渋に置いたやつを一応こちらにも
近年の経済の成長は、森に暮らしていても凄まじいというのはわかる。多くの人々が富を求めて街へ出稼ぎに行っている。自警団の若者連中やおばさんのところの息子たちも村を出ていって、イアンしか残っていないという話だ。お陰で最近はおばさんに猫可愛がりされている。勘弁して欲しい。
僕はお陰さまで猟師を続けられている。でもここ最近は動物たちの様子が少し騒がしい。少し遠くの森に製材所が出来たらしい。ノエルの手紙によれば、急激な経済発展のせいでどこも木材が不足しているらしく、政府から貴族や資本家たちに木材の供給の要請が出ているのだとか。その製材所も、猟に影響が出ないか綿密に調査して、泣く泣く建設したらしい。猟ができなくなるのは困るけど、ノエルたちが困るのは、僕はもっと困ると思っている。
ちなみに、ノエルに出会って、あの騒動に遭遇してから三年が経っている。思えば時が経つのは随分と早いものだ。前に会ったのはついこの間の検診だったかな。背丈は変わらなかったけど、表情は随分と大人びていた。色々なことを経験したんだろう、毎日が猟の繰り返しの僕とは大違いだ。背は少し伸びたけど。
それにしても、最近は手紙の頻度が多い。僕が返事をしないのもあるだろうけど。何かを焦っているのだろうか? 文章から真意を読み取ることは出来ない。とにかく、どうやら僕に、屋敷に来て欲しい一心だということだけは理解できた。そんなに来て欲しいのなら迎えを寄越せばいいのに。街には出来るだけ行きたくないんだけど、流石にこれ以上無視するのは悪いので、彼女に返事の手紙を送った。
◆ ◇ ◆
ウォーレスの技術に、今私は戦慄している。研究を始めて二年、熱石機関による義体はもう完成間近まで来ていた。彼の基礎研究が無ければなし得なかったことだ。
「まさか、こんなに早く試作品までこぎ着けるとは……」
もちろん喜びも大きいのだけど、天才との才能の差に愕然とさせられてしまった。嬉しいのが半分と、自信を無くしているのが半分。ウォーレスのことはみんなには内緒だから、周りは全部私が考え出したと思っていてちょっと罪悪感がある。でもアシュリーのおじいちゃんなんだから、許してくれるかな……?
ここ最近の技術の発展と経済の成長は、多くの労働災害を引き起こしていた。そのせいか皮肉なことに、この研究の期待と需要が高まっている、とても複雑な気持ちだ。多くの人が助かるのは間違いないのだけど。
「アシュリーは、今何してるんだろう。やっぱり猟かな」
自室で一人、ベッドに寝転がって呟いた。三年前の彼との出会いを思い出す。川に飛び込んだ死に体の私を救ってくれた、命を狙われた私を死物狂いで助けてくれた、私の命の恩人。彼の優しげな瞳、横顔を思い出す。
そして、裸を見られてたことも一緒に思い出してしまい顔が熱くなる。そうなると決まって、指がアソコに伸びていった。
「あ……アシュリー……んんっ」
最初はこんなんじゃなかった、思い返しては顔を赤くしている度に、なんだか変な気分になるようになった。
少し触った後は、汚れないように服を脱いで、タオルを敷いた。彼の顔、彼の声を思い浮かべながら硬くなった先端をつまむ。そうすると刺激が心地よくて、身体が震える。お腹の奥がキュゥと痺れる。
「はぁ……ん、ふぅっ」
我慢しようと思っても声が出てしまう。アシュリーのあの、罪悪感、気恥ずかしさ、そして本当にごく僅かな一欠片だけの欲情が入り混じった目を思い出す、その視線に貫かれるのを想像すると気持ちの昂りを抑えられなくなる。ふと、彼ならどう触るかを考えてみる。優しいけど、ちょっと意地っ張りだし恥ずかしがり屋だから、きっと遠慮しちゃうんだろうな。それで、あんまり気持ちよくないのかもしれない。それとも、実はとんでもなく上手で、激しくしてくれるのかな? ああ、彼はどんな風にするんだろう? 頭の中でアシュリーの手つきを想像してしまい、下腹部が切なくなってくる。
彼と身体を重ねたらどうなるだろう? もしかしたら、とても優しく抱いてくれるかもしれない。でもひょっとすると、欲望のままに乱暴されるかも。
そんな妄想をしながら刺激の強い部分を指で擦り続けると、頭がぼーっとしてくる。お腹の下あたりがゾクゾクして、気持ちいいことしか考えられなくなる。アシュリーの顔が浮かんできて、どんどん気持ちよさが増していく。もっと欲しい、もっと、もっと!
「あっ、ああぁっ!」
頭の中が真っ白になり、全身がビクビク震えた。絶頂の余韻に浸りながら、ぐったりとベッドに沈み込む。
「はぁ……はぁ……私、変態になっちゃったかも……」
アシュリーのせいだよ、なんて心の中で呟いてみた。最近、彼が恋しいと思うことが増えた気がする。前はそんなこと無かったんだけどなぁ……。こんなところ見られたら、恥ずかしくて死んじゃうかもしれない。
私は後始末をすると、カレンダーを確認する。もうすぐ、彼に会える。
先日、彼から久々の返事の手紙が来た。ついにこの屋敷に来てくれるそうだ。手紙を読んだ時は小躍りしたものだ。
私はとある計画をこっそりと立てていた。それは彼の家の隣に小さな別荘を建てるというものだ。時々そこへ訪れて、彼と一緒に休暇を過ごしたり、彼の家に通って家事や食事をして、そして……なんちゃってね。
何年も先になるかと思っていたんだけど、意外にも研究が一段落ついてしまったので、前倒しにしてしまおうと考えている。お祖母様たちにも内緒でもう見積もりまでは済ませている。あの辺り一帯の土地そのものがファイアストン家の物なので多分異議は出ないと思うけど、アシュリーが拒んだら考えなくちゃいけない。
もちろん、説得の口説き文句をね。
◆ ◇ ◆
街というのはどこであっても騒々しい。人がごった返しているし、工場の煙のせいなのか晴れているはずなのにずっと曇のような状態で、なんだか空気も悪い気がする。僕が以前、炭鉱労働をしていた街も、こんなふうにごみごみしていた。
三日かけて西都に辿り着いた僕を待っていたのはこんな様子だ。乗り物は相席になるのが嫌で歩いてきた、途中野宿することもあったけど、別に平気だ。ノエルには内緒だけど。
「どけどけ!邪魔だ!」
道をぼんやり歩いていると通行人にどやされる。人の波に飲まれ、どこに向かっているのかもわからず、気がつけば人通りの少ない道に来ていた。
「参ったな……」
ため息をつきながら歩く。もし師匠を連れてこれたらこんなことにはならなかったのになぁ。引き返して広い道に出ようにも、人でごった返している。とりあえず、この薄暗い道を抜ければ何処かへ辿り着くだろうか。なんだか昔の事を思い出す気分だ。酷い記憶しか覚えてないけど。
そうして進むと、薄汚れた服装の少女がいた。孤児なのか、はたまた農村からやってきたのか、どこかあどけない表情をしている。歳は12歳ぐらいに見える。彼女はこちらに気がつくと、近づいてきた。
「あ、あの……」
そうして、スカートの裾をつまむとゆっくりと上げようとする。
「やめろ!」
僕は慌てて制止した。年端も行かない女の子がすることじゃないし、そんな用事はない。
「僕はそういう事をしに来たんじゃない」
「でも……もう二日も食べてなくて……あの、処女ですから、病気の心配はいらなくて……」
光眩しく影濃い時代、こういうことは多い。僕が炭鉱労働をしていた時もそうだ。女の子が男の人とどこかへ行くのを見かけたことが何度もある。今ならそれが何なのかは理解できる。こういう事をするな、と言っても、でもそうしなきゃ生きていけない。影に堕ちた人々はそうするしかないんだ。
僕は鞄の中からパンを取り出した。ここに来る前に立ち寄ったパン屋で買ったものだ。
