機動拡張装甲服の着用に関するショートストーリー。
抽象的なトンチキフレーズや設定陳述の齟齬があったりしますが
どうか多めに見てやってください。
シャワー室の自動スライドドアが開く。
気密が解放される音とともに入って来た少女は、
一糸纏わぬ裸体だった。
真っ白な蛍光に包まれた真っ白な部屋には、
やはり真っ白な防護服に身を固めた二人が待っていた。
滑らかな曲線美を現す少女に対して、
二人の着込んだ防護服はひどく無骨で、
形こそ人型をしているものの、人間離れした、
ロボットのような印象を与える。
その頭部もバックパックからホースが繋がったヘルメットに覆われ、
顔面部分は鏡面のように黒く外景を反射し、
中の表情は全く伺えない。
「スクランブルだ。手早く頼む」
少女はそう告げつつ、防護服の人物からヘアピンを受け取ると、
背中まである黒髪を団子状に結い上げて留めた。
その間にもうひとりの防護服は、
壁面にセットされていたケースを取り出し、開いた。
白い硬質樹脂製のケースの中から、
金属光沢のあるボディスーツが取り出される。
足首から手首、首元までを覆うであろうそれは、
少女の体格より二回り以上小さく見えた。
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ここは、機動拡張装甲服装備のためのフィッティングルーム。
機動拡張装甲服とは、約四半世紀前に地球に到来した、
地球外攻性生命体群迎撃のための特殊装備である。
宇宙から大気圏内、水中まで、重力制御で自在に動き回る「奴ら」に対し、
従来の兵器はあまりに鈍重で、取り回しが悪かった。
かといって、歩兵の携行する火器では十分な打撃を与えることは出来ず、
人類は十数年の長きに亘って「奴ら」の目を逃れ、雌伏の時代を送った。
そして、数年前にようやく「奴ら」に対抗できる装備として開発されたのが、
機動拡張装甲服だった。
鹵獲に成功した「奴ら」から重力制御の技術を見出し、
また、それを人間が制御できるよう調整し、
「奴ら」に対抗できるだけの兵器を装備した装甲服。
その体高は10m弱あり、一般的な衣服の範疇からは逸していたが、
着用者の神経と接続させることで、従来の重兵器とは一線を画した、
極めて俊敏かつ自然な挙動を実現した。
そして、「奴ら」の特性を取り込んだことで、
機動拡張装甲服の着用者も「奴ら」と同じく、
宇宙から大気圏内、水中に至るまで、自在に飛び回り、
活動することが可能になった。
人体の自然な動きを再現するため、
機動拡張装甲服の形態も人体に相似なものが求められた。
人間と比べれば十分に巨人と呼べるサイズではあるが、
その胴体内に従来の基本構造のコクピットとその防御機構、
また、人体の可動範囲を再現するための駆動機構を内蔵するのは不可能と考えられた。
しかし、当時研究が進められていた半有機性非晶金属体を使用することで、
搭乗者の運動神経と反射神経を直接的に拡張し、
複雑な操作手順を踏むことなく、極めて容易に人間の運動を再現できるようになった。
これにより、コクピットの大幅な省スペース化が実現でき、
防御機構、駆動機構の問題がクリアできた。
だが、それでもコクピット内は非常に狭小となったため、
操縦者の体格は小柄な者から選定せざるをえなかった。
また、半有機性非晶金属体と人体との相性の都合上、
搭乗者は13歳未満から適合試験を受けなければならないこと、
半有機非晶金属体との適合に合格しても、
人体の動きをそのままトレースする仕様のため、
搭乗者は相応の戦闘センスが要求されることとなった。
そのため、機動拡張装甲服は実用化の道程が確立された後も、
搭乗者の養成にさらに数年の期間を待つことになった。
半有機非晶金属体の実用化により、従来の乗り込み式兵器ではなく、
装甲服と称されるようになったことで、「搭乗者」の名称も
「着用者」と改められた。
児童を戦闘兵器の着用者として養成することについては、
当然倫理的な疑義を呈する者も少なからず存在したが、
