可愛いは正義、可愛いは可愛い。
だって可愛いんだから。
大喜くん可愛い、それは疑いようの無い真実です。
誉められているんだろうか、実際。小バカにされてる気もするけど、まあ向こうに悪意は無さそうに見える。
事あるごとに可愛い可愛い言われるのは、男子としてはちょっと複雑なのだ。俺だって好きな人の前では格好付けたい、男らしくありたいのにな。
いや千夏先輩がそう言うのはもう構わないけどさ、何で他の人たちにまで言われてるんだろう。親にはもう十年くらい言われてないのに、守谷マネとか島崎さんまで俺を可愛いって言うもんなあ。
そういう星の下に産まれたって事なんだろうか、困ったもんだ。
可愛がられるのは悪い事ではない筈だけど、やっぱり微妙な感じがする。
うん、ちょっとだけ悩ましいのだ。一応俺も男の子なんだから。
「私は大喜くんが、好きです」
真っ直ぐに俺を見据える瞳に宿るのは、確かな決意の色。シンプルな一言に、
時刻は19時過ぎ、俺と千夏先輩が部活を終わらせて帰ってきて夕飯の席に着いたのがほんの少し前。
一日全力で動き続けて疲れた身体はもう眠気さえ感じているけど、無理してでも食べないと明日が辛い。動いて食べて休んで、その繰り返しで大きくなるのだ。成長期ですから。
そんな中で飛び出した衝撃発言に思わず唐揚げを取り落とす俺、湯呑みを持ったままフリーズする母さん。じいちゃんも絶句しているし、父さんは……どうだろうなこの人、普段からあんまり感情の触れ幅が広くないし。まあ箸が手から滑り落ちた辺り、驚いてはいるんだろう。
平和な食卓に突然放り込まれた爆弾をどう処理したら良いのか、俺はどうすれば良いのか。
――分かるかい、そんなもん。
千夏先輩は正直表情が読めないし、何を考えてるのか分からない。いやあれは何も考えてないよ、と花恋さんが言ってたっけ。実はそうかも知れないな、直感で生きてる人だから。
でもその言葉は俺にとって、余りにも理想的すぎる言葉。同じ気持ちを向けあっていた、それが本当ならば俺も言わなければならない。
なのになんで、口が動かないんだ。しっかりしろ俺、言うんだ。
俺は千夏先輩が、好きなんだ。今それを言うべきなのに、どうして踏み出せない。
俺が当惑している所で食卓に流れる沈黙を押し破ったのは、母さんだった。
「千夏ちゃん、とりあえず食べちゃいなさい。あとね、今じゃないわ。大喜を好きなのは構わないけど、絶対このタイミングで言う事じゃないわよ」
ほらご飯冷めちゃうでしょ、と事も無げに言う母さんに促され、千夏先輩は一瞬キョトンとしてから再び箸を手に取る。
いや、続き食べるんかい。この雰囲気で。こんだけ空気メチャクチャにしといて、素直に食べるんかい。
「まあ食べ終わってからゆっくり二人で、ちゃんと話し合えば良いんじゃないかねぇ……」
「僕は由紀子が良いと言うなら、それで良いと思うよ。あぁ、味噌汁もう一杯貰える?」
じいちゃんと父さんも食事に戻ってしまい、俺はやっぱり何も言えないまま。テーブルクロスの上に転がった唐揚げをつまみ上げ、口へと運んだ。あげたての熱々からほんの少しだけ冷めた状態の唐揚げって、どうしてこうも美味しいんだろうな。悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに。いやまあ、ただの現実逃避だけどさ。
……食べ終わって部屋に戻ったら、考えよう。色々と。
「で? どうなったんだよ、結局さ」
どうもこうもあるかよ、と匡のメガネに指紋ベタベタ付けつつ俺は溜め息を一つ。
俺たちはお互いの気持ちを確認しあい、晴れて両想いに……いや恋人同士になった。母さんに「節度を弁えた交際をしなさい」と釘は刺されたけど。まさかあの状態から噺が覆るわけがない、それこそ俺が固辞でもしない限りは。でもそんなのあり得ない、あの日以来俺はずっと千夏先輩が好きなんだし。
だけど、うん。千夏先輩は言ったのだ。
『大喜くんは私を支えてくれた、救ってくれた。それに何より、可愛いから大好きだよ』
