※この作品はR-18です。

歌姫の淫肉調律   作:ナルキケーネ(ハーメルン支店)

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取引

 バーチャル都内某所・高層ビルの最上階にて。Gを感じるほどに高速で上昇し、耳奥の不快感を生んだエレベーターを降りたすいせいは、文面で指定されていた個人レコーディングスタジオに足を踏み入れた。

 

 毛布が乱れているベッドにシャツや下着が散乱しているなど、やたらと生活感がある部屋の奥に見えるのは――ゴテゴテとした機材が黒光りするコントロール室と、ガラス張りの部屋にポップガード付きのマイクがポツンと置いてあるレコーディングブースのみ。

 

『浮世人が音を録ること』だけを目的として設けられたその場所には、坊主頭にヘッドフォンとサングラスが浮いて見える、腹の贅肉を持て余した中年の男が待っていた。

 

「いらっしゃい、星街くん」

 

「……あの……お初に、お目にかかります。貴方が、あの伝説のミラ――」

 

「ああ、うん。そういうのはいいや。つまらないし、本題に移ろうか」

 

 男はセイウチのようにたぷたぷとした顎肉を揉みながら、足元から唇までを舐め回すようにねっとりとした視線で吟味した。

 

「うん、うん。ナマで見ると、やっぱり違うね。胸はひかえめだが、脚が特に美しいし……〝歌〟を発する下腹部と腰も良い肉付きだ。服の上からでもわかるほどの素養だよ」

 

「……はぁ……それは、どうも……」

 

「むはは。悪いね、『スケベオヤジ』で。それじゃ、参考までに君の生歌を聴かせてもらおうかな?」

 

「…………わかりました……」

 

 すいせいは心の中を見透かされて居心地を悪くしながらブースに入り、男から受け取ったヘッドフォンを装着する。

 

 イヤーパッドが不気味なほどにピッタリとフィットした耳元に流れたのは、これまで何千と歌ってきた――星空に想いを馳せる歌だった。

 

 地に足が付かないような、奇妙な胸騒ぎを意地で押さえつけて……いつも、最も気合を入れて歌う曲を腹から湧かせた声で歌い上げる。

 

「うん、うん。ナマがイイのは、こっちの方が圧倒的だった。僕の見込みに間違いはなかったらしい……ちょっと緊張していたせいか、揺らぎが不安定なのは残念だったけど」

 

 音楽が止まると同時に――パチパチと、屈託のない、最高とは言えない賞賛を受けたすいせいがギクリと肩を縮こまらせる。

 

「……たった1回で、そんなことまでわかります……?」

 

「わかるとも。わからないようでは、星街くんをここに呼びつけるようなことはしないと思うがね」

 

「……意味がわかりませんけど」

 

「そうか? まあ、それもいいと思うよ」

 

「……は? あ、はい……そうですね……?」

 

 男と微妙に噛み合わない会話を交わしながら、すいせいは腕を抱いて下唇を噛んでいた。

 

 これ以上ない、大物への歌唱力のアピールチャンスだった。それを〝ふい〟にしてしまったことで、わずかに抱いていた期待を潰えさせてしまったのだ。

 

「さて……テストはもちろん合格だ。あとは、星街くん次第だね」

 

「……私次第というのは……やっぱり、その……ご連絡いただいたときに聞いた……枕営業について、ですか……?」

 

「枕営業ぉ?そんなしょうもないコトをするつもりはないよ。僕はね、君の事務所にメールで送った通り……『股を開く覚悟があるか』を聞きたいだけなんだが」

 

「…………え?」

 

 枕営業を『しょうもない』と言い捨てる男。その真意を量りきれなかったすいせいは、既に歪んでいた眉をさらにひそめて、恐るおそる尋ねた。

 

「股を開くというのは……あの……せ、セックスをするとか、そういう話ではないと……?」

 

「あン?僕の〝個人レッスン〟は1ピストンにつき5万円を貰うのだが? 受けたいの? 体調的にも悪くないし……君となら、まあ、ヤろうと思えば――」

 

「やー、受けたくはないっスね、はい。大丈夫です、遠慮します」

 

「まあ、たしかによく間違われるんだけどさ。レッスンと作曲の〝探り〟や歌唱の〝調律〟は別物でね、君にしているのは後者の話ね。メールにも書いた通りだよ」

 

「いやそんなの聞いてねえが」

 

「ん、ああ、言ってなかったか。たまにあるんだ、そういうの。というわけで、そういうわけね」

 

「は、はぁ……? あのー……つまり、あなたは……手で、おま……あの……アソコを、ただただ『触らせろ』とおっしゃる……? セックスもしないのに……?」

 

「うん。作曲と指導のためにね。平均だと、たった3時間ぐらいの我慢さ」

 

「さんっ――!? いや、なっげぇ……!手マンで3時間って……え~っ……マジですか……!?」

 

「イヤなら今すぐに帰ってくれていいよ。僕も暇ではないから次の仕事に移るだけだし、そもそもこれは『君が得をするだけの世話焼きな申し出』だと思ったのだが」

 

「……まぁ……その……。それは、その通りなんですがねぇ……!」

 

 すいせいは目まいがする頭を押さえ、衣装を軋むほどに握り締めて葛藤する。

 

 今をときめく伝説の作曲家に、無償で曲を書いてもらうビッグチャンスが目の前にある。その代わりに――アイドルとして、女の子として、大切にしておきたいモノを半分以上失う――これは、そういった〝取引〟だったのだ。

 

(……正直に言って……こんな怪しさ満点のハゲデブと肉体関係を持つことはおろか……股を晒すだけでも死ぬほどイヤだ……死んだ方がマシかもしれない…………けど……!)

