動機はどうあれ、なんであれ。
世の中結果がすべてです。
追い詰める気で実は背中を押していた、なんてのはよくあること。
あのナツが、彼氏なんか作るとはね。そこまで器用な子でも無かった筈だけど、まあ二年近く会ってなかったんだしね。色々あったんだろう、色々と。人は変わるものだ、私だって変わり続けてこの有り様なんだし。
でもま、かつての親友としては、嫌がらせの一つもしてやろうと思うのが人情というものだろう。ここで背中を押してやるほど、私は人格者ではない。
うん、それは間違いないんだけど、さ。
目の前で繰り広げられてる光景に、私の口から漏れるのは溜め息ばかり。
やれやれ、どうしてこうなった。私はただ、引っ掻き回してやるだけのつもりだったのに。
いやはや全く以て、余計なことはするもんじゃないな。結果としてはナツを助けたことになってしまった。
柄じゃないんだよ、こんな――キューピッドみたいな役回り。
「――じゃあ
久々に会っておいてこれは嫌みかな、とは思いながらも私はあの時言い放った。バスケ一筋だった筈のナツが、男連れで夜景なんか眺めに来ていたんだ。ちょっと意地悪もしたくなるさ。あの子も私と同じで、バスケしか無かったのに。
バスケ以外に依る所なんか見出だせず、でも結果を出せなくなっていく自分に絶望して私は
まあナツがどうなろうと、もう私が関知する所ではない。だけどでも、……多少の悔しさはある。
どうしてあんなにも、幸せそうなんだ。私はこんなにも満たされないのに、なぜ。逃げ出したからか、でもそれはナツだって同じだ。中等部の頃の私みたいに、バスケより恋を取ったんだから。それともナツは「まだ」なだけなのだろうか、これから挫折して心折れ果てて私と同じになってくれるのか。
そりゃあ、――傑作だな。私たちは最高の親友だったんだ、お揃いにならないとおかしいじゃないか。
自然にそうなるのを待ってやっても良いけど、どうせなら私が後押しするのも良いな。ナツと彼氏君の関係を掻き回して、メチャクチャにしてやろう。私と同じ、何者にもなれないカラッポになってくれ。そうしたらわたしたちはまた、親友に戻れるんだ。
そう思って準備をして、今に至るわけだけれど。……だけど。
「うーん……似合わねぇ、本当に」
何年かぶりに引っ張り出した栄明中学高等学校の中高共通制服は、どうも今の私には合わない。いやサイズはピッタリなんだよ、腹が立つ事に。よく言えばバスケ辞めて遊び呆けてても体型が維持できてる、悪く言えば何一つ成長してない。一方で髪は伸びたし目付きも悪くなったしで、どう考えても違和感がある。
まあ、良いけどさ。まさかこれを見て、当時の私を思い出すバカもいまい。そもそも私を覚えてる奴はいないだろう、元チームメイトと何度も街ですれ違ったけど、声をかけられた事はない。ナツは頭の程度が中等部の頃から変わってないようだから気付いただけ、そんなもんそんなもん。
久し振りの格好で入り込んだのは、これまた久し振りの――栄明だ。
あの彼氏君の素性を探って、色々暴いてやろう。人間探せば弱味の百や二百は出てくるもんだ、それをネタにして食い込んでいこう。活かさず殺さず、少しずつ追い込んでいく。私が切っ掛けだとは気付かせず、僅かずつ皹を入れてやるんだ。
ナツはバスケでは伸び悩んでいる、だから恋愛へと逃げ込んだ。その逃げ道を潰されたら、どんな声で泣くんだろう。
ああ、楽しみだな。
「……猪股大喜、か」
ナツが好きだったNBAの選手なんかとは似ても似つかないけど、それでも観察していると好意を向ける理由は分かってきた。この子はどうも、ナツに似ている。真っ直ぐで一本気で、前だけを見据えて戦っている。もしかしたら、栄明時代の私にも似ているかもしれない。
しかしまあ……可愛いなあの子。一挙手一投足が可愛い、針生とか絶対この子大好きだろ。どうしよう、萌えてしまいそう。
とは言え、だ。女子慣れはしていない感じで、きっとナツが初めての彼女で緊張ばかりしていそう。
そこを突いてやるか、弱味を握るよりここは一つ
――と。
体育館の対面上、新体操部のエリア辺りだろうか。そこから大喜くんを見ている女子生徒がいることに、私は気が付いた。赤毛で少し小柄な、何処かで見たような――。
「あ。あれって去年全中で見た……」
そうだ、全中の女子新体操見に行った時出てた子だ。確か元日本代表の娘で、蝶野なんとかって言った気がする。
そういやあの頃付き合ってた男がレオタフェチで、想像以上に興奮してて気持ち悪かったから帰り途中に三下り半叩き付けたんだっけ。どうでも良いけど。
重要なのは、その視線が明らかに恋愛的な意味合いを帯びているという事だ。それも相当に拗らせた、面倒臭い感じの。