「ほら、食べな。見返りなんていらないよ」
そう言って彼女に手渡した。彼女は、最初は躊躇っていたが、空腹には勝てなかったのだろう、すぐさま口に運び貪るように食べた。
「……ありがとうございます、お兄さん」
女の子はそう言って僕に抱きついた。少し驚いて引き剥がそうとしたけど、僕の胸に顔を埋める彼女の目には涙が浮かんでいた。だからそのままにした。
……僕が子供の頃に、誰かにして欲しかった事しているだけだから、お礼なんて言わなくていいのに。そう思いながら、僕はしばらく彼女の頭を撫でていた。
「行くところがないなら、まあ、ちょっと相談するツテぐらいはあるよ」
彼女が落ち着いた頃を見計らって、そう言った。こんな、中途半端に人を助けるのは良くないってわかっているけど、目の前の子を見捨てることは出来なかった。ノエルに相談してみて、最悪の場合は僕の家に置いておけばいい。三年前の騒動を考えれば、女の子一人養うのぐらいならわけないし、二人いた方がずっと暮らしが楽になるのはわかっていた。それがこの子にとって良い事なのかはわからないけど。
「……いいんですか?」
「放って、おけないじゃないか」
そう、放っておけないんだ。じいちゃんならどうしただろう? やっぱり僕と同じことをしたはずだと思う。
◆ ◇ ◆
多分、アシュリーは歩いてくると思う。あの人間嫌いが乗り合い馬車なんて耐えられるはずがない。いや、おばさんと一緒に乗ったことがあるって言ってたかな? でも一人で来るんだから歩いてくるはず。
そうなると、だいたい三日はかかるはず。じゃあ、アシュリーが来るのは今日のはず! 『はず』ばっかりね。
「ノエル、落ち着きなさい」
自室に入ったり出たり、屋敷の玄関をウロウロする私を見てお祖母様が言う。
「だって、お祖母様」
彼を迎えに行けたらこんな思いせずに済んだのに! 運悪くここ数日、
お祖母様は私が落ち着かない様子なのに呆れたのか、ため息をついた。
「そんなにソワソワして……まるで恋人に会うみたいね?」
少し意地悪げに言われた言葉に、私は一瞬固まってしまった。
「……だったら、いいなぁ」
ポツリと溢れた言葉。私がそうでも、彼がどう思っているのかはわからない。嫌われていはいない、とは思う。でも、もしかしたら……。
「まぁ、考えているようなことはまずないでしょうけどねぇ」
私の考えを読んだように、お祖母様が笑った。
「え、な、なんで!?」
どうしてわかるの!? まさか、心が読めるとか!? 慌てる私に、お祖母様はもう一度ため息を漏らした。
「とにかく堂々と構えてなさい」
そして、それだけ言うと自分の部屋へと戻っていってしまった。残された私は、またウロウロと歩き回るのだった。
◆ ◇ ◆
拾った少女の服を見繕ってから屋敷に向かっていると、日が傾き始めてしまった。彼女はベッキーという名前らしい。どうして路地裏にいたのかは聞かないようにした。僕だってあれこれ聞かれたくはない。
「服まで買ってもらって、いいんですか……?」
「これから行くところは、上流階級の屋敷だから」
そういうとベッキーは顔をこわばらせる。そんなに緊張はしなくてもいい。なんてったって、相手はあのノエルだ。
しかし彼女にベッキーのことをなんと説明すればいいのやら。犬や猫を拾ったのとは訳が違う、人間だ。それも年端のいかない少女。路地裏にいたから拾った、では色々と語弊があるかもしれない。
そんなことを考えているうちに屋敷についた。門番とは顔見知りだからすんなり通してくれる。ただ、やはり隣の少女を見て怪訝な表情をしていた。それはそうだろう、事前に連絡をしたわけでもないし。まあ、なんとかなるだろう。僕は玄関の扉を開いた。
「ようこそ!アシュリー!」
ノエルが満面の笑みで出迎えてくれる。そして隣にいる少女を見ると、途端に表情が曇る。
「え、あっ……えっと……」
「ど、どうも、こんばんは! ベッキーと申します!」
ベッキーは僕の後ろに隠れながら挨拶をする。なんだか小動物みたいだ。
「はぁ、どうも……ノエルです……」
なんだかノエルの様子が変だ。彼女の性格ならすぐにでも打ち解けそうなものだけど。いや、その辺りの性格は僕もよく知らないかもしれない、意外と人見知りするのかな。
「あの、アシュリーさんから、お話は聞いています、その……」
ベッキーは話を途切れさせないように頑張っている。こういう場は苦手なんだろうな。
「そう、ですか……」
「……体調でも悪いのか、ノエル」
「ううん、別にそんなことないけど」
明らかに元気がない。どうしたんだろう、やっぱり初対面だし話しにくいのだろうか。この様子だと、ベッキーの事を相談するのは今日はやめた方がいいのかもしれない。
「とりあえず、上がっていいか?」
「あ、うん、どうぞ」
ノエルはどこか上の空、というふうな様子だった。そこへ、ベッキーが僕に耳打ちをする。
「あの、いいんですか、私なんかが入っても」
「いいって言ってんだから、いいよ。そのために服や靴まで買ったんだから」
「は、はい……」
そうやって話している様子を、ノエルはジッと見ていた。
◆ ◇ ◆
その子は誰なの!? あなたの何!? と大きな声で言ってやりたい、けど、もしも、彼女がアシュリーとそういう関係だったとしても……私には口を出す権利はない。
彼が彼なりの幸せを見つけたんなら、それでいいと思ったこともある。私は潔く身を引くつもりだった。でもいざ、目の当たりにすると、こんなに胸が苦しくなるとは思わなかった。
あんなに待ちわびたアシュリーの顔が見れない。どこかに消えてしまいたい、なんて私はバカなんだ、一人で勝手に舞い上がって。
「なあ、ノエル。本当に体調は平気なのか?」
私の心配をしてくれる優しい彼の声。私が今一番聞きたくない声だった。彼は私を覗き込むように見る。きっと今の私の顔はひどい顔をしているに違いない。こんな顔、彼には見せたくなかった。
「……うん、平気」
「嘘だ、絶対、なんかあったんだろ。それで今日呼び出した」
「違うの……」
今日呼び出したのは本当に違う、別のことを言おうとした。でも、もうそれも意味が無いかもしれない。
「僕は上流階級のことや研究の事はなんにもわかんないし、何の役にも立たないかもしれないけど、話ぐらいなら聞いてやれる」
そう言って、アシュリーは私の手を取る。その温かい手からじんわりと体温が伝わってくる。この手を離さなきゃいけないんだ、そう思うと涙が止まらなかった。
「ノエル……」
彼はそのまま私の手を引き、自分の胸に私の顔を押し付ける。
「……ベッキーが見てるよ」
「別にいいよ」
「いいわけない……」
「いや、そりゃ、恥ずかしいとは、ちょっとは思うけど……」
そう言いながらも、彼は私を離そうとはしなかった……今なら、聞いてもいいかな。
「ねぇ、ベッキーって、あなたの何なの……?」
「ああ、その、困ってそうだから連れてきた」
「……えっ?」
思わず顔を上げて、アシュリーを見る。困った顔で笑っていた。
「途中、道に迷って、そこで会ってさ、保護者もいないらしいから、ノエルと相談しようかなって……」
「え、えっと、じゃあ、恋人とかじゃ……」
「そんなわけ無いだろ!? 今日会ったばっかだぞ!」
彼は顔を赤くして怒った。ベッキーの方を見ると、そっちも顔を赤くして首を横に振っている。
「そ、そっかぁ……えへへ、そうだったんだ!」
ホッとしたような、拍子抜けしたような、何とも言えない気持ちになる。でもやっぱり嬉しい気持ちの方が大きい。この事で気付かされた、私、アシュリーの事がめちゃくちゃ好きだ。
