綺麗事も言えなくなったら、もう人間も宜しくない。
大言壮語も若さの証、無理を通して道理を蹴り飛ばそう。
なに大丈夫、若いんだから。
精も根も使い果たし、俺はただ天井を見上げている。
さすがにもう、動けそうにない。バドの公式戦でさえここまで疲れきった事はない、正直かなり厳しい。下手したら明日辺り筋肉痛で悶える事になりそうだ。
ああ、もう。これ以上は絶対無理。
頼むからもう暫くは、というか朝まではおとなしく寝ててくれ。
俺を挟んでステレオで聞こえてくる雛と千夏先輩の寝息を感じながら、そう祈る。
しかしまさか、こんな事になるとは思わなかったな。
……いやまあ、狙ってやってたらゲス過ぎるんだけどさ
いつの間にか雛と千夏先輩が仲良くなっていた。それに気が付いたのは、ほんの数日前。
どうも二人が一緒にいるのをよく見かけるようになり、なんだか気まずさを覚えたりした。とは言え栄明のスーパーエース同士、通じるものがあってもおかしくはないか。それに同じ整体院にかかってるのもなにかの縁、仲良くなる土壌は揃っている。
俺が感じている気まずさは、二人には関係ない話だろう。俺は千夏先輩が好きで、だから雛の想いには応えられなかった。それがあるから、二人が並んでいるとどうも身構えてしまう。どこぞのハーレムラブコメじゃあるまいし、二人が俺を巡って対立するなんて有り得ないのに。千夏先輩はきっと、雛が俺に告白したことなんか知らない。雛は俺の気持ちを知ってはいるけど、そもそも先輩が俺に大した感情は持っていないのも分かっている。
まあどうあれ、これは悪いことじゃない。仲良きことは美しきかな、と言うし。
そんな後方友人ポジションでいた自分を、今は思いっきり殴りたい気分だな。なにしろ俺と来たら、人も通わない空き教室で二人に詰め寄られているのだから。
……形はどうあれ、意図はどうあれ、人同士がそんな簡単に仲良くなる事はなかなか無い。それこそ、お互いが手を組み合うような理由が無ければ。
そう、その理由とは即ち――俺だったと言う訳だ。
「大喜くんさ、私を好きになってくれたのは嬉しいよ。でもそれで蝶野さんを泣かせるのは、お姉ちゃんよくないと思います」
そもそも貴方を姉に持った覚えはないんですけど。いやそうじゃない、そうじゃなくて。
先輩の後ろに隠れるようにして、雛はじっと俺を見つめている。こんちくしょうやりやがったな、まさか千夏先輩を味方につけて意趣返しに来るとは。 その上こっちの気持ちも全部ブチまけてくれたようだ、マジで何てことしてくれたんだお前は。
合宿の夜はお互いのこと考えてああ言った、それで俺も傷ついたのに。
「……あのね、
それは、……それは。俺は千夏先輩が好きだ、でも雛を嫌いな訳じゃない。だからこそ気持ちが揺れてしまう自分が許せなかった、こんな不純な心持ちではいられないと思って「結論」を突き付けた。好きになれるのはただ一人、他を見てはいけない。そう思うからこそ、俺は――。
そこまで考えて、ふと気がついた。あっさりと語られた、その言葉に。
「あの、……千夏先輩? 今なんて言いました、俺を……?」
「うん、好きだよ。それは置いといて、蝶野さんの話をしようよ」
いや、いやいや。いやいやいやいや、それは余りにも――
……いや、しかし。もしかしたら、ズレているのは俺の方なのかもしれない。守屋マネがあちこち蛸足配線しているように、これくらいライトなのが普通だったりするんだろうか。
そうなると、それは。……それは、こういう事だったりするんだろうか。
「俺は千夏先輩が好きで、でも……同時に雛を好きでも構わない……?」
都合の良い話にも程がある、でも二人はそれを否定しない。
「私は、それで良いと思うよ。蝶野さんも、だよね?」
「まあ、……はい。このまま拗れるくらいなら、共同所有ってことにしちゃおうかなって」
そんな家電買い換えるくらいの態度でそんな事言わないでほしい、それに俺の気持ちはどこへいくんだ。
そう訴えようにも、逃げ道はもう無い。そして何か言おうと開きかけた唇も、ついっと塞がれてしまった。雛と千夏先輩、二人の唇で。
柔らかく濡れた質感が、唇の左右を包み込む。密着した顔同士が体温を伝え会う、脳が追い付かない程の快感が全身を貫いていく。こんな行為に晒されて、それでもまだ拒絶の意思を示せる程俺は強くない。
永遠に近い長さにも思えたキスが終わって俺は、ただ頷く事しか出来なかった。
三人仲良く、はそりゃ理想かもしれない。理想かもしれないけど、許されるんだろうか。
何処かに残る罪悪感はでも、その楽しさに押し潰されてしまう。部活帰りに三人で喫茶店に寄ったり、夜寝る前にグルチャで延々無駄話したり。考えてみれば俺たち三人は、千夏先輩の件で秘密を共有する仲だ。こうやって穏やかに過ごしても、不自然ではないだろう。
