(意図せず)女の子の身体を乗っ取っちゃうけど明るい純愛な話!
最近一部で流行りの「光憑依」な話です!
悪役令嬢がコンセプトだったけど言うほど悪く描けなかったので、令嬢が悪役化して破滅する未来から救う話になりました
ファンタジー系作品にほとんど触れずに育ったものでファンタジー要素はガバガバかもしれませんが、そこはどうか温かい目で見ていただければと……

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令嬢を悪役にはさせない

 気付いた時には既に手遅れだった。

 真っ二つに斬られた土気色の人型はやがて黒い煤へと変わり、夜風にさらわれ消えていく。それは他ならぬ、二十年近く慣れ親しんだ俺ことゲンジ・ユキムラの肉体。

 黒いオーラを身に纏った骸骨騎士はケタケタと高笑いを上げる。

 上級闇属性モンスター、ネクロナイト。その剣に斬られれば最後。肉体は一瞬にして滅び、周囲からの記憶も消され、行き場を無くした魂は現世を永遠に彷徨うことになるという。

 魔法によって大きく発展した現代社会をもってしても、死者の魂を感知する魔術を使える者はほんの一握りである。誰からも気付かれないまま長い時を過ごした魂は、その孤独と絶望から闇に染まり、人を喰らう闇属性モンスターへと生まれ変わっていくそうだ。

 

 あぁ、俺の人生もこれで終了か。あっけないものだな。

 魂だけでふよふよと浮かんだ頼りない存在のまま、ぼんやりと思う。

 

 極東の国からの移民が開拓したという村に生まれ、たまたま周囲より少し魔法の才あったために王都の魔法学校に入学。

 魔法を修めることになったからには極東流剣術と魔術を組み合わせた新たな戦闘術を修得し、将来はそれで身を立てていければという何となくの希望は一応あったものの、そこまで確固たる志というわけではなく。学業も課外活動も成績に響かない程度にこなしつつ、余暇には友達と街で遊んで……という平凡な学生ライフを送っていた。

 今晩はたまたま戦闘術の実技試験が近いということで、少し張り切って街の外れの野原で自主訓練などに精を出してみた。そんな日に限って、どこからか紛れてきたネクロナイトに襲われるなんて。

 この世界の基本四大属性は炎・水・風・地であるが、闇属性は単純な魔力ではその四属性を大きく上回っている。当然上級闇属性モンスターともなれば一般魔法学生に過ぎない俺などでは太刀打ちできるはずもなく、抵抗虚しく敗北した。

 

 せめて俺に少しでも光属性魔法が使えれば。

 基本的に補助魔法に特化しており攻撃魔力は控えめではあるが、対闇属性への攻撃魔法のみ絶大な威力を発揮する性質がある。光魔法の適性をもつ者は限られており、古くからこの世界で重用されてきたという。

 俺が憧れた女性もまた、気高く優しい光魔法を――

 

「おーーーっほっほっほ! 現れましたわね! 薄汚い闇の魔物!」

 夜の静寂を切り裂く、よく通る甲高い笑い声。その声の主は少し離れた岩の上に仁王立ちしながらネクロナイトを見下ろす。

 エリザ・ライトリバー。代々優秀な光魔法使いを輩出してきた名家の令嬢であり、彼女もまたその血筋に恥じず学校でもトップクラスの光魔法の使い手である。その他の学業でも優秀な成績を修めており、さらには美貌も圧倒的。俺からすれば、まさに高嶺の花。

「とうっ!」

 エリザは光魔法使いの証である白ローブを翻し、颯爽と一回転を挟み飛び降りる。プラチナブロンドの長い髪が月明かりに照らされ、純度の高いサファイヤのような青い瞳は爛々と輝く。

「上級闇モンスターだかなんだか知りませんが、超一流の最強光魔法使いたる私にかかれば一瞬で片付きますわ! 行きますわよ!」

 

 そこからは文字通り一瞬だった。拘束魔法で動きを牽制すると、その隙に大型の攻撃魔法を放つ。眩い光が晴れたかと思うと、ネクロナイトは光の粒子となって跡形もなく消えていくところだった。

