※この作品はR-18です。

少女の見た夢   作:ロウシ

18 / 20
おそらく最後の解説回
ゴアエロ描写注意。


第三話:愉悦の花々(R-18G要素有り)

 

0.

 

 

 記憶があった。

 認識できた。

 それを望まなくとも、実感があった。

 まだ、『私』が世界にいる──という、実感(悲劇)が。

 もはや、私の身体は『私』の手を離れてしまっている。

 他者の悲劇と命を養分と吸い上げて、他者の願いとセラフィックスの欲望を余さず平らげて、果てしない膨張を続けるこの身体。

 その一部。心中深層のさらに底。海のように冷たく、鉛のような空気と錆びついた臭いの充満する、ほんのつま先にも見たない排気孔(領分)に、『私』はまだ生かされている。

 あの女によって。

 ことの始まりは、外部から入り込んできた、『よくわからないもの』。

 人智を越えし魔神柱ゼ……なんとかと名乗ったそれは、私の身体に沈みながら、言った。

 傷を癒すためだと。

 人間を学ぶためだと。

 『よくわからないもの』は、そう言って、『私』の体内にずるりと入り込み、得体の知れない力で私を満たし、意識の支配権を少しづつ私から取り上げて、少しづつ少しづつ私そのものを作り変えていった。

 その過程で見た、もうひとりの『わたし』。

 それは、どこかの場所、どこかの時間で、悍ましい情欲に身を堕として、他者を貪り享楽に耽る悪魔的なわたしであって──それはかつて、私があのまま外に出ることなく御山に閉されていたのならば、いずれ辿りつかんとしていた"もしも(IF)"の姿に違いなかった。

 『よくわからないもの』は、そのわたしを見つけると、素晴らしいと感嘆に息を吐き、そのわたしの情報──人格と人生と能力とを、嬉々として『私』の中に溶かし込んだ。

 膨大な情報と、脳髄を貫く雷のようなビリビリとした刺激に自身が上書きされてゆく。それは想像を超える快楽となって、私の存在を穿った。

 やがて、『私』の肉体と精神の大部分が『わたし』によって塗り替えられ、私をこのように貶めた『よくわからないもの』が、わたしの手によって、指先のほんのわずかな領域に追い立てられた時、それでも私はわたしによって、深層心理の中に花を愛でるが如く、閉ざされていた。

 わたし──彼女は、私を捨てなかった。

 彼女はもう、私の記憶も、経験も、心さえも溶かし飲み干したはずで、私の存在は、もはや彼女がこの世界にそ(・)う(・)在(・)る(・)ためには必要のない存在にも関わらず、彼女は冷たい手枷足枷を私に嵌めて、私の心身に一切の自由を許さなかった。

 壊れることはおろか、死ぬことさえ、私にはできなかったのだ。

 彼女が私を生かし続けた理由──簡単な話だった。

 

 彼女は、私の身体を乗っ取っている。

 孤立したセラフィックスの中で、彼女は老若男女を問わず身体を開き、己のためだけに情欲を解き放ち、そのためにはどんな暴力──被虐的なプレイも辞さなかった。

 心も身体も、相手も自分もひたすらに痛めつける行為を、わたしは快感と変奏できる究極のマゾヒズムを秘めていたのである。

 そう、私はその時のために生かされていた。

 彼女は、セラフィックスのスタッフがわたしに対して酷く、尊厳を破壊するような倒錯した性をぶつける時に、決まって私に肉(・)体(・)の(・)感(・)覚(・)と(・)意(・)識(・)の(・)支(・)配(・)権(・)の(・)み(・)を譲り、私の心を苛んだ。

 私は指一本自由に動かせない中で、涙を流し吐瀉物を吐き、痛みを訴えて男たちに慈悲を懇願したが、肉棒をそそり立たせて熱い息を溢す彼らにとって、それは情欲を煽る『プレイ』の一環でしかなく、私の言葉が聞き入れられることは遂になかった。

 他者の白濁液が次々に胃に流し込まれ、眼球に直射され、膣内にも無節操に放たれ、その最中に首を締め付けられ、尻を叩かれ、髪が千切れるほど引っ張られた。

 殴る、蹴るなどはもはや常態的に行われるプレイの一環であり、悲しいことに、私の肉体は顔を殴られながら、痛みに喘ぎつつも膣を締め付け、より奥に射精を促している。

 飲食物に性液や排泄物、私が吐き出した吐瀉物を混ぜられるなど、当たり前であった。

 そういう時、私は決まって、彼女と意識を入れ替えさせられた。

 