そう、俺はそんな甘いことを考えてしまっていた。あの行動力の権化千夏先輩と手段のためなら目的を選ばない雛が手を組んで、何も起こらない訳がないのに。
「大喜くん、蝶野さんとも話したんだけどさ。――セックスを、しましょう」
謀ったように練習がない上大人もみんないない連休の午後、遊びに来た雛と部屋でなにやらゴソゴソやっていた千夏先輩は、想定を遥かに越えるろくでもない事を言い放った。
そう来るか、そんな風に来るか。一緒に暮らしていて分かったけれど、千夏先輩は器が大きい天才じゃない。底が抜けた天災だ、何をやらかすか全く分からない歩く災害。理解するとかそんなことは不可能で、吹き荒れる暴風から身を守るためには常に最悪の事態を考えるしかない。その更に斜め上を行くから始末が悪いんだけどさ、実際。
まあ、俺たちは三人で付き合い出したわけで。三者三様あれこれあれど、もう高校生なわけで。そういう事があっても、おかしくはないわけだ。
それに、考えたことがないとは言わない。俺だって男だし、人並みに興味はある。あるけれど、さ。こんな形でするもんなんだろうか。
自信はどう思ってはいるのか、ピッと指をたてて千夏先輩は続ける。
「ただね、どうすれば良いのか分かりません。この中には経験者がいませんから」
何でか知らないけど倒置法で言う意味はあるんだろうか、なんて何処か他人事のように聞きながら俺はふと窓の外を眺めた。
空はこんなに青いのに、日差しは柔らかなのに。どうして俺たちは、こんな事を大真面目に話してるんだろう。
ヒートアップする先輩と雛の声を聞きながら俺は、思考を手放した。無意味だから。
とりあえずそれっぽい事してみようか、と服を脱がせあったりシャワーを浴びたり。そんな事してる間に、時刻はいつの間にか夕暮れになっていた。
三人とも素っ裸のままありもので晩御飯を済ませるという、何だか普通に有り得ない事をしてみたりしつつ。……俺たちは、だんだんとそういう雰囲気を醸し出していく。と言うか期待する気持ちはきっと見透かされている、一目見れば分かるだろうし。と言うか余りにも分かりやすすぎるくらい、よーく見えているから。血が全て集まっているんじゃないか、そんな事を考えてしまうくらいにガチガチになっているから。
それは二人も同じなのか、さっきから落ち着きなく太股を擦りあわせたり切な気な吐息を漏らしたりしている。
そろそろ、なんだろうか。でもこういう時は、どうすれば良いんだろう。一応脳内にあるその手の情報を総動員してはみるけれど、細かい部分がハッキリしない。
モジモジしながら過ごす時間を終わらせたのは、やっぱり千夏先輩だった。
じゃあしましょうかーと言いながらゴソゴソとコンドームを取り出すと、俺と雛の目はそこに釘付けになる。これを着けたら、もう
「えーと、あれどうやって着けるのかな……」
押し当てられた薄いゴム、その被膜越しに千夏先輩の指がゆっくりと俺の幹を下りていく。
それは刺激的という言葉では形容できない、そんな凄まじさを帯びた快感が脊髄を駆け抜けて――。
「え、なんか脈打っ……、うぁっ!?」
驚きの声と共に弾かれるように離れた千夏先輩の手、それを追いかけるようにドクドクと精液が放たれた。
その勢いでコンドームは捲れ上がって外れ、噴き上がる白い噴水がベッドを汚していく。
やがてそれが収まると、目を丸くした雛が小さく呟いた。
「……いや、触っただけで出るもんなの? 男の子のってさ」
「あー……面目無い」
ベッドに寝転がり脚を拡げた雛と向かい合い、俺は息を呑む。
蝶野さんからしてあげて、と千夏先輩が言ってくれた。それがどういう意図なのかは分からないけれど、でも。千夏先輩に見守られながら、俺はこれから雛とするんだ。
できる限りで良いから優しくしなさい、て言うかそうしないと後で血が出るまで殴るからね、なんて怖いことを言われながらも雛へと覆い被さり、その入り口へと自身を押し当ててみる。明らかにモノが入るような構造とは思えない、狭い狭い隙間。ここへと分け行って、良いんだろうか。まさか今ここからやめるわけにもいかないけどさ。それこそ殴られる。
腰を少しずつ突き出し、様子を伺いながら俺は雛の中へと入っていく。一回出してしまったのが逆に幸いしているのか、その感触を味わえるくらいにはまだ余裕が残っているようだ。しかしこれは、これは――なんなんだろう。暖かく窮屈な筒の中へと押し込んでいくような、他に比べようがない感覚。全体が締め付けられるこの快感は、手とは全く異なる。
根本まで全て埋まった瞬間、唇に感じたのは熱く軟らかな圧力。それが雛の唇だと理解した時、それは起こった。