「口ほどにもありませんわね」

 エリザは得意げな顔で髪をかき上げつつ踵を返す。

 彷徨える魂となった俺の姿など見えていないようで、女子寮への帰路のみを見据えて歩く。俺はエリザに正面からぶつかりかけて、慌てて避ける。

 

 俺はエリザに惚れていた。

 

 今から一年前。俺は今日と同じように実技試験に向けて剣技の自主訓練をしていた。

 そこで不注意から、足を挫いてしまう。軽い訓練のつもりだったために回復薬を持っておらず、途方に暮れていたところ、たまたま通りがかったエリザの回復光魔法によって助けられた。

 優しい輝きに照らされた、美しい顔。普段の自信満々の勝気な表情とはまた違った、真摯かつ慈愛に満ちた表情に、俺はケガの痛みも忘れて見惚れていた。彼女が治療のために身を寄せるたびに、心臓がどきっと跳ね上がる。

「さ、これで十分歩けるはずですわ。野良モンスターに襲われないうちにとっととお帰りなさい」

 治療が終わるとエリザはあっさり帰っていったが、俺はいつまでもその場に立ち尽くしていた。

 俺とエリザは同級生でありながら、話したのはそれっきりだ。もしかしたら、彼女は俺のことなど覚えていないのかもしれない。

 いつか彼女に見合う男になったら、その時は――

 そんな決意を密かに抱きつつ、しかし惰性の学生生活を大きく変える強い意志にまでには至らず。

 それが俺の人生だった。

 

 後悔先に立たず。小さい頃、村で教わった言葉をふと思い出す。

 このままエリザにも何も伝えられないまま消えていくのか。嫌だ。でも、どうすれば。

 取り留めのない思考を繰り返しているうちに、エリザはどんどん離れていいく。

 

 待ってくれ!

 気付けば無我夢中で手を伸ばし、エリザの肩を掴んでいた。

 ずぶり。

 その瞬間、俺の半透明の腕がエリザの身体に沈み込んでいく。

「ひっ!?」

 エリザの引き攣った短い悲鳴に腕を引き抜こうとするが、勢いのついた俺の身体はどんどん彼女に飲み込まれていく。まるでエリザの身体という型にスライム状になった俺の魂が流し込まれていくように。

 

 腕、腹、脚……

 全身が徐々に熱を取り戻していく。それも、元の俺の身体とは違った、軽やかで繊細な感覚を伴って。

「あ……いや……っ……」

 最後に、エリザの頭を面のようにすぽっ、と被る感覚。暗く長いトンネルに入ったように視界が闇に呑まれ、やがて意識が溶けるように薄れていった。

 

 夜風の音が徐々に鮮明になっていく。自分が意識を取り戻したのだと気付き、長くなった睫毛が重なるような感触に違和感を抱きながら目を開く。

「え……」

 最初に視界に飛び込んできたのは、胸の膨らみに押し上げられた純白のローブ。その内側では無防備な太腿がこすれ合う感触。

 両掌で顔をぺたぺたと触る。長い指が、元の俺とは素材からして違うようなすべすべした頬を撫で回す。

 

 まさか。まさか――!

 ぎこちない挨拶もそこそこにエリザの友人二人と別れ、女子寮へと駆け込む俺。長い髪が風に揺れ、ローブがはためくと共にフリルのついたスカートが太腿をくすぐる。全身が違和感を主張しているが、まずは状況確認だ。

 エリザの脳を使っているためか、はたまた身体が覚えているためか、無我夢中で走っているうちに自然と女子寮のエリザの部屋に入っていた。

 

「これが……」

 よく整理された部屋を見渡すと、エリザ・ライトリバーの栄誉を称える表彰の品がずらりと並んでいる。他にも、見るからに高級な家具や上品な芳香漂うアロマキャンドルなど、彼女のイメージにピッタリなレイアウトとなっている。