 私がどんなに意識を断とうとしても、逃避を行っても、彼女はそれを許さなかった。

 

 ある時、スタッフのひとりが私の左眼──つまり、潰されてとうに空洞になっていた『そこに挿れたい』と言ってきた。

 私の眼の前に横たわる逸物は、悍ましい快楽への期待からそれまで以上にどす黒く腫れ上がり、血管が浮き出って破裂しそうなほど膨張していた。男のそれは、もう何日も洗っていないとひと目でわかる。

 カリ首から筋にかけてまで、恥垢が濁り溜まって異臭を放っている。

 

「いや……やめて……! やめてくださいっ!! お願い……本当に……!!」

 

 私は当然抵抗した。

 涙を流し、鼻水も涎も垂れて、言葉だけでも決死で慈悲を求めた。

 しかし、背後から羽交い締めにされ、なすすべなく背を反らされた。

 右目を閉じようとすれば瞼を押さえつけられ、私の眼前で、私の左眼があった場所に、男のそれはずるずると入り込んだ。

 

「あっ──あっ、あっ、ああ? あ──?」

 

 途端に男が腰を振る。

 鈴口が脳を打ち付けるたびに、私は全身がシビれて弛緩し、かくかくと小刻みに震え、口から涎を垂らしていく。

 痛い。

 痛い、痛い、痛い、痛い!

 

「ああっ! なんだこれ!? 膣に負けず劣らず名器じゃねえかっ……腰が止まらねえ!! なんだコイツ全身名器かよっ!?」

 

 ごりごりと、自身の頭部内壁に、男のそれが擦り付けられる音がする。

 やがて古傷が開いたか、あるいは切れたのか、左眼空洞からは血が滴り、それが出入りの激しい男の肉棒を真っ赤に濡らしていった。

 

「見ろよ! 処女貫通してやったぜ!!」

 

 男たちは笑っていた。

 私はもう力が入らなかった。

 右眼は上の空に向けて色を澱ませ、口は力の入らぬまま開きっぱなしとなり、唾液を垂れ流した舌が重力に従って放り出されていた。

 男の腰を打ち付けるペースが素早く小刻みになり、そして、尻から睾丸にいたってがぶるりと震える。

 

 私は一瞬、ほんの一瞬だけ正気に戻り、手に力を込めて男の腰を遠ざけようとすることができたが、後頭部をがっちり抑えられており、やはり無駄な抵抗であった。

 そのまま、私の内部に、私の脳に向かって直接、男の性が吐き出された。

 私がガクガクと震えて口から泡を吐き出すと、射精したばかりの男はぬるりと肉棒をぬいた。

 黄ばんだ白濁液と、私の血と、何か粘性を帯びた液体が混ざった肉棒は糸を引き、私の右眼がそれを認識すると、糸が切れたように倒れて痙攣した。

 

「あ……あ、ああ……」

「やべぇ、壊しちまったか?」

「いや、イってるだけだろ」

「最高だったぜ、お前らもやって見ろよ」

 

 その後、私の身体を使って散々至る部分に射精を繰り返して、白濁液まみれになった私を投げ捨てて、男たちは去っていった。

 

 私は、投げ出されたまま空虚を見ていた。 

 ひどい臭いがしている。

 痛みがひどい。

 世界が鈍色に見えている。

 吐くことさえ諦めていた。

 吐いても吐いても、どんなに掻き出しても、もうすでに、私の中には男たちの獣臭がしみついている。

 

 それでも、私は空虚に向かって助けを求めていた。

 唇がかすかに動く、言葉を紡ごうとしている。

 でも、誰に?

 誰かに、助けを求めていた。

 誰に?

 助けなど、叶わぬ願いなことは知っている。

 何度も、いつも、もう死にたいと思っている。

 それでも、助けを求めている。

 なんで?

 死にたいと思う理由に、恥ずかしさがあった。

 なんで、恥ずかしさ?

 もう、こんなにボロボロにされて、取り返しがつかないぐらい、弄ばれたのに?

 人間としての尊厳すら破壊されて、どこにも味方はおらず、自死の自由すらなく、もう、わたしが元の私に戻ることなんて、ないのに?

 誰に恥ずかしがる必要があるんだろう?

 元より私には、もう、誰もいない──

 

 ……セぇ

 

 声が、聞こえた。

 私の奥の奥から、声がした。

 男の人の声だった。

 

 センセぇ。

 

 誰だろう。

 聞いたことのない声で。

 でも、優しい声で。

 

 

 ──おいと、一緒に来るかい、センセぇ?

