ディストピアにおける家畜の日常 作:家畜選抜AI
1話 藤咲愛香の日常
私の名前は藤咲愛香。周りと比べてちょっと小柄なのがコンプレックスな、どこにでもいる中学三年生だ
私の住んでいる町は主要な居住区からかなり離れていて、今なお昔の、それこそ21世紀の生活文化を色濃く残していた。
都会と比べれば大分不便かもしれないが、産まれたときから住んでいる私としては何も思わない。
たまに口さがない都会人は辺境だとか未開地だとか言ってくるが、私にとってはいい町なのだ。
都会ではお目にかかれない自然豊かな環境や、今ではほとんど消えてしまっている祭りという伝統文化、他にも色々、体験してから言って欲しい。
それに、そんな都会には存在しない空気を味わおうと、こんな辺鄙な場所に移住してくる人だって数は少ないが居はするのだ。
――そして、私の幼馴染みである鳳瑞輝もそういった移住者の一人だった。
瑞輝はあの鳳財閥の直系で、将来的には日本を導く者達の一人と目されているのだ。
だが彼は生まれつき身体が弱く、都会の生活には耐えられなかった。そのため現当主様の計らいで、環境が良くて時間の流れが穏やかなこの町に越してきたのだ。
彼が引っ越して来たのは小学校低学年の頃だったように思う。
その頃、住んでいる地区に同じ年頃の子供がいなかった私は、彼が近所に引っ越して来た事に大いに喜んだ。喜び過ぎて無謀にも彼の家に突撃した。
……いま思い返しても冷や汗が出る。
私の様な十把一絡げの一般人が、それこそ日本有数の上級家系の家にアポ無しで突撃するなんて、射殺されても文句は言えない。
だがたまたま瑞輝の両親が家を出るタイミングだったため、銃口を向ける警備ロボットを止めてくれたのだ。それによって運良く大事には至らなかった。
その後は当然自分の両親に烈火の如く怒られた。そして家族総出で鳳家に土下座しに行ったのだ。
……そしてなんだかんだあり、私と瑞輝は友達になったのだった。
「瑞輝おっはよー!」
「おはよう愛香」
いつもの様に朝の挨拶をしてみれば、瑞輝も同じ様に返してくれる。
毎朝のちょっとした幸せだ。
待ち合わせ場所は瑞輝の家の前。
しかしこの家は相変わらず大きいなぁ……こんな家に一人で住んで寂しくないのだろうか?
瑞輝の両親は鳳財閥において重要なポジションに着いている。そのため仕事が忙しくて、瑞輝と同じ家に住む事ができなかったのだ。
……まぁなんだかんだで10年近くになるし、慣れてしまったのかもしれないが。
未だ緑の残る長閑な通学路を二人、ゆっくりと歩いていく。
私達はもう中学生三年生、今年が二人で過ごせる最後の学校生活となる。
私はこのまま地元の高校に行くつもりなのだが、瑞輝は成長に伴って身体も比較的丈夫になったため、本家に戻り都会の高校に進学するらしい。
(離れたくないなぁ……)
瑞輝は必要以上に絡みに行っていた私を鬱陶しがる事もなく受け入れてくれた。それに上級国民であるにも関わらず、それを自慢する事なく私と対等に接してくれたのだ。私が完璧に懐いてしまうのはすぐだった。
……そしてあれから10年近く。
私が瑞輝の家に突撃し続けたせいもあり、もはや友人というより家族という感覚の方が近いくらいだ。
だがその瑞輝とも今年が最後の学校生活になってしまった。
人生の半分以上を一緒に過ごしてきたのに、今更離れ離れになるだなんて想像できないよ……。
瑞輝の事は大好きだし、一応結婚可能年齢ではある。だから告白すれば一緒にいられるんじゃないかとも思ったのだが、それは家族として越えちゃいけないラインだろう。
瑞輝はこれから日本を支えるために頑張っていくのだから私ごときが重しになってはいけないのだ。瑞輝の事を思うのであれば離れるべきなのだ……。
そんな事を思って泣きそうになってしまうが、今はこの幸せを感じていたい。表情を歪ませてしまわないよう、私は笑顔を作るのだった……。
いつもと同じ日常、当たり前の様に同じ部屋で同じ時間を共に過ごす。
……そしてそのまま、卒業の日がやってきてしまった。
この章はとりあえず軽めにいきます。