「急に元気になったけど、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫! 全然大丈夫だよ!」
私は元気いっぱいに答える。良かった、本当に良かった。安心したらまた涙が出てきた。
「おい、だからなんで泣いてんだよ!?」
「ごめん、ちょっとホッとして……」
それからしばらく、彼に泣き顔を見せたくなくて、彼の胸で泣いた。その間、ずっとアシュリーは手を握ってくれていた。その手は温かくて、優しくて、すごく安心できた。
私、バカだなぁ、20歳にもなって、こんなことで勘違いして、涙を流して、彼を困らせて、本当バカだ。でも、好きな人の胸の中で泣けるんなら、それもいいかもしれない。
「落ち着いた?」
しばらくして、ようやく私が落ち着くと、彼は心配そうに顔を覗き込んできた。
「う、うん、ごめんね、泣いちゃって」
「いいよ、別に……僕も、さっさとベッキーの事を説明すればよかったんだ」
そう言って、彼は優しく私の頭を撫でた。それだけで、さっきまでの嫌な気持ちが嘘のように晴れていく。
「ねえ、1つお願いがあるんだけど」
もう想いが抑えられない、この勢いで、行けるところまで行ってしまえ! 私は覚悟を決めると、彼の目を見て言う。
「なに?」
「き…………きき、キスしてくれないかな……」
言った……言ってしまった……心臓がバクバク鳴ってうるさい。顔が熱い。多分真っ赤だろう。
「はぁ!?」
案の定、彼は驚いて変な声を出す。そうだよね、驚くよね。でも、ここまで来たら後には引けない。
「……ベッキーが、見てるだろ」
「別に、いい」
彼女の方をチラと見ると、両手で顔を隠していた。でも多分、指の隙間から見ている。見られて困るものでもない。
「いいのかよ……」
「いいの」
「わかった……」
そう言うと、彼は私に顔を近づける。少し怖いので目を閉じる。唇に柔らかいものが触れる感触があった。目を開けると、彼の真っ赤な顔が目の前にあった。
「これで、いいだろ……」
◆ ◇ ◆
懐かしいような、感触だった。彼女が意識を失って、蜂蜜湯を口移しで飲ませた時以来だ。もちろん、ノエルには内緒だから、彼女は初めての口づけだと思っているだろう。
「そうだ、夕食にしよう! お腹空いてるでしょ? ちょうど今準備が出来てたところなの!」
ノエルはそう言って僕たちを食堂に案内する。
入ると、彼女の祖母がもう席についており、料理もいくつか準備されていた。
「……お久しぶりね、アシュリー」
「ご無沙汰しております、ノエルのばあちゃん」
僕は軽くお辞儀をする。
「ノエルの、は余計ですよ」
この人は少し苦手だ……別に悪い人じゃないんだけど、なんというか、僕はもう16歳なのに、可愛がってくれてるのはわかるんだけど……。
「さあ、隣に座りなさい」
何やら僕に上流階級のマナーを仕込みたいらしい。ありがたいとは思っているけど。
ベッキーも、ばあちゃんに挨拶をした。ばあちゃんは少し驚いた表情をしていたけど、僕の説明を聞いたら呆れた表情に変わった。
「アシュリー……あなた、女の子を拾う趣味でもあるのかしら」
ノエルがブフッと吹き出して、笑い始めた。
「ち、違う、女の子の方からやってくるんだよ」
慌てて言い返したつもりが、なんだか変な事を言ってしまったような気がする。それを聞いたノエルはまた笑った。
「色男だねぇ、アシュリー」
「最初に寄ってきた女の子は君だろ」
「あはは、そうだった!」
僕とノエルのやり取りを見て、ベッキーは不思議そうな顔をしていたが、すぐに食事に戻る。無心になって口に入れている、まるで昔の僕を見ているみたいだ。
食事を終えると、ベッキーはノエルに、浴場に連れて行かれた。服装は綺麗だったが、確かに顔や体は洗う暇がなかった。
僕はいつも泊まる部屋でベッドに寝転んでぼんやりと天井を見上げていた。唇に手を触れ、先程の出来事を思い出すと、顔が熱くなる。
気を紛らそうと部屋の調度品を見てみる。綺麗にされたクロスが敷かれた机、綺羅びやかな装飾の棚、フカフカの布団、僕とはやっぱり住む世界が違いすぎる。
キスなんてせがんで、僕よりもいい相手なんて、彼女からすれば選り取り見取りなのに。僕は薄汚れた猟師で、上手い話も出来ない。義手や義眼の事で世話になりっぱなしだ。ちょっと昔の僕ならこんな事は思わなかったかもしれないけど、少し大人になったら、見えてくるものが違ってきた。いっそ勘違いを本当のことにして、ベッキーを連れて帰った方が、彼女は幸せな人生を歩めるかもしれない。ノエルは僕に人生を縛られていいような人じゃない。
多分、そんな事を言っても、ノエルは諦めたりはしないんだろうな。なにせ、ノエルの父親は階級を捨て家を飛び出してまで、労働階級の女性と結婚した。その血を受け継ぐノエルが、しがない労働階級の猟師を手籠めにするのなんて訳無い。きっと僕はもう逃げられない。罠にかかった子狐のようなものだ。
複雑な気持ちだ。でも、なんか、嬉しいような気持ちもあって、僕が求められているというのは悪い気はしない。そんな自分を、少し良くないと思ってはいるんだけど。
でもやっぱり、ノエルの幸せはここじゃないもっと遠くの場所にあるはずだ。胸が痛むし、悔しいけど、これは事実なんだ。
グルグルと思考を巡らせていると、部屋の扉をノックする音が響いた。
「アシュリー! 入るよ!」
ダメと言っても入るだろう。僕が着替えでもしてたらどうするつもりなのか。ノエルはズカズカと部屋に入ってきた。
「あなたも体を洗わないと」
別にいい、と言いたいところだけど、毎度毎度入らされるのでもう諦めている。浴場が空いたから呼びに来たのだろう。
「じゃあ行ってくるよ」
僕はそう言って、ベッドから起き上がり部屋を出ようとする。
「待って、アシュリー」
ノエルは僕を呼び止めた。そして、とんでもないことを言い放った。
「私も一緒に、入ってもいい……?」
◆ ◇ ◆
ついに言ってしまった、ついにやってしまった。心臓がバクバク言っている。私は今、アシュリーと一緒にお風呂に入ろうとしている。
だって、これは仕方のないことだから。アシュリーの体を洗うためなんだから。でもまさか承諾されるとは思っていなかった。
私が誘った時、彼はとても驚いたような表情をして、顔が真っ赤に染まった。そして、少しだけ考え込み、遠い目をした後、了承してくれた。
正直言って、緊張する。私の心臓はもう破裂しそうだ。多分私の顔も真っ赤になっていると思う。
お互いに背を向けたまま服を脱ぐ。スルスルと衣服を脱ぐ音が聞こえる度に、鼓動が早くなる。
「こういうのって、使用人に任せるものだと思ってた」
アシュリーがそう呟いた。確かに普通の貴族なら、使用人に洗ってもらうことが多い。でも私は一人で入るのに慣れているし、他の人がいると気が休まらない。
チラリと、少しだけ彼の方に目をやると背中が見えた。古傷だらけの背中は彼の小柄で幼い雰囲気からは想像できないほど逞しく、男らしい。二の腕も太く、筋肉がついているのが分か る。毎日の猟や山仕事で鍛え上げられた体だ。その体は、彼が歴戦の猟師であることを物語っている。
アシュリーは私を助けてくれた。命懸けで私を守ってくれた。そんな彼のことを、私はいつの間にか好きになっていた。最初は感謝の気持ちだったかもしれない。それが恋心に変わるまで時間はかからなかったんだと思う。彼といると楽しいし、安心する。それに、一緒にいるだけでドキドキする。
だからと言って! 一緒に体洗おうって! ちょっとやり過ぎじゃない!? 私から言い出したんだけどさ! 自分から提案したことなのに後悔している。こんなの恥ずかしすぎるでしょ……!?