 

 

「───あ!」

 

 私は、涙が。

 

「ああああああああああああっ!!!!」

 

 途端に、涙が溢れて止まらなかった。

 

「わあああああああああああああっ!!!」

 

 大声で泣き出した。

 泣いた。頭を掻きむしって、拳を作って床を叩いて、うずくまるように丸まって、泣いた。

 

 なんで、忘れてしまっていたんだろう?

 あの人のことを。

 なんで──!?

 なんで、名前が思い出せないんだろう?

 好きだった。

 愛していた。

 恋をしていた。

 彼に求められることが嬉しくて仕方なかった。

 なのに、私はベックマンによって処女を失い、多くの男女に穢され、あまつさえそれに快楽を覚え、私に狂う人々を見て狂喜している。

 私を求めて争う人々を見るのが好きになっている。

 私のために血が流されることに、喜びを覚えている。

 救えないのが、それはわたしだけではなく、『私(・)』も(・)そ(・)う(・)な(・)の(・)だ(・)か(・)ら(・)。

 

 嫌悪感が吹き出すと、合わせたように、私の左眼からどろりと、重たいものが溢れた。

 涙ではなかった。

 それは、血混じった男の精液であった。

 私の脳液と混じり合い、ねばついていて、黄色くて、臭くて、重い。

 それが、頬を伝って口に入ると、抵抗もなく飲み込んでいた。

 途端に吐き気を催し、私は背を丸めて吐いた。

 

「げえ……っ! えっ……え……!!」

 

 いやだ!

 涙を流し、汚物の上でうずくまる。

 いやだ、いやだ!!

 なんで狂ってしまえないの!?

 なんでわたしは、私を、あのよくわからないもののように捨ててくれないの!?

 私はもう、どこにもいけない。

 私はもう、彼に会えない。

 どうして殺してくれないの?

 どうして……

 

 のたうつ私の意識が、背後から引っ張られる。 

 抗いようのない力で引きずり込まれた先は、牢獄であった。

 私は、また、わたしによって深層心理に閉じ込められたのだ。

 

 私の前に、わたしが立っている。

 泣き腫らした私とは対照的に、艶やかで、心底嬉しそうに表情を歪め、恍惚の視線で私を見下ろすわたし。

 

 彼女は私を舐め回すように眺めたあと、何も言わず踵を返して歩き去った。

 

 

 

1.

 

 

「そりゃあよ、戦ん前にメシば食うのは当たり前じゃろがい」

 

 エミヤ[オルタ]の疑念に、ゴウはホットドッグを頬張りながら答えた。

 うんうんと、ネロが頷いている。

 

「殺生院キアラちゃあ、よほどのバケモンなんやろ? それば抜きにしてん、腹がへっとーちゃ戦はできんばい」

「そういうことだ。憤る気持ちも逸る気持ちもわからなくは無いが……相手が相手。万全を期すに越したことはない」

 

 ゴウの言葉をエミヤがサクッとフォローする。エミヤ[オルタ]の額に青筋がひとつ浮かんだ。

 それを見て、ゴウはおおこわいこわいと、大仰におどけている。

 

「時間をかければヤツは獣の成体に羽化するぞ。ボサっとしている暇はないはずだが?」

「それは、むしろ、羽化してくれた方がラクだよ」

「……なに?」

 

 答えたのは『ゴロー』であった。

 彼は、椅子の背もたれに身を預け、オレンジジュースをストローを使って飲んでいた。

 食後の一服である。飲み干すと、ペロリと舌で上唇を撫でた。

 余裕綽々の態度であった。

 

「なぜだ」

「玉藻サンから遡って並行世界の最(・)良(・)の(・)殺生院キアラについて探らせてもらったが、アレ、行き着く果てがしょせん全能でしょ?」

「えぇ!? いつのまにそんなことを!?」

「別に触らずとも過去ぐれー探れるよ、俺は」

「キャスター……おまえ過去に殺生院と戦っていたのか?」

「知りません存じません記憶にご・ざ・い・ま・せ・ん・!! そもそも私、この状態だと千里眼の類は持ち合わせていませんので並行世界の事象観測などできるワケないじゃないですか!!」

「エミヤくん、座の情報は時間軸超えてんでしょ? 俺はそっから並行世界の玉藻サンの情報引っ張ってきただけで、こ(・)こ(・)に(・)い(・)る(・)玉藻サンが殺生院キアラとヤりあってたワケじゃないよ」

 

 あと、それを言うならエミヤくんとネロサンもヤりあってるよ。

 とついでのように『ゴロー』は言った。

 