「本当にエリザになってるんだ……」

 アンティーク感漂う姿見の前に立つと、そこに写るのはやはり俺ではなくエリザの顔。普段は強気な印象を与える目は所在なさげに泳ぎ、整った眉は八の字にへにょりと曲がった頼りない表情が、中身は俺だと証明している。

「と、とりあえず着替えないと……急に走って汗かいたし……」

 身体を返すにしても、その時清潔にしとかないといけないし……

 などと誰にともなく言い訳しつつ、ローブ、ブレザーと順に脱いではベッドに重ねていく。それはまるで、自らが掠め取った戦利品を陳列しているようで背徳感をくすぐる。

「よ、よし……」

 ごくりと生唾を飲み、生肌を守る最後の砦であるブラウスに手を掛ける。震える手でボタンを一つ、二つと外していく。高揚感にぼうっとしているうちに、最後までボタンを外し終えた。

 もわっとした蒸れた汗に混じる香水の匂いにくらくらしたところで、言葉を失った。

 シミ一つない純白の柔肌。白百合の花をあしらったブラジャーに包まれた乳房は慎ましくもその存在を主張している。

 よく見ると、谷間付近には小さな黒子がある。この視点じゃないと気付かないような場所。誰も知らない秘密の光景を見ているのだという事実を再認識する。

「もっと……」

 こうなってはもはや好奇心を抑えるこどできない。汗を流すためという大義名分すら忘れ、残る衣類を全て脱ぎ去ってしまう。

 目の前の鏡によって露わになる。想い人の生まれたままの姿。無駄なく奇跡的なバランスで「美」を体現したモデル体型。陰部の毛は丁寧に切り揃えられている。自分で処理しているのだろうか。

 そんな想像が頭をよぎり、エリザの顔でドギマギとした表情を作る。全てが普通に生きていては見られない光景。まるで夢でも見ているようだ。

 男としての欲望の赴くまま、恐る恐る乳房へと手を伸ばす。最初はその弾力を確かめるように指先でつつく。当然それだけでは満足できず、掌にちょうど収まる大きさのそれを揉みほぐす。

 その肌触り、柔らかさ。全てが夢見心地に誘うようだ。

「あん……っ」

 突如走った痺れにも似た感覚が走り、思わず嬌声が上がる。男の自分が上げたとは思えない色っぽい声。

 これが女の喘ぎ声……

 今度は指先で乳首をこね回す。それに合わせて刺激が駆け巡り、身体を跳ね上げる。

「んっ……これっ……癖になる……ぅっ!」

 しばらく乳首責めに興じていると、臍の下あたりがとくとくと温かいものが満ちていくのを感じる。空いた手を下に這わせていくうちに、陰部が湿り気を帯びていることに気付く。

 こっちも触れていいのだろうか……?

 もはやそれは形だけの疑問だった。二本の指を割れ目に入れ、恐る恐る中を撫でる。

「んひゃっ!」

 爪先が敏感な部分に触れたようで、ビクンと身体が大きく仰け反る。まるで勃起した男根の先を抓られたような。これが女体の陰核というものだろうか。

「あぁっ! これっ! イイっ!」

 乳首と膣内、両方を交互に責める。その度に快感の波は大きく押し寄せ、火照った身体をさらに昂らせる。

 今度は指を三本で。クリトリスをもっと強く触ってみても。

 欲望はエスカレートしていき、それに応じてさらに大きな快楽へと誘われていく。

 ふと鏡が視界に入る。そこに写るのは、髪を振り乱しながら痴態に耽るエリザの姿。

 その瞬間、顔から血の気が引いていく。

「あっ……お、おれっ……エリザの身体で……こんなことっ! いけないのに……っ!」

 想い人の身体を操って快楽を貪り、あられもない姿をさせていることへの罪悪感が今更のように押し寄せてくる。

 しかし一度火のついた身体は止めることなどできない。ブレーキをかけることなどできず、快楽に翻弄されるまま、やがてゴールが近いことを感じる。

「やだっ! イっちゃダメなのに……っ! イくっ! イちゃうううっっ!」

 無駄な抵抗を試みていたところで、特大の波が訪れた。罪悪感も羞恥心も好奇心も、全てを洗い流すような快楽の波。

「んんんっ! んあああああああああああああっーーーーーーーーー!」

 明滅する視界。身体が打ち上げられた魚のようにバタついているのを、どこか遠くから見ているように感じる。

 未だ熱に浮かされた身体を投げ出し、微睡みの中に落ちていくのであった。

 