ぎちり、と締め付けが一気に強まり、雛の内壁がゾワゾワと俺を擦り上げて蠢くのがハッキリと分かる。目の前の雛は白目を向いて囈のように俺の名前を呼び、背中に爪を立ててしがみつく。
これが女の子の、絶頂なんだ。本能的にそう感じた刹那、俺もまた臨界を迎えた。雛を抱き返しながら、思いきり腰を突き上げ射精が始まる。
お互いの絶頂が合わさったからか、まるで搾り取られるように精液が止まらない。
抱き締めあいながらそのまま、どれくらいそうしていたか。拍動が収まってゆるゆる身体を離すと、それに引き摺られてコンドームが雛の中から抜け落ちていく。……よくもここまで入るものだ、と感心するくらいにパンパンに膨れ上がった状態で。もし途中で傷ひとつでも付いていたら、これが全て雛の中に呑み込まれていたのか。ちょっと興奮はするけど、でもまあそうなってしまったら色々とお仕舞いになってしまう。
雛は荒い息のままズリズリとベッドから滑り降り、そして交代するように千夏先輩が上がってきた。
「じゃあ、次は私だね」
トンっと俺の胸を突いて仰向けに押し倒し、先輩は俺へと跨がってくる。専門用語でいうところの、騎乗位というやつだろうか。
そのまま新しいコンドームを嵌めながら、千夏先輩は薄く笑みを浮かべた。
「そう言えば大喜くんが隠してるえっちな本とかって、こういう姿勢多いよね。やっぱり大喜くんマゾだし、女の子に色々されちゃうのが好きなのかな」
……ええ、まあはい。でもそんな開けっ広げに言わないで下さい、雛がニヤニヤしてやがるんで。
天井を向いた俺へと覆い被さってくる、千夏先輩の秘所。雛よりも少し毛深いそこはまるで猛獣の口のように、俺を呑み込んでいく。
上からのベクトルだからか雛のよりも深く入っていく気はする、締め付け方も違う気がする。でもそんなの比較できるわけがない、どっちにしても気持ちよすぎる。この快感の前で、何を考えることが出来るものか。それに先輩が俺の上で動くたび、形の良い胸が激しく揺れるのも目に毒だ。囁く声は耳を犯し、伝わってくる体温は俺の身体を侵食する。
全ての感覚がセックス以外の刺激を否定し、全身でただそれを味わうだけ。
「お。お、おー……。なんかビクンビクンってしてるー……、射精してるんだねぇー……」
千夏先輩の蕩ける声を、まるで遠くに感じながら。俺はただ、幸福な脱力感に落ちていった。
疲れ果てて意識は夢現をさ迷い、寝ているのか起きているのかさえ曖昧になっている。
あのあと先輩は「私まだイケてないよー」と速攻で二回目をしようとするし、雛は交代でするって約束でしょうと俺を持っていこうとするし。結局耐久戦に突入し、動けなくなるまでやり倒した。疲労の質が違うのか俺は疲れすぎてうまく眠れないのに、二人は揃って電池が切れるように寝てしまったから不思議だ。
首だけ動かして見た時計はもう昼前、切れ切れに意識のオンオフを繰り返しているせいかまだ心は収まらない。あんなメチャクチャな時間を過ごしたんだから当然か、なんて思いながらも俺は何となく千夏先輩の手を取っていた。眠っているからか普段よりだいぶ熱い、それに触れているとさっきまでの乱れた姿が思い出されて止まらない。悪いと思いながらもその手を、隆起し始めた
眠りの中で何を思っているのか、指先が予想できない形でふよふよと動き回るのを感じる。これは、これは。……思ったよりも、気持ちいいかもしれない。同じ手ではあるのに、自分でするのとは大違いだ。このまま激しくしごいたら、どうなってしまうのか。でもまさか、そんな事をさせてはいけない。こうして触らせている事自体、反則みたいなものなんだ。
早く手を戻して、汚れを拭き取って、全部元通りにしなければ――。理性にそう急かされながらも、快感は溢れてくる。
「、ぁ――、……っ」
遮る事も出来ないまま精液は迸り、俺は口をつぐみ声を殺すので精一杯。
千夏先輩の手は白く汚れ、湯気さえ立てているように見えてしまう。
漸く噴出が止まり、胸を撫で下ろした次の瞬間。太股に小さな痛みが走り、俺は思わず声を上げかける。
「……何やってんのよ、バカ大喜」
痛みを感じた方へバッと顔を向けてまず見えたのは、俺に白い目を向けている雛。……全部見てやがったのか、こいつは。
雛は呆れ顔で汚れた先輩の手を掴んで、そして。まとわりついていた精液を、チロチロと舐めとり始めた。
「あのさぁ大喜、するなら起こしてからにしなさいよ。起きた時に手が精液臭くなってたら嫌でしょうが」
いやよだれ臭くなるのも大概だと思うけど、と言うと雛は愉快そうに笑いだす。それが聞こえたらしく目を醒ました千夏先輩も、むにゃむにゃと寝ぼけ顔で微笑んだ。
なんだろうな、これは。三人揃ってこうやって、目を醒ましてすぐに笑いあって。
こういうのが、幸せなんだろうかな。
いやまあ、色々と間違ってはいるんだけどさ。