1.
ゴウ、という下層階級、労働階級の人間が礼拝堂に入り浸っている。
その上、セラピストの先生と意味深な仲になっている。
そういう噂が、水面下ではあるものの──セラフィックスに広がっていた。
ひとつの基地としては大きな建造物であるセラフィックスだが、人の住まう集合生活地帯としては、ましてや噂が通り抜ける住まいとしては、あまりにも狭すぎた。
礼拝堂のセラピスト──殺生院キアラという女性は、格別の美人である。
その存在感は、女日照りの激しい労働階級の男たちにとっては圧倒的で、そこに在るだけで癒しを振り撒いている。
知的階級に属する管制室の職員たちにとっても、キアラの人心を蕩かせる天性は隔てなく染み入り、彼女を慕う者は男女限らず多かった。
キアラに対する噂話もとなれば、階級社会の垣根をやすやすと超えて広がるのだ。
キアラからしてみれば、別にこれは、セラフィックスに限った話ではない。
暗い記憶が過ぎる。
才色兼備を地で行くキアラは、人の、卑下まる想像力をこれでもかと掻き立てる。
生まれ持って、有る事無い事、噂を立てられやすい人間であるのだった。
キアラが、カウンセリングを行っていたマーブル・マッキントッシュからその話を聞いて、顔を真っ赤にしていた時。
持っていたペンを、思わず力込めてへし折っていたちょうど同時刻。
下層階級、普通労働者たちが主に利用する食堂の中に、件の男はいた。
騒がしい食堂であった。
各々のグループが固まってテーブルを囲んでおり、愚痴や、自慢や、なんでもない世間話や、ちょっとアブナイ話などに盛り上がりを見せている。
ゴウがいたのは、食堂のテーブルの一角であった。
他のテーブルから引っ張ってきた椅子でその舞台を囲み、複数名の男たちが場を牛耳っている。
その中心に、ゴウはいた。
ゴウも、囲みを作る男たちもみな、身体が大きかった。
作業服に身を包み、風呂に入っても落ちない油の臭いをただよわせている。
サークルには独特の熱気があった。
男の臭いがあった。
酒と、ヤニの臭いも混じっていた。
総じて濃い臭いである。
誰も、それを遠慮しない。
常人なら途端にむせかえる臭いを、異物ととすら思わない。
格別な男の世界であった。
壁に備え付けられた扇風機がぶぅんぶぅうんと低い音を立てて、室内の風と臭いを混ぜている。
生暖かい風であった。
男たちの身体から発する熱と臭いが、かき混ぜられていた。
そのおかげで、普通人には近寄りがたい、ある種、独特な空間が形成されている。
診断を行っている時の、精神を病んだ人間が詰めかけている時の、キアラの仕事場──礼拝堂の陰気な雰囲気とは、まるで無縁の空気を纏った、ワイルドな男たちの世界であった。
セラフィックスというひとつの世界ではあるが、今日の、この男の世界は、まるで違う世界である。
彼らはテーブルに対座するゴウと男を取り囲み、彼らの勝負の行方を見守っている。
立ち見しているものもいた。
なかなか大きなグループである。
視線に熱が入っていた。
人と人の間に、ソワソワした空気が流れている。
男たちの視線、仕草には、期待と不安が滲んでいた。
大小あれど、胸が高鳴っているのだ。
彼らの環視の中、ゴウは勝負をしているのだった。
賭けているものは、今日分の給料と昼飯と夜飯。
そして、酒である。
いすれも、男たちにとっては命に匹敵する財産であった。
行われているのは、カードの勝負であった。
ルールはシンプルだ。
伏せた山札の上から、お互いに一枚だけカードを取る。
それを同時に見せ合って、数が多いカードを持っている方が勝ち。
例外として、一。
つまりエースのトランプだけは、十三。
すなわちキングのカードより強い。
ジョーカーのトランプはジャック(十一)、クイーン(十二)、キング(十三)以外の数には勝てるが、その三枚には負ける。
イカサマ防止のために、山札のシャッフルは第三者が何人かで順番に行った。
実にシンプルなゲームであった。
──よござんすね?
