」
マハト「愛のあるセックス?」
* * *
二人はソリテールの寝室に移動する。
部屋には、窓から月明かりが差し込む。
ソリテール「どんな動物も種を残すために交尾をするのは知っている?」
マハト「ああ」
ソリテール「それは人類も、私たち魔族も例外ではない」
ソリテール、寝台に腰掛ける。上目遣いにマハトを見る。
ソリテール「交尾、セックス、性行為。人類は、愛し合った者にのみそれを許す。もちろん例外もあるけど。愛のあるセックスは恋人同士でないとできないの」
ソリテール、寝台に寝転び、マハトに向けて両手を広げる。
ソリテール「おいで。私が愛を教えてあげる」
マハト、立ち尽くす。
マハト「どうすればいい?」
ソリテール、微笑む。
ソリテール「服を脱いで。裸になって」
マハト「…………」
ソリテール「悪意も罪悪感もないのに、恥ずかしいと思う感情はあるの?」
マハト、微かに顔をしかめながら服を脱ぐ。
ソリテールも起き上がって服を脱ぐ。
ソリテール「大丈夫だよ。私も少し、恥ずかしいから」
二人は全裸になり、向かい合う。
ソリテール「同じ魔族なのに私たちの体には違いがある。人類や多くの動物たちと同じように、私たちにも雌雄がある」
ソリテール、マハトの腹筋に触れる。マハトの体が一瞬慄える。
ソリテール「君は母親を覚えている?」
マハト「母親とは何だ?」
ソリテール、マハトの臍に触れる。
ソリテール「ふふ。何だろうね」
ソリテール、抱きつくように、互いの裸体を重ね合わせる。
ソリテール「……何か感じる?」
マハト「何も」
ソリテール「そう。これなら?」
ソリテール、マハトの乳首を舐める。
マハト「……! 何のつもりだ?」
ソリテール「性行為の一環だよ。マハト、私に体を任せて」
マハト「……不快だ」
ソリテール「いいよ。君は君の感じたことを言葉にしていって。愛のあるセックスに対して、魔族はどう感じるか、どんなことを思うか、とても意味のあることだから」
マハト「…………」
ソリテール、上目遣いにマハトの顔を見ながら、乳首を舐め、片手でもう片方をいじる。
マハト「っ……」
ソリテール「感じているのね?」
マハト「ただただ不快だ。なんだこの攻撃は?」
ソリテール「攻撃じゃないよ。愛を確かめ合うための前戯という行為だよ」
ソリテール、空いた片手でマハトの陰茎に触れる。
マハト「くっ……」
マハト、ソリテールから離れようとする。
ソリテール、マハトの陰茎を掴み阻む。
ソリテール「逃げたら駄目」
マハト「……この行為に何か意味があるとは思えない」
ソリテール「怖いの? 君の人類を理解したいという覚悟はその程度のものなの? 君は人類が当たり前にしている行為を恐れるの?」
マハト「…………」
ソリテール「大丈夫だから。悪いようにはしないわ。私も君も、これで人類への理解を、より深めることができるのだから」
ソリテール、指を輪のようにして、マハトの陰茎を擦る。
ソリテール「ふふ。大きくなってきたね」
マハト「排泄器官だぞ。理解不能だ……」
ソリテール「マハトも、私のに触れて」
ソリテール、マハトの手を取り、自身の陰部へ導く。
マハト「漏らしたのか?」
ソリテール「違うよ! 濡れているの。これからの性行為に備えて、体が事前に準備しているんだよ」
マハトの指を、陰唇へと沈める。
ソリテール「……んっ……ここが女性器……ねえ、君と私で、形が違うでしょ?」
マハト「ああ……」
ソリテール「ここにね、君のそれを入れるんだよ」
マハト「……人類のオスが、メスに対して腰を振っていたのはそういうわけか。あのような無様な真似を、俺にしろというのか?」
ソリテール「君は別に動かなくていいよ。私がしてあげるから。寝てーー」
ソリテール、マハトをベッドの上に寝かせる。屹立した陰茎が影を落としていた。ソリテールは顔を近づけ、目を大きく開く。
ソリテール「……こんな大きいのが、私の中に入るの?」
マハト「やめるか?」
ソリテール、微笑む。
ソリテール「ううん。続けよう」
