昔の人は言いました。
「月にむかって「そこにとどまれ」などという者があろうか。
若い女の心にむかって「一人を愛して心変わりせぬことだ」などという者があろうか」と。
人の心というのは、昔からそんなもの。
愛さえあれば、どうにかなるものですさね。
…別にうまく書き上がらないとかではなく。
次回は雛ちゃん視点になる予定です。…多分。
夏の終わりを感じる八月末とはいえ、煌めく陽射しはまだまだ強い。
その中を並んで歩く私たちは、どんな風に映るのだろうか。初めて訪れたのが去年の今日、アレ以来来てなかったから丸一年ぶりだ。思えば結構経ったけど、この景色は変わっていないように見える。でも私たちはそうじゃない、あの頃とは良くも悪くも変わっただろう。自覚の有無も含めて、あれこれと。
私にとっては、全てが理想通りではないかもしれない。だけど、それでも。起きた事を受け入れて、真っ直ぐに歩んできたから「今」がある。
この先に起こる事柄も、私は否定せず受け止めて行こう。
――と。そんな風に浸っていたせいか、気付かない内に足が止まっていたらしい。
同行者に軽くわき腹をつつかれて、私はふと我に帰る。
「っと、ごめんごめん。もうじきあの民宿だよ、あとちょっとだから」
今日はあの日と同じように、あそこへ泊まる予定だ。とは言えあの時は偶然に偶然が重なったアクシデントの産物だったから、こうやって目指して行くのは初めて。民宿の予約っていうのも初めてしたな、ビジホとかみたくサイトの予約フォームからってわけにはいかなくてちょっと戸惑った。その辺が面倒なんだよね、実際。まあ良いけど。
「にしてもこっちがあれこれ悩んでる時に、
ジト目で見てくる蝶野さんと、苦笑する大喜くん。呑気ではなかったけどね、あの頃は。私も私であれこれ背負うものが増えて、大喜くんも追い込まれてて。でもま、どうにかなるもんだ。こうやって想い出になってしまえば、悪くなかったと思えるし。
私たち三人は、笑いあいながらまた歩き出す。
穏やかに過ぎていく、名残の夏を楽しみながら。
蝶野さんが大喜くんにフラれた、と菖蒲ちゃんに聞いたのはつい数日前。ウインターカップも終わり夢佳との仲も取り戻して、和やかに年の瀬を過ごそうと思っていたらこれだ。告白したのは知ってたけど、まさかあれから何ヵ月も経ってようやく返事したのか大喜くん。
そして菖蒲ちゃんが言うには、大喜くんには――好きな人がいるそうだ。だから蝶野さんを好きになれない、ということらしい。
大喜くんが誰を好きなのか、それは私には分からない。分かったところでどうしようもない、誰であろうと同じだ。それが私ではないのは確定しているし、それを理由に変えられるほど私の気持ちは柔じゃないから。
大喜くんが好き、それは動かせない。蝶野さんだってそうだろう、そうそう引き下がれるとは思えない。あの子は頑丈で強いから。
つまり私たちは、
苦手なんだよなぁ、そういうの。部活以外で人と争いたくない。
とりあえずここは大喜くんのスタンスが見えるまでは様子見しとくか、……なんて思っていたのに。
「千夏ちゃん、試合明けで疲れてる所悪いんだけど大喜の世話頼んで良い?」
由紀子さんがそう言ってきたのが今朝の事。年末年始には「本家」へ行かないといけないから、松が明けて帰ってくる二人だけでどうにかしてて欲しい、と持ちかけられたのだ。
いや、いやいや。いやいやいやいや、あの。私はそもそも居候だし、自分で言うのもアレですが御年頃の女子高生ですよ。それを男子高校生と二人きりで十日近く過ごせと。まあこんなワンパクでたくましい子相手に不埒なこと考えやしないだろうけど、その辺どうお考えですか由紀子さん。あと貴女私を自分の娘だと普通に思ってますよね、大喜くんと私は姉弟じゃないんですけど。
……なんて居候の私が言えるわけもなく、愛想笑いのまま淡々と話しは進んで現在。一夜飾りは縁起が悪いからと正月飾りを終えた師走の三十日、私は気まずい思いでリビングになんとなく居残っている。部屋に上がってしまえば良いんだけど、それはそれで――勿体無い。
さぁて、どうしようか。チャンスではあるんだけど、ここで手を付けたら蝶野さんに悪いし大喜くんも嫌がるだろう。私なんかじゃ、そりゃあね。
そうは思えど、気持ちはなかなか止まってくれない。良くないけれども、けれども私だって大喜くんが好きなんだ。それにそもそもの段階で、こんな可愛い生き物と一緒にいてヘンなことを考えない人がいるだろうか。
やっぱり由紀子さんには、色々ちゃんと考えて欲しかった。私だって木の股から産まれたわけじゃないんだから、色々と思うところはあるんだ。