と、芝居がかった口調で、二人の間に座る、立ち合いの男が聞いた。
山札を握るゲームマスターである。
袖を捲り上げた太く焼けた腕。
五〇枚の山札が、すっぽりとその手に収まっている。
禿頭で、色黒。分厚い唇に、それを縦に横断する刃物傷。
手首から肩まで、びしりと刺青の入った、どう見てもカタギではない大男であった。
ともすれば、人をひとりかふたりは刺し殺してそうな、凶悪な顔をしている。
尋ねられた二人の男は、しかし、男の迫力に臆することなく黙って頷いた。
せーのでカードをひっくり返して、テーブルに数を晒した。
ゴウがハートの七。
相手が、ダイヤの九。
ゴウの負けであった。
「かあ〜っ! まぁたやられたばい!!」
ゴウは、緊張感が切れるのと同時に、どさりとテーブルに上半身をもたれかけた。
相手の男と、周りの男たちは、諸手を挙げて歓喜というか、騒いでいた。
隣にいる男と手を叩き合わせる。
テーブルに雑多に積み上げられたドル札を、刺青の大男がまとめて奪い、相手と、相手側の見物人に配当していた。
ゴウへの配分は、当然ゼロである。
これで十一連敗目であった。
これで、ゴウはすかんぴんになってしまったのだった。
「ゴウちゃんよぉ、明日からご飯、どうすんのよ?」
騒ぐ男たちのひとりが、少々笑いながら聞いてきた。
からかうような、半ば、煽るような物言いであった。
ゴウは、
「しぇんしぇいに、恵んでもらうしかなかねぇ〜」
と言った。
すると、騒ぎがぴたりと収まった。
ゴウが、んん? と顔を上げた。
どげんしたかや? と尋ねた。
「ゴウ。おめー……マジなのか?」
「? なんがか?」
トボけんなよ、と言われた。
ちょっと殺意が含まれていた。
「礼拝堂の先生と、
礼拝堂の先生とは、当然キアラのことである。
この男たちもまた、ゴウがキアラの元にちょくちょく顔を出しているのを知っていたのである。
ゴウはうむむ、と手を組んで、悩ましげに頭を捻った。
「さぁ〜? おいは、センセぇと仲の悪かつもりはなかばってん。そげなこつより、おいがセンセぇと仲んよかとして、どげんすっとや?」
「そんときは、なぁ……」
「ぬけがけは、ダメだよなぁ……」
男はちら、と他の男たちに目配せをした。
へっへっへっ、と笑って、男たちは拳を握っている。
指をぽきぽきと鳴らしていた。
全員、岩のような拳をしている。
指が太い。手の甲に青い血管が浮いている。
そのごつさは、下手な鉄板なら叩いて軽く凹ませられるだろうと思えた。
長年、力仕事をやってきている者特有の指である。
彼らは笑っているが、手に籠る力はマジである。
目が笑っていない。
肉体から滲み出す空気が、暴力性を帯びてきていた。
それを察してか、
そうではないのか、
あっけらかんと笑って、ゴウは言った。
「そげんやったら、みんなで行かんか?」
男たちが、一瞬で毒気を抜かれた。
ゴウの提案は、ぬけぬけとしたものであった。
けらけらと笑っていた。
2.
「それで──みなさんお揃いで、私の元に来た、と……」
うん、とゴウはカンタンに頷いた。
キアラの対面に立っている。
その後ろに、妙にソワソワした立ち姿の男たちがぞろりと並んでいる。
筋骨隆々とした男たちが、揃いも揃って恥ずかしさに身を捩っていた。
頭に手を当てて、はぁ、とキアラはため息をついた。
さまざまな意味を孕んだため息であった。
ゴウは、そんなキアラの想いなどどこ吹く風で、白い歯を見せて、けらけらと笑っていた。
「みんな、センセぇんこつ、好きなんよ。そんくせ、話しかけっこともできんち言いよるけぇ、連れてきたとよ」
ゴウは、バシバシとひとりの男の背を叩いて言った。
叩かれた男は、向けられたキアラの視線をおどおどと受け止めて、えへ、えへと不気味な笑みを浮かべていた。
それが、本人の中では精一杯愛嬌ある顔なのだろう。
礼拝堂の中は、一転してガヤガヤと騒がしくなった。
へぇー! ほんとうに美人だ!