人類のみならず地球生命全体が存続の危機に立たされていること、
また戦う相手が同じ人間ではなく、外宇宙からの侵略者ということで、
例外的に許容するべきだとの見解が大勢を占めた。
そして、実戦に投入されると、
想定を大きく上回る戦果を上げたことで、
人々は故意に倫理的な問題点からは目を背けるようになり、
機動拡張装甲服とその着用者は、人類の希望として称揚された。
着用者の存在は人類の希望としてメディアでも喧伝された一方、
未成年たる着用者の健全な生育に影響を及ぼさないためとして、
その素性については一切が秘匿され、
着用者は、「顔のない英雄」とされた。
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少女は、その「顔のない英雄」の一人だった。
白い防護服の人物達と比べて、頭二つ分ほど背は低い。
面影には微かな幼さも残るが、その面立ちは透き通るような端整さで、
精悍な眼差しには強い意志があった。
体躯こそ小柄だったが、その肉体には一切の無駄が無く、
筋肉も骨格も内臓も、「奴ら」を駆逐するためだけに鍛え上げられた、
「顔のない英雄」のそれだった。
フィッティングルームの白光に曝け出された肌には、
首から下には一筋の体毛も残されていなかった。
機動拡張装甲服とより密接に接続するべく、
半有機非晶金属体との接触面積を可能な限り増やすために、
前室のシャワールームでは、丹念な除毛が行われていた。
それゆえに、まだ生固い小ぶりな乳房や成長途上の臀部は勿論、
両腿の付け根――下腹の更に下端に走る秘裂さえ、
全てが露わにされていた。
防護服の人物達は、二人がかりで少女の前でボディスーツを拡げた。
これは着用者の半有機非晶金属体との過剰な同調や、
癒着を予防するための、防護スーツだった。
半有機非晶金属体の運用はまだ期間が浅く、
人体が長期間、半有機非晶金属体に曝露した際の影響については、
不明な点が多い。
しかし、このような防護スーツが作られたという事自体、
人体に好ましからざる影響を及ぼしているという証左であろう。
着用者の体を守り、かつ機動拡張装甲服からの感覚を受容するという点で言えば、
第二の皮膚と言って良い。
数十マイクロメートルの厚みの中には、多数のセンサー類が内蔵されている。
内側に薬液が浸潤され、着用者の体表にわずかの隙間も無く密着する。
特殊樹脂製の接続具を合わせても、羽のように軽いそれは、
一着で文明華やかなりしころの高級車一台のコストを上回る。
基本は、一回限りの使い捨てである。
少女は開かれたスーツの背中から、脚を片方ずつ差し込んだ。
スーツの伸縮性は高いらしく、サイズオーバーに見えた少女の肢体を、
かなり渋がりながらも受け容れていく。
一人の防護服がスーツの前身頃を少女の前面に当て、
少女はスーツの袖に腕を通す。
締め付けがかなりきついらしく、少女の呼吸が乱れる。
もう一人の防護服は、既に通したスーツの脚を、
さすったり引っ張ったりしながら、たるみや皺を伸ばしていく。
少女がスーツの袖に腕を通し終えると、防護服の人物は背後に回った。
「スーツを閉じます」
防護服の人物が初めて声を発した。
人工ノイズが被せられたその声は、性別さえ定かでない。
少女は白い壁面に設けられた手摺に掴まった。
さっきまでスーツの脚を直していたもう一人の防護服が、
大きく開いたスーツの背中を力一杯に引き合わせる。
ゆっくりと、ファスナーに似た閉鎖機構が下から引き上げられていく。
少女は深く息を吐いた。
その眉間には、微かなひそみが生じていた。
防護服の人物達からも、ノイズに覆われた荒い呼吸音が響く。
大人二人が全力を注ぎ込むことで、
ようやく防護スーツのファスナーは閉じられた。
少女は苦しげに、顔を紅潮させている。
しばしの間、静寂の空間に、
三人の荒い呼吸音だけが響いた。
「……最終フィッティングに移ります」
息を整えた防護服の人物がそう告げると、
少女はなおも苦しそうに喘ぎながら、無言でうなずいた。