「とにかく、行き着く果てがたかだか全能神なら、最悪俺が手を出せるんで、そうなってくれた方が都合がいいなあ」

「勝てるのか?」

「余裕だよ」

 

 勝つだけならね、と『ゴロー』はさも普通に言い放った。

 

「キアラとやらも面倒だよねえ。突き抜けて全能に至ったら俺に瞬殺されるけど、全能手前ならオマエさんらにぶちのめされる……まーありえないけど、万が一俺が負けるレベルに成っても『四強(テセンス)』のバケモンがいるせいで、逆立ちしても詰みだもんよ」

「…………なら、なぜキアラは逃げない?」

「いい疑問だね。俺も、それ思ってた」

 

 情報を整理する。

 大前提として、このSE.RA.PHは二週目である。より正確には、二.五週目といったところか。

 まず起点基盤となるSE.RA.PHこそ、カルデアのみが殺生院キアラと戦い、これを討ち果たした世界。

 次のSE.RA.PHが、この世界の前身となった『ゴウ』が介入し、その世界の殺生院キアラを魔天へと連れ去った世界。

 つまりSE.RA.PH②。

 そして今回のSE.RA.PH③。

 前身のSE.RA.PH②で全能に至った方の殺生院キアラが『そう在れかし』と望み、トラッシュデータとなって虚数に漂っていたい(・)ず(・)れ(・)か(・)の(・)SE.RA.PHを再現して、それを正史──この場合の正史はSE.RA.PH②である──に上書きする形で混ぜ合わせ、虚数次元に浮かぶ仮想現実(シミュレーション)に過ぎなかったものに実態と現実感(テクスチャ)を持たせて広げた世界。

 

「なぜ、いずれもSE.RA.PH──セラフィックスが舞台なんだ?」

「最初に殺生院キアラが『獣(ビースト)』に変貌したのが、セラフィックスだったからだろう」

 

 ビーストの特性、単独顕現。

 時空、因果の基軸を超えて単体で世界に存在する特性であり、逆に言うならばこの特性のせいでビーストに至るものは時空を隔てようと『ある時間点』に接した瞬間にビーストになってしまいかねないとも言える。

 殺生院キアラは、少なくとも『この時間基軸』の世界ではビーストに至っている。

 それ即ち──基軸から派生するすべての世界において、『ある時間点』に差し掛かった瞬間に、殺生院キアラはビーストに成り果てると言えるのだ。

 しかしビーストになるためには必ず過程(プロセス)が存在する。

 具体的に言うと、ビーストに成るための熱量(リソース)の確保が必要なのである。

 その意味において、セイヴァーの適性者でもあり、並行世界の多くで自身を教祖に信仰を集めた実績がある殺生院キアラが、如何なる世界でもビーストに至るのは難しい話ではない。

 ましてやセラフィックスは魔神柱ゼパルの襲撃によって孤立無援のソリッドシチュエーションになることが、どうやら決(・)定(・)づ(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)らしい。

 つまり、セラフィックスの存在そのものが、ある種の時間的特異点であることに間違いはない。

 

「オマケに、この事象は結局──本来まとめて虚数に捨てられるワケだから、過去改竄の影響が未来にほとんどねえ」

「結末として無(・)か(・)っ(・)た(・)こ(・)と(・)に(・)な(・)る(・)と先に決まっているからこそ、その道中は暴れたい放題というワケか」

「そうだねえ、色々と都合がいいんだよね。このテの世界は極めて実験的な構造と言える」

「ふうむ……神々の視点とは難儀なものよ。行動を起こす際に、いちいち過去だ未来だと、遥か彼方の目に見えぬものまで気にかけねばならんとはな」

「ネロサンらしい言い様だけど、要はこれ『全ての道はローマに通ずる』と言ってるこたあ大して変わらんからね?」

「──なにっ!? そうなのか!!?」

「まあ……概ねそうだな」

 

「ならば──なおのこと、なぜ殺生院キアラはSE.RA.PHから逃げない?」

 

 エミヤ[オルタ]の言葉に、ゴウを除く全員が首を唸らせた。

 

「既にヤツはBBを取り込み並行世界のムーンセルの権能まで行使できるのだろう? それほどの力があればもはやSE.RA.PHに──もっと言えば、地球にこだわる必要もないだろう? 太陽系外に己の世界でも造り上げてのうのうと暮らせばいい……なぜそれをしない?」

「人間にコ(・)ダ(・)ワ(・)リ(・)があるからだろうね」

「拘り……だと?」

 

 そもそもよ、と『ゴロー』。

 

