非ツガイの組み合わせなので苦手な方はブラウザバックしてください
嘘のにおいがする、なんていうのは漫画の世界の話で。
そういうのは実際、ベテラン刑事みたいなキャラクターの観察眼がするどいのを表してるだけだったりして。……けど、トリになって、この”ギフト”を手に入れてから、怒りとか悲しみみたいな強い感情がにおいで分かるようになってしまった。それはたとえば、ツルさんだったり……モズさんだったり。そう、ツルさんはハチドリさん相手だとだいたい焦ったりしてるのが先に来るから気にならないんだけど、モズさんはいつも嘘のにおいをまとってる。でも、そのにおいが……辛いとか苦いとかそういう感じじゃなく、お酒の混じったチョコレートみたいな感じなのが気になって仕方がない。そんなのは、カラスに対してハクチョウさんが話してる時にたまに感じるぐらいだっていうのに。
ヴァイオリンの音が聞こえる。
なんて曲なのかは分からない。けど、ケーキ屋さんで聞いたことがあるから、たぶん有名なクラシック……? とか、何かなんだと思う。ドアの鍵はかかってない。足を踏み入れる。薄暗い部屋の中、月の明かりが開いた窓から差し込んでる。庭園の方からのひんやりとした風がなんだか気持ちいい。その向かい風の先、出窓に腰かけて、月を眺めながら───モズさんはヴァイオリンを弾いていた。こっちの気配や足音にはとっくに気付いているはずなのに、じっとそのまま。
邪魔しないよう、声はかけずに。音を立てないよう近寄って、じっと演奏を聞く。綺麗で、どこか柔らかい感じで、まるで庭園の小川みたいな感じで……。
「お気に召したかな」
だるそうな声で、モズさんは演奏の区切りにようやくボクを振り返って。……こうして静かにしてたら、美術館の彫刻みたいに綺麗だな、なんて思ったりして。そんな思い付きを振り払いながら。
「うん、モズさんの演奏とは思えないくらい」
「……君、ひとこと多いって言われない? はぁ、それだけ減らず口を叩けるのなら、怪我は大したことないみたいだね」
モズさんはヴァイオリンを出窓に置きながら、出窓のハンドルをくるくると回して閉じながら……そう言って、ベッドに腰かける。
「オカゲサマでね。……というか、用事っていうのはそれなんだけど」
「何? 黒柱の連携の話なら、私よりも───」
「そうじゃなくって、ボクを黒柱の中から担いで逃げてくれたの、モズさんでしょ。だから……お礼を言わなきゃと思って」
「────はっ」
モズさんは鼻で笑う。ああ、まただ。またにおう。お酒っぽい、甘いにおい。
「トリとしての最低限の仕事を果たしただけだよ。まさか、そんなこと言うためだけに夜中に私の部屋まで来たの?」
「……モズさんは、ボクのギフトのことも知ってるんだったよね」
「そうだね。なに、嗅ぎ回るなって言いたいのかな?」
「ううん、ただ……モズさんの嘘のにおいが甘く感じるのは、どうしてかなと思って」
「甘い?」
すん、と音を立ててモズさんは自分の袖をにおう。そうじゃない。普通に嗅いでてわかるようなものじゃない。ボクのようにギフトを持っていないとわからないにおいだ。
「お生憎様、私が感じられるのは染み付いた血の匂いくらいだね」
「……服からは柔軟剤のにおいしかしてないよ」
「比喩表現だよ」
「ヒユ……うん、たぶん、ボクの言ってる嘘のにおいっていうのもヒユなのかも」
「だったら何、どうして嘘が甘く感じられるワケ?」
「…………それは、多分、ついてる嘘が優しい嘘だから」
言い終わらないうちに、ふっ、と空気の抜ける音が聞こえて。モズさんはわざとらしくお腹まで抱えて、背中を丸めて。真夜中だけど我慢できないというふうに口から漏れていく笑い声を手の甲で抑えて、まさしくホーフクゼットウって感じで。……なに。なにこれ。もしかしてメチャクチャバカにされてる?
