ディストピアにおける家畜の日常 作:家畜選抜AI
卒業式を終えた日の夜、本邸に着いて早々、僕は両親から呼び出された。
急ぎな事もあってどんな話かと謹んで聞いてみれば、僕が知らない間に両親が手を回し、僕専用の人畜が支給されるとの事だった。
しかも容姿等の仕様も僕が決める様にと仰せつかってしまった。
両親曰く、人畜を通して育てる事の大切さや歓びを学べという。
――とっくに知ってるんだけどな……。
確かに失敗したところで痛手でもなんでもない人畜を使うのは理に適っているのかもしれない。こういう時、自分が特権階級に属しているのだという実感が湧いてくる。
問題があるとすれば、僕自身は社会一般と違って人畜をそういう目で見れないとういう事だろう。
……あの、田舎暮らしが懐かしく思えてしまう。
だが既に決まってしまった事らしく、今更僕がどうこうしてもどうしようもない。
(それにしても、人を育てる……か)
時に肩を並べ、時に背中を押し、時に先頭に立つ、そうやって人を導くという事を教えてくれたのは、いつも愛香だった。
……だからだろうか?
気が付けば、仕様書に愛香の特徴をそっくりそのまま書き込んでしまっていたのだった。
(名も知らぬ人よ、貴方を他人で塗り潰し、変えてしまう罪をどうか許してください……)
――目が覚める
少しずつ意識が浮上していく感覚がある。
(あれ……私どうしてたんだっけ……?)
ボーッとしている頭で考えてはみるが、思考がなかなかまとまらない。
ベッドから起き上がろうとしてみるが思うように身体が動かなかった。
(…………?)
不思議に思って気合を入れて目を開いてみれば、よくわからない風景が広がっていた。
(あぁ、そうか……私、人畜になったんだった……)
ボンヤリとしていた頭も動き始め、自分の置かれている状況が理解できた。
既にシリンダー内の排水も済んでいた様で、私のお尻には床の感触が伝わってくる。そしてまわりの壁も床下へと収納されていく。
どうやら肉体改造は終わったみたいだった。
しばらくボーッとしていたのだが、ふと近くに人の気配を感じた。
そちらの方を見てみれば、私のすぐそばに人が立っていて、私の事を見下ろしていた。
「あ、その、えっと……」
目が合ってしまったので何か言おうとしたのだが中々話題が出てこない。
そうして悩んでいると、向こうの方から話しかけてきた。
「――ふむ、意識がある様でよかったよ……ここからは私が君の担当をする事になった。一応ここの局長でもある」
……局長? そんな偉い人が直接誰かを担当するだなんてちょっと信じられないかも……?
「態々そんな偉い方が……?」
「あー……なんというか、この施設は万年人手不足でな、私の方針が悪いのか、何故かすぐに職員が辞めてしまうのだよ「もっと愉しめると思ったのに……」とかなんとか言ってな」
恐る恐る聞いてみれば、そんな言葉が帰ってくる。
「そうなんですか……」
「それはそうと、取り敢えずこの首輪を付けてくれ。人畜としての立場を表す物だ」
そういって差し出されたのは紫色のお洒落なチョーカーの様な首輪だった。
「首輪の色やデザインによってある程度、どんな人畜なのか分かるようになっているんだ……ちなみにコレは上流階級向けの、国からの支給品である証だよ」
手渡されたソレを身に着けようと顔の前で見下してみると、ふと肌色のものが視界に飛び込んできた。
私はここでようやく自分が全裸であった事を思い出したのだ。
「ひゃっ!?」
咄嗟に身体を隠すも、局長さんは特に反応する事もなく淡々と必要事項を説明していく。
「――そして次に……」
一通り説明が終わったみたいだ。正直あまり頭に入っていない。
だけど自分が人でない、最底辺の立場になってしまった事だけは否応なく理解できてしまった。
「とりあえずこれから最低でも3年間、君の御主人様の意向次第ではそれ以上の期間付き合う事になる身体だ、よく確認しておくといい」
そう言って局長さんは私の目の前に擬似的な鏡効果のあるホログラムを投影した。
そして、そこに写っていた自分の容姿を確認してみると――。
「なっ……! 私の顔、なんで……!?」
「ふむ、自分の変わり様に驚いてしまっているのだろうが、そういうものとして受け止めてくれ。これからしばらく付き合っていく事になる身体だ、あんまり傷付けたりするんじゃないぞ?」
(変わっているとかそんなんじゃない! ほとんど以前の、本当の自分と同じ姿じゃない!)
そう、私が驚いた理由は自分の変わり様ではない。あまりの変わらなさに驚いていたのだ。
(局長さんは元々の私の容姿を知らないから気にならないのかもしれない……でも!)
顔のパーツ一つ一つが前よりもなんとなく整っていたり、肌がツルツルスベスベモチモチになっていたり、おっぱいが二回りくらい大きくなっていたり、腰骨が発達してお尻がキュッとなって腰もくびれができていたり……。
細々とした違いはあるが、この身体は総じて前の自分自身と同じと言っていいものだったのだ。
(こんなの知り合いに見られたら、直ぐに私だと思われちゃうよ……)
そんなこちらの機微を気にする事もなく局長が話しかけてくる。
「落ち着いたか? ならコレを着てくれ」
渡されたのは病院なんかで使われていそうな簡易な貫頭衣だった。
「出荷先が人畜に対してどういう方針なのか分からないから一応な」
「ありがとうございます……」
丈は股下ギリギリくらい、屈めばお尻は丸出しだろう。
それでも、人畜になっている間は何も身に着けれない事も覚悟していたので、羽織るだけであってもこうして肌を隠せるのは素直にありがたい。
まぁ、向こうで脱がされてしまうのかもしれないけれど……。
「では出荷先に連れて行くからついて来てくれ」
「あの、何か説明とかは……?」
「ん? そういうのは君の生体端末からインプットされてるから適時必要な事を引き出してくれ」
「あ、はい……?」
――そうして私は、局長の車に乗せられ知らない道を行くのだった。