 

『――なさい! 起きなさい! いつまで寝ているの!』

 頭に響く声が意識を惰眠から引き戻す。

「うぅ……ん……」

 眼をこすりつつ、仰向けの姿勢から身体を起こす。

『さて、どういうことか説明してくださる?』

 腰に手を当て、寝起きの俺にぐいっと顔を近づけてきたのは、エリザ本人だった。

 ただしその姿は半透明で、声は脳内に直接響くようにエコーが掛かっている。まるで俺にしか存在を認知できないように。

『その前に、その……服を着てくださるかしら? 汗が冷えて寒くなってきましたわ』

「わっ! す、すまない!」

 エリザの姿は本人のイメージが反映されるのか、制服を着ているように見える。しかし寒く感じるということは、感覚を共有しているのだろうか?

 ならば……

『い、いいから早く着替えなさいっ! タンスの中に寝間着がありますわ!』

 無意識のうちに下腹部に向かった視線から逃れるように身体をよじり、顔を真っ赤にするエリザ。どうやら藪蛇だったようだ。

 

『なるほど。男性としての本能から破廉恥なことをしたのはともかく、貴方に悪気はないことはわかりましたわ』

 事情を確認したエリザは髪を指にくるくる巻きつけながら頷く。

「でも、なんでこんなところにネクロナイトなんて物騒なモンスターが――」

『と、とにかく! 一刻も早く元に戻る方法を見つけますわ! ゲンジさんと言いましたわね? 貴方も他人の身体では不便でしょう。元の身体に戻れるようお互い協力するのよ!』

 早口でまくし立てるエリザ。確かに他人に身体を乗っ取られ、自分は魂だけの存在になったとあれば気が気ではないだろう。俺もエリザの身体になって嬉しいかと言えば……まぁ嬉しいこともあるが、かといってそれは本当に望むところではないではない。

 きちんと自分の姿で、元の姿のエリザに想いを伝えなければ。

 

 

 翌日、学校では「突如現れたネクロナイトを討伐したエリザ・ライトリバー」の噂で持ちきりだった。

 学校中の生徒からの視線を痛いほど感じる。

 それはつまり、男子生徒の身でありながら女子生徒、それもとびきりの美貌を誇る才女として過ごす俺の一挙手一投足が注目されているというわけでもある。

『何をもじもじしているの。今は貴方がエリザですのよ。もっと堂々となさい!』

「そ、そうは言っても……」

 ライトリバー家の令嬢が何者かに憑依されて別人に成り代わったとなれば、直ちに大問題となるだろう。強行的かつ強引な手段によって俺の魂は強制的に消滅させられ、エルザは闇魔法によって穢された存在として将来に傷がつくかもしれない。

 何より、自らの不手際は自らの手で始末をつけたい、というのがエルザのスタンスらしい。

 というわけで憑依については俺とエルザのみの秘密として、二人だけで解決法を探っていくことになったのだが、当然その間は俺がエルザとして振る舞うことになる。

 早速、昨晩から入浴、朝の身支度、制服への着替えと立て続けに健全な男子には刺激が強すぎるイベントの連続だ。しかも今度は人前でエルザの演技ときた。

 色々と気苦労が絶えなさそうである。

 

「あっ! エルザ! おっはよー!」

 腕をぶんぶん振りながらこちらに駆けてくる少女、ヒナタ・アカツキ。エルザに比べればあどけなく平凡な印象を与える容姿だが、快活で誰に対しても誠実な人柄から密かな人気を博している。

 その名前から俺と同じ地方出身かと思われるのだが、魔法の素質がある、それも俺と同い年の女の子がいるという噂は聞いたことが無かった。最近転入してきたことから考えると、やはり俺たちの先祖のように極東の国から来たのだろう。