その表情には、隠しきれない厭わしさが滲んでいた。
ニ人の防護服は、少女の全身を撫で回し始めた。
スーツに生じた皺やたるみを除去し、スーツが第二の肌となるように、
可能な限りスーツを少女の素肌に密着させるための作業である。
最初は両手の指先から始まり、徐々に体幹へと進んでいく。
腕を上げさせ、腋窩を擽るように指先でなぞられても、
少女の表情は硬いままだった。
二人は、そのまま胴体にも手を進める。
背中側は肩甲骨や背筋の窪みに、
前側は乳房の膨らみや臍に至るまで、余す所の無いよう、
二人の防護服は無遠慮に少女の体を撫で回す。
少女は時折、わずかに身をよじらせたり、吐息を溢した。
既に脚部のフィッティングは完了している。
二人は、少女の胴体の下部にも手を伸ばした。
前側を担当する者は、なだらかな恥丘と、
その深奥に至る秘裂へ指を忍ばせていく。
後背を担当する者は、臀部の双つの膨らみを丹念に揉み上げ、
その谷間へと指先を探らせていく。
少女の体に、震えが走る。
秘裂をまさぐる指は敏感な若芽をも蹂躙し、
肉襞の一枚一枚を弄ぶように撫で回した。
少女の吐息に、これまでとは異なった響きの声色が交じる。
少女は目を強く閉じたまま、顔を赤くさせ、
二人のなすがままに身を任せた。
伸縮性と密着性に優れた素材のスーツは、
少女の秘処にまで侵入し、その表面にピッタリと貼り付いていく。
スーツを導く指は、やがてその深奥にまで潜り込んだ。
少女の奥底を侵した指先は、やはり丹念にその内壁を撫で回す。
金属光沢のスーツの下では、珊瑚色の媚肉が蜜を溢れさせているだろう。
それはスーツの内側に浸潤された薬液と混じり合い、
少女とスーツの密着度を更に高めていく。
背後でも、やはり少女の秘されるべき部分が侵されていた。
スーツを隔ててとはいえ、硬質の素材に覆われた防護手袋の指が、
少女の排泄の孔をいたぶっている。
窄まりの皺の一つ一つにまでスーツをなじませるように、
執拗に少女の尻の孔を揉み込んでいく。
少女が、言葉にならない呻きを漏らした。
スーツ越しに、太い防護手袋の指先が、
彼女の蕾を貫いたのだ。
少女の眉間に深いひそみが現れる。
まぶたは強く閉じられ、震える唇からは浅い呼吸が繰り返される。
前側と同じように、後ろの孔にもまた、
可能な限りの深奥までスーツを体表に密着させるべく、
指が潜り込んでいく。
本来物を入れるための器官ではないため、慎重ではあったが、
それゆえに長い時間を掛けて、少女は恥辱と苦悶に苛まれた。
太い指はゆっくりと奥へと侵入しながら、
手先を捻り、指先を回転させながら、少女の腸内をまさぐっていく。
少女の額からは汗が滴り、脚はガクガクと震えていた。
しかし防護服の人物達は、全くその様子を省みること無く、
黙々と、そして執拗に指を蠢かし、少女の中を弄んだ。
鏡面加工が施されたヘルメットのバイザーから中の表情は見えないが、
少女は明確な嘲弄の波動を感じていた。
「もう……十分だろう……!?」
少女は、彼女の秘処を指先で揉みしだいていた、
防護服の人物のヘルメットに手を掛けた。
それは意識しての行為ではなく、苦悶に耐えかねての反応だった。
防護服の二人は動きを止めた。
数瞬の沈黙の後、「了解」と答える。
二人は同時に、少女の中から指を引き出した。
少女の感覚を、閃光のような衝撃が襲う。
体の下底から生じたそれは、背筋を電撃のように震わせて脳を揺らし、
少女の視界を白く灼いた。
少女は白目を剥き、涎を垂らして失神するような醜態こそは避けたものの、
膝が震えに耐えかね、体勢を崩した。
倒れ込みそうになった少女を、防護服の人物が支える。
「センサーの反応では、十分な密着率が確認できました」
防護服の人物が告げる。
入室した時点では強い意志が灯っていた眼差しは、
わずかな時間で焦点を見失ったようだった。
少女が体を支えられ、呼吸を整えている間に、
後背を担当していた防護服の人物は、壁からボウルのような物を取り出す。