俺なんかが千夏先輩を支えるなんて烏滸がましい、救うなんて恐れ多い。俺こそ千夏先輩がいなかったら、とっくにバドから逃げ出してる。千夏先輩がいるから朝練も続けられたし、千夏先輩が見てると思うからこそ頑張れた。支えられたのも救われたのも、俺の方だ。
そこまでは良いんだけどさ、うん。それを上回るのか、俺の可愛さって。
「なあ匡。千夏先輩が言うんだけどさ、俺って可愛いのか?」
「あー……うん、可愛いぞ。そこらの女子より可愛い、蝶野さんとか島崎さんもお前を可愛いって言ってた事あるし」
そうなのかな、あの連中には確かに言われたけどからかってる感じだったんだよな。でも千夏先輩があの状況で俺をからかう訳がないし、じゃあつまりホントに俺は可愛く見えるのか。
うーん、ちょっとだけ複雑かもしれない。カッコいいとか凛々しいなら素直に嬉しいけど、可愛いって言われてもどうして良いものやら。一応男子の端くれとしては、あんまり誉め言葉だとは思えない。
千夏先輩が言ってくれるなら何でも光栄ではあるけど、あるけれども。
――やっぱり可愛いって言われるのは良くないのかもしれない。物影に倒れ込んでいるというのに俺は、そんな場違いな事を考えていた。
目の前の守谷マネは、手を差し伸べるわけでもなくニヤニヤと笑っている。なんなんだよ。
「いのたってさぁ、可愛いよねぇ~」
にしたって、悪ふざけなんてレベルじゃないぞ。
立ち上がって文句の一つも言ってやりたいのに、身体を強かに打ったせいか力が上手く入らない。
「ねえいのた、雛っちフッたんだよねぇ? てことはさぁ、今はフリーなわけだよねぇ」
妖しい笑みと共に伸ばされた手が頬を撫でて、ゆっくりと顔の輪郭をなぞっていく。これはおかしい、と冷や汗が背筋を伝う。守谷マネがどんな思惑であろうとも、このままでは非常に不味い。
手を払い除けろ、反論しろ、そう思うのに身体は動いてくれない。一体何をしたんだこの女、それこそどういうスキル持ちなんだ。
そうこうしている間に、守谷マネの顔は眼前に迫っている。息遣いさえ感じる、そんな距離まで。
逃げなければいけない、なのに声さえ出てこない。桜色の唇はもう数センチまで近付いて来ているのに、俺は――!
もうダメだと絶望しかけたその時、不意に守谷マネの身体が硬直するのが見えた。
「菖蒲ちゃん、なにしてるの?」
その声を、俺は知っている。聞き間違える筈なんか無い、だってこれは俺にとって何よりも大切な人の声なのだから。
視線を向けた先にいる千夏先輩は、守谷マネのツインテールの先を握り締めている。引っ張ってはいないけど、動きを封じるには十分なのだろう。
「大喜くんは可愛いから、そういう事したいのは分かるけどさ。
その顔はいつぞや部室で、パニクった守谷マネに抱きつかれた時の俺に向けた表情にも似ている。あの時は言い訳に必死だったけど今なら分かる、あれは本気で怒ってる顔だったんだ。
そうか、そうだよな。もし松岡先輩辺りが千夏先輩を押し倒してたりしたら、俺は冷静じゃいられない。どんな理由があれど激怒する、殺す気で殴る。今の千夏先輩はそういう状態なわけだ。
「男漁りを咎める気はないけど、あんまり度が過ぎると花恋に言い付けるよ」
守谷マネを押し退けるように俺を助け起こしながら、それでも追加で釘を刺す千夏先輩。流石にお姉さんを出されるともう太刀打ち出来ないのだろう、守谷マネは慌てて走り去ってしまった。
何はともあれこれで一安心、で良いんだろうかな。まさか「可愛いから」って理由で女子に襲われる日が来るとは思わなかったけど、千夏先輩のお陰でどうやらこの場は収まったようだし――って。
何故千夏先輩の手は、俺の服の中へと忍び込んできているんだろう。それにどうしてニヤニヤしてるんだろう。
「あ、ここじゃダメだね。じゃぁ大喜くん、行こうか」
……そして千夏先輩は、何処へ行くつもりなんだろう。聞かなければならないけれど、でも俺はただ手を引かれて着いていくしかなかった。だって千夏先輩、俺の手をがっしり掴んで離さないんだもの。
ああ、空はこんなに青いのに。風はこんなに暖かいのに。俺はどうしてこんな目に合っているのだろうか。
ズルズルと引きずられながら、そんな事を思ってみる。特に意味なんか無いけれど。