やべぇ、やべぇ! 言葉が出ねぇ! やべぇ!!
女神さま……!
身体ほっせ! 嘘だろ天女かよ……
うわマジでクソ美人じゃん!
俺、キアラ先生とイチャイチャしたいだけの人生だった……
などと、本人を目の前にして明け透けに言いたい放題である。
褒めているつもりなのだろうが、正直言葉が汚いし、下心は剥き出しである。
悪気はないのだろうが、悲しいことに。
荒くれに違いない彼らには、異性に対する遠慮というものがなかった。
「あの、ゴウさん? 私、これでもちゃんとしたセラピストなんですよ。『精神の迷路』に落ちた人々を救うのが仕事なんです。貴方たちは、控えめに言ってセラピーもカウンセリングも必要ないでしょう?」
キアラは物怖じせず、びしりと言うのであった。
しかし、男たちは。
その通りだなぁ!
図星を突かれたなぁ!
とゲラゲラ笑って、まるで脅しの効果はなかった。
「おもしろか連中やろ?」
睨むようにゴウに顔を向けると、帰ってきた言葉はこれである。
「心配ばせんと、みんなセンセぇんこつ好きなだけばい。一緒に飯でん食いたかだけやち。こんなかに、センセぇ乱暴するやつぁおらん。もしそげなやつがおったら、誓っておいが、そいつを海に投げ捨てちゃるたい」
いや、それはやりすぎですよ。
とキアラが言うと、ゴウは
「いやおっしゃる通りたい。センセぇは強かね〜!」
とまるで堪えず、ケラケラと笑うのであった。
キアラはふぅ、と息を吐いた。
先ほどのため息とは、また違った色の、諦めのそれである。
「しょうがないですね、もう……わかりました。みんなでご飯を食べるのは、かまいません」
男たちはうひょぉー! とテンションを上げる。
ただし、とキアラは言葉を強めて言った。
「ここは腐っても礼拝堂です。酒盛りし始めたら全員追い出しますので、そのつもりで……」
底冷えするような笑顔であった。
背筋に恐怖を投げかける言葉であった。
目が、笑っていない。
それにしても美しいが。
男たちは普段、遠くから見るだけのキアラとの理想とのギャップに、ギクシャクとした返事を返した。
何人かには、しかし、やはり、たまらない表情でもあった。
そうして、その日のお昼。
礼拝堂には似つかない、そぐわない。
ちょっと暑苦しい、
ちょっとみんなで、
おいしくご飯を食べたのだった。
3.
「よかやろ、センセぇ?」
頃合いを見計らったのか、お弁当を食べ終えて、お茶を飲んで、一息ついたタイミングで、ゴウはキアラに話しかけた。
食事の際に、キアラの周りに、男たちは寄り付かなかった。
実は、男たちの多くは初めて近くで見たキアラの神々しさ……とでも言うものに、恐々としていたのだった。
それと、どうやら彼らはお互いに、キアラに必要以上に近づかぬように警戒、牽制しあっているようだった。
蝶のように、花のように。
ゴウの言葉とはニュアンスがちょっと違うが、そう言った愛で方を、彼らなりに実践しようとしているのだと感じた。
それが、キアラにはちょっと面白かった。
こういう荒っぽい男たち特有の、傍目から見るとわかりやすすぎる下心は変わらず感じている。
それが自分に真っ直ぐに向けられていることもわかっている。
視線は正直、劣情の混じった気持ち悪さがあった。
だが、キアラの前で、彼らは勤めて理性的に振る舞っていた。
実は、彼らは酒も一升瓶でいくつか、缶ビールでいくつか持ち込んでいたのだが、キアラの言いつけを守って誰ひとり口にしていない。
つまり、キアラがお弁当を食べ終わるまでのほとんどの時間が、ご飯を食べてわいわい談笑する男たちを、キアラがただ眺めているカタチであった。
稀に話を振ってこられたが、なんてことはないものばかり。
キアラが知的にさらりと躱すと、それ以上は口ごもって引き下がる。
誰も、自分に手を出せないのである。
心の
ぶるりと、震えた。
その事実に。
キアラの心の奥底の、そのまた奥底で、何か得体の知れぬものが、ぶるりと震えた。
その言いようのない奇妙な感覚に、思考を巡らせた時であった。
よかやろ、センセぇ?