「聞いたよエルザ! 昨日の夜、ネクロナイトをやっつけちゃったんだよね! すごいなー!」

『えぇ。私にかかれば楽勝極まりありませんでしたわ。また貴女との格の違いを見せつけてしまいましたわね!』

 キラキラした尊敬の眼差しを向けられドキドキする俺をよそに、ヒナタからはその姿は見えていないことも忘れて勝ち誇るエルザ。

「私もエルザみたいにもっと光魔法でみんなを助けられるようにならないと!」

『……ふん。貴女のようなどこの馬の骨とも知れない平民には無理ですわ。精々私の後塵を拝してなさいな』

 なおもヒナタに対して挑発的な台詞をぶつけるエルザ。恐らくエルザの言葉が聞こえていたところで、ヒナタは「やっぱりエルザさんはいつも自信満々でカッコいい!」と屈託なく返し、エルザはそれが癪に触って……といういつもの光景が繰り広げられるのだろう。

 ヒナタは転入した当初から光魔法への凄まじいポテンシャルを発揮し、めきめきと頭角を現してきている。光魔法の教師陣からは、やがてエルザにも並ぶ光魔法使いになるだろうと目されている。

 それが学校最高レベルの光魔法の使い手として賞賛され続け、家の期待という名の重圧を背負っているエルザに焦りを与えているようだ。元々自分への圧倒的自信から誰に対しても勝気な態度を取るエルザだったが、ヒナタへの攻撃的な言動は明らかに自信の揺らぎの裏返しであるように感じられる。

 

 このままでは、エルザは破滅の道をたどることになる。

 根拠は無いが、何故かそういった危うい未来を感じてしまう。

 

 こほん、と咳払いを入れてヒナタに呼びかける。

「よ、よろしければ……今度私と一緒に二人きりのお茶会でも致しませんこと?」

 エルザの声と口調で話すことの気恥ずかしさ、そして人生で初めて女の子と二人で会う約束をすることへの緊張感から変な汗をかいてしまっているが、どうにか要件を伝える。

「えっ! やりたいやりたい! ぜひやろう!」

『ちょ、ちょっとゲンジさん!? 何を勝手に――』

「では、こちらのメモにある物を用意してくださるかしら? 私もそれに合わせたおもてなしの準備をさせていただきますわ」

 抗議の声を上げるエルザをよそに、お茶会の話を進める俺。

 メモを受け取ったヒナタは、心得たとばかりに満面の笑みを浮かべ、メモを大事そうに学生鞄にしまう。

「楽しみにしていますわ」

「うん! 早速準備しに行ってくる! じゃ、よろしくねー!」

 手を振り駆け出すヒナタを見送る。

『な、何をやっているのゲンジ! あのにっくきヒナタとお茶会などと――』

「勝手なことしてごめん。でも……悪いようにはしないよ」

 まるで悪魔が憑いた聖女のような黒い笑みを作りエルザに向ける。

『なるほど……面白いですわ。お手並み拝見といきますわよ』

 得心がいったのか、同じく影のかかった笑顔を向けるエルザ。美人というのは悪人顔でも絵になるのだなぁと呑気に思う。

 さて、こちらも準備に取り掛かるか。

 

 