二人して体をタオルで隠し、浴室に足を踏み入れる。温かい湯気が立ち込めていて、入浴剤のいい香りが漂っている。この香りを嗅ぐといつも落ち着く。
「僕、体洗うから」
アシュリーはそう言うと、石鹸を手に取り泡立て始めた。わしゃわしゃと音を立てながら、アシュリーの手が白く染まっていく。
「私が、洗ったげようか!」
今日の私はどこかおかしい、こんな事を言えるなんてどうかしてる。自分でも何を言っているのか分からない。
「……お願いするよ」
アシュリーは少し間を空けて答えた。彼もどこか少しおかしい、こんなこと言ったら、顔を赤くして拒否すると思ったのに。
「じゃ、じゃあ後ろ向いて」
彼に後ろを向かせ、背中を洗い始める。触れると、硬くゴツゴツとした感触が伝わってくる。まるで岩のようだ。
「硬いね……アシュリー……」
「そ、そりゃ、どうも……」
三年前とは大違いで、背も伸びて、体がゴツくなった。逞しく、頼もしく成長している、16歳になるのかな?
泡立てた手で撫でていると、体が熱くなってきた。なんか、汗が滲んできた気がする。
「なんで、一緒に入ってくれたの……?」
「ノエルが入れって言うからだろ……」
それもそうだけどさ、普通は断るじゃん? どうしてOKしたの……?
「私、すごく恥ずかしかったんだよ?」
「僕だってそうだよ、死ぬほど緊張している。多分、ブラッドと対峙してる時より緊張してる」
「ふふっ」
少しだけ吹き出してしまった。あの時は命のやり取りだったのに、それより緊張してるだなんて。変なの。そんな事を思いながら、背中の泡をお湯で流す。
「じゃあ……次は前だね」
「前はいいよ……」
「ダメ、ちゃんと洗わないとダメだよ」
そう言って、私は彼の前に回り込み、正面に座った。
「ちょ、ちょっと待って……!」
アシュリーは顔を背け、必死に抵抗してくる。彼の顔がみるみる赤くなっていく。耳まで真っ赤だ。彼の手は股間を隠していた。
「あ……」
思わず声が漏れた。そうか、そうだよね、男の子だもん、そうなるよね。私も恥ずかしくなってきた。きっと今の私の顔は彼と同じくらい真っ赤になっているだろう。
「ご、ごめん……! つい勢いで言っちゃったけど、よく考えたらまずいよね!?」
慌てて弁明するが、彼は俯いたまま動かない。気まずい沈黙が流れる。
「……いよ」
しばらくして、彼が何かを呟いた。聞き取れなかったので聞き返す。
「え、何?」
すると今度は大きな声でこう言った。
「いいよ、別に」
彼は、両手を体の横に置いて、こちらを真っ直ぐと見据えている。顔はさっきよりも赤いが、覚悟を決めたような顔をしている。
前から見た体は、意外に胸板は厚く、腹筋も割れていて、とても逞しい体つきをしている。義手の右手はともかく、左の腕は、ガッチリとしていた。そうして、タオルで隠された部分は大きく盛り上がっていた。
「好きにして、いい」
心臓が跳ね上がるのを感じた。血液が身体中を駆け巡っているのが分かる。体温が上昇していくのを感じる。
私はゆっくりと手を伸ばし、彼の胸に当てた。そして、そのまま手を下に下ろしていき、お腹を撫でる。アシュリーの体はとても綺麗だと思った。無駄な脂肪は一切付いておらず、引き締まった肉体をしている。
「さ、触ってないで、洗うんじゃないのか」
アシュリーが少し上ずった声でそう言った。
「そ、そうだね、洗うね!」
私はそう言って、石鹸を泡立てた手で彼の体を隅々まで洗っていく。首から肩へ、肩から胸へと徐々に下へ向かって行くように撫でていく。時々くすぐったそうに身をよじるのが可愛らしい。
「タオル、どかすね」
アシュリーは真っ赤な顔で黙って頷く。私はタオルに手をかけ、そっとめくり上げた。その瞬間、私の目に飛び込んできたものは、ピクピクと震えて、天に向かってそそり立ち、今にも破裂しそうなほどパンパンに膨れ上がっていて……とにかく凄かった。彼は恥ずかしそうに目を逸らす。
男の人のモノを見るのは初めてで、なんだかグロテスクだな、とか思ったけど、それでも私の心拍数はさらに上がっていく。心臓の音がうるさいくらいに聞こえてくる。
私は意を決して、震える指でそれに触れた。
「っ……!」
アシュリーが小さく声を漏らす。小説とかだと、擦っていたはずだった。私はそれを優しく握り上下に動かす。石鹸のおかげで滑りが良くなっているため、スムーズに動かせる。
「んっ……ノエル……やめ……」
彼の口から艶っぽい吐息が漏れる。それがなんだか可愛くて、私は手を止めずに動かし続ける。徐々にスピードを上げ、激しく擦り上げる。その度にビクビクと脈打ち、硬度を増していく。
「あっ……くっ……やめて……!」
アシュリーは私の腕を掴み、引き離そうとするが、力が入らないようで全く抵抗できていない。
「ダメだ……もう……出る……!!」
次の瞬間、大量の白濁液が噴き出した。勢いよく飛び出したそれは、私の顔や体にかかり、ドロドロとした粘液が滴り落ちる。独特な匂いが鼻をつく。
……これ、きっと射精ってやつだよね。初めて見た……なんか凄い……。でも、なんだろう……凄くドキドキしてる……こんな感覚初めて……。
「ごめん……我慢、出来なくて……」
俯いたまま、アシュリーは謝った。謝ることなんて無い、私のせいなんだから。
でも、アシュリーのそれはまだ硬いままだった。それどころか、先ほどより大きくなっているような気さえする。
「今度は、私の体を洗ってよ」
◆ ◇ ◆
射精、してしまった。ノエルの手で、ノエルの前で。そういう想像をしたことがなかったと言えば嘘になる。字が読めるようになってから大量に渡された本の中に、そういう内容の物がいくつかあった。多分ノエルじゃなくてあの
そもそもの間違いは彼女の提案を受け入れたことだ、僕には罪悪感があった。川から引き上げた時、彼女を裸にして全身を拭いて、温めた。別に変なことをしたわけじゃない、でも、やっぱり悪い気がして、ノエルが僕を洗えばお互い様なのかもしれない、だなんて……僕は期待もしていたんだと思う。僕は最低なんだ。
「今度は、私の体を洗ってよ」
