ディストピアにおける家畜の日常 作:家畜選抜AI
たった十人にも満たない小さな卒業式。少子化の現代、ここみたいな田舎ではどこも似た感じだろう。
「卒業おめでとう愛香」
「うん、瑞輝も卒業おめでとう」
「ありがとう」
いつもの様な気軽なやり取り、これから別々の道を行くのだというのに二人は努めてそうしていた。
何かを伝えようとして、だが何も言えない二人。
それでも、言える思いだけは口に出す。
「また会おうね! 絶対だからね!」
「うん、約束だ」
「「………………」」
また会おうと約束したが、実際はもう会う事などできないだろう。
向こうに戻った後は本格的に鳳家としての勉強が始まるという。多分こちらに帰ってくる暇など無いはずだ。それにいつでもネットを通じて連絡が取れるといっても、瑞輝の邪魔にはなりたくないのだ。今までみたいに毎日の様にとはいかないだろう。
――そしてそのまま疎遠になっていくのだ……。
「それじゃあ、バイバイ……」
「うん、また……」
校門で分かれた後、瑞輝は知らない人に連れられて行ってしまった。
(結局、言えなかった、思いを伝えられなかった。でも、これでよかったんだよね……)
瑞輝の重石にはなりたくないのだから。
一人きりの通学路、溢れる涙で景色がボヤける。
私は泣きじゃくりながら、自宅への道を歩くのだった……。
後もう少しで家に着くというタイミングで、一台の車が私の前に停まったのだ。
どこかは分からないが公的機関のロゴが付いている。
「すみません、藤咲愛香さんでしょうか?」
「え? あ、はい……」
どうやら私に用があるみたいだ。
泣き腫らしていてとても人様に見せられるような顔はしていないしそんな気分でもない。できれば後にして欲しいのだけれど……。
「――という事で藤咲さんは人畜に選ばれました。これは国のためになるとても名誉な仕事です。励んで努めていただきたく思います」
「――え?」
「家族の方には連絡を入れさせてもらいますので、先ずはご同行願います――ではこちらに」
腕を捕まれ、そのまま車の後部座席へと連れて行かれそうになって、私は咄嗟に抵抗してしまったのだ。
「ま、まって……!」
「……何か不服でも?」
「い、いえ、そうではなくて……」
人畜に選ばれた国民は基本的に拒否権は無く、それに従事しなければならないという。それが国民の義務なのだから……。
それにもし拒否した場合は家族にも多大な迷惑がかかると聞きている。逃げたとしても国家権力によって捜索され、そのまま捕まれば犯罪人畜と同じ扱いにされてしまうとも。
(逃げられるわけがない……!)
人の事を大切に思いやれる愛香だからこそ、逃げるという選択をする事はできなかったのだ。
狭い車内、拘束されているわけではないが、ドアの開閉はこちらではできない様になっていた。
愛香は今までの人生を思い返していた。
(どうしてこんな事になっちゃったんだろう……)
田舎の学生という狭い行動範囲では、人畜という存在をほとんど見た事がなかった。
それこそ中学校の授業で学ぶまでは、ソレの存在すら知らなかったのだ。
……だからこそ、ソレの存在は他の国、テレビの向こうの事の様に感じていた。なのに……まさか自分がソレに選ばれるだなんて、想像すらした事が無かったのだ。
(本当であれば今頃家族と卒業祝いのパーティーをするはずだったのに……)
両親に何も言えないまま、おめでとうとも言われぬまま、私はこんなところに来てしまっている。
(私、これからどうなっちゃうんだろう……)
愛香はコレが夢であって欲しいと願い、見たくない現実から目を逸らす様に固く瞳を閉じるのだった……。