とは言えもう遅い、既に私は――大喜くんにのし掛かろうとしているのだから。
「ぇあ、の。千夏先輩、あの……えー……」
驚きすぎて騒ぐ気も起きないのか、それとも私に力じゃ勝てないと分かってるのか。なんにせよ大喜くんは、私の下で固まっている。その小動物みたいな顔に唇を寄せ、そっとキスをしてみるとビクンと身体が跳ね上がった。まあ、その程度で振り落とせる程私は軽くないけど。
頬を舐めながら唇を滑らせ、今度は完全に唇を塞いでしまう。そして舌で歯列を抉じ開け、その奥へと侵食を深めていく私。生まれて初めてのキスにしては、身体が勝手に動いてくれるのが不思議。
きっとこれが、本能というものなんだろう。大喜くんが抵抗せず受け入れてくれているのも、そして。その身体の一部が見せている「反応」もきっと、本能が為せる業。下半身に向けて伸ばした手で、そこをそっと撫でてみる。
布越しにも感じる熱気と、堅く逞しい感触。大喜くんの……オトコノコは、ガチガチに張り詰めているようだ。私も経験はないとは言え一応知識はあるから、これがどういう状態なのかは分かる。それが大喜くんにとって恥じ入るべき事だという事も、そしてそうだからこそ付け入る隙になるという事も。
「……ごめん。大喜くんが誰を好きであっても、私は――大喜くんが好き」
我ながら卑怯だな、とは思う。身体だけ関係を持たせて、そこから切り崩すつもりなのだから。でももう、止まれない。
返事を待たないまま、私は大喜くんのオトコノコへ直に触れ引きずり出していく。直接触るとその熱さは格別で、皮に隠れた中からは染み出すように粘液が溢れていた。本当ならこれは、大喜くんの好きな人がするべきこと。私がしていい事じゃない、だからこそ大喜くんは罪悪感を抱く、私を意識せざるを得なくなる。
ああ、全く。私と来たら、本当に卑劣だ。
そんな事を考えながらも、いつぞや渚たちが言っていたようにオトコノコをしごいてあげる。こうすると男の子は気持ちいいらしいけど、力加減が出来ない私の手じゃどうだろうな。いやまあ大喜くんはハァハァと荒い息を吐いているし、気持ちいいは気持ちいいんだろう多分。
そうやって手を動かし続けると、不意に大喜くんの身体が大きく震えた。その直後に手の中で感じたのは、熱い迸り。粘りけの強い液体が、ドクドクと溢れ出てきたのだ。
顔まで昇ってくる牡臭さから本能が察する、これが精液なのだと。大喜くんが今、私に包まれ射精したのだと。
それでもオトコノコの硬度は変わらず、自己主張を緩めない。もっともっと、と期待するように。
ならば、それに応えよう。……なんて、勝手すぎる理屈だな。大喜くんの気持ちなんか、ひとつも考えちゃいない。
こういう所なんだろうな、私は。
「ん、ぅぁ……っ」
精液にまみれた手でかきむしるように、見せ付けながら私は
好きだから、愛しているから。
覚悟と共に、私は腰を降り下ろした。
「ぅ……っ」
指が入り込む時よりもずっと強く、ずにゅりと私の内側へ大喜くんが入ってくる。話に聞くような痛みはなく、異物感も殆ど感じられない。ただただ、熱い。大喜くんの熱が私を充たしていく、そんな快感が頭を焼いていく。
パチパチと瞼の裏に火花を飛ばしながらも、身体を更に沈めると快感の質が変わり出すのが分かった。お腹の深い部分が押し上げられ、奥の奥が突かれて悲鳴のような嬌声と共に意識しないまま僅かに腰が上がり、そして重力にしたがってまた落ちて。その度一瞬呼吸が止まって、沸き上がる鼓動がそれを呼び戻す。気が付けば呻くように喘ぎながら、私は大喜くんの上を跳ね回っていた。
やがて慣れてくると、繋がっている箇所の様子が粘膜を通して脳に伝わり出す。私の中は大喜くんのオトコノコにぴったりと吸い付いて離れようとしない、その形を自身に刻み込もうとしている。
大喜くんもきっとそうなんだろう、囈のように私の名前を呼びながら腰を突き上げてくるから。
ああ、幸せだな。このまま大喜くんを私のモノにしてしまえたら、どんなに良いだろう。でも、そうはならない。今は気持ちいいから
少しだけ悔しさを覚えた、その瞬間。お腹の一番奥で、何かが瞬いた。
「ぁ、あー……、なんか、出てる……?」
さっき感じた射精の拍動を再び、それも膣内で味わいながら。私は幸福感に包まれて目を閉じる。先の事なんか考えたくない、このまま浸っていたい。そう願いながら。
……やってしまった、なあ。勢い任せで私は、なんてことを。
「あー……ごめん、大喜くんに好きな人がいるのは知ってるけど……さ」
