“ソンブラ”とは誰か。
記録上、そのような者は存在しない。
世間に見捨てられた女の子。
戦争後の、あまりにもありふれた光景。
だが、彼女にはハッキングという力があった。
やがてその女の子は、人間もハッキングできると気づいた。
世界の理を理解した。
情報とは、力なのだ。
政治家、企業、政府。
ありとあらゆるハッキングを繰り返す彼女だったが……
初めて、存在を気づかれた。
《オリビア・コロマール、この街最安値の娼婦。住所はドラド2番地裏通り……》
「なによ……これ……」
オリビア・コロマールはその類稀な情報収集能力を用いて、自らの名前、顔、住所までがネット上にばら撒かれていることを調べ上げる。
《オリビアです。私、寂しくて、男の人に抱かれたいの。
お金なんて要らないから、今すぐドラド2番地裏通りの私の家に来て。
赤い屋根が目印よ》
「まだ1時間も経ってないのに、あらゆる場所に拡散されてる……
一体、“誰”に気づかれたっていうの!?」
オムニック・クライシスの戦災孤児であるオリビアは、ハッキングで得た情報を、地元のギャング《ロス・ムエルトス》に売ることで生計を立てていた。ただの子供に過ぎない彼女だが、そのハッキングの能力は卓越しており、1人で身を立てるには余りある報酬を得ていた。
今日の仕事も楽に終わるはずだった。彼女の住むメキシコのとある港街、ドラドに本社を構えるエネルギー企業の、内部情報を盗み出すだけの、簡単な仕事。
だが、彼女は生まれて初めて、ネットワークへの侵入を悟られるという失態を犯した。そして、彼女