思うより先に、身体で飛び込んでいく。
恐れることなく、突き進む。
正しいと信じて。
そうでなければ、進めないから。
ふとした時に、思う事。もしもあの時ああしていたら、こうしなかったなら、どうなっていただろうか。
色んな選択と偶然が重なって、今の私がある。ほんの僅かでも判断が変わっていたら、きっと大きく変わっていたことだろう。良くも悪くも、だ。
そしてそれが間違っているのか正しいのか、その答えはきっと終わってみるまで分からないんだ。
私にできるのは、ただ前を向いて進む事。正しいと信じて、歩んでいく事。
私が抱いた想いも行動も、間違っていない。そう、私は誇り高く生きていけば良い。
――傍からどう見られようと、だ。
「大喜くん、お風呂空いたよ」
居候先でお風呂上がり、こうして声をかけるのが日課になって一ヶ月くらいが過ぎた。猪股家の面々は皆優しくて暖かい、見ず知らずの居候相手なのに良くしてくれている。お陰様で冷飯を食うことも残り湯に浸かる事もなく、今日も健康意気軒昂。そして毎日、こうやって大喜くんに話しかける。幸せで満たされた、平穏な日々だ。
――うん、そうなんだ。幸せなんだ、だけど。
あれこれと思ってしまう事は、なくはない。
しかしそんなのが大喜くんに伝わるわけはないし、伝わって欲しくない。分かりましたとジャンプを床に置いたまま立ち上がる大喜くんに背中を向け、私は部屋に入り床に着く――
ドアの影で耳をそばだてて聞くのは、隣室の音。大喜くんが着替えを持ってパタパタと階下へ降りていくのを確かめて、私はそっと廊下へと出た。
ここからする事も、いつもの事。半開きになっていた隣室のドアを薄く開け、そのまま滑り込む。鍵がないどころか閉め忘れも多いから、入り込むのは簡単だ。それに大喜くんは割と長風呂だし。まあ万が一見つかった所で、ジャンプ借りに来たと言えば済む。
それでもちょっと気は張り、足音を殺して私は注意深く室内を観察して――探り当てる。大喜くんの、秘密を。
「ん、……あったあった」
ベッドの下へ隠すようにあったのは、誰あろう
これが何なのか、本当の所は分からない。でも私は情報収集の結果から確信している、これは――
最初に気付いたのは、小さな違和感だった。そう言えば今週のジャンプ借りてなかった、と大喜くんが入浴中にここへと入り、そして私の写真と丸められたティッシュペーパーを発見したのだ。その組み合わせがどういう意味かそこではまだ理解できず、なんとなく釈然としないままジャンプを借りず部屋へと戻った。しかし大喜くんが戻ってから再び部屋へ行ってみると、
そこからあれこれと情報を検索して纏めた結果、想い至った結論。大喜くんは私を
なにしろ男の子というのは、一晩だって我慢できないものらしい。渚も前に弟くんがそういう事ばかりしていて気持ち悪い、とか言ってたし。
……気持ち悪い、か。私としては、そうも悪し様には思わないのだけれど。それよりむしろ、大喜くんの不器用さが何処か愛らしい。だって私はすぐ隣にいるんだし、やろうと思えば忍び込んで私の下着なりなんなり漁れる筈だ。なのに写真一枚で済ませている辺り、私をそういう目で見つつも気を遣っているんだろうな。
そんなこんなを考えながら、私は動かしたモノを全て元通りにし、来たとき同様に気配を消して部屋を出る。別に何をしようという訳じゃない、ただの確認。やっぱり男の子だな、とか色々あるんだな、とかそういうのを何となく感じたいだけ。大喜くんの事を、知りたいだけ。
これを恋心と呼ぶのは、些か座りが悪い話なんだけどね。