少女の着用するスーツと同じく、金属光沢のするヘルメットだった。
表面にあるスイッチをスライドさせると、半球ほどの形状に変形した。
「ヘルムを取り付けます」
防護服の人物はそう言うと、
ボウルのような機材の半分を少女の後頭部に当て、再びスイッチをスライドさせる。
細やかな機械音を上げながら、機材は側頭部から顎を覆う。
最後に、二人の防護服の被っているヘルメットと同じ、
鏡面加工されたバイザーが顔を覆っていく。
上気し、視点も危うげなその表情が隠されていく。
少女の全身は防護スーツとヘルメットに完全に覆われた。
少女は体を支えていた防護服の人物の肩に手を突き、
ようやく自立した。
「フィッティング、完了しました」
防護服の人物からそう告げられ、少女は頷いた。
少女の体は、完全に外界と隔離された。
「装甲服着用に移る」
平静を装い、そう答えた少女の声は、
機械的なノイズがかかっていたが、掠れかかっていた。
歩みだした足元にも僅かな震えが残っていた。
少女が壁面のパネルに手を触れると、自動ドアが開放される。
少女は、無言のままフィッティングルームを後にした。
自動ドアが閉鎖されたのを確かめて、
防護服の人物の一人が呟いた。
「せっかくの上玉なのに、戦いの道具にしかならないって
勿体ないわよね……」
もう一人は、肩を揺らして答えた。
「まあ、おかげでこっちは役得なんだから良いんじゃない。
本番はおあずけってのは残念だけど」
二人はまだ残る感覚の名残りを惜しむように、
指先を蠢かした。
――――――――――――――――――――
少女は、機動拡張装甲服の格納庫に立った。
人体の運動能力を拡張し、高い運動能力を付与した装甲服というのが、
機動拡張装甲服の名称の由来であったが、
その形状は五体こそそなえているものの、
シルエットは人体からかけ離れていた。
兵装を接続したり、スラスターを内蔵するために大型化した四肢に対し、
無骨な装甲に覆われた胴体は酷く小さい。
多機能カメラや複合センサーを収めた頭部は、
ヒトというより、クモやカニに近しい印象を与える。
格納庫内に屹立した機動拡張装甲服の胸部に向かって、
可動式のキャットウォークが伸びていく。
灰色の防護服の人物が先導し、少女が後に続く。
その姿は、頭部こそヘルメットに覆われているが、
体表に密着する薄膜に覆われた体躯は、
金属光沢を放つ全裸とほとんど変わりはなかった。
乳房の膨らみやその先端の突起、張りのある臀部や、
秘裂の形状に至るまでもが、つまびらかに表されている。
装甲服の前に立った灰色の防護服の人物は、
装甲表面の小さなハッチを開き、中の機械を操作した。
気密が解除される音とともに、装甲服の頭部がせり上がり、
胴体正面の装甲が開放されていく。
三重の複合装甲の奥に収められた、コクピットブロックが現れる。
おびただしいケーブルやチューブ、シリンダーが接続されたそれは、
金属製の棺のようだった。
装甲服からキャットウォークへ、機械式のステップが展開される。
防護服の人物はステップを登り、コクピットプロックの表面のパネルを操作する。
その表面は卵殻にヒビが入るように表面が分かれていき、
着用者を迎え入れるように大きく口を開いた。
装甲服の大部分が無機的、機械的な構造で構成されていたのに対し、
コクピットプロック内はおぞましいほどに有機的、生物的な様相を呈していた。
金属光沢を放つ、青紫色の肉壁と表現するのが近いだろう。
その肉も一様に同じ機能を持つものではないらしく、
あるいは規則正しく拍動し、あるいは食物を待つように蠕動し、
あるいは痙攣するかのように不規則に蠢動している。
これが、人体と機械をより密接に繋ぎ合わせるという、
半有機非晶金属体を組み込んだ、操縦端末だった。
金属の性質を持ちながら、その構造は極めて生物的であり、
それゆえに有機生命体と機械構造の双方に接続できる。
「奴ら」の体組織から見出された組織であるとも、
「奴ら」による侵略以前から研究されていた素材ともされるが、