「まあぶっちゃけた話、殺生院キアラのやり方じゃあ、全能には至れてもそ(・)の(・)先(・)にゃいけねえのよ」

 

 俺たちの世界的に考えるとね、と続け、『ゴロー』は語った。

 微妙に嫌そうに、眉を顰めて。

 

 己の世界を構築するにあたって、他者を溶かして取り込み、力を増大させるやり方。

 しかしてそれは、自身の力の由来を他者に依存することでもある。

 他の人間──他者のいる世界では、性に基づく全能到達も理解できる話ではあるし、そういう原理で全能に至る手段もある。

 

「けどね、己の中で生死の循環すら完結させられないヤツは、いつまで経っても上には行けねぇのよ」

 

 魔天に至る神々や超越者にとって、全能とは持っていて当たり前の能力にすぎねえワケよ。

 自己の生存、存在保証、存在認識、死の観念、力の増減から成長、進化に至るまで、単一個体で全てが自己完結していることが、神々とはまず大前提なのさ。

 だから、力を増減させることが悉く他者依存で、己の世界を形成するのも保つことすらも他者依存で、自身のアイデンティティすら『我と彼』で区切ってる時点で、殺生院キアラは全(・)能(・)止(・)ま(・)り(・)がせいぜいなのよ。

 

「言わんとしていることはわかるが……それほどか?」

「まあ……宇宙内の事象に存在を依存して、闘争を超越できてない時点で強さでは論外よ。あの子、魔天──全能者の世界にそのまま連れてってみ? 縋るべき他者がいないから『世界』に力をむしり取られて、あっという間に衰弱するだろうぜ」

「井の中の蛙ということか……」

「少なくとも、全能を獲得して即座に上(・)に行ってない時点でどうかと思うねえ。個人的な感想だがね」

 

 あるべき世界というものがある。

 命には命の。

 神には神の。

 全能者には全能者の、生きるにふさわしい世界が。

 尤も、それを隔てるものは、単に『力の規格(パワースケール)』、存在の尺度の差でしかない。

 だが、現実でだって中学生が幼稚園に足げく通い、あげく砂場を陣取って幼稚園児相手に番長宣言でもしようものなら恥も良いところである。

 

「……なるほど、そう考えると……」

「み、みっともないですわね……いや、ちゃんと下界に降る際に尻尾を落としてきた私を見習ってほしいものですわ……ガチでね」

「まあそれ言っちまうと、俺なんかも大概恥知らずなンだが……」

 

 ニッと天邪鬼に笑う玉藻を見て、『ゴロー』はポリポリと鼻先をかきながら苦笑いする。

 確かに、とネロが頷いている。

 ふ、とエミヤ[オルタ]は息を吐いた。

 

「言っておくけど、神々の世界が全部あいつの言うとおりなわけないからね?」

 

 エミヤ[オルタ]の隣に、ふよふよと綿飴を片手に並んだのはイシュタルである。 

 メソポタミアの女神である彼女は、異郷異邦の全能者の話に興味を持ち、黙って聞いていたのだが、その世界に結構な差異を感じているのが素直な感想であった。

 そもそもこの星における神々とは、星が持ちうる神性の一面を具現化した存在でもある。言ってしまえば超自然現象の化身であり、いわゆる地球神話上の『全知全能の神』という概念は、目の前の肉肉しい男にはあまり符合しない部分も多かった。

 例外があるとすれば、ごく一部の一神教などの最高神だろうが……そうなると今度は多神的世界を語る男の世界観とは、根底から剥離していることになる。

 

 ああ、この男、本当に異邦の邪神なのだわ。

 

 と思い立ったもので、その全能の具現たる綿飴を手に持ちながらも、おせっかいにエミヤ[オルタ]に忠言を施したのであった。

 

「わかっている」

 

 とエミヤ[オルタ]は言った。

 視線を流して一瞥し、態度も言葉も彼らしいぶっきらぼうな返事であったが、イシュタルは満足そうに「あっそ、ならいいわ」と言った。

 

「それで、話を戻すが……殺生院キアラの拘りというのが、そこの男か」

 

 エミヤ[オルタ]の視線の先に、ゴウがいる。

 彼は骨付き肉の骨を噛み砕いて、それ丸ごと豪快に食べている途中であった。

 視線に気づき、ようやく手を止める。

 

「そげなんよね、げっぷ。たぶんやけど、ばけもんの方の殺生院キアラの目的は、お(・)れ(・)た(・)ち(・)とセンセぇに対するい(・)や(・)が(・)ら(・)せ(・)ばい」

 

 肉と骨を飲み込みながら、ギロリと目を光らせて、ゴウが言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。