そんな僕の気を、知ってか知らでか、またとんでもないことを言い始めたノエル。彼女はそう言って僕に背を向けた。……三年前の傷が、目立たなくはなっているが、残っている。彼女が滝に飛び込んだ時についた傷。
「触るよ、ノエル」
僕は石鹸を泡立てて、彼女の背中に手を伸ばした。白い肌に触れる度に、ドキッとする。背骨に沿って指を這わせると、ノエルはビクッと体を震わせた。
「んっ……」
背中から腰にかけて、ゆっくりと丁寧に洗っていく。くすぐったいのか、時折甘い声を出すので、その度に鼓動が早くなる。一通り終わらせて、お湯で流す。
「終わったよ」
「前がまだ」
ノエルはそう言ってこちらを向いた。僕は目を背ける。これを直視してしまったら、どうにかなってしまいそうだ。でもやっぱり、我慢しなくちゃいけないのだろうか、最初彼女を助けた時は全身を拭いてあげたじゃないか。二度目なんだから、大丈夫だ! 自分にそう言い聞かせ、目を開いた。
そこには、一糸まとわぬ姿のノエルがいた。前よりも少しふくよかに、豊満になった胸。赤みを帯びた肌、艷やかな表情をしていて、息を荒げている。昔の僕なら、鼻血を吹き出していた事だろう。
僕は泡の付いた手で、彼女の首に触れ、肩に触れ、鎖骨に指を滑らせていった。
「ん……」
ノエルは小さく声を漏らしながら身動ぎをする。それが余計に僕の心を乱した。
胸に手を置くと、ふにゃっと形を変えた。柔らかい感触と共に、指が沈み込んでいく。先端にある突起物は硬くなっていて、僕の手のひらをくすぐる。
「ん……くぅ……」
彼女は顔を俯かせて、ひたすら耐え忍ぶよう、声を出さないよう口を結んでいる。そんな姿を見ていると、ますます血が下の方に集中していくのを感じる。
なんとか理性を奮い立たせて、彼女のお腹まで綺麗に洗ったところで終わりにした。これ以上続けていたら、何をしてしまうか分からないから。
「ちゃんと、全部洗って欲しいな」
「……これ以上は、無理」
そう言って逃げようとする僕を捕まえ、後ろから抱きついてきた。柔らかい胸が背中に当たる感触がする。心臓が破裂しそうだ。
「は、離せよ」
「やだ」
「これ以上のことはダメだ、間違いを起こしてしまうよ」
「起こしたらいいじゃん」
「いいわけがない。それは将来の婚約者のためのものだ」
「何言ってるのよ、アシュリー」
いくら彼女が僕を好いていようとも、僕が彼女を好いていようとも、僕は彼女の隣にはふさわしくない。労働階級の猟師、社会の底辺、そんな僕と釣り合うわけがない。だからせめて、彼女には僕の事なんか忘れて幸せになってほしいと思っているのに……それなのに、どうして僕の心を揺さぶるんだ、ノエル。
「僕は君にふさわしくない」
「アシュリー、私は覚悟は出来ている」
「僕は、君が謗りを受けて、傷ついて、それで平気な顔をしてられるほど僕は薄情じゃない」
「分かってる、でも、私はアシュリーが好きだから」
「そんなの、僕だって同じだよ……」
「それなら……」
「だけど!」
僕は振り返って、ノエルと向き合った。彼女の顔は涙で濡れていた。綺麗な顔が台無しだ。
「君が思ってるほど、簡単に乗り越えられるものじゃないだろ? 身分の差は! 君の両親が乗り越えられたのは、男側が貴族だったからだ! 君は今只でさえ立場が危ういのに、君の足を引っ張りたくない! 僕の事は忘れてくれ、ただの義体の利用者の一人と思って、忘れてくれ……」
「忘れられるわけないじゃん、あなたは、おじいちゃんを、ウォーレスさんを忘れられるの?」
「それは……」
「アシュリー……一人は、寂しいんだよ……知ってるでしょ……?」
「……でも」
「アシュリー! ……私は、あなたの事が好きです。大好きです。愛しています。どうか私と結婚してください」
真剣な眼差しで見つめられる。その視線からは逃れられない。
「真っ裸で、プロポーズするなよ……」
情けないことに声が震えてしまう。目から涙が溢れ出てくる。
「返事はくれないの?」
「……本当にいいのか……? 後悔しないのか? 僕みたいな奴と一緒になったらずっと後ろ指さされるんだぞ……! 一生、平穏に暮らすことはできないかもしれないぞ……! 子供も、どんな人生を歩むのか……!」
涙が止まらない。ノエルがぼやけて見える。視界が歪む。
「うん、大丈夫、アシュリーと一緒なら怖くない。あなたがいる場所が私の居場所なんだよ」
そう言って彼女は笑った。今まで見た中で一番綺麗で素敵な笑顔だったと思う。
胸の奥がポカポカする。心臓がバクバクして苦しいはずなのに、とても心地良い気分だった。
「……ノエル。君、猟師も向いてるかもな」
ついに、僕の心は追い詰められた。もう完全に追い込まれて逃げ場はない。覚悟を決めて、射止められるしかないようだ。
「それってつまり……」
「僕も、君のことが好きだし、その、愛してる。結婚、しても、いいかな……」
「っ……!」
その瞬間、ノエルが飛びついてきた。押し倒される形で倒れ込み、頭を強く打った。
「いっ……たぁ……」
「あ、ごめんなさい!」
すぐに起き上がって謝ってくる彼女だったが、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
◆ ◇ ◆
ちょっと強引だったかもしれない。でも、アシュリーは受け入れてくれた。嬉しくて仕方がない。
お風呂から上がって、今はアシュリーの部屋へと向かっている。途中、手持ち無沙汰でいたベッキーを見つけた。
「なんだか、嬉しそうですね」
「ふふん、分かっちゃうか〜」
思えば、この子がいなかったらここまで進展はしなかったかもしれない。いつものように何日か滞在して、それでおしまいだったかもしれない。そう考えると、彼女は幸運の鍵だった。
「ベッキー! ありがとね!」
「えっと、何がでしょうか……?」
「うふふ。まあいいじゃん!」
「はあ……」
不思議そうな顔をする彼女に手を振って、再び歩き出す。これからの事を考えるとドキドキする。
部屋の前について、ノックをする。中から返事が返ってきたので、扉を開けて中に入る。