戦災による記録の散逸により、既に全貌を把握できている者はいない。
ただ、これを利用することが、
人類の反撃と存続の道への灯火とされていた。
少女もステップを登り、コクピットプロックの前に立つと、
装甲服に背中を向けて振り返る。
そして、縁に手をかけながら、
後ろ向きにコクピットブロック内に脚を挿し込んだ。
縁の感触は、外側は硬く、内側は肉のように柔らかい。
それが、切れ目なく繋がっている。
それまでの硬質な床の感触から、
グネグネと不気味に柔らかい感触が、少女の足を覆った。
少女は青紫色の肉壁に、背中を預けた。
灰色の防護服の人物は、装甲服内部のコンソールを操作している。
「神経接続を開始」
短い電子音が鳴った直後、肉壁が引き攣れるように、
少女に向かって絡みついていく。
少女の背面――防護スーツの脊椎沿いと、
ヘルメットの後頭部に設けられた、特殊樹脂製の接続端子に、
半有機非晶金属体が流体のように侵入してくる。
接続端子内で人体との接続に最適化するよう変性させられた半有機非晶金属体は、
体表に接触すると皮膚から体内へと浸潤する。
脊椎沿いに侵入した半有機非晶金属体は、
少女の脊髄から脳に至る神経中枢に、直接接続してくるのだ。
「ん゛、お゛、お゛ぉ゛…………ん゛ッ……」
濁音だらけの呻きが、ヘルメットの中から響く。
少女は激しく身を捩り、全身を痙攣させた。
鏡面加工のおかげで表情を覗かれることはなかったが、
バイザーの下では白目を剥き、涎を垂らし、
人間の尊厳を取り落した表情を呈していた。
少女の体を取り巻く青紫色の肉壁の表面が、
粟粒立つように蠢動する。
肉壁は粘菌のように、短い触手を無数に少女の周りに発生させ、
その体躯に貼り付き、全身を覆い始めた。
苦悶の呻きを上げて体を跳ねさせる少女を、
コクピットブロックが呑み込んでいく。
灰色の防護服の人物は、気圧されたように後ずさった。
少女の脊髄や脳に直接触手を潜り込み、
変性した半有機非晶金属体が神経に癒合していく。
意志では制御の及ばない、肉体の反射反応だった。
冷たくも温かくもない、無温の違和感が、
少女の感覚をひたしていく。
脳が蝕まれていくような感覚、
背骨の隙間に入り込まれる感覚、
四肢が金属に置き換えられていく感覚、
臓腑の中に自分自身を孕んでいる感覚。
鈍色の靄に覆われた視界では、金属質の白光が閃く。
少女の全身は、半有機非晶金属体が変形した、
無数の繊維質の触手に絡め上げられていた。
光の乱反射により、繊維質の触手は白く輝いて見える。
少女は、まさに蜘蛛に捕らわれた獲物のように、
白い繭の中で断末魔のもがきを続けているようだった。
少女の全身を覆い尽くした触手の繭は、
今度は徐々に肉壁と同じ、青紫色の濃度を上げていく。
繊維質の触手が、徐々に太さを増しながら、
隣接する他の触手と癒合しているのだ。
悶え、のたうっていた少女の動きが鈍くなっていく。
半有機非晶金属体が、少女の肉体を制圧したのだ。
少女の全身に隈無く貼り付いた触手は、
少女を取り込む形で、他の触手と癒合し、分化していく。
防護スーツ越しとはいえ、全身から侵食される感覚は、
自我が希薄となりつつあった少女の心に、
怒濤のような恐怖とおぞましさをもたらした。
数百回の適合試験と、その数倍を超える適合訓練、
そして十数回の実戦を経たからこそ耐えられる不快感であり、
実戦に臨めるようになっても、
このコクピットブロックとの接続で発狂してしまう着用者は珍しくない。
少女もまた髪一筋ほどの理性で、正気を繋ぎ止めていた。
灰色の防護服の人物の見ている前で、
青紫色の繭は緩慢な身悶えを続けていたが、
やがて、その動きは止まった。
少女を取り込んだ青紫色の繭は急速に組織を分化させ、
肉塊へと変貌していく。
そして、そのおぞましい姿を隠すように、
表面に銀灰色の甲殻組織を生じさせ、
元の金属製の棺のような姿へと戻った。
灰色の防護服の人物は、装甲服内部のコンソールを操作した。
「パイロット・オー・ナイン・シックス、同期は成功したか?