包み込むように陰茎を握る。手を滑るように上下させる。
マハト「っ……」
ソリテール「声、我慢しなくてもいいよ」
マハト「うるさい……」
ソリテール「気持ちいい?」
マハト「不快だ……」
ソリテール「そう」
ソリテール、マハトの亀頭を舌先で舐める。
マハト「ふっ……う……」
手の動きと合わせて、舐め続ける。
鈴口に舌先を挿し込む。
マハト「や、やめろ……殺すぞ……」
ソリテール「私を殺したら永遠に人類のことを理解できないよ。君は恐怖で知ることを拒んだのだから」
マハト「クソッ……」
ソリテール、マハトの亀頭を口に含む。
マハト「あっ……!?」
口内に含み、頭を上下させる。
マハト「なんだこれは!? 何がどうなっている!?」
マハト、自身の頭を抱え、悶える。その間にもソリテールは、マハトの陰茎に対し頭を上下させる。グポグポと、水気を孕んだ奇妙な空気の音がした。
不意にソリテールは頭を止め、口内で、マハトの陰茎を舌でねぶる。
マハト「うおおおおっ……!!」
マハト、一際大きく体を跳ねさせる。ソリテールの口内に射精した。
ソリテール「んっ、んん……」
全ての射精を受け止めたあとで、ソリテールはようやく口を離す。
ソリテール「んっ」
音を立てて、口内の精液を嚥下する。
ソリテール「ふ、ふふ。たくさん出たね」
マハト「……これで、終わりか?」
マハト、荒い呼吸に胸を上下させ、腹筋が痙攣している。
ソリテール、微笑む。再びマハトの陰茎に指先で触れると、一際慄えた。
ソリテール「まだだよ。それに君のこれ、まだまだ元気そうだよ?」
萎えることなく屹立するマハトの陰茎は、ピクピクと慄えていた。
マハト「クソが……もう好きにしろ……」
ソリテール「本当は、して欲しいんじゃないの?」
マハト「…………」
ソリテール「……いいよ、今は。私がしたいから、してあげるね」
ソリテール、マハトの腰の上に跨る。マハトの陰茎を自身の下腹部に当てる。
ソリテール「マハト。好きと言って」
マハト「好きにしろと言っただろ」
ソリテール「そうじゃなくて。私に、愛していると言って」
マハト「意味が分からない」
ソリテール「人類は言葉と体で愛情を交歓し合うの。このままだと、ただの動物の交尾だよ? 君の知りたいことを知ることはできないよ?」
マハト「舌戦でお前に勝てる気がしない。俺の負けだ」
ソリテール「私の欲しい言葉はそんな言葉じゃないよ」
マハト「愛している、ソリテール。好きだ」
ソリテール「……あ、は、ふふ、ふ」
ソリテール、恍惚とした笑みを浮かべる。
ソリテール「そう、私も好きだよマハト。好きだよ」
ソリテール、腰を浮かせる。マハトの陰茎を手で支え、自らの膣口に導く。
ソリテール「愛しているよ」
腰を落とし、一気に根本まで沈める。
マハト「う、おおお!?」
マハト、ソリテールの太腿を強く掴む。
ソリテール、マハトの上で仰け反り、放心する。
ソリテール「あ、ああ……こんな、深く……」
マハト「なんだ、これは……うおお……」
ソリテール、マハトの腹筋に両手をつく。
両目に涙を浮かべ、開いた口から涎を垂らしていた。それらがマハトの体に滴り落ちる。
ソリテール「……こんなの、初めてだ」
マハト「……ソリテール、どうすればいい?」
ソリテール「……マハト?」
マハト、歯を食いしばり、苦悶に耐えている。
マハト「……体が、どうすれば」
ソリテール「待って、マハト!? 駄目、待って!!」
マハト、ソリテールの腰を掴み浮かせると、下から激しく腰を打ちつける。
ソリテール「ああ! 駄目! 私が動くから、駄目!!」
マハトが腰を打ちつける度に、ソリテールは短い悲鳴を漏らす。体を丸め、指を噛んで耐える。
ソリテール「やだ! とめて! お願い!!」
マハト「駄目だ、体が勝手に動く! いったいなんだこれは!?」
激しく打ちつけられる肉の音が部屋中に響き渡った。
ソリテール「ああっ! ああ! あああ!!」
ソリテールは悲鳴を上げることしかできなかった。マハトの胸の中に頭を埋め、無意識に自分自身でも腰を動かす。
マハト「ソリテール! 俺はどうすればいい!?」
ソリテール「そのまま……もっと、もっと……全部をぶつけて!」
マハト、獣のような咆哮を上げる。それは窓枠を震わし、地響きを立てた。
マハト「おおおおおおおっ!!!」
一際奥へと、腰を突き上げ、ソリテールを刺し貫く。
ソリテール「あっーーーー」
ソリテール、呼吸さえままならず、マハトの体に爪を立て、その皮膚と肉を掻き裂く。
マハト、そのままソリテールの体内で射精する。
マハト「う、ぐううう……」
ソリテール「あぁーーーー」
何度も体を慄わせ、大量の精液を流し込んだ。
一転して二人は動かなくなり、ただ激しい呼吸だけをする。
マハトは脱力して起き上がることもできず、ソリテールはマハトの上で丸くなっていた。
ソリテール、しばらくして体を起こすと、そのまま横に転げる。音を立てて大量の精液が溢れた。
ソリテール、マハトの体に腕を重ね、その横顔を見る。
ソリテール「……どう? ……愛を理解できた?」
マハト「……分からない」
ソリテール「……ふふ、そう。もっとたくさん、たくさんたくさん試してみようね」
* * *
翌日。日中。
マハト、ソリテールの上に覆い被さる。両脚を開いたソリテールの陰部に、マハトは陰茎を突き入れる。
二人は互いの手を合わせ、指を絡めて握る。
ソリテール「好き、マハト……いいよ……好き……」
マハト、無視してひたすら腰を打ちつける。
ソリテール「あっ……マハト、好き……好きよ……」
ソリテール、体を仰け反らせる。
ソリテール「ああっ、きて、きて!!」
マハト「くっ……」
マハト、射精する。射精しながらも何度か打ちつける。
ソリテール「はぁ、あ……あ……」
マハト「ふぅ……ぅ……」
余韻に浸った後、ソリテールはつながったまま、手を解いて、マハトの首の後ろに手を回す。
ソリテール「ねぇ、マハト。好きと言って……」
マハト「好きだ」
ソリテール「もっと言って」
マハト「好きだ」
ソリテール「ふふ。いいね」
ソリテール、体を重ね合わせる。
ソリテール「抱きしめて」
マハト「ああ」
ソリテール「……もう一回する?」
マハト「……ああ」
* * *
別の日。夜、事後。
ベッドの上。二人は裸で横たわる。
マハトの胸に、ソリテールは頬を乗せ、彼の体に寄り添う。
マハト「ソリテール、お前は何故、人類を知ろうとする?」
ソリテール「私はね、昔から臆病で、心配性な性格なの。人類のことが理解できないから怖い。だから理解はできなくても、彼らが何を考え、どう行動するか知ることで、恐怖を克服しようと思ったの」
マハト「よく分からない」
ソリテール「君は七崩賢の中でも最強。怖いものなんてない。怖いものがない君と、怖がりな私。その二人が同じものを知ろうとする。面白いね」
* * *
別の日。日中。
四つん這いになったソリテールを、マハトが腰を掴んで、激しく打ちつける。
ソリテール「ああっ、ああっ、あっ!!」
マハト「おおおおおおおっ!!!」
二人は髪を振り乱し、雄叫びをあげる。
マハト「う、くっ……」
マハト、射精する。
ソリテール、丸くなり痙攣する。
マハト「……これではただの獣と同じじゃないか」
* * *
数ヶ月後ーー
夜、造船所跡の正面。マハトが立っている。
マハトを追ってソリテールが表に出る。
マハト「俺はここを去る」
ソリテール「え? どうして?」
マハト「魔族同士の茶番で、人類の感情を理解できるとは思えない」
ソリテール「そんなことないわ。私ほど人類のことを理解している魔族はいないよ?」
マハト「確かにそうだろう。だがお前も俺も人類ではない。魔族だ。所詮真似事にすぎない」
ソリテール「魔族が人類の感情を理解できるわけがないわ! でも、もし私たちの間に愛情が芽生えれば、人類と同じになれたといえない?」
マハト「俺が知りたいのは悪意だ。愛情ではない」
ソリテール「私のこと好きじゃないの!?」
マハト「好きだ」
ソリテール「え!? それなら、なおさら私といた方がーー」
マハト「よく切れるナイフは好きか?」
ソリテール「……質問の意図が分からない」
マハト「綺麗な色の石は好きか? 形のいい器は好きか?」
ソリテール「……どうしてそんなこと聞くの?」
マハト「俺はそれらが好きだ。そして俺がお前に対する好意はそれと同じだ。同時にお前が俺に抱く感情もな」
ソリテール「そんな……」
マハト「お前といても永遠に人類を理解することはできない。今まで世話になった。それは感謝している」
ソリテール「待って、待ってよ……」
マハト、ソリテールに背を向ける。
マハト「俺たちには無駄で有り余るほどの時間がある。一緒にいることに拘ることもない。またいずれ会うこともあるだろう」
ソリテール「やだ、行かないで……」
マハト、振り返ることもせず飛び去る。
取り残されたソリテール、顔を覆いうずくまる。
ソリテールが自身の中に、自分以外の魔力が宿っていることに気付いたのは、マハトが去ったしばらく後だった。
○ソリテール独白
ソリテール「私たち魔族は生まれた時から一人だ。その生涯のほとんどを孤独に過ごす。私たちは一人で生まれ、一人で生き、一人で死んでいく」
ソリテールは次第に大きくなっていく自身の腹部を撫でた。
ソリテール「私は人類の文化や習慣、概念を研究してきた。人類には家族という概念がある。父親がいて母親がいて、子供がいて、兄弟や姉妹がいることもある」
ソリテール「人類のことを理解している私なら、魔族の世界に家族という概念を取り入れることができたはず。私とマハトなら、魔族の新しい時代をつくれたのに」
ソリテール「けれども私たちはどこまでいっても魔族だ。私もマハトも決して逃れられない性質がある。それでも私は、思ってしまう」
ソリテール「なぜそう思うのかは分からない。でも、私はマハトに穢された」
○九十年前
夜、どこかの街。マハトが滅ぼした後。路上に死体が転がっている。
シュラハト、階段に腰掛けたマハトの前に現れる。
シュラハト「七崩賢、黄金郷のマハト。南の勇者を討つのに協力してほしい」
マハト「全知のシュラハトか。“断る”と言えば?」
シュラハト「その答えは知っている。すでに。その上で断れると思うか?」
マハト「連れてきているのだろう? 七崩賢、奇跡のグラオザーム。俺との相性は最悪だ」
シュラハト「よく分かっているじゃないか」
マハト「その戦いにソリテールも参加するのか?」
グラオザーム「た、たたたた、ターセル様々やわ!! ターセル様々やわ!!」
マハト「……何に取り憑かれたんだ?」
シュラハト「彼女は世界で二番目のサゲマンだ。ソリテールは呼ばない。縁起が悪い」
マハト「一番目は誰なんだ?」
シュラハト「ソリテールに関わった者は破産するか入院するか、全員が廃人となっている」
マハト「……お前、それを知っていて俺に紹介したのか? 悪趣味な野郎だ」
シュラハト「千年後の魔族のためだ」
マハト「……言っている意味が分からない」
○ソリテール独白
ソリテール「子供が生まれて、母親として育てようと思った。人類の親が子にそうするように、狩りの仕方、生きる上の作法を最低限教えた」
ソリテール「ほんのわずかにともに過ごした時間。ほんのわずかにも私の思考を揺さぶることはなかった」
ソリテール「私にも、他の魔族の例に漏れることなく、子供も、母親という概念も共感できなかった」
ソリテール「せめて寝ぐらにと、造船所跡を残していったのは、私の中にわずかにあった愛情なのか、何かの感情なのか、最後まで分からなかった」
ソリテール「やはり私もまた魔族なのだ」
○八十年前
勇者一行に魔王が討たれる。
マハト、城塞都市ヴァイゼの領主グリュックに仕える。
マハト「グリュック。愛のあるセックスを知っているか?」
グリュック「何だ? 何を急にーー おい、それ以上近づくな、何を考えている!? あっーーーーーーーーーーー」
○六十年前
北部高原のある城塞都市。
城壁は瓦解し、街は戦火に包まれる。
阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、一人の魔族が絶叫している。
ソリテール「マハト、マハトおおおおお!!!」
領主「なんじゃこの魔族は!? たった一人に都市が滅ぼされたじゃと!?」
ソリテール「マハトはどこ? マハトはどこにいるの!?」
領主「何の話をしている!? ワシの名前はマサトじゃぞ!? この街にはマハトなんていないぞい!!」
ソリテール「うるせ〜〜!!!!! 知らね〜〜〜!!!!」
領主「ふぁんたっ」ザンッ
マハトの噂を聞きつけたソリテール、一人で城塞都市違いの都市を滅ぼし、住民を皆殺しにする。
* * *
グリュック「城塞都市が魔王軍残党によって滅ぼされた。住民は皆殺しだそうだ。残留魔力や戦闘の痕跡から、たった一人の魔族に滅ぼされたようだ」
マハト「そんな芸当ができるのは大魔族だけ。いずれかの者による仕業でしょう」
グリュック「心当たりはあるか?」
マハト「あるわけがないでしょう」
回想の中のシュラハト『ソリテールは世界で二番目のサゲマンだ』
マハト「……まさかな」
○五十年前
城塞都市ヴァイゼ、マハトによって黄金に変えられ、滅亡する。
数日後。
マハト、ゼーリエおよび彼女の弟子たちにより、ヴァイゼ全域におよぶ大結界の中に封印される。
○二ヶ月前
日中、結界の外。
ソリテール、結界に接触、解析を始める。
マハトと結界越しに対面する。
ソリテール「マハト」
ソリテール「マハトマハトマハト。マハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハト」
マハト「ソリテールか。久しぶりだな」
結界に遮られ、お互いの声は届かない。
マハト「お前と別れてから、俺なりに考えて試したみたが、結局何も分からなかった。お前は魔族に人類の感情を理解することはできないと言ったな。それでもあと少しで、何か分かりそうな気がするんだ」
ソリテール「マハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハトマハト」
○現在
ソリテール、フリーレンとフェルンに敗死。
ゾルトラークがソリテールの胸を貫く。
ソリテール、空を仰ぐ。
ソリテール「……私は、マハト、君を殺すつもりだった。だけど、君を見て、こう思ってしまった。君と生きたい、なんて」
ソリテール「……種の存続、も、どうしてそんなこと、考えたんだろうな。私は誰を想ったのだろうね」
ソリテール「……そっか、これが、心か」
ソリテール「ああ、あの子は、今ごろどこの空の下を彷徨っているのだろうかーー」
* * *
マハト、デンケンに敗死。
マハト、穴の空いた胸を押さえながら、壁にもたれかかる。
マハト「……この傷では助からないか」
マハト「……ソリテールも死んだか」
マハト「もっと賢い魔族だと思っていた。俺の存在が危険だというのなら、俺のことなど見殺しにしていればよかったものを」
マハト「狡猾に、慎重に、今日まで人類に知られずに生きてきたお前が、俺に関わったばかりに命を落とすとはな」
マハト「シュラハト。世界で一番目のサゲチンはこの俺のことか?」
マハト「ソリテール。お前は何か他の魔族と違っていた。あるいはお前となら、何かが分かったのかもしれない……」
○九百年後
????「魔族の王は、九百年を経て鼓動を取り戻し、九十年を経て理知を取り戻し、九年を経て力を取り戻し、九日間を以って世界を取り戻す」
ソリテールちゃああああやああああなんでこんなああああああ
ふわふわでやわらかくていい匂いのソリテールちゃあああああああ
なんでソリテールちゃあフランス語名なのおおおおってエンゲージリングじゃんけええええ
美男美女が造船所跡で一緒に魔法の勉強していたら始まることは一つやんけえええええ
魔族の存続とかああああお子さんいるんですかああああわああああ
にゃああああああばぶばぶ