部屋に戻っても思うのは、大喜くんの事ばかり。好きとか嫌いとかの話じゃなく、好奇心の方ではあるけど。わたくしだってお年頃、人並みにそういう事にも興味があるから。
大喜くんはどんな風にするのか、何を思ってるのか。ああいう写真を使っている辺り、私と
「……ふむ」
ま、それは私が考えてどうなる事ではない。
考えるよりも、実践するべきだろうな。
そう、してみれば良い。身近な誰かを思い浮かべてするオナニーを、私もすれば良いんだ。そうすれば大喜くんの気持ちも分かるかもしれない。
とは言え普段あんまりしないから……と思いながら、ふと気付く。パジャマ代わりのTシャツを押し上げて、乳首が自己主張している事に。そしてショーツの中には僅かにだけど粘液性の感触がある。これは――これは。
「……大喜くんの事、考えただけなのに」
ただそれだけで、身体が
それよりも、実践だ。
目を閉じて大喜くんの姿を想い描きながら、左手でゆっくり胸をまさぐっていく。中途半端に汗の気配が混ざった肌の感触は、どこか粘っこい。
人よりは多少控え目なふくらみの根本に指を食い込ませていくと、喉の奥が少しずつざわめきだした。それはまるで別の生き物のように私をせかし、手を早めさせていく。
それは勿論、右手にも働きかけてくる。胸を攻めつづける左手を尻目にどんどんと肌を滑り降り、臍のまわりで円を描き、そしてショーツへとぶつかって横へと移動した。その動きにあわせて膝は開かれていく。
布越しであるにも関わらず、メス臭さは顔まで上がってくる。まったく、困ったものだ。もうこのショーツは使い物にならないな、後で切り刻んで捨てよう。身体は熱に浮かされているのに、何処かで冷静なのがなんだかおかしい。
枕を背もたれにして上半身を軽く起こし、右手の人差し指で内腿をつーっとなぞってみる。
何度も、何度も。
触れた場所は熱く疼き、それでもこう訴える。
触って欲しいのはそこじゃない、と。
「う"ぁ、ぁ……」
指は少しずつ内側へ、そしてショーツの上へ。クロッチに触れると、指先はずにゅりと埋まりそうになってしまう。そこにある「隘路」の存在が、いやがおうにも明らかになっていく。この奥へ進みたい、という欲求はある。でもそれは、さすがに……怖い。もっと気持ちいいらしいけど痛いとか苦しいとかも聞くし、
ずりずりと上下に指を這わせていくと布地はどんどんと食い込んで、肉の裂け目が浮き上がる。その上端辺り、僅かに盛り上がった部分を私は――思いっきり捏ね潰した。
「……ぁ、お"……ほっ」
クリトリス、とか言うんだっけ。ここを狙って擦り付けるのが、一番好き。頭の芯が壊れるような、暴力的な快感が味わえるから。さすがにこんなのを頻繁にしていたら身体が持たない、男の子はどうして毎日のように出来るんだろう。ここまでの快感ではないのか、それとも私が何処かおかしいのか。
まあ――良いか。どうでも。
掻き毟るように指を加速させると、一気に快感が爆発する。
「お"ぁ……ぃ……っ」
意識の底が沸騰し、目の前はチカチカと瞬いて止まらない。
その波は絶頂に達し、そして急速に引いていった。
心地好い脱力感の中で、私はふと気付いた。
「……あ……、写真、使ってない……」
実践する気だったのに、そう言えば途中で大喜くんの事が頭から飛んでいた。なにやってるんだ、私は。
でも今からもう一回、じゃ辛いな。まあ、今度にしよう。
ドロドロの身体を横たえて、私は眠りに落ちていった。
季節はもう夏を迎えつつあるこの時期に、大喜くんは風邪でダウンしてしまった。無理もない、部活であれだけ自分を追い込んだんだ。僅かな傷が切っ掛けで、バランスを取れなくなったのだろう。
そんな大喜くんを看病してた筈の私は、どういうわけか。