パイロット・オー・ナイン・シックス、同期は成功したか?
音声回答が可能ならば返答を、無理なら信号を送信されたい」
ノイズを掛けられたその声が、
少女の意識を混濁の縁から引き釣り出した。
視界にかかっていた鈍色の靄が、急速に晴れていく。
少女の視界は、ヘルメットにベッタリと貼り付いて脈動する肉壁と、
人より遥かに高い位置からの視点
――機動拡張装甲服のセンサーカメラの映像が、二重写しになっていた。
少女は、意識を取り戻した。
全身が無温の圧迫感に包み込まれている。
手足の指先は勿論、
フィッティングルームで、体内にまで貼り付けられた防護スーツよりも、
かなり深部まで半有機非晶金属体の触手が侵入している感覚があった。
高度な伸縮性と耐久性によって、ある程度の深さまでで留められてはいるものの、
スーツの強度が低ければどうなっていたか。
既に何度となく経験はしていても、少女は体内で蠢く違和感に慄然とする。
「こちらパイロット・オー・ナイン・シックス。
コクピットブロックとの連携を完了。
装甲服との同期に成功。視界、良好」
そう答えた声は、掠れていた。
口内はカラカラに乾いているのに、口の周りは唾液でベトベトに濡れている。
機動拡張装甲服との同期に成功すれば、
いちいち外部マイクのスイッチを切り替えること無く、
考えるだけでシステムは反応する。
灰色の防護服が「了解」と応えた。
機動拡張装甲服との同期が完了した以上、
以降は外部端末からコクピットブロックへのアクセスは不可能となる。
装甲服が大破するような事態に陥った場合、
コクピットブロックそのものが脱出ポッドとして作動するが、
神経接続を強引に遮断して神経中枢部だけを射出するとどうなるか、
その末路は想像に難くない。
また、脱出したコクピットブロックから着用者が無事に脱出できたという事例も、
少女は聞かされたことがなかった。
灰色の防護服は、機動拡張装甲服の防護服のカメラアイに向けて親指を立てると、
キャットウォーク上を足早に後退していく。
可動式キャットウォークが機動拡張装甲服の前から引き下げられて行くのを確認して、
少女は運動制御システムを起動した。
みっちりと重苦しい圧迫感の中で少女が身じろぎすると、その動きと意思に反応して、
機動拡張装甲服も低い唸りを上げ、ゆっくりと立ち上がる。
格納庫のゲートが開放される。
眼底に痛みを覚えるような光量だったが、外は青空ではない。
少女がうなされていたのと同じく、彩度の失われた鈍色の空だった。
外では機動拡張装甲服を戦場へ輸送するための大型ヘリが待機している。
少女は、ヘリに向けて重い足を踏みしめた。
生きて還れば、装着よりも更に苦痛の大きな脱着作業が待っている。
いっそ戦死すれば全ての苦痛から解放されるだろう。
しかし機動拡張装甲服の、着用者の生命を保全するシステムは、
少女を決して地獄から解き放とうとはしない。
その素質があると示してしまった以上、
少女が地獄から逃れられるのは、「奴ら」をこの地球から駆逐した時のみだった。
ヘリから吹き付ける暴風を全身に感じながら、
少女の視線はどこにあるともしれぬ、
戦いの結末を探して彷徨った。