もしかして、大喜くんに気があるのか。でもナツと付き合ってると知っているから、手が出せないとかそういう。
正直言ってそんなウジウジしたのは好きじゃないけど、でも使いやすい手駒にはなるかな。
唆して突撃させれば、それを切っ掛けにして二人の仲を狂わせられるだろう。
さて、――上手くいくと良いけど。
……まあ、失敗した先を考えるような状態では上手くいくも何もない。考えずに押し込む方が良い、は試合だけの話ではない。
結局の所、焚き付けはしたが結果は失敗だ。押し倒すまではどうにか行かせたけれど、大喜くんは全く相手にもしてくれなかった。……いや、レオタード姿で押し倒されて尚拒めるって相当過ぎるだろ。何処までも一途なのか、単にインポなのか。しかし本当に脈ゼロだったのか、蝶野さん。可哀想に、まあ私の知ったこっちゃないけど。
そうなると、顔バレ云々言ってる状態じゃないな。また日を改めて、とも行かないんだし。二度も三度も潜り込みたくない、というか似合いもしない制服着て歩きたくない。コインロッカーで着替えるの、もうやだ。
そんなわけで今私は小体育館裏の何年も使われていない用具室で、直接大喜くんを組倒しているわけだ。蝶野さんは経験がないからか一気には出来なかったけど、私はそういう経験が豊富だからね。
これでも元バスケ部員、修羅場で遅れを取るほど俗呆けしちゃいない。それに蝶野さんで時間を稼いだ分、あれこれと策を巡らす事も出来たし。後はただ、いただくだけだ。
「な、……にをっ」
混乱しながらも尚もがこうとする大喜くんを抑え込んだまま――、その唇をキスで塞いでしまう私。
一瞬大きく見開かれたその瞳は長いキスの間に困惑の色へと染まり、力を失っていくのが分かる。ああ、なるほど。ナツとはまだしてないのか、それどころかこれが「初めて」なのかもしれないな。
男の子にだって純情ってものはあって、キスにせよその先にせよ「理想」はある筈だ。好きな相手がいるならば、尚更の事。
そして私は知っている、身体は身体で素直になると。どんなに心が拒絶しようが、それは変わらない。
キスをしながら触れる肌は急速に熱を帯びていくし、指先で弄くるだけで脚の間の強張りはどんどん猛っていく。男の子は単純だ、どんな場所でも相手でも無差別に
布地の奥へと指を滑り込ませて、その更に中へ。大喜くんのオトコノコは、すっかり元気になっていた。
きっと普段から、ナツを思って触っているんだろう。いつかはナツとセックス出来ると夢見ているんだろう。男の子なんだから、それが健全だ。
まあ、それを私が考慮してあげる理由はないんだけど。
ぐったりと横たわった大喜くんからそっと手を離し、私は普段から持ち歩いている潤滑ローションを自分の
跨がって腰を沈めていく、その刹那。大喜くんの口からは、呻くように声が漏れた。
「なんで……こんな……っ」
そうか、分からないか。分かるわけがないんだけど、さ。君は何も悪くない、悪い事があるとしたらそれは――。
「君がナツの彼氏だから、かな。他には特に理由はないよ、そりゃ可愛いとは思うけど」
そう、そこだけだ。私はどうにもナツが幸せそうな顔してるのが気に入らない、だからブチ壊してやろうと思っただけ。
思えば私はずっとそんなもんだ、あれに負けるのが癪に障るからずっと張り合ってきた。だからこそ、栄明から逃げた途端に支柱を失ってこの有り様なんだけどさ。
私がズルズル落ちている間にバスケではインターハイ出て恋愛では可愛くて一途な彼氏が出来て、なんてのは見過ごせない。私たちは親友だったんだから。
「違……いま、まだ……告白も……してな……」
「え"」
その声に思わず腰が強張り、私のオンナノコは大喜くんのオトコノコからほんの数センチの所で止まってしまう。
いや、それは。それは、どういう。ただの「仲の良い男子」でしかないって事か、まさかこの私が色恋沙汰で見誤ったというのか。
そうなると良くないな、特に意味もなく他所の学校に入り込んで男子を襲ってる事になる。なんだこの痴女、なんなんだ。
今慌てて止めた所で、
うーんまあ……、良いか。これはこれで構わないさ、ナツへの嫌がらせにはなる。実際ナツ自身も彼を気に入っているようだし、横から奪ってやればダメージに出来る。前向き前向き、切り換えよう。
「んー……まあそれはそれとして、しちゃおうか。時間もないし、さ」
中腰で固まっていたからだを解き放って私は、――大喜くんへと落下した。
ずにゅりと肉が押し開けられ、内臓に杭を打たれるような衝撃が襲ってくる。この瞬間は、やっぱり上から覆い被さった時ならではの感覚だな。下になって入れてもらうより、こうやって乗っかる方が性にあう。