で。気が付けば俺は自分の部屋で千夏先輩に――押し倒されていた。
うんまあ、そんな気はしたけれど。しましたけれど千夏先輩、こうあっさりと実行しないでください。母さんに節度を持てと言われたからって油断してたのかな、俺は。この人はバスケを続けたくて家族と離れる決意をした女だぞ、こうと決めたら曲がらないし手段も選ばない。そんなのは分かりきった事の筈だ、俺はどこまでバカなんだろう。
「あー……可愛いねー大喜くんはぁー……。こんなに可愛いのに無防備過ぎるよぉー……」
俺に頬擦りしキスをするその仕草は美しく、幸福感が込み上げて仕方ない。ただ、その目がかなり妖しい輝きを湛えているのは正直不安だ。
これから何が起こるのか、何をされるのか。そんなのは考えるまでもない、むしろ他に何がある。千夏先輩は俺を、――
きっと千夏先輩も、そうだったんだろう。それがあまりにも拗れてしまって、今こうなっているんだと思う。いやそれもおかしいけど、そう考えないともう頭が持たない。て言うか思考する時間さえ与えず千夏先輩は俺の服をはぎ取っていってるし、受け入れるしか無いだろう。ここでもし拒んだら、濡れ場が修羅場に変わりかねない。
されるがままの俺を弄ぶように……いや実際弄ばれてるけど……翻弄していた手が下半身にかかると、意識とは別に身体がビクンと跳ねてしまう。もう取り返しがつかない状況だ、と警告するかのように。でもそんな事で千夏先輩が止まるわけがない、怯むわけがない。
「お。あー……うん、そっかーこんな風になってるんだー……。これはこれで可愛いかなぁ、うん」
全て脱がされきって露になった
でも、それが――気持ちよくてしかたがない。そう思ってしまった途端、堰を切ったように腰の内側から衝動が押し寄せてくるのが感じ取れた。
ダメだ止まれ、と念じてももう遅い。
「ん、何か……? う、……ぁっ!?」
手を触れる事さえないまま、決壊したように射精が始まってしまった。降り注ぐ精液が千夏先輩の顔を汚していく、大変なことをしでかしている。それが分かっても、一度出始めたものは止まらない。漸く収まった頃には花の
「うはー……、こんなに出るんだねえー。これもやっぱり大喜くんだね、可愛くて頑張り屋さんだよ」
良い子だねーと先端を撫でてくれるその手付きは甘く優しい、可愛いって言われたことさえ気にならないくらいに。
顔にへばりつく精液を拭い、その手を舐めながら千夏先輩は優しく微笑んで。
「じゃあ、もう少しだけ頑張ってもらおうかな」
ゆっくりと、服を脱ぎ始めた。
膝立ちで俺を跨ぐ千夏先輩は、なにもかも隠さず見せつけている。その身体の、全てを。
黒々と茂った陰毛に隠された、その――オンナノコからはトロトロと蜜が垂れ落ち、俺の腰を汚していく。さっきからずっと千夏先輩は、そこを弄り続けていたから。ずっと大喜くんの事を考えながらしてたんだよ、と淫靡に微笑む様はあまりにも美しく妖しかった。壁一枚を隔てて俺たちは、同じことをしていたんだ。
「じゃあ、……良いかな。大喜くん、行くよ……?」
少しずつ腰の高度が落とされていく、千夏先輩の粘膜が近づいてくる。ゴムの被膜に阻まれても尚その熱さはありありと伝わり、加速する血流が痛いほど自己主張を煽ってくるのが凄まじい。
クチュリと先端が触れ、徐々に俺は千夏先輩の中へと呑まれていく。ギチギチと締め上げられながらも、痛みを遥かに凌ぐ快感が脳を焼かんばかり。そして、そして。千夏先輩は俺の上に
根本まで全て呑まれた瞬間、先端が肉厚な何かに突き当たる。きっとここが、千夏先輩の最奥部。誰も知ることが無い、神聖な場所。そこに触れるという暴力的な快感に、再びあの奔流がやって来た。二度目であろうと防げない、圧倒的な勢いで。
「う、ぁー……あ、あぁ……っ」
コンドームの中で射精したのは生まれてはじめてだけれど、そのままとは全く違う。放たれた精液が幹にまで回り込んで絡み付き、その量を自分自身で実感する。こんなにも出たのか、と自分で驚いてしまう。
とは言え入りきった瞬間に出るなんて良くない気もするけど、でも我慢の仕様がない。千夏先輩の全てが気持ちよすぎる、そのせいなのだから仕方無い。