「ふっ、くくっ、す、スズメくん、君ねぇ」
「なに……? ボク、そんなにおかしいこと言った?」
「いやいや、まったく。はは、そうか。そう見えてるんだ? ……まったく、本当に、かわいらしいことで」
わけが分からない。意味も分からない。そもそも……ボクはこの人のことなんて、ロクに知らない。それなのに分かった風なのが、なんとなくシャクに思えて。いまだに笑われ続けてるのをどうにか止めようとして、その肩を───掴もうとした手を、掴まれて。
ふわりと、空中を舞って、ベッドから天井を見上げてた。いや、天井の方にある、モズさんの月に照らされた顔を眺めてた。ベッドから舞い上がったにおいは、嗅ぎ慣れない他人のにおい。どこか大人っぽくて、落ち着かなくって……でも、柔らかい気がするにおい。
「知ってるかな。人狼は満月の夜に獣になって人を喰らうそうだよ?」
「……モズさんはオオカミじゃないし、今日は満月じゃないでしょ」
「そうでなくとも、君みたいな子が私みたいなのに、こんなに不用心に近付いちゃあいけないよ。……食べられてしまうからね」
パジャマの隙間から、ひやりとした指が入ってきて、わき腹の方を撫でてくる。ひっ、と声が出てしまう。指が食い込む。……食べられる? うそ、ほんとに?
「ほ、ほんとにオオカミ人間なの……?」
「どうかな。気持ちはそうかも。あんまり君がかわいいもんだから、食べたくなってきちゃった」
においは、分からない。感じないってわけじゃなく、意味が分からない。食べられそうって時なのに魔獣と戦ってる時みたいな感じじゃないし、モズさんのにおいも甘くて優しい感じで、なんだかどきどきして……。きゅっと身体がこわばる。
「……その、いいけど、いたくしないで、」
モズさんは呆れたように笑って、頬にキスをしてくる。それは父さん母さん、エナガと普段してるような感触で、ふっと肩の力が抜けた感じで。けど、それが唇と合わさって。本物のキスになってしまって───あれ、なんでキスなんだろう、これって恋人がするやつだよね───なんて考えは一瞬だけしか形にならなくって、前歯のあたりに舌が入ってきて、くすぐったい。
「舌、出しなよ」
べぇっ、とモズさんは長い舌を出しながらそう言って、ボクもおそるおそる口を開けて、舌の先っぽの方だけを出す。いい子だね、って声が頭をざわつかせて、ぼうっとしてた舌にモズさんのそれが絡んでくる。ぴりぴりした感触で、舌が逃げそうになるけど逃がしてくれなくて。ああ、息なんて吐いたら顔にあたって嫌だろうな、なんて思うのにどうしてか息が止められない。モズさんが喉の奥で笑ってる……気がする。その手がボクのパジャマのズボンの方に伸びていって、脚の付け根の、間のあたり。そこを指で撫でてくる……。キスがようやく落ち着いて、ふーふーと息を整える。モズさんは相変わらず、そこをくにくにと押すように触ってきて、それがなんだか、変な感じが身体に広がるような気がして。
「スズメくんは……セルフプレジャー、マスターベーションの経験は?」
「せる……え、何?」
「ここ、触って気持ちよくなったりすることはあるの?」
「トイレでってこと?」
「…………ふふ、初物か。いいね、そそるなぁ」
首をかしげていたら、するりと長細い指がパジャマの下に入り込んで、下着の上から触って。指先だけの力で、マッサージをするみたいに……なんだか、そうしてると、じわじわと触られてるところが、痺れてるみたいになってきて。
「モズ、さん」
「うん?」
「これ……なんか、変な感じなんだけど」
そうしたら、頭を優しく撫でられて。……普段ならそういうのってムカつくのに、なんだか心地良くって、安心する感じがして。
「その感覚に身を任せるといいよ」
「でも、これ……っ、あ、えっ!? ま、待って、」
ふと気付いたのは、衣服の中の湿った感触で。ああ嘘でしょ、信じられない。たしかに普段そういうことに使ってる部分だから触られて出てきちゃったかもしれないけど、こんな……見られながら、っていうか触られながら、なんて。