ベッドに彼を、押し倒していた。
熱っぽい肌が、拭っても微かに残っていた汗の匂いが、どういう訳か――発情の証に思えて仕方がない。風邪のせいだとわかっているのに、二人きりの状況に興奮しているように感じられる。
動くに動けない大喜くんを組み敷いたまま、私は思う。このまま、そういう事をしてしまったらどうなるか。
大喜くんが私をどう思っているか、それはまだ分からない。私だって、まだ大喜くんをどう思っているか分からない。ひとつだけ分かっているのは、お互い身体は既に反応しているという事。触れあっているだけで、それは伝わってくるし伝わっているだろう。
「あの、すいませ……っ」
慌てて離れようとする大喜くんを、私は逆に強く抱き締めて。
「ん……っ」
キス、していた。こんなこと、勿論したことはない。したいと思ったこともない。なのに、吸い寄せられるように。
私の舌は大喜くんの唇を押し広げ、歯列を掻き分けてその中へと突き進む。中に身を潜めている大喜くんの舌、それを目指して。舌で舌を抱き締める、二枚の舌が重なりあう。それがこんなにも、気持ちが良いとは思っても見なかった。
長い長いキスを経て、私はそっと顔を上げる。目の前の大喜くんは蕩けたような表情で、手足も弛緩しきっている。風邪のせいではなく、私とのキスのせいで。
考えるのも、もう億劫だ。ここからは、流されてしまおう。
「ね、大喜くん。大喜くんはさ、私の写真見ながら――
配慮もなにもない直球の質問に、大喜くんの顔は真っ赤に染まってしまった。そして流れる沈黙、どう答えて良いか迷っているんだろう。我ながらイジワルだな、こういう所だぞ私。
でも私は知っている、大喜くんは嘘を吐くのも黙っているのも得意ではないと。
だからそう、まるで絞り出すように大喜くんは、言葉を返した。
「ごめん、なさい……。俺、先輩が好きで……好きなのに、そういう目で……見てしまって……」
瞳に浮かぶ涙、私はそれを舌先で舐め取ってしまう。大喜くんを泣かせたい訳じゃない、追い詰めたい訳じゃない。私はただ、聞きたかっただけ。
大喜くんの、想いを。
「謝らなくて良いよ、大喜くん。私もね、大喜くんの事考えて
呆気にとられたような大喜くんを更に強く抱き、唇を重ねる。
このまま、続ける為に。余計なことを、考えないように。
思っていたのとは大分違う、大喜くんのオトコノコ。それを指でなぞりながら、私はもう片方の手で自分のオンナノコを愛撫していく。熱く硬いそれが擦り付けられている、そんな事を考えながら。それにしても、だ。こんなのを下げて歩いていて、不便ではないのどうか。私がさわった程度でビクビクと脈打ち先端から透明な汁を溢れさせて、これじゃ毎日大変だろうに。まあ、私だって人の事は言えないか。最近は大喜くんと一緒にいるだけで、身体が疼いていたし。
はぁはぁと切なげな吐息は、どちらのものか。それさえ曖昧になって、それでも私は自分をどうにか保とうと気を張っていく。
これで満足しては、いけないから。
風邪の影響がまだ残っているのか、大喜くんは上手く動けないようだ。そこを突いて私は大喜くんを仰向けに寝かせ、天井を向いたオトコノコへとキスをした。これからもう一頑張り、お願いしないといけないから。
「じゃあ、行くからね……」
大喜くんに跨がって腰を沈めていくと、すぐに粘膜同士が接触しクチュリと音を立てた。あと僅かな距離で、私たちは繋がるんだ。そう思うとなんだか胸が熱くなってくる。好奇心が興奮を高めて、もう何も考えられない。ただ盛り上がる本能に身を任せ、私はそのまま――舞い降りた。
「ふ、ぁ……っ、うー……っ」
