「斬るッ!せいッ!」
可憐な容貌に似合わぬ鋭い掛け声。退魔刀の一閃。下級妖魔が塵と化す。
邪気満ちる魔窟を大和撫子然とした清楚な美少女が決然と進む。
白と藍を基調とした巫女装束は、地球と呼ばれる異界の女学生の制服を参考にした意匠で露出が多く、短いスカートから絶対領域が見えそうになる。
青い髪紐で結った菫色の美しい長髪がたなびく。少しきつめな、鬼灯の実の如き緋色の瞳。
額には二本の角があり、彼女が地球の人間ではない事を示している。
少女の名はアサアケ。
地球でいう中世日本風の世界・イザヨイの都を妖魔から守護する名門武家出身の、鬼族の姫巫女である。
妖魔の王に兄を討たれ、敵討ちの為、仲間と共に妖魔退治の修行を積んでいた矢先、地球という異世界に勇者として召喚されたが…
(私…オーナーに黙ってイザヨイに戻ってしまいました…いえ、今は迷っている時ではないですね)
時は少し遡る。地球に勇者召喚された日から、兄の敵討ちを中断して歯痒い思いをしていた矢先…
勇者ギルドの依頼でパーティを組みダンジョン攻略から帰還したアサアケの前に、魔族の老人が現れる。
「キヒヒヒ!お主、元の世界に戻りたいんじゃろ?」
「っ!?あなたは何者ですか?邪悪な気を感じます」
警戒するアサアケ。
「ワシの名は異界召喚士。召喚魔術と異界転移門創造が得意でのぉ~」
「面妖な…さては妖魔の幹部ですね?斬るッ!」
「ちょ、まっ!ワシはお主を元の世界に戻してやろうというのじゃ」
「何?」
「お主、兄の仇を討ちたいんじゃろ?なのに勝手に異世界召喚され勇者にされ迷惑じゃろ?」
「…っ!わ、私は…確かにもどかしさと憤りはあります。けれど今は…」
勇者使いのオーナーと出会い、勇者契約を結び、仲間たちと共にダンジョンに潜る日々で、アサアケは着実に強くなっていた。
勇者契約はいつか解除され、地球での勇者経験で精進を積み、故郷のイザヨイに帰還するするつもりであったが。
「そんな口約束、いつになるやら?グズクズしている間に、お主の故郷は妖魔に滅ぼされるのではないか?」
「…っ!それは…」
内心の焦りを見透かされ言葉に詰まるアサアケ。
召喚元の世界に帰還した際は召喚直後の時間に戻れる為、心配は無いのだが、その事実は別の異世界出身の同僚の勇者少女は聞かされていたが、アサアケは知らなかった。
「キヒヒ!ならばワシが今ここで、お主を故郷に転移させてやろう。ほれ、この異界門はイザヨイに通じておるぞ」
「な…本当ですか!?し、しかし、今はまだ…」
アサアケは逡巡する。
責任感の強い彼女は勇者使いであるオーナーへの義理と想いに揺れる。
「それに、私一人では…仲間を、タンポポやルリやアヤメたちも一緒に…」
「判断が遅い!この異界門はじき閉じるのでそんな暇無いわ!さぁどうする?この機会は無かったことに…」
「っ…ま、待ってください!……分かりました。私一人で行きます!」
意を決して禍々しき異界門に身を投じるアサアケ。面妖な老人の罠であることを察しながら。
「キヒヒッ!今回の獲物はこの鬼娘じゃ!上物のエーギルを搾り取れそうじゃヒヒヒ」
アサアケは一見可憐な美少女だが、人間より遥かに強靭な肉体と妖力を持つ鬼の巫女勇者であり、実験素材として極上級といえた。
ほくそ笑む異界召喚士だった。