ああでもこれで終わりか、と名残惜しさを感じつつ目を閉じようとした時だった。
「あ、……のっ、千夏先輩っ、またするなら、変えない……とっゴムっ」
「えー、良いよ良いよー。このまま続きしよう、よーっと」
いやそれ絶対良くないでしょ、漏れたらどうするんですか、と言いたいけど言えない。そんな余裕があるものか、油断したら何回出るか分かったもんじゃない。ぱちゅんぱちゅんとリズミカルに跳ね回る千夏先輩、歯を食い縛って耐える俺。
コンドームって何回分まで入るんだろう、破裂したりしないと良いけど。
せめて誰かが帰ってきたら中断の口実になるのに、その気配はまだ遠い。
どうしようどうしようと内心焦りながらも、俺は快感に飲まれていった。
嵐のような初体験を経て、どこか歪な俺たちの関係はどんどん深まっていった。
良い子良い子可愛い可愛い、と頭を撫でられながら日々は過ぎていく。それでも変わらず俺は千夏先輩が好きで、千夏先輩は俺が好き。……だと思う。
気が付けば二度目の夏も過ぎ、お互いに一定の成果を出してインターハイを終えられた。十全ではないけど、悪くはない結果になったと思う。だからこそ千夏先輩は、ウインターカップを待たずに引退したのだ。この先は後輩たちに任せたい、栄明はきっとまだまだ強くなれる。これからはOGとして皆を見守っていく、と。誰もそれに異を唱えはせず受け入れた、他ならぬ千夏先輩の選択を否定する人はいない。
そんなこんなで身軽になった千夏先輩と共に、再びあの民宿で俺は誕生日を祝っている。いやうん、それが目的で来た筈なんだけど。
「えー……と千夏先輩。まだ日が高いのに何故布団を出してるんですか」
「? 床ですると大喜くん、背中痛いでしょ? それとも今日は、大喜くんが上になりたいのかな?」
やらしーねーえっちだねー、と笑う千夏先輩に溜め息を一つ。いやそれは貴女でしょ、とツッコミはしない。いつもの事だし。この人はやっぱりこの通り、いつだって奔放で自分勝手。そんな人を好きになったのだ、俺は。そんな人だから、好きになったのだ。
適当で良い加減、何をやっても本気で突き進む。ただ前だけ見て走り抜けるその姿を、俺はそばで見守りたい。これからも、ずっと。
「あと半年で卒業だし、そろそろ子作り始めようかなって思うんだよね」
……え。ちょっと待って、何を言い出すんだこの人。
いや、いやいや。いやいやいやいや、なにその予想外の角度からの一撃は。
誕生日になにやらかす気だ、もう少しものを考えてください千夏先輩。
「渚が気付かれないようにゴムに穴開けるやり方教えてくれたけど、そういうサプライズはダメだよね。やっぱりお互い同意でないと」
類友なのか何なのか知らないけど、周りもそうなんですか千夏先輩。そしてそれはサプライズじゃなくて不意討ちです、アンブッシュです。
まあそれは、……それはまあ。将来的にはありかもしれないけど、でも今じゃないです。何で貴女は一速と七速しかないんですか、ホントに。
そんな俺の考えなんか察しもしないんだろう、千夏先輩は早速俺を押し倒しにかかっている。まだ真っ昼間なのに。
「大喜くん可愛いからさ、きっと子供も可愛くなるよね。――そしたらさ、結婚しようね」
順番もなにもかもメチャクチャだ、言うこと為すことハチャメチャだ。
だけど、だけど。きっとそれは、何よりも幸福な展開になるんだろう。大好きな人と過ごす日々はきっと、そうならない訳がないのだから。
ああ、でもせめて、俺も言わないといけない。毎回毎回圧倒されたままじゃ、俺としても沽券に関わる。可愛かろうがなんだろうが、俺だって男の子なのだから。
「先輩、好きです」
思えばずっと言えていなかった言葉を吐き出して、俺は千夏先輩にキスをする。
この先もずっと、一緒にいられるよう祈りながら。
「て言うか千夏先輩はやることが直線的過ぎます、将棋じゃないんだから前だけ見てたってダメですってば」
「いやでも私考えるの苦手だし。馬には乗ってみよ人には添ってみよって言うでしょ」
「人に乗られてるんですけど、俺の身にもなってくださいよ……」
「大喜くんが可愛いから悪いんだよ★」