彼は今夜も求めてきた。付き合いたてのころは彼に抱かれることが嬉しくて堪らなかった。でも、それが2年も毎日続くといい加減嫌になってきた。彼はよく毎日続くなぁとある意味感心する。私より若いからなのか、それともただの絶倫なのか。 彼の名前は
「ねえ、敬介」
「ああ?」
何だか不機嫌そうな彼。
「怒ってるの?」
「別に」
やっぱり怒ってると思った。
「何でもない。敬介が機嫌の良いとき話すよ」
彼の表情を見ていると、眉間に皺が寄っている。だめだ、話すのは今じゃない。
「なんだよ! 気になるじゃねえか!!」
「そんなに怒鳴らないで! 悪い話しじゃないから」
そう言うと、敬介の眉間の皺はなくなった。少し機嫌が良くなったかな。
「そうなのか」
「まあ、今度きちんと話すから。敬介が機嫌の良いとき」
「じゃあ、今度な。今日、会社でムカつくことがあって、それで気が立ってるんだ」
「そうなんだ。焦る話しじゃないから」
私、明日は休み。明後日は夜勤で16時から。結構、仕事はきつい。総合病院で私は働いていて、精神科の開放病棟に配属されている。いろんな患者さんがいる。昼夜問わず叫んだり、かと思えば急に泣き出す患者さんもいる。不安定なんだなぁと感じる。 よく看護師はストレスが多い職業だから、性欲が強い、と聞いたことがある。私は毎日セックスをしているから、きっと強いのだろう。あまり考えたことがなかったけど。 今夜も敬介の相手をしなければならないのか……。彼のセックスのパターンは、ディープキスから始まり、おっぱいを入念に揉みしだき、乳首をつまんだりなめったり、甘噛みをする。それから、茂みの中へと手を入れ、穴に中指を入れる。敬介とのセックスは飽きてしまった。なので、あまり濡れなくなってしまった。だから、彼が巨根を挿入しようとしても痛い時が増えた。でも、彼は私の気持ちに気付いていないようで、ペニスの出し入れを続けている。 新しい彼氏が欲しい。私と年齢が近い男性を。 今夜のセックスが終わった後、私は思っていることを話そうと思った。でも、若い彼を逃したら新たな男はできるだろうか。結婚を考えていたのに、自然と敬介とのそれを望まなくなった。セックスが飽きて結婚願望が無くなるというのはおかしくないだろうか。何だか、罪悪感に苛まれてきた。
敬介に結婚願望があるかないかを訊こうと思っていたのに、いつの間にか新しい彼氏が欲しい気持ちに変わっている。これはまずい。悪い話じゃない、と言っておきながらそうじゃなくなっている。
別に好きな男が出来たわけではない。ただ、敬介への興味が薄れた。この気持ちは戻るだろうか。言った手前、我慢して結婚の話をすべきか。それでもし、結婚したいと言われたらその生活はいつまで続くか自信がない。気の短い彼だから、別れるだなんて言ったら何こそ言われるかわからない。でも、私には私の人生がある。敬介のために我慢して結婚生活を始めるのには抵抗がある。なので、試しに訊いてみよう。もし、結婚は考えていないと言われたら、それはそれで良しとしよう。
今は20時頃。敬介は横になりながらプロ野球を見ている。訊いてみようと思い声をかけようとしたその時、彼のスマホに電話がかかってきた。「誰だ?」 いいながらテーブルの上に上がっているスマホを取るようにと私に言った。チラッと見ると女の名前だ。誰だろう? 敬介に渡すと焦ったような態度で居間から外に出て行った。もしかして……。 数分して戻ってきた。そして、
「ちょっと、出てくる」
「うん。飲みに行くの?」
「まあ、そんなとこ」
あえて誰と行くのとは訊かなかった。きっと、女だろう。
「寝てていいからな。明日は俺日曜日で休みだから、遅くなると思う」
「そう。わかったわ」
これは私にとって好都合。もし、浮気だったら私は悪くない状態で別れを切り出せる。
翌日ーー。 目を覚まして、いつも私の隣で寝ていた敬介がいない。きっと、どこぞの女の部屋で一発やって泊まったのではないのか。そんな気がしてならない。でも、それはそれで好都合と思いながらも、何だか腹立たしい。実際のところどこにいるかわからないが。私は面倒くさい女だ。そう思い、自嘲した。
今日は日勤。昨日、新しく入った男性看護師に仕事を教えなければならない。なぜか私が担当になった、なぜだろう。正直、面倒。しかも、私より年上の35歳で、看護師の経験年数は私より長い。そういう人に仕事を教えるのは気が引ける。でも決してイケメンとは言えないが、優しそうではある。確か、
日勤は出勤時間は朝9時で、今は7時ころ。退勤は18時。仕事に行く支度をし、8時30分にアパートを出た。
8時50分に病院に着き、職員用の駐車場に車を停めた。