『ちょっと! 話が違いますわよ! 騙しましたわね!』

「いやいや。騙したつもりはないよ。それに、君も本当はもう堕ちてるんじゃないかな?」

「エルザ、誰と話してるの? はい、あ~ん♪」

『誰が堕ちてなど――ふぁ……おいひい……』

 落ちそうになる頬を押さえながら、目じりを下げるエルザ。俺も口に運ばれた菓子をじっくり味わう。

 ――感覚を共有しているエルザにも十分に伝わるように。

 テーブルに広がるのは、緑茶の入った陶器のコップに、餡子や餅などで作られた甘いお菓子。俺やヒナタに馴染みのあるお茶と甘味だ。

 今回のお茶会は純粋に「エルザがヒナタと一緒に極東の茶菓子を作ったり食べたりして親睦を深める」という名目だ。

 俺がエルザの身体に憑いてしまったのは、闇属性モンスターの攻撃が原因だ。ならば解決する糸口になるのはやはり光魔法。そして強力な光魔法の使い手は組んだ方がいい。

「ほら、ヒナタと仲良くなればこの美味しいお菓子が食べ放題なんだぞ~。素直になっちゃえよ~」

『わ、私の顔でそんな表情はやめなさい!』

 エルザの顔でイタズラ男子のような表情をしているであろう俺を嗜めるエルザ。さりげなく口に手を当てているが、よだれを拭っているのだろう。

「どう? これが私の故郷の味! 美味しいでしょ~? 前から私が食べてるところチラチラ見てたもんね~? もっと早く誘ってくれたらいいのに」

 そんな事情はつゆ知らずヒナタが援護射撃。

「それはさておき、俺はエルザが誰かを邪険にしている姿を見たくない。みんなにエルザの良さを知ってほしいんだ」

 これは俺の偽らざる本心。やはりエルザの本質は優しさだと俺は信じている。誰にでも優しく、光魔法のように人を癒し、温かく照らす心の持ち主であるはずだ。

 本人にとっては大事なプライドもあるのかもしれないが、そのせいで優しさに陰りが生じて、破滅の道を選ぶようなことはあってはならない。たとえそれが、俺のエゴであったとしても。

『ま……まぁ……いいですわ。このお菓子の美味しさに免じて、ヒナタに近づくことを許可しますわ。ただし、私の尊厳を損なうような軽薄な振る舞いは――』

「ヒナタ、貴女と作るお菓子はものすごく美味しいですわ! 毎日でも食べたいぐらい! 私たちもっともっ~と仲良くなりましょう!」

『ちょっとー! 聞いていますのーー!』

 

 

 その後、俺ことエルザはヒナタと親友になり、ともに切磋琢磨しながら光魔法を研鑽していった。

 俺に光魔法の素質などなかったのだが、エルザは魂の状態でも光魔法を行使することができたため「エルザ・ライトリバーの光魔法」は問題なく見せられたというわけだ。しかも、俺がエルザの身体で極東剣術を使うことで、魔法と剣術の融合をも可能にする。

 結果、エルザ・ライトリバーは光魔法と極東剣術を兼ね備えた、美しき女魔法剣士として名を馳せることになる。

 ヒナタもエルザがただの友達から親友にしてライバルという唯一無二の存在になったことにより光魔法をさらに極めていくことになる。

 

 そしてこれは、魔法学校卒業を間近に控えたある日、エルザの部屋にて。

「はい。じゃ、頑張ってね。ゲンジくん」

「ありがとう。それじゃ……」

 眼を閉じた腕を広げるヒナタ。こうして無防備な姿を見ると、彼女もまた一人の愛らしい少女なのだと再確認する。普段の元気いっぱいな姿とのギャップにドキっとする。

 むろん、それで目移りすることなどあるはずもない。

 俺は静かに唇を重ねる。柔らかく、仄かに甘い感触。その瞬間「俺」がエルザの身体から流れ出し、ヒナタの身体へと注がれていくような感覚。唇同士が離れないように、薄れゆく意識の中、離れないようにぎゅっと抱きしめる。

 

 目を覚ますと、エルザの顔が目の前にあった。鏡を通していないのに、実体を伴って。

 目線を下げると、華奢な体躯のエルザのそれより大きな乳房。腕を持ち上げ、手を何度か握っては開く動作を繰り返す。髪は肩の高さで切り揃えられているため、普段より頭が軽く感じる。

 鏡を見ると、そこには写るのはエルザではなく、ヒナタ・アカツキだった。

「あぁ……私の身体……。ついに戻ってくることができましたのね……」

 どうやらこちらも意識を取り戻したらしい。愛おしそうに自分の身体を抱きしめるエルザ。自分が使い続けた身体が勝手に動いているのは不思議な感覚だな、などと思ったところで、エルザは2年にわたってこの感覚と付き合い続けたのだなと感慨深くなる。