アシュリーは口をへの字に曲げた真っ赤な顔で、ベッドに座っていた。彼は私と目を合わせようとしない。けど、下の方は正直なようで、ズボンが盛り上がっているのが見て取れた。
彼の横に座って、手を握る。ビクッと反応があったけれど、拒絶はされなかった。
「ねえ、アシュリー。いいよね……?」
耳元で囁くと、アシュリーはゆっくりと頷いた。それを確認して、私は彼に覆いかぶさった。そして、唇を奪う。への字に強引に舌をねじ込むと、恐る恐るといった感じで、彼も舌を絡めてきた。応えてくれた事が嬉しくて、もっと激しくしてしまう。息が苦しくなってきたところで、一度口を離した。銀の糸が伸びていき、プツンと切れた。アシュリーの顔は真っ赤で、目は潤んでいた。その表情が可愛らしくて、もう一度キスをした。ちょんと触れるだけの軽いキス。
「気持ちいいね、アシュリー」
「そ、そう……だね……」
恥ずかしそうに目を逸らす彼を見て、思わず笑みが溢れてしまう。可愛いなあ、もう。
「アシュリー、脱がすね」
「自分で脱ぐよ」
「いいから。代わりに、私の服を脱がせて」
起き上がってから、お互いに一つ一つ服を脱がせていくと、気分が高揚していくのを感じた。私が丸裸にされたあと、彼の下着を下ろした。すると、大きく膨らんだそれが姿を現した。先端からは透明な液体が流れ出ていて、ピクピク震えている……ゴクリと唾を飲み込んだ。
「あんまり見るなよ……」
アシュリーが顔を背けながら言う。そう言われても見てしまうのだから仕方ない。これが中に入ってくると思うと、少し怖い気もするが、同時に期待もしてしまう。
私はベッドに横になる。アシュリーは私の上に覆い被さってきた。いよいよ始まるんだという実感が湧いてきて、胸が高鳴る。
「痛かったら言えよ」
「うん……」
アシュリーの左手が胸に触れる。最初は優しく撫でるように、徐々に揉みしだくような動きへと変わっていく。
「んっ……はぁ……」
甘い声が漏れてしまう。彼の手つきはとても優しくて、丁寧だけど、まるで壊れ物を扱うかのように、恐る恐る扱われているのが分かる。それがかえってもどかしくて、余計に声が出てしまう。
「……湯浴みをさ、覗いてしまった時の事を、覚えてる?」
突然彼がそんな事を言い出した。忘れるわけがないよ。あの時の恥ずかしさと言ったらない。今思い出しても顔が熱くなるほどだ。
「あの時……僕さ、鼻血が出ちゃって……それで、恥ずかしくなって……突き飛ばして、本当にごめん」
「……あれは、私が開けた扉に顔をぶつけたんじゃないの?」
「その前から、出てたんだ……」
恥ずかしげに、申し訳なさそうに衝撃の事実を話すアシュリー。そっか、そうだったんだ。でも、ということは、その時から私をそういう目で……?
「……えっちだね、アシュリーは」
「ごめん……」
しゅんとする彼。そんなの、私の方こそ悪いのに。湯浴みすることを伝えてなかったし、それに扉を開けて頭にぶつけたのは事実だ。その後、迷子になって助けられたのも……。
「アシュリーは可愛いね。可愛くて、えっちだね」
「な、何言ってんだよ……」
「だって本当でしょ? 今もこうして、おっぱい揉んでるし」
「うっ……」
バツが悪そうにしているが、胸から手は離さない。むしろさっきよりも強くなっている気がする。
「ねえ、舐めてみて」
「え!?」
「ほら早く」
「僕は、赤ちゃんじゃないんだけど……」
アシュリーは躊躇いながらも先端を口に含んだ。それから上目遣いで、どうすればいいの? 、という視線を送ってくる。
「舌で、転がしたり、優しく噛んだり、吸ったりしてみて……」
言われた通りのことを実践してくれるアシュリー。少し乱暴だけど、それが逆に気持ちよく感じる。一生懸命な姿が愛おしい。私はアシュリーの頭を抱きしめるようにして固定した。
「ん……あっ……」
アシュリーが吸う度に、体が跳ね上がるような感覚に襲われる。それと同時に、下腹部が熱くなり、何かが込み上げてくる感覚がした。アシュリーの頭を撫でつつ、私は刺激に耐えていた。
「ノエル……なんか、苦しそうな顔してるけど……」
心配そうにこちらを見つめるアシュリー。私は微笑んで返した。
「気持ちいいの、続けて……」
そう言うと、アシュリーは再び行為に戻った。しかし、その動きは先程よりも早くなっていた。さらに、もう片方の胸の先端を指でつままれたりして、より一層強い快感が襲ってくる。
「アシュリー、アシュリー……!」
名前を呼ぶことで、なんとか自我を保つことができた。でも名前を呼ぶほどに胸が熱くなる。
そうして、アシュリーの頭を抱え込むようにして抱きしめる。でもこれだけじゃ絶頂には辿り着けない。
「もっと、気持ちいいところ、触ってぇ」
甘えた声でおねだりしてみる。アシュリーはすぐにそれに応えてくれた。
「ここ?」
お腹の下の方にある敏感な部分を撫でられる。その瞬間、全身に電流が流れたかのような感覚に襲われた。
「そこぉ……!」
アシュリーの手の動きが激しくなる。それに合わせて、私も腰を動かしていた。アシュリーの指の動きに合わせて、自分でも動いてしまう。恥ずかしい、でも気持ちよくなりたい、アシュリーに気持ちよくしてほしい。
「すごいっ、上手っ、どこで覚えたのっ」
「……本に書いてあった」
私がこっそり入れた本、読んでくれたんだ。そう思うとますます昂る。彼もそういう気持ちになることもあるかなって、入れたえっちな本。
アシュリーの指が動くたびに頭の中が真っ白になりそうなくらい気持ちがいい。こんな経験は初めてだ。いつも一人でやるのと全然違う。もしかしたら人生で一番気持ちいい瞬間かもしれないと思った時、何かが弾けたような気がした。
「ああっ、あぁぁぁぁぁっ!」
一際大きな声を上げて、絶頂を迎えた。全身が痙攣しているのがわかる。
アシュリーの前でイッた、アシュリーにイカされちゃった……。その事実だけでまた興奮してくる。
彼は左手についた私の、気持ちいいの証を、舐め取った。
「あ……っ、汚い、よ……!」
「汚くない」
そんなわけないじゃん、汚いに決まってるじゃん! ああもう、なんでそんな嬉しそうな顔するのよ! 恥ずかしくて顔が熱い!