今日は1日田畑さんと一緒だった。今日1日だけでは勿論全ての業務を教えることはできない。数日かかるだろう。あとは、彼が仕事の覚えがいいかどうかによる。自分が担当している患者さんの仕事もあるし、教えないといけないしで忙しい。仕事を覚えるまでの辛抱だから仕方がない。
田畑さんは言葉遣いも敬語を使って丁寧だし、患者さんに自己紹介した時も、笑顔で喋っていた。最初の印象は良いと思う。患者さんもそう言っていた。前職も看護師で本人から聞いた。でも退職した理由は教えてくれなかった。まあ、どんな理由であろうとも今の病院で頑張って働いてくれれば問題ない。そんなことを言わなくても田畑さんならわかっているだろう。
だがだ。翌日、出勤して田畑さんに仕事を教えながら行動していると、患者さんが大声で。
「この浮気女め!」
と叫んだ。その患者さんは被害妄想が酷く、たまに爆発する。私の担当ではないが無視するわけにはいかないので声を掛けた。
「どうしたの? 広田さん」
「鷲山さんは俺だけの女で、俺だけの看護師だって思っていたのに裏切ったな!」
そう言われて返答に困った。なので、
「広田さん、落ち着いて。よく考えてみて。私と広田さんは看護師と患者の関係じゃない」
「何で、他の男と一緒にいるんだ?」
彼は30代の男性。私の話を聞いていない様子。
「田畑さんのことを言っているの? 彼は新しく入った看護師よ。仕事を教えてるの」
「何だ、新米か! ケッ! おれの女にちょっかい掛けるなよ」
田畑さんは苦笑いを浮かべていた。そして、
「僕はそんなことはしませんよ」
笑みを浮かべて言った。
「どうだかな! 信用できねえ」
そこに、この病棟の主任がやって来た。
「どうしたの? 広田さん、被害妄想爆発しちゃった?」
「被害妄想じゃねえ! 現実だ」
まだ、病状は安定していないようで現実との区別がついていない。
主任は、
「今、貴方と議論するつもりはないよ。言えるのは広田さんの病状はまだ安定していないということ」
そう言うと広田さんは、
「おれは病気なのか? 違うだろ!」 気性が荒い広田さんは、たまに困る発言をする。病識もあまりないし。
という感じでさまざまな患者さんがいる。
今の時刻は17時45分ころ。申し送りを始める時間。今日から田畑さんも参加する。
申し送りは30分くらいかかった。新しく入った田畑さんに患者さんとのことを話していた。 帰宅したのがスーパーマーケットで買い物をしたから19時くらいになってしまった。敬介はいなかったがどこに行ったのだろう。少し気になる。私の帰りが遅いからご飯を食べに行ったのかな。彼とは同棲して約2年になる。今日は疲れたから簡単なものをと思って出来合いのおかずを買って来たしご飯はこれから炊く。敬介からは何の連絡もない。
敬介が帰宅したのは、深夜0時を回ったところ。私は寝ようとしていた。ドアをガチャガチャ引いたり押したりしている。チャイムを何度も鳴らしている。「はいはい、敬介でしょー?」 私は玄関でドアの向こう側にいる人物に言った。「俺だー」 やっぱりそうだ。開錠したら酔った彼が入って来た。
「だいぶ飲んだみたいね」
「ああ、先輩に付き合わされて」
「先輩? ああ、あの酒豪の人ね」
敬介は急いでトイレに向かって嘔吐した。あらら、そんなに飲んだんだ、断ればいいのに。敬介も人がいいから。トイレから、
「オエーッ!」
と聞こえてきた。ありゃりゃ、これじゃ今日の性行為は無しだね。たまには無くてもいい。トイレから暫く出て来ず吐いているみたいだ。
やっと出て来たのはトイレに入って約30分経過した後だ。
「大丈夫?」
私は声を掛けた。
「口の中が気持ち悪い……。うがいする」
「その方がいいね」
ガラガラガラッ、ペッ、といううがいをする音が聞こえる。
「ついでに歯磨きして、それからシャワー浴びるわ」
「わかった、私寝るよ?」
「何を言ってる。今夜もセックスするぞ!」
そうなんだ、私は眠いのに。そう思ったけれど言わなかった。彼の気分を損ねるのを恐れたから。
まだ、敬介は酔っている。キスをした時、アルコールの臭いがしたのだ。私は殆どお酒は飲まないし、煙草も吸わない。理由は酔うと何故かテンションがおちるし、煙草は臭いが嫌い。でも、敬介はお酒も飲むし、煙草も吸う。お酒はいいとしても、煙草は止めて欲しい。まあ、止められないだろうけれど。煙草の何が嫌って、煙の臭いが髪の毛につくのが気になるのだ。
今、敬介と私は浴室で愛し合っている。シャワーのお湯は出しっ放しのまま深いキスを交わし、彼は私のおっぱいを揉みしだき乳首を吸った。私は気持ち良くて喘ぎ声を漏らした。
「ん……うん……。感じるぅ」
私はギンギンに勃起している敬介の肉棒を掴み上下に擦った。
「うっ……。俺も気持ちいい」
その後、私は彼のペニスを口の中に含み、しゃぶった。いつもとセックスする場所が違うからか、私は燃えた。
「中に……私の中に出して……」
「いいのか? 赤ちゃん出来ても」
「うん……」
