ディストピアにおける家畜の日常 作:家畜選抜AI
局長さんの車に乗せられてたどり着いた先はとても大きなお屋敷だった。
(こんな都会の一等地にこれだけの敷地……いったいどれくらいの価値があるんだろう)
そんな詮無いことを考えながら立派な門前で待っていると、案内ロボットが現れてそのまま内部へと先導された。
「流石はこの国有数の名家、緊張するな……」
局長さんがポツリと呟く。
「あの……ここって?」
それを思わず拾ってしまう私。
「あぁ、言ってなかったか。これから君が仕える事になるのは、あの鳳家だ」
「……え?」
(鳳家……? って……え? まさか、瑞輝の御実家!?)
混乱していたとしても事態は止まることなく進んでいく。
ロボットの先導によって客間へと通され、そこで鳳家の代表者と会うことになったのだ。
その方が来るタイミングで局長さんは最敬礼を、私は土下座をして待ち構える。
土下座なんて、と前は思ったのだろう。しかし人畜になる時にそういった知識や身の振り方をインプットされたのか、ごく自然に行うことができた。
制限された視界……唯一変わらぬ聴覚によって誰かが客間へと入って来た事がわかった。
局長さんとその方が何やらやり取りをしているが内容なんて全く頭に入って来なかった。
(だって……この声は、絶対に……!)
「面をあげなさい」
「…………」
――指示に従って頭をあげてみれば、記憶にあるままの瑞輝が目の中に飛び込んできた。
私の顔を見て、瑞輝が少し目を見開いたのが分かった。
……と言っても幼馴染の私くらいにしか分からない様な小さな動作だったが。
……言いたい事は沢山ある。
何で前の私よりおっぱいが大きいのだとか、何で腰がもっとくびれてるのだとか、何でお尻の形が良くなってるのだとか、顔もなんだか美化されてるし……。
だがそれでも、今なにより伝えたいのは――また会えてよかった……!!
こうして……また会えた大好きな人に精一杯御奉仕したい人畜と、関係ない人を自らの思い人の代わりとしてしまい、後ろめたく思っている御主人様との、一人と一匹のすれ違い恋物語が始まるのだった――!?
蛇足編 アイカの学校生活
瑞輝に対面した時に瑞輝に自分の事を伝えようとしたのだが、結局はできなかった……。
自分についての事を伝えようとすると、口に出すにせよ文字にするにせよ、何故かそういった行動が一切できなかったのだ。
調べてみれば情報保護の一環として人畜にはそういった処理が施されているらしい。
なんでも人畜の制度が始まった当初、人畜に酷い調教を行って元々の本人の情報を聞き出し、人畜中のアレコレを使って就労後にも性奴隷とする様な事例が横行したらしい。主にそれ対策の様だ。
そして学校生活だが、正直前とほとんど変わっていない。
メイドという大義名分を得た私が、以前よりももっと甲斐甲斐しく瑞輝の世話を焼いているくらいだろうか。
そりゃ最初は、人畜という身分もあって私の事を無遠慮に触ろうとしてきた輩もいた。
だが、私が鳳家の所有物だと知ると例外無く逃げていったのだ。
流石はこの国有数の名家だ……。
そして私が瑞輝と一緒に通っているこの高校。実は中流階級以上の成績優秀者、もしくは上流階級の子女とその付き人しか通う事ができないらしい。
鳳家である瑞輝であればもっと上の高校にも通えたのだろうが、そういった学校は付き人にも確かな家柄や教育が必要になってくるため、私が一緒に通う事はできない。
……自惚れでなければそういう事なのだろう。
そして鳳家の直系である瑞輝はこの学校ではヒエラルキーのトップ。生徒には家格で並ぶものすらいないし、教員だって瑞輝の一言で人生が終わりかねないのだ。
そんな鳳家の所有物に好き好んで手を出すヤツはいない。
虎の威を借るなんとやらみたいであまりいい気はしないのだが、人畜である私が身を護るためにはしょうがない事なのだ。
……それに瑞輝も積極的に私を護ろうとしてくれている。私は幸せ者だ。
鳳家の家訓は『人を育て、国を育てる』だ。
人畜が一般的に人の範疇に入るかは微妙なところだが、瑞輝は変わらず私を導いてくれている。
――特に、格段に難しくなった勉強とかね……。
……しかし瑞輝の人畜に対する考え方は一般的ではないみたいだった。
生徒の中には瑞輝と同じく人畜を連れている人もいた。私はその人の人畜でなくて本当に良かったと思っている。
その子は人畜を示す首輪以外を身に着けておらず、通学から学校生活にいたるまで、全て全裸で過ごす事を強制されていたのだ。更には休み時間にはクラスメイト達に使われていたりだとか……。
人畜は人ではないため人間のための法律は適応されず、何も身に着けていなくとも公然わいせつ罪にはあたらないらしい。
アンチエイジング技術のため実際は幾つか分からないが、見た目は自分と同じ十代半ばの少女がそんな扱いをされ泣いているのを見るのは心が痛い……。
首輪を見るに、彼女は私の様な国からの支給品ではなく、超過供給によって払い下げ品として一般に売られたものだろう。
私と彼女は、区分としてはほとんど変わらないはずなのだけれど、お金を払った分だけ自分の物としての意識があるのだろう。だから扱いもそれ相応になっているのかもしれない。
……私と都会の人間とでは価値観に大きな違いがあるみたいだ。
AIで選ばれただけで、人と同じ形をしているモノに対して何故こんなにも残酷になれるのだろうか?
こんなふうに消耗品として、雑に浪費されているのは流石にどうかと思うのだ。
だが人畜の、そうでなくても一般人であった私に今の常識を変える様な力はない。
私もその他の大多数と同じく、現状に生きるしかないのだ。
願わくば、瑞輝がこの現状を変えてくれるのを祈って……。
ストーリーは思い浮かぶんですが文字に起こせていないので次は別の主人公にいきます。
オムニバス形式ってこういう時に楽でいいですね(怒られそう)。