とゴウに声をかけられたのは。
4.
楽しかったやろ、センセぇ。
やや断定系の言葉であった。
キアラはすこし眉を顰めて、だけど、ええ、と言葉では肯定した。
引っかかりのある返事に、ゴウはそうかそうか、と笑った。
ゴウは、キアラの隣にどかっと座った。
遠慮のない仕草であった。
キアラとは正反対の、男らしい重さに、礼拝堂の椅子が軋んだ。
「よかやろ、センセぇ。息抜き、なったかい?」
「どうでしょうね……いつもと勝手が違いますし」
困ったような言葉が出た。
こんな環境で食事をしたことが、ないわけではない。
こんな男たちに囲まれて、食事をしたことがないわけではない。
こんな視線に晒されて、お昼を過ごしたことがないわけではない。
ただし、それらの時と、今。
明確な違いがある。
それらの時と、今。
何が違うかを述べるなら、まさにこのゴウという、大きな男の存在であった。
相変わらず、この場においても、自分に向けられるゴウの笑顔は無邪気で、毒がない。
キアラに対する下心はもちろん、キアラに対する──というより、私を他の男と会わせることで起きかねないことに対する──嫉妬のような感情すら、全くない。
それは、なんだか少し、がっかりすることでもあった。
ふ、と息が溢れる。
本当に──この人は、私の女性としての部分に興味がないのだ。
ゴウと話をするうちに、てっきり、私自身からそういう色気が抜け落ちてしまっていたのかと、勘違いをしていた。
だが、男たちの目線は否応なく、変わらない。
そこにも、少しがっかりしていた。
そして、だからこそ。
だからこそ、ゴウという人間の、
きっと、それを尋ねてみても、具体的な言葉としては返ってこないだろう。
この男、ある種の天才。異能者なのか。
単に性的不能者というより、性的観念が他の欲求に昇華されてしまうタイプなのだろうか?
「でもセンセぇ、こいでわかったやろ? いろんな人に、センセぇは愛されとるち」
「……そう、ですね……」
ああ、もう!
