ディストピアにおける家畜の日常 作:家畜選抜AI
朝、性転換処置を終えた俺は2週間ぶりに学校へと登校していた。
これからクラスの奴等との再顔合わせである。
俺はドアの前に立ち、先生に呼ばれるのを待っていた。
教室の中からはガヤガヤと話し声が聞こえてくる。
(くっそ、アイツら俺が大変な目にあってるっていうのに楽しそうにしやがって……!)
そんな俺の苦悩を尻目に、アイツらは先生から俺についての説明を聞く度、ワーワーギャーギャーと煩く騒いでいた。
「拓海マジで女になってんのかなー?」
「意外に可愛かったらどうするよ?」
「可愛くなっててもあの拓海だぜ? お子様過ぎて勃つもんも勃たねーよ!」
「ちょと男子ぃ! サイテー!」
一際大きく聞こえてくる男子共の下品な会話にイライラしてくる。
(人の気も知らないで好き放題言いやがって!)
「……では拓海を呼ぶが、みんなはできるだけ今まで通りに接するように――よし、入ってこい拓海」
先生に呼ばれて俺は教室へと入室する。
俺の心の内をアピールするためにできるだけ荒々しくドアを開き、不機嫌さを隠そうともしない顔のままクラスメイトの前を歩く。特に爆笑していた野郎共には半眼で睨み付けてやった。
「マジで女の子じゃん……」
「ジト目可愛いーっ!」
「こんなちっちゃくなるんだ」
「おっぱいでっか!?」
「拓海なのに可愛いだと……!?」
「イイ……」
――が、あまり効果が無い様だ。
男も女も興味津々で身を乗り出し、こちらをガン見していた。
……どうやらこの小柄で可愛らしい身体では、威嚇したところで全く怖くはないみたいだ。むしろ喜んでやがる。
もともと男子としても背は高い方ではなかったが、今のこの身体は更に一回りも二回りも小さかった。
身長にして151cm――女子の平均身長よりも幾分小柄である。
数少ないクラスの女子と比べても身長は俺が一番低そうだった。むしろ学年で一番低いかもしれない。
そんな自分の身体を見下ろしてみれば、無駄にデカい胸が目に飛び込んでくる。
自分の足元が見えないのがこんなに視覚的圧迫感があるとは思わなかったな……。
「(はぁ……)」
何度確認してもため息しか出てこない。
(これからどうなるんだかな……)
……今の俺の様なタイプの人畜は、制度上身元隠す事ができない。それに学生としての立場も存在しているため、友達付き合いの事も考えなくてはならない。
そのため容姿についてはほとんど弄らず『もしもその人が女性になったら?』といった程度の改変しか行われないのだ。遺伝的にも男女が入れ替わっているくらいで他の差異はほとんど存在しない。
――つまりこの姿は、もし俺が女だったら? というifの姿なのだ。
若く張りのある豊満な乳房も、その膨らみを強調するかの様にキュッと引き締まった滑らかなお腹も、揉み応えがありそうな形の良いお尻も、その全てが自前。
性処理係だからといって見た目をそれっぽく弄らているわけではなく、この男好きする様な身体は俺本人のものという事だ。髪だって多少伸びはしたが、肩口で自然に整えられたショートヘアで男の頃とそこまで印象は変わらない。
性転換以外で弄ってるのは精々、連続使用に耐えうる様に身体を丈夫にしている程度らしい。
そんな俺の今の身体データは――
身長 151cm
体重 48kg
胸囲 93cm
胴囲 56cm
腰囲 84cm
アンダー65のHカップ
――である。
(エロ漫画の設定かよ……)
これが今の自分の身体だというのだからたまらない。
男子はどいつもこいつも俺の身体に興味津々、眼つきが全員いやらしい。
(死にてぇ……)
何で男なんぞにそういう目で見られなきゃいけないのか、正直鳥肌ものである。更にアイツらとそういう行為をする可能性があるとなると、もうね……。
「松本には前と同じ席で過ごしてもらうが、くれぐれも無茶な要求をしないように。ではSHRを終える、礼!」
自分の席についてみるも、以前と違う視点に更に気持ちが沈んでしまう。
(はぁぁぁ……最悪)
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、SHRが終わると同時に俺の周りに何人もの男子達がワラワラと集まってきた。
「お前マジで拓海なのかよ!」
「前から童顔で女顔だったけど……今は完全に女の子って感じだな」
「ちぃっ!!」
俺を嵌めたやつら一瞥し、怒りを込めた舌打ちをくれてやる。
「そんな怒んなよ拓海? 俺らの仲だろ?」
(無視だ無視、しばらく口きいてやんねぇー!)
馬鹿共がなにかと纏わり付いてくるが、俺は断固とした態度で…………って!?
「誰だどさくさに紛れて尻触った奴は!?」
「おっ、反応した」
なんて奴らだ!? コイツらには節操ってもんがねぇのかよ!?
――つーか……
「身体は女でも中身は俺だぞ!? 気持ち悪くねぇのかよ!?」
「…………むしろイイ! イケる!」
「はぁっ!? お前ホモかよ!?」
「ホモつっても…………なぁ?」
「「だな」」
「死ね!!」
ギャーギャーアホなやり取りをしていると、様子を窺っていた女子達もこちらへ寄ってきた。
「こんな可愛くなっちゃってまぁ……」
「拓海くんは前から可愛かったけど……これはヤバいよ」
――可愛い……というのは解る。俺も自分の姿を最初に見た時に同じ事を思ったのだから。
コンプレックスだった生意気そうなツリ目は勝気なパッチリ二重に。からかわれていた童顔も、女の子になってみれば幼さを強調した愛らしい顔(かんばせ)に。無造作に切り揃えられた黒髪だってキューティクル輝く自然なショートヘアに感じられる。
だがそれでも、これだけの違いがありつつこれは自分なのだと、違和感なく受け入れられるだけの既視感があるのだから不思議なものだ。
キャーキャー言いながら俺の方へと指を伸ばしてくる女子達。
振り払いたいが、女にあまり乱暴な事はしたくない。
そんな事知らないよとばかりにしつこく俺に触れようとしてくる。
ふと、頭に優しい感触が――
「おぉ……サラサラじゃんか」
華奢な指が俺の頭に乗せられ、さわさわと緩く動かされる。
(―――あっ♡ …………って違うだろ俺っ!?)
なんなんだ今の感覚は……!?
どうにかなる前に早く現状を脱さなければ……!
「くそっ、頭撫でんな!触んな!髪の毛引っ張るんじゃねぇ!!」
「きゃー♡! 怒ったー♡!」
(どうしろってんだよ……キャピキャピしてる女子は苦手だ……)
中学時代からの顔見知りではあるものの、あまり接点の無かった女子達といきなり距離が縮まって困惑してしまう。
「というか、お前らもいいのかよ……? こんな男かも女かもわからないのが近くにいてさ……」
「んー……まぁうちらも? 女の子になった身体っていうのにはちょっと興味あるしー?」
「そーそー、それにちっこくなった拓海くんだったら何かされても勝てそうだし?」
「んなぁ――!?」
――なんだかんだで受け入れられた俺の、新たな学校生活が始まるのだった。