「ノエル……いいよね」
アシュリーは私の足を持ち上げて開かせると、その間に自分の体を入れてきた。彼のモノは大きく膨らんでいて、今にもはち切れそうだ。それを入り口に押し当てられる。それだけで背筋がゾクゾクしてきた。
「痛くても、我慢する」
「いや、我慢はするなよ……」
私の言葉に呆れた声を出すアシュリー。とは言ったものの、正直自信がない。初めての時は痛いって聞くし……まあでも、なるようになる、かも、多分。
「入れるから」
ゆっくりと押し広げられていく感覚に息が詰まる。ギリギリと引き裂かれるような痛みが襲ってきた。歯を食いしばって耐えるが、涙が出てきた。
「ごめん、大丈夫か」
アシュリーが動きを止めて心配そうな顔を向けてきた。私は首を横に振った。
「謝らないでっ、私が、したいんだからっ」
本当はすごく痛いけど、ここで止めたら意味がない。三年前の怪我の痛みに比べたら、大したことない! もう全部入っただろうか? いやまだ半分くらいだと思うんだけど……これ以上進んだら裂けちゃうんじゃないかな!? それともやっぱり初めてだと入らないのかな……どうしよう……。
「もう、やめ…」
「だめっ!!」
アシュリーの言葉を遮って叫ぶように言う私。驚いたのか、彼は目を丸くしていた。
「大丈夫だからぁ……! だからやめないでぇっ……!」
なんでこんなに必死になっているのか自分でも分からないけど、とにかくやめてほしくなかった。ここまで来てお預けなんて耐えられない!
「ごめん」
「だからっ、謝るなっ!」
再び動き始めるアシュリー。少しずつ奥へ奥へと入っていくのが分かる。やがて全て入り切ったようで、動きが止まった。しばらくそのままの状態が続く。結合部から血が垂れてきてシーツに染みを作った。
「血が出てる」
彼は悲しそうな顔をしていた。確かに痛い、出血もしてる、でもそれよりも今は嬉しさの方が勝っていた。好きな人と一つになれたという事実が何よりも嬉しい。
「へいき……」
「無理しなくていい」
「してない」
私はアシュリーの首に腕を回し、強く抱きしめる。彼の体温を感じると心が安らいだ。
「このまま、じっとしてて」
「わかった」
アシュリーが優しく髪を撫でてくれる。それが心地よくて目を細める。繋がったまま彼の腕に抱かれて、撫でてもらって、幸せだなぁ……ずっとこうしていたいなぁ……。そんなことを思いながら、彼に身を委ねた。そうしていると痛みなんか忘れて、なんだかウトウトしてきちゃった。大好きな人に包まれながら眠るというのはとても幸せなことだと思った。意識が遠のいていく中、最後に聞こえたのは優しい声だった。
「……おやすみ」
◆ ◇ ◆
昨晩は生殺しだった。中に挿れた後、ノエルがすぐに眠ってしまった。多分、泣いたり、緊張したりの連続で疲れていたんだと思う。
あの後は一人で処理して、片付けて、寝てしまった彼女の体を拭いて綺麗にした。それから僕も隣に横になったのだが、全く眠れなかった。
外から鳥の鳴き声が聞こえるので、もう朝だろうな。結局一睡もできないまま朝を迎えてしまったわけだ。
隣を見ると、裸のまま寝ているノエルの姿がある。僕は起こさないようにそっとベッドから降りた。
「人の気も知らないで……」
ノエルの寝顔を見ながら呟く。気持ち良さそうに眠っている。僕の心を強引に抉じ開けておいて、挿入だけしたらおやすみ、だなんて……ひどい話だ。
おかげでこっちは悶々としたまま一晩を過ごす羽目になった。本当に困ったやつだ。
「んっ……」
寝返りを打つノエル。僕はその横に腰掛けると、頭を撫でた。サラサラとした髪が指の間をすり抜けていく感触が心地良い。
「んぅ……アシュリー……」
不意に名前を呼ばれてドキッとする。起きたのかと思ったけど、どうやら寝言のようだ。一体どんな夢を見ているのだろうか。気になった僕は耳を近づけてみた。すると彼女はこう言ったのだ。
「好きぃ……」と。
心臓が大きく跳ねるのを感じた。落ち着け僕、ただの寝言じゃないか……。
「ノエル、起きてる?」
返事がない。ということはやはり寝言か。しかし、なぜ急にそんなことを言ったのだろう。まさか夢の中で僕と会っているとか? あり得るな、ノエルなら。
でも、そろそろ起こした方が良い時間だろう。部屋の外から足音や声が聞こえる。多分、いつもこのぐらいの時間に起きているはずだ。それに僕の部屋で寝泊まりしたのがばあちゃんとかにバレたら問題だろうし……。
「ノエル、起きろ」
肩を揺すってやると、ようやく目を覚ましたようだ。目をこすりつつ欠伸をしている姿は猫みたいで可愛らしいと思った。
「おはよう」
声をかけると、ぼんやりとしていた瞳がだんだんと焦点を結んでいくのがわかった。そして数秒後、飛び起きるようにして起き上がったノエルは、ベッドに額を擦り付けはじめた。
「ほんっっっっとにごめんなさいっ!!」
いきなり謝罪されて困惑する僕。一体何に対して謝っているのだろうか……? とりあえず顔を上げさせることにした。
「な、なにが?」
「だって私、アシュリーの気持ち無視して、強引に、しかも、アシュリーは気持ちよくなってない!」
顔を真っ赤にして涙目になりながら訴えてくるノエル。ああ、なるほど、そういうことか。自分が途中で寝てしまったことを気に病んでいるらしい。
「そうだ、今からもう一回やろう!」
名案とばかりに手を叩いて言うノエル。何を言っているんだ!?
「朝からそんな、それに今日の用事があるんじゃないの」
「アシュリーが来る時はいつも丸三日空けてるから大丈夫!」
そうなんだ。じゃあ、いいのか……? いやどうだろう。
「でも、まだ痛むんじゃない?」
「それぐらい我慢する、だって私が悪いんだし」
頑なな様子のノエルを見てため息をつく。こうなった彼女を説得するのはなかなか難しいぞ……どうしたものか……。
「ノエルが痛い思いをするのは嫌かな」
「それは、ありがたいけど……そうだ、アレだ」
何か思いついたのか、ぽんっと手を叩くノエル。今度は何を言い出すつもりなのだろうか……。
「痛くなくて、アシュリーが気持ちよくなる方法、あったよ」
微笑む彼女の表情は妖艶な雰囲気を纏っていた。ニタリ、と笑っている。なんだか妙な雰囲気だ。
すると彼女は素早く、僕のズボンを下着ごと下ろし、飛び出したものを口に含んだ。突然のことに驚き、声を上げる暇もなかった。
「わ、あ、ちょっと、ノエル! 汚い!」
慌てて引き剥がそうとするも、しっかりと腰を掴まれていて動けない。
「ぉあっ、ノエルっ、だめっ……」
舌が絡みついてくるような感覚に背筋が震える。時々歯が当たるし、ぎこちない動きだけど、それでも十分すぎるほどの快感があった。こんな状態で耐えられるわけがない。
「ほんとに、だめだからぁっ、ああっ」
情けない声を上げながら懇願する僕に構わず、むしろ動きを激しくするノエル。喉の奥まで飲み込もうとしているようだが、さすがに苦しいらしく時折えづいている様子が見える。しかし、そんな彼女の表情にも興奮してしまう自分がいて嫌気が差した。
「んぐっ、おっ、ごほっ……!」
咳き込みながらも必死に奉仕を続けるノエルの姿に頭がクラクラしてくる。しかしもどかしい、もっと強い刺激が欲しいと思ってしまう自分がいるのだ。無意識のうちに腰が動いてしまう。