 

 あれから俺たちは、途中で俺の憑依について知ってしまったヒナタも交えて3人で元に戻る方法について調査を重ねた。しかし俺の身体は完全に消滅してしまっているようで、完全に元通りとはいかなかった。

 だが、憑依状態について光魔法によっていくつか応用する方法も見つけ出した。その一つが、今のように俺の魂を他人に移すことでエルザが自分の身体に戻ること。

 その際、憑依先の意識は眠り、一定時間経てば俺の魂は再びエルザの身体の使用権を奪ってしまうという欠点もある。しかし、この状態だからこそできることもある。

 

「エルザ。俺は君のことが好きだ。高飛車なところも見栄っ張りなところも意外と俗っぽいところも好きだ。可愛くて綺麗で優しくて努力家なところが好きだ」

「ちょっ! なんですの急に!」

「だから……こんな状態でしか言えないけど、ずっと一緒にいさせてくれ。俺は君が世界で一番好きだ!」

 エルザの瞳に写るのは、真剣な表情をしたヒナタの姿。活発な印象を与えるショートカット、くりくりとした丸い目の童顔。俺に似た要素は東洋風の顔という部分しかない。しかし、中身は紛れもなく俺だ。

「貴方の気持ち……とても嬉しいですわ。…………私にはもったいないぐらいに」

 俺の言葉を聞いてハッとした後、潤んだ目を伏せるエルザ。「私からも告白させていただきますわ」と前置きして続ける。

「実はあの日、ネクロナイトを招き入れたのは……他でもない、私ですの」

「えっ……」

「未熟だったあの頃の私は、ヒナタの活躍に焦りを覚えていましたわ。何とかして、あの娘より大きな功績を上げないと……そう思って、転送魔法を利用して強力な闇モンスターを呼び寄せ、それを私が討つという自作自演の計画を立てましたの。それで誰かの人生が狂うことになるなんて……本当に愚かな真似ですわ」

 予想だにしなかった事実に、呆然と立ち尽くす。

「私なんて破滅しても仕方がない人間ですのよ。こんな女、愛しても仕方がありませんわ。いつかこの私の魂を消滅させて、私の身体を、人生を全て差し上げることで償いますわ。だからそれまで――」

 気が付くと、身体が勝手に動いていた。エルザを両肩からベッドに押し倒し、そのまま唇を奪っていた。

 舌をねじ込み、貪るような問答無用の口づけ。どこにも逃がさないとばかりに身体を押し付ける。

「ぷはっ――!」

 目を白黒させるエルザ。その目をじっと見据え、正面から告げる。

「それでも俺はエルザが好きだ。たとえエルザのせいで自分の身体を失ったのだとしても、この心は絶対に消えない。どんな君でも受け入れる。だから君が消えるなんて許さない。誰の姿にされたのだとしても、俺は君を守り続ける!愛し続ける!」

 エルザの目からは大粒の涙が溢れ始めていた。

 それに気づいたエルザは、泣き顔を隠すように枕に頭を埋める。スカートからすらりと伸びた脚をバタバタさせ身悶えしている。

「ゲンジ……ありがとうございます」

 枕の中から消え入りそうな小さな声が聞こえる。

 どうやら俺の想いは伝わったようだ。しばらくこの可愛い生き物を眺めているとしよう。

 

 

「うふふ……隙ありっ! ですわっ!」

「うにゃぁ!?」

 エルザはしばらくベッドに突っ伏しているとそのまま静かになり、嬉し泣き寝入りしたのかと思って油断していた。急に胸を鷲掴みされて変な声を上げてしまう。

「思えば貴方には最初からしてやられっぱなしでしたわね……」

「あの……エルザさん……?」

 泣きはらした目はどこか据わっており、なんだか息も荒い。

「うふふふふ……私より出るとこの出た女性の身体になった気分はどうかしら……?」

「ちょっ! やめっ!」

 久々に実体を得たとは思えない器用さ、力強さでヒナタになった俺の胸や尻を揉みしだきつつ、着々と制服を脱がしていく。

「貴方、言いましたわよね? どんな私でも受け入れる、と。なら……女性になった貴方を存分に自らの手で存分に可愛がってあげたいという私のとびきりの愛、受け入れてもらいますわよ!」