声が低くなる。
こんな声を出したいわけじゃないのに。
彼は励ましてくれている。
私がこんなにも慕われ、愛されているのだと、単に教えたいだけなのだ。
純粋に。
ただ、私の経験が、私に集まる視線のいやらしさに気づいてしまう。
好意の感情を訝しむことが日常になり過ぎている。
だから、自然と声が低くなる。
私の原初の原初。
御山にいた頃の記憶。
その、人生最低時期の、嫌な記憶が掘り返されるからだ。
すると、ゴウは。
キアラの混雑する感情を、鋭い光で射抜いて見せた。
「ま、おいが睨みきかせとるけん、大丈夫よ、センセぇ」
と言った。
私が顔をあげると、ゴウさんは目と目を合わせて続けた。
「おいがおらんやったら、そりゃあ、ここにおる何人かの、のぼせ上がったバカタレがセンセぇに手ば出しとったやろね」
そう言うバカは、
それはしょーんなかことばい。
「…………!」
やはり、彼はただのおバカさんではない。
天然ではあるのかも知れないけれど、鈍感ではない。
空気が読めないわけでもない。
「ま! そんだけセンセぇが魅力的っちゅうこったいね。センセぇ、
生理現象。
それ、本能やもんね。
人間の……というより、生物の。
そう言って、からころと。
世の真理をなんでもないことのように、彼は謳った。
でも、黒い目が、真摯な目が、どこかエロチズムを備えて、私を見据えていた。
──私は、吸い込まれるような力を、ゴウさんの瞳の奥に、感じていました。
私は、
「ゴウさんから見て」
と、思わずつぶやいていました。
それは、答えを求める質問でもありました。
「貴方から見て、魅力的じゃありませんか……?」
自分でも、何を言っているのだろうと思いました。
彼は、目をぎょっと見開いていました。
そんな質問自体、されると思っていなかったようでした。
ころころと、彼は笑いました。
子供のような笑顔でした。
そして、ひと間をあけると、じっ、と。
微笑みを携えて、私の顔を見下ろしました。
それが、急に大人びた表情で。
それは、世の中の真理を詰め込んで、飲み込んでしまったような、憂いを帯びたミステリアスでセクシーな顔で。
私の胸は、思わずどきっと高鳴りました。
ギャップがすごかったんです。
普段見せている子供らしい表情も、無邪気で裏表のない言動も、全て演技であって。
この、どこまでも大人びている顔こそ、彼の真実がむき出しになっているのではないかと、そう思いました。
「おいからすりゃあ、センセぇはまだまだ
それは、大人が子供を諭すような口調でした。
優しく、そして、深みのある声でした。
──今思えば、この時、私は彼の中に秘められた超大な世界を、ほんの少し垣間見ていたのでしょう。
全てを受けいれて、
それもまた良し。
そう言い切ってしまうような、彼に内在する『無限』の世界を。
今にして思うと、セラフィックスでの彼の振る舞いは、どこまでも大人でした。
私のことを常に気にかけてくれていて。
働く仲間たちのことも、ちゃんと気にかけてくれていて。
毎日毎日賭けに負けているのだって、きっと……いいえ、間違いなく、ワザとだったんでしょう。
彼は、この小さなコミュニティを愛していました。
だから、そのコミュニティを、必死に繋ぎ止める私を気にかけてくれていたのかも知れません。
それが、二〇一四年のセラフィックス。
私はその時、確かに。
ほのかに香る、幸せの中にいたのです。
二〇一七-1.
それは、藤丸立香が開いた記録であった。
電脳世界と化したセラフィックスに、半ば打ち捨てられたように聳え立つ礼拝堂。
そこに隠されていた膨大な数の記録書のひとつ。
記録書、というよりは、日記である。
NPCたちに破壊されないためか、厳重な
この序章部分すら、全てを解読できたわけではない。
ところどころ、読めない、見えない、感じられない部分があった。
人の日記を、もう故人であるだろうことはわかっていても、勝手に読んでしまう申し訳なさに自己嫌悪しながらも、藤丸は感じていた。
この記録を残した女性は、嬉しかったのだと。
セラフィックスでの生活が、楽しかったのだと。
この、名前の読めない『空白』の誰かと心通わせ、その背中にもたれかかる日々が、愛おしくて愛おしくて、仕方がなかったのだと。
「何があった」
聞いたのは、エミヤ・オルタであった。
藤丸に向ける表情が険しい。
いや、彼はいつも険しい表情を浮かべているのだが、今この瞬間のそれは、怒りの色さえ浮かんでいるかの如く、ひときわ恐ろしいものであった。
隣に立つメルトリリスが疑問を浮かべている。眉を潜ませ、嫌悪に口角を結び、瞳孔が微かに開いていた。
その意図を、今の藤丸立香は知る由もない。
打ち上がった疑問の数々。
それらを飲み込みながら。
藤丸立香は、次の記録書に手を伸ばした。
第一章おわり、第二章 Re.冬のミルク に続く