一頻り感じ倒して戻ってきた理性に苛まれながらも、私は折れそうになる心を必死で立て直す。これで軽蔑されようがどうなろうが、私は悔やんではいけない。そんな逃げ道、有るわけがない。
私たちの間に気まずい沈黙が流れて暫し、ようやく口を開いたのは大喜くんの方だった。
「俺が、好きなのは……千夏先輩、です。ずっと、先輩だけ……なんです」
小さく、でも力強く。確かにそう、大喜くんは呟いたのだ。
………………それは、まさか。さっきの余韻でトチ狂ったのか、とも思えるけど大喜くんの眼差しは真剣そのもの。つまりこれは、本心だと言うことか。まさか大喜くんが私を、……好きだなんて思わなかった。私はそんな大層なものじゃないんだけどね、よくもまあこんなガラッパチな子を。
でもそれはそれで、大変だ。私はこれからどんな顔して蝶野さんに会えば良いんだろう、こんな抜け駆けみたいな形になってしまって。いやこれは完全に抜け駆けじゃないかな、私。
私は大喜くんが好き、大喜くんも私が好き。だけどそれは、蝶野さんを泣かせて良い理由にはならない。蝶野さんが大喜くんを好きな気持ちは、そこにあるのだから。大喜くんだって蝶野さんが嫌いな訳じゃない筈、それは傍から見ていても分かるじゃないか。
なら後は、私の立ち回り一つだ。上手く行ったら御慰み、とね。
無い頭を振り絞って考えるのは、明るい明日。皆が笑って過ごせる未来像、それだけだ。
その為にはまず、越えないといけないハードルがある。……とんでもなく高いけど、どうにかしなければ。
でもまあ、今は。今だけはとりあえず、二人きりの時間を楽しもう。全てはその後、だ。
「で。千夏先輩はわざわざ勝ち誇りに来たわけですか、ずいぶん悪趣味なんですね」
蝶野さんの不機嫌そうな瞳に、思わず挫けそうになってしまう。いやいや、早い早い。
そうじゃないよ、と私は蝶野さんに向き直る。別に勝利宣言が目的なわけじゃない、むしろそれは最悪だ。勝ちも負けも、私が目指す所じゃない。
「私は大喜くんが好き、だけど――蝶野さんとも
それが私の偽らざる本音、青臭い理想論かもしれないけど私はそうしたい。だからこうして、蝶野さんの家まで押し掛けてきたんだ。
人を好きになったら周りと対立しないといけないなんて、そんなのは認めない。私は好きを諦めないけど、だからって人を押し退けるつもりなんか無いんだ。大喜くんを抱いてから私は、本格的にそう思い始めた。
好きになるのは幸福で、それを失うのはきっと不幸だ。大事な後輩を不幸にしたら、先輩の名折れだろう。
その思いを込めて、絶句する蝶野さんににじりよって。私は――キス、していた。
呆然と私の唇を受け止めたまま、蝶野さんは大きく目を見開いたまま動かない。
そのまま、どれだけ時間が経っただろうか。ついっと離した唇に、唾液の橋がかかって落ちるのがスローモーションのように視界の端で見切れている。
「私は大喜くんも蝶野さんも、同じように好きだよ。だから、大喜くんにしたこと全部……蝶野さんにもしてあげられる」
貪欲で自分勝手な話を聞かせながら、もう一度キスをする。長く深く熱いキスを交わしながら、大喜くんよりも少しだけ小柄な身体をベッドに押し倒していく。大喜くん相手でもぶっつけ本番でどうにかなったんだ、きっと出来るさ。そんなどこか楽観的な思いと共に。
あれから季節は流れて、現在。私たち三人での関係は、あれこれと波乱はあれど恙無く回っている。不思議な事に。まあだからこそ、こうやって三人でお出掛け出来るんだけどね。もし何処かで誰かが独り占めを望んでいたら、誰かが一人しか愛せないと思ってしまっていたら、こうはなれなかった。きっと何処かギスギスした、居心地の悪い関係にあっていただろう。
そうはならなかったんだから、それで良いんだけど。起きてもいない事を心配したって仕方ない、楽しまなきゃ。
どうせだし誕生日を三人で過ごしたいからと、インターハイを終えガタガタになった身体を押して決行したこの強行軍。
陽射しを浴びて輝く海は記憶と変わらず美しいけど、ちょっとだけ疲れたな。まぁ、民宿に着いてから
今夜は眠れないかもね、うん。寝かせないと言った方が正しいか。そういや去年は夜通しパーティゲーム三昧で、電池が切れるように眠ってしまったんだっけか。あの頃の私たちはピュアピュアだったなぁ、本当に。
ああ、でも。せっかく18歳の最初の朝なんだから、大喜くんと蝶野さんを抱き締めながら迎えられたら良いな。
そんな事をぼんやり思いながら、私は二人の手を取って足を早めた。
<続く>