「ひぃっ!」

 思わず大きな胸を腕で隠して縮こまる。

「あらあら、すっかり女性の仕草が板について……しかもあの能天気なヒナタがそんなしおらしい姿をしているというのもまたそそりますわねぇ……」

 あっさりと後ろから羽交い絞めにされてしまう俺、なんとか抵抗を試みていると、突如頭上から光が降り注ぐ。それを浴びた瞬間、まるで全身がぬるま湯につかったような心地よさに包まれる。

「ふにゃぁぁぁ~~~~~~」

「回復魔法にはこんな使い方もありますよの……」

 そのまま右耳を甘噛みされる。痛いのかくすぐったいのか絶妙な力加減に加えて温かい吐息を注がれ、ますます骨抜きにされてしまう。

「うふふ……いい子。後は私に任せなさい」

 そこから首筋、脇腹、足の裏と羽毛のようなタッチで全身を撫で回す。その度に熱を帯びていく身体。夢見心地の温かさ。しかし、昂ってくる身体はこのままでは満足できない。

 それを見越したのか、エルザの長い指は股の入り口を這う。しかし中に入ろうかという時にふと動きを止める。

「ふぇ……?」

「あら? 随分と切なそうな顔。どうしてほしいのか、ちゃんと言ってごらんなさい?」

 心に染みわたるような甘い声。あまりの甘い香りに危険すら感じる。

「ください……俺を……女の子になった私を可愛がってください……っ」

 頭にとん、と手が置かれ、そのまま優しく撫でられる。

「よく言えましたわね」

「えへへ……」

「では、ご褒美をあげますわ」

 エルザの指が膣内に侵入する。他人の身体が自分に挿入されるという違和感。しかし不快感は無い。

 楽器を奏でるように軽いタッチで壁を撫で、その度に俺の身体はビクンと揺れる。

「あらあら。そんなに強く締め付けて。大丈夫ですわよ。私は逃げません。貴方がついていてくれますからね」

 やがてエルザは敏感な部分を探り当て、きゅっと摘まむ。

「ふぁああああっ!」

 一際大きな嬌声を上げる。既にトロトロになっているであろう俺を見つめて、慈悲深い顔を向けながらなおも刺激を続ける。

「ふぁっ! きちゃう! イくっ!」

 初めてエルザの身体で致した時とは違った優しいタッチ。それだけに、イってしまった時の刺激が怖くなる。思わず幼子のようにエルザの腕にしがみつく。

「いいですわよ。イっちゃいなさい」

「あああああああああああああっっっ~~~~~~~~~~~~!」

 膣から潮を吹き、声を上げて絶頂する。ホワイトアウトする視界の中、優しい笑みを浮かべるエルザの顔が目に入る。

「これからもずっと。よろしくお願いしますわ」

 

 

 こうして俺はエルザ・ライトリバーとして魔法学校を卒業。プロの光魔法剣士となり、人々を脅かす闇モンスター討伐を請け負っている。

 最強クラスの光魔法使いであるヒナタとともに、この国で名前を知らない者はいないだろう。

 

 その一方で……

『さて、今日も悩める女性からの相談が数多く来ていますわよ。今日はどの方に憑依していただこうかしら♪』

 俺を強制的に他人に憑依させるスキルを獲得したエルザによって、オフの日は憑依によって女性の悩みを解決する裏稼業も生業としている。

 既に騎士業だけで食っていけるだけの稼ぎはあるのだが、ひとえに他人に憑依した俺を可愛がる悦びに目覚めたエルザの趣味だ。エルザにも定期的に自分の身体を使ってもらわなければとは思うので、良いリフレッシュになっているのならそれでいいだろう。

『本当は貴方も楽しみにしてるんでしょう? 素直になりなさい』


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