それに気づいたノエルは目尻を下げる。そうして、僕の手を取ると、自分の後頭部に当てた。つまり、自分で動かせということなのだろう。僕は恐る恐る彼女の頭を掴むようにして動かし始めた。
「んんっ、ふっ、んんぅっ」
苦しそうな声を漏らしながらも、決して口を離そうとはしない。それどころかより一層深く咥え込んでくる始末だ。
「そんなことしなくたって、いいんだ、ノエル」
僕は口ではそう言いながらも、腰を止められないでいた。口の中の温かさと柔らかさに包まれ、溶けてしまいそうだと思った。
もう限界が近い。このままだと口の中に出してしまうことになると思い、なんとか止めようとするのだが、彼女がそれを許さなかった。ラストスパートをかけるかのように動きが加速していく。それに合わせて僕も一気に昇りつめていった。
「くっ……ごめん、出るっ!」
僕がそう言った瞬間、彼女はさらに強く吸い上げてきた。その衝撃で我慢していたものが決壊し、溢れ出てしまう。
「うっ……ああぁ……」
今まで感じたことのない快感に思わず声が出てしまった。それと同時に大量の精液が流れ込んでいくのが分かった。それを受け止めるように喉を動かすノエル。全てを出し切った後も、まだ名残惜しそうに吸い続けている。最後の一滴までも搾り取ろうという執念のようなものを感じた気がした。やがて満足したのかゆっくりと口を離す。
「けほっ、げほ……いっぱい、出たねぇアシュリー」
口の端から垂れる白い液体を拭いながら、恍惚とした表情でこちらを見つめてくる。
「ごめん、こんなことさせて……」
罪悪感に苛まれる僕とは対照的に、彼女はどこか嬉しそうだった。まるでご馳走を食べた後のような表情だ。
「謝らないで、私が始めたんだから」
屈託のない笑顔でそう言われると何も言えなくなってしまう。
「アシュリー、気持ちよかった?」
上目遣いで尋ねられる。そんなの答えは決まっているじゃないか。
「……うん」
素直に答えると、彼女は満足そうに微笑んだ。そして立ち上がると、僕の手を引いて立ち上がらせる。そのままぎゅっと抱きしめられたかと思うと耳元で囁かれた。
「続きは、今夜しようね」
その言葉を聞いた途端、顔が熱くなるのを感じた。きっと真っ赤になっているだろうな……恥ずかしい……。
「もう、アシュリーったら可愛いんだから」
頭を撫でられる。子供扱いされるのは最近はもう諦めている。せめてもの反抗として、僕は彼女の口を塞ぐことにした。舌を入れて絡ませてやると、それに応えるように彼女も絡め返してくる。僕の精液の味がして、うげってなったけど、ノエルに飲ませたんだから我慢する。それに舌を絡ませてる気持ちよさのほうが勝つし。
しばらくそうやって楽しんでいると、苦しくなったのか胸を叩かれたので解放してやることにした。
「ぷはっ! はぁ、はぁ……」
肩で息をしているノエル。少しやりすぎたかもしれないと思ったが反省はしないことにする。呼吸を整えた後、再び抱きついてきた彼女に押し倒される形でベッドに倒れ込んだ。
「続きは今夜じゃなかったの?」
「アシュリーがキスなんてするから、前倒しでーす」
「……ノエルが、いいなら」
「いいに決まってるじゃん、ばか」
拗ねたような口調とは裏腹に嬉しそうな表情をしているノエルを見て、胸が高鳴るのを感じた。僕は彼女の背中に手を回して引き寄せると、もう一度キスをした。今度は触れるだけの軽いものだったが、それだけでも十分に幸せを感じることができた。
「ねえ、アシュリー、今度はちゃんと、気持ちよくなってね」
そう言って微笑む彼女はとても綺麗だった。
◆ ◇ ◆
「ノエル、ノエルっ」
アシュリーが私の名を呼びながら、必死に腰を打ち付けてくる。まだあどけなさの残る紅潮した顔が、私の目の前にあった。
両足を持ち上げて覆い被さり、杭を打つかのように激しく何度も突かれる度に快感に襲われる。
「あしゅりぃ、あしゅりぃ、んむっ!?」
私が愛の言葉を口にしようとした瞬間、それを阻むように唇を塞がれてしまった。彼の舌が口内に侵入してきて、私の舌に絡みついてくる。同時に両手も恋人繋ぎをされて握られてしまい、完全に身動きが取れなくなってしまった。
体全部が、アシュリーのものになってしまった。なんだか気恥ずかしいような、嬉しいような、くすぐったい心地。もっと欲しい、もっともっと愛され求められたい、そんな欲望に支配されていく。
やがて限界を迎えたのか、彼は腰の動きを加速させていく。いつの間にか口も離れていた。
「いいよ、あしゅりぃ、また出してぇ」
既に、何度も中に出されているというのに、それでもなお足りないとばかりに求め続ける私たち。本当に、どうかしてると思う。今はただ、この幸せな時間を二人だけで味わいたい。それだけしか考えられなかった。
そうして気がつけば、お昼ごはんの時間になっていた。疲れ果てて、ベッドの上で二人して荒い呼吸をして寝転んでいる。そういえば、お腹が空いた。朝ごはんも食べていないから。
「流石に、これ以上は……」
ヘトヘトな様子のアシュリー。私を怪我させないために、左腕しか使わなかったから、余計に疲れているみたい。
でも、そういうところも含めて、大好きなんだ。だから私も、彼に無理をさせるわけにはいかない。そう思って立ち上がろうとするが、うまく力が入らない。
「休憩してから、行こっか」
「……うん」
しばらく、二人で色々と話した後、こっそりと浴場へ向かい、体を洗ってから食堂に向かう。
お祖母様とベッキーは、既に食事を始めていた。
「あ、あの」
「おはよう、ノエル、アシュリー。おそようって言うべきかしら」
「ご、ごめんなさい」
でも、お祖母様はあまり怒っているふうには見えなかった。むしろ、楽しそうに笑っているように見える。
「たまにはこういう日があってもいいじゃない? それに、二人とも凄くスッキリした顔してるもの」
確かに、言われてみればそんな感じかも。ずっとモヤモヤしていたものが晴れたような気分だ。それはきっと、昨日までとは全然違う気持ちだから。
「さあ、朝も食べてないからお腹が空いたんじゃないの?」
「う、うん!」
結局のところ、ベッキーは屋敷で女中として雇われることになった。お祖母様にとても気に入られたようだ。まずは修行に励むそう。
それから私の計画には変更が加えられた。別荘だけじゃない、あの地で本格的に研究が出来るように、周辺のインフラから何から何まで整備していく事を考えている。
小屋にはウォーレスの研究室があるから、そこを改装する事も視野に入れている。アシュリーが納得するかは、聞いてみないとわからない。
そしたら、休暇のときだけじゃない、アシュリーとずっと一緒にいられる。他の女の子を拾ってそっちに目移りしちゃうのも防げる! まあ、これは大丈夫か。
義体の生産が軌道に乗り始めたら、すぐにでも実行に移すつもりだ。何年後になるかはわからないから、我慢できなくなったら無理矢理にでも実行するつもり。
「また遊びに来てね」
アシュリーを送る蒸気自動車の中で、私はそう言った。次は二人きりで過ごしたいな。そんなことを思いながら。
「今度は私が、アシュリーのところに行くね」
「わかった、楽しみにしてるよ」
そして私たちは唇を重ねた。触れるだけの軽いものだったけど、とても満たされた気分になった。
「それじゃあ、またね」
「うん。また」
名残惜しさを感じつつ、車から降りるアシュリーを見送る。蒸気自動車が動き始めると、手を振る彼が見えなくなるまで、私も手を振り続けた。