必死でモズさんの手を掴んで、泣きそうになりながら───っていうか、涙が出てるのも感じながら、何か言おうと口をぱくぱくさせて、でも漏らしただなんて言うのは恥ずかしくて、言えなくて。だけどそのうちボクの言いたいことを察したモズさんは、「ああ」と何か気づいたように言って笑って、「ほんと、君ってかわいいね」そう言って、優しくキスをしてくれた。
「心配しなくたって、これは君の思ってるのとは違うものだよ」
「……も、漏らしたわけじゃないの?」
「フフ、それはそれでかわいらしいけどね……これは気持ちがいいと出るもの、正確には刺激されると自然に濡れるものさ。しかしまあ、濡れてるのならもう、脱がないとね?」
モズさんの眼帯に覆われてない方の目が、月の光を反射しながらボクをじっと見ていた。その指が下着と、ズボンの端を摘むようにして触るのに気付いて……まるで幼稚園くらいの子供がされるがままにするみたく、腰を浮かせた。するりと、剥ぎ取られて感じる、夜の空気の冷たさ。どうしてかあつくなっていた下着の中身に、ひやりとした感覚。それと熟し切った果物みたいな、独特なにおい……。
ぷちゅ、とモズさんの綺麗な指が、ボクの股の間のところに押し当てられて、溢れたもので汚れた。あの綺麗なヴァイオリンを演奏する細い指が。そのままくにくにと押して、輪郭越しに中を擦るようにしてくる。唸る。唸り声、が出る。くすぐったい? それとは違う、ぞわぞわした感触。
「う、ん……っ、モズさん、これ、なに」
「……それが”気持ちいい”だよ、スズメくん。どうかな、痛かったり切なかったりする?」
「わ、分かんない……でも、今の感じはいい、かも」
モズさんの手が背中に回って、抱き起こされる。細くって長くって、格好いい感じの……でも、ボクを抱き起こす感触は力強くて。上半身を抱き起こしながら、指は繰り返し濡れたところを揉むように触っていて。
とろりと、あつい中の方から溢れて冷めたものが、お尻を伝って落ちていくのを感じた。下はボクのズボンでも下着でもなくて、モズさんのベッドに、それが染み込んでいって。
「あ……っモズ、さん。ごめん、汚れちゃう、」
「いいよ、そんなの。かわいらしいものさ」
耳元で低い声で囁かれると、なんだかぞくぞくする。背中の方がざわざわしてくる。耐えられなくなってきて、しがみつく。
「そろそろイきそう?」
「え? わ、わかんな…っ」
お腹の奥で、なにか震える感じがして。それが全身に広がって、ぎゅっと力がこもって、目の前が白黒して、頭の中がどこか遠くまで飛んで行ってしまうような感じがして。モズさんに、しがみついて。……どうしてか、そこにいるのがモズさんだっていうのに、変な安心感があって。力が抜けて、重くなる身体を抱き締めてくれて。「上手にイけたね」とキスをして、頭を撫でてくれるひとからはやっぱり甘いお酒みたいなにおいがして。
それがボクから出たにおいと混じり合って、くらくらするくらい、幸せに思えた。
「……タオルと、着替えまで。ありがと、モズさん」
あくまで素直に。だってベッドまで汚してしまってるのに、さすがに突っかかってくのはダメだろうと思ってお礼を言ったのに、そのひとはどうしてなのか呆れた様子で。
「あのねぇ……もう少し、手を出されたことに文句でも言ったらどう?」
「え、いいんじゃないの……? モズさんだって高校に通ってる年だし、学生同士の遊びでしょ」
「遊び……ねぇ。フフ、たしかにイケナイ火遊びだ」
「…………なんか、よく分かんないんだけど。痛くしないでって言ったとおりにしてくれたし、ボクは別にイヤな気分になってないから」
だから、と続けようとした唇に、指を押し当てられて。
静かに、のサインかと思って黙り込めば、目の前にそれを立てられる。
「次は、指を挿れてみようかな」
「指、って……」
とん、とヘソのあたりをパジャマ越しに突かれて。……それで。それだけで、さっきまでのお腹の奥のヘンな感触がよみがえってくる。いれるなんて、そんなの、入るわけないのに。でも、それでも、なんとなく……。
「それって、痛い?」
「どうかな。スズメくんは泣いちゃうかも」
甘いにおいがした。緊張でこわばった肩を、それが緩めた。
「…………また、来るから」
キスをする。かわいい、と言ってくれる言葉が嘘でも、それは甘くて優しかった。