「マジか! わかった。そういうことなら毎日、中で出してやる」
そのあと、彼は私の中にゆっくりと挿入してきた。「ああ……」 今日の彼のセックスはゆっくりと優しい。私は今までこういうセックスを望んでいた。お陰でビチャビチャに濡れた。前から後ろからとゆっくりと深く突かれた。敬介は私の右足を持ち上げて、逞しいペニスを私の中に挿入している。
「あ、ん……凄く気持ちいい」
「止めるか?」
「え……? 止めないで、そのまま私をイかせて」
彼は笑っている。どうやら私を試しているようだ。そのことが私は気に障った。
「ちょっと待った! 敬介、私を試さないでよ。何かムカつく」
「え? そうなの? そういうつもりはなかったんだけどな」
「そう感じたのは私の気のせい?」
「そうだと思う」
彼は焦っているようだ。私が怒ると思ってだろう。
「まあ、いいけどさ。こういうので私と敬介の気持ちの温度差が出るんだよ」
「ごめん」
彼は謝れば良いと思っているのではないのかな。続きをしようとしていた敬介を私は止めた。
「今日はもう寝る」
きっぱりと私は言った。
「何でそうなるんだよ」
全裸だった私は下着を身に着けた後、パジャマを着た。
私は残念に思った。折角、気持ちよくセックスしていたのに、敬介は私を試すようなことをしたのか。そういう事を言うから、いくら彼が私を好きでも気持ちの温度差が生じてしまう。
とりあえず敬介との事は様子をみよう。こういう事が続く様であれば、別れる事も考えている。ここまでの気持ちにさせたのも全て大山敬介のせいだ。だから、もし、別れる事になっても文句は言わせない。
明日、私は夜勤で田畑信吾さんも同じ。今度は夜勤の仕事を教えることになっている。彼の情報は名前しか知らない。既婚者なのか、そうじゃないのか。そうじゃなければ彼女はいるのか。趣味は何とかいろいろ訊いてみたくなってきた。 以前、私は職場恋愛をしたことがある。あれはいつだっただろう? 4~5年前かな。別れた原因は彼の浮気。今では、そんな事は気にしていないので友だちとして関わっている。名前は
「実はぼくも鷲山さんのことが気になってたんだ」 と両想いだった。私は舞い上がり、勝に抱き着いた。場所は居酒屋で。周りの目など気にならなかった。「ありがとう! 嬉しい!」 私は大きな声で言った。周囲からはパラパラと拍手された。そこで私は人目もはばからず大胆に行動して恥ずかしいと思った。勝の顔を見ると赤面していた。彼は割と大人しいタイプ。
それなのに他に好きな人が出来たと言われ別れた。1年くらいは交際しただろうか。
男運が無いのかな、私は。付き合っても必ず別れてしまう。原因は相手にあることが多い。それも浮気をされて。なんでだろう? 私のこと飽きちゃうのかな。わからないけれど、他の男に目移りするということはそういうことじゃないかな。面白くない女じゃないと思うんだけどなぁ。年齢的には結婚して子どもがいてもおかしくないんだけどなぁ。31歳だから。大山敬介という彼氏はいるけれど、10歳も年下だから、この先どうなることやら……。敬介とは気持ちの温度差が徐々に大きくなってきたし。この前は、愛情を感じてセックスしたけれど、やっぱだめだ。もしかしたら今回は私が振るかもしれない。まだ決心はしてないけれど。1度話し合いが必要だと思う。これから先どうしていきたいか。それに寄って付き合い方が決まる。今夜話してみるかな。
夜8時過ぎ。私と敬介はシャワーを浴びた後、夕ご飯を食べた。焼き魚と納豆で済ませた。そして、
「ねえ、敬介」
話しかけた。
「うん?」
「貴方はこれから私とどうしていきたいの?」
フハハッ、と笑いながら、
「どうしてって、楽しくやっていけたらいいと思ってるよ」
と言った。
「結婚したいとか、子どもが欲しいとか思わないの?」
「ああ、それは今は思ってないな。だって、俺まだ21だぜ?」
「何か感じ悪いな」
私は言った。
「いや、そういう意味で言った訳じゃなくて、まだ考えてないだけ。この先は分からないよ」
私は、確かに、と納得した。「じゃあ、私と付き合っていきたい気持ちに変わりはないの?」
「勿論、ないよ。何で?」
「そう、わかった。ぶっちゃけね、私、敬介と別れようかと思ってたの。気持ちの温度差が大きくて。でも、貴方の話を聞いてこの先も続けていこうと私も思ったわ」
彼は、
「そんなこと考えてたの? 知らなかった」
と言った。
続けて敬介は話した。
「大丈夫だよ。今の俺は頼りないかもしれないけれど、幸せにしてやるから。だから、俺を信じてくれ」「わかった。敬介を信用して幸せにしてもらうわ」
「任せとけ!」
こうして将来、大山敬介という彼に幸せにしてもらえることを信じて今後も付き合い続けようと思う。ただ、私は仕事は辞めない。何かあってお金が必要になったら困るから。
(終)