あれこれと戸惑いながらも大喜くんのオトコノコは熱くてガチガチ、的確に私の中を抉ってくれる。本人の意識はともかく、本能的な反応なんだろう。今までしてきた中で決して上位という訳ではないけど、これはこれで悪くない。大喜くんが眼に涙を浮かべて顔を背けているのも、なかなか雰囲気が出て良い。
どうも私はこういうのが、好きすぎるな。
跳ね回る身体を抑えもせず、私は一気に腰を振りたくる。
もうそろそろだ、急いだ方が良い。
「ね、大喜くん。
囁いた瞬間、その顔が青ざめる。だろうな、そうなるよ。こんな姿を好きな人に見られるとか、辛いだろうさ。それを見せられる方はもっと、ね。だからこそ事前にナツを誘きだそうとメッセを送ったんだ、その瞬間の為に。
逃げ出そうとでも言うのか私を跳ね上げようとする大喜くん、でもこの姿勢からそんな事が出来るものか。そしてその足掻きは、逆に自らを追い込むばかりだ。繋がっている肉の脈動が、それを教えてくれる。
私もそれに応え、腰の速度を上げてラストスパートに入った。廊下の向こうからわずかに聞こえる足音も、それを支援する追い風になる。
そして――その時が訪れた。
扉が開くその瞬間、私の中でも爆発が巻き起こる。
「あ、あ……あぁ……っ」
ビクビクと私の下で痙攣する大喜くんの瞳は、開け放たれた扉の先にいるナツを捉えたまま動かない。
ナツ自身もまた、驚きすぎたのか私たちを見たまま固まってしまっている。
「んー……あぁナツ、お先に彼氏君頂いちゃった」
笑っているのは、私だけ。楽しんでいるのは、私だけ。
ここからどんな修羅場になるか、ああ――楽しみだな。
楽しみだな、なんて思っていたのに。硬直が解けたナツは、ふにゃふにゃと笑っている。
「あ、ユメカー。えー何で栄明の制服、……もしかして戻ってくるの? 嬉しいな、またチームだね!」
……何を言っているんだろう、ナツは。彼氏を寝取られて、というか浮気真っ最中の現場を目撃しておいて、なんだその能天気な顔は。
動揺を隠してる、とかそんな素振りはない。中断はあれど長い付き合いだ、そのくらいは分かる。
じゃあ、なんだこれ。
「ぇぁ……先輩……っ」
私と繋がったまま泣きそうになっている大喜くんを、ナツの手が優しく撫でる。
「泣かない泣かない。大喜くんは可愛いから、色んな子に
いや、いやいや。いやいやいやいや。
そんな和やかに言って良い事か、大惨事じゃないのか。と言うか渚もなにやってるんだ、本当に。
話を総合すると、つまり。大喜くんがこうやって女子に押し倒されるのは、ナツにとっては日常なのか。たいして気にもしない、その程度の事か。
計画が根っ子から掘り返されて、私は気が遠くなりかけて――思い出した。ナツがどういう人間かを。
「そうだ……あんたって、凄いバカなんだよね……」
それこそ介護が必要なレベルの大バカで、そういや渚からもしょっちゅう「あんたバカなの!?」って怒られてたっけ。バスケ以外に何も出来ないバスケバカ、ではなく本当にただのポンコツバカなんだ、こいつは。
何でこれと張り合おうと思ったんだろう、私は。
その上この状態で大喜くんはナツに告り出したけど、もうどうすりゃいいのか。あほらし屋の鐘が鳴るわ、まったく。
何もかもどうでも良くなって、私はぼんにゃりと天井を仰ぐ。
ああ、なにやってんだろうな。
結局このバカ二人はあれを切っ掛けに正式に付き合いだして、それに私も付き合わされる羽目になっている。告白させてくれたとか好意的に捉えているのも信じられないし、一々私を巻き込むのも分からない。バカとバカを足したってバカが増えるだけだし、引いたら引いたでバカが残る。割ろうがかけようがバカは死んでも治らないんだ。
それに他人のセックスを間近で見せられる身にもなってほしいんだけど、言っても無駄なんだろうな。バカだし。
極めつけは、だ。
「ん、大喜くんちょっとお疲れかな? じゃあユメカとしてるから、休んでて休んでて」
……ナツがこうやって、私ともしようとするのが分からない。まあそりゃ、私はどっちもイケるけどさ。浮気とかそんな意識は無いんだろうか、このバカには。そんな頭があったら、こんなことしてないか。そりゃそうだ。
一戦終えたままの姿でしなだれかかって来たナツにキスを返しながら、私は考えるのを辞めて心の奥で溜め息を一つ。
まあ、良いか。バカはお互い様って事にしよう、それでもう良いや。
考えたって仕方がない、どうせ悩んでも無意味なんだ。だったら残りの人生、バカで生きよう。
考えるのなんてもう、――面倒だ。
夢佳さんのキャラがまだわからないので、フワフワしていますね。