 

 歌に人生を捧げてきた。培った技術やかけた情熱なら誰にも負けないつもりだった。だからこそ、この取引が持つ魅力の重たさを正しく量れている自覚はある。

 

 普通の女の子なら一目散に退避する、おぞましいばかりの提案。化け物が口を開いて待っているようなものだ――その臭くて汚い、ドロドロな口内の喉奥に見える、強い光を放つ宝石――その価値に気づいていたすいせいは、手の平が痛む強さで拳を握る。

 

「普段なら、新規の作曲依頼は5年待ちだ。君の歌声を聴いて、この時代を魅了する歌姫になれる可能性を感じたから優先順位をズラすことも考えたし……こうして意志を確認しているわけだ。決して無理強いはしないよ、後で面倒だもの」

 

「……ご、5年……その重さは、わかっているつもりです……」

 

「だろうね。だからこそ、君は杞憂でしかないほどに警戒をして〝堕ちる〟覚悟を決めてここに来たのだろうし……〝自分〟の価値を知っているから、この土壇場でも、そうして迷っているのだろう」

 

 他人よりも強くて気高いプライドを持つ歌姫は、決して自分を安売りするつもりはなかった。けれど――5年という長すぎる月日の価値は、時世の流れや流行り廃りが早すぎるバーチャルアイドル業界で苦難してきたすいせいが一番よく知っていた。

 

 今から依頼すれば、なんだか気に入ってもらえているらしい自分の番なら、5年後には確実に回ってくる可能性が非常に高い――が、その頃に自分が満足できる内容で活動できているかはわからないのだ。

 

 配信業の広告収入が減って事務所の給料体系に苛烈な変化が生じているのに、強力なライバルは増えていく一方だ。今では、自分と同じような〝強み〟を持つ者が何人も現れている……このバーチャルワールドにも、画面の向こうにある世界にも。

 

 こうして悩んでいる1分1秒すら惜しいほどに、今は大事な時なのだ。不安定な足場の上で、逆立ちをして綱渡りをしているような激動の業界に生きるすいせいにとって……この即効性に富んだ提案は、あまりにも魅力的すぎた。

 

「……これだけ聞かせてください……なぜ、作曲に手マ……お、女の子の股間を触る必要が……?」

 

「まあ、端的に表すなら……自分の急所を差し出せるような覚悟を決めた女の子でなければ、僕が書いた曲の力を最大限に発揮できないからだ。さらに言うなら、曲を書き下ろすことすら不可能なんだよ。手マンしないと、作曲する気分が勃起しないから」

 

「えー……。それさぁ、あんたがマ×コ触りたいだけじゃねえんか?」

 

「むはは、否定はしない。覚悟も手マンも、どちらも不可欠というわけだ。満足いく作曲をさせてもらう見返りとして、僕は星街くんに最高の曲を書き下ろしてあげるわけだ……正しくWin-Winの関係だろう?」

 

「……いやァ……すいちゃん、勝ってる気がしないんですけどぉ……。つっても、まあ……なんていうか……実は、ここに来た時点で……『どうしなきゃいけないのか』っていう……答えは決まってたんですよね」

 

「ほォ~。『自分がどうしたいか』ではないのかな?」

 

「……チッ……わかりきってること、聞かないでもらえます? あなたは見た目だけじゃなくて、意地も性格も悪いんですねっ☆」

 

 諦めと覚悟のため息をついたすいせいは、スカートの中に手を突っ込み――するり、と黒いレースの下着を脱ぎ去った。

 

 そのまま男に全てを委ねるようにガラスへ手を突き、スカートの裾から漏れ出た魅惑のお尻を突き出す。ストイックに磨かれた下半身は無駄な贅肉こそついていないが、男を艶っぽく誘うムッチリとした肉感に満ちていた。

 

「股間を晒すぐらいなら……手でアソコをイジるぐらいなら、いくらでも耐えます。貴方の書く曲には、この恥辱に勝る価値があることを……歌手として、よく知っていますから」

 

 すいせいは取引に応じるために――これまで枕営業にも手を出さず、できるだけ清廉さを保っていたカラダを自ら男に差し出した。

 

 本当なら、ここまで焦る必要はなかったのかもしれない。今のまま活動を続けているだけでも、今も夢見続けている〝輝き〟に届くことだろう。

 

 それでも、向上心の塊であり、無限の可能性を秘めた綺羅星でもある彼女は……この試練の先にある『今の自分では届かないだろう領域』の気配を感じて、すごすごと退くわけにはいかなかった。

 

「うん、うん。よろしい。僕好みの答えだ。では、〝調律〟を始めようか」

 

 禿げた中年男の手によってスカートをめくられると、引き締まって健康的な肉感に満ちた尻肉だけでなく、谷間に膨らむ乙女の花園までさらけ出されてしまう。

 

 なだらかに光を流す艶やかな肉丘は、食べ頃に熟れた果実のように瑞々しい。熱さを覚えるほどの視線を浴びて……その肉厚な花びらが、ぷるりと震えていた。

 

 

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