お腹の中を押し開かれていく、これまでにない感覚。苦痛はない、でも不思議な圧迫感。そして痺れるような鋭い快楽。自分にあった「空洞」が埋まっていく。その勢いで身体の芯を直接揺さぶられている、そんな感じ。棒状の稲妻を押し込まれたら、きっとこうなるんだろう。それに身体を持ち上げると内側が強く引っ掻かれ、逆に沈みこむとお腹の最奥が直に押し上げられていく。そのどちらも凄まじい快感の火花を産み、意識せずとも上下動は止まらない。
なるほど、こうなるのか。これが、セックスか。知識としてはあっても、ここまで激しいとは思わなかった。
稲光に焼かれていく意識の端でふと思うのは、大喜くんの事。私はこんなにも気持ちいいけど、大喜くんはどうなんだろうか。歩くのも堪える程疲弊していた病み上がりの身体で、ちゃんと気持ちよくなってくれるだろうか。
そんな思いを頭の片隅に抱きながらも腰を振り続けていると、不意に大喜くんの身体が大きく跳ね上がる。なんだ、なんかおかしな事になってしまったのか。一瞬そう思えど、それは勘違いだとすぐ気付けた。
お腹の奥目掛けて迸る、熱い濁流を感じ取れたから。
さっきまで押し上げられていた私の最奥、そこを更に強く激流が叩いていく。その勢いは下手をしたら、その先まで突き抜けていきそうだ。
いくら私だって義務教育くらいは終わっている、
大喜くんの精液を、私は直接胎内に受け入れた。そこには妊娠というリスクがある、そうなれば身の破滅は免れまい。だけど、それでも。この快感には、抗えそうにないのだ。
溢れそうなくらい私に精液を注ぎ込んで尚、膣内のオトコノコは張り詰めたまま聳えている。きっと大喜くんも、まだまだし足りないんだろう。
とっくにブレーキが壊れた私は、再び腰を動かし始める。そう言えば風邪の時には汗をかくのが良いんだし、出る場所が出る場所だから射精はデトックスになるかもしれない。大喜くんの風邪が早く治るように、私も協力しよう。
そんな都合の良い事を考えながら私たちは、由紀子さんたちが帰宅するまでひたすら汗をかき続けた。
「いやー……本当、なにやってんのかな私は」
借り物の部屋でベッドに寝転がり、私は回想を中断して溜め息を吐く。勢いだけで突っ走った加害者が、なんでこうも浸っているんだろう。
好奇心と欲望だけを旗印にして、後先も考えずによくもまあ。
あの後も、それで大変だったんだから。風邪が粘膜感染したせいで不調のままインターハイを迎えてしまったし、大喜くんは蝶野さんに告白されるし。ギクシャクした関係の時にこうも色々起きて、対応に苦労したっけ。
その上今の私は家族の都合で猪股家を離れている、この隙に蝶野さんが大喜くんを押し倒しでもしたらどうしよう。
まあ、無いか。私じゃあるまいし。
でも「告白したんです」とわざわざ私に宣言しに来る辺り、何かする気はあるんだろうな。こういうときこそ大喜くんに毅然として欲しいけど、そもそも私たちは未だに「付き合ってる」って状態では無いんだよね。なにしろ猪股家に居候している都合上、そういう話が明るみに出ると不味いから。あれ以来えっちもしてないし、大喜くんの気持ちも聞いていない。あれは夢の中の出来事だったかのように、大喜くんは何も言ってこない。……うーん、弱りきった所を襲ったわけだし、あのあとちゃんと着替えさせ片付けも済ませて寝かしつけたから、本当に夢だと思っててもおかしくないかも。そうなると、私の立場って微妙だな。
でもまあ、どうにかなるんだろう。ならないならならないで、無理を通して道理を蹴り飛ばすだけだ。
選んだ道は、いつだって正しいんだから。
時系列はだいたい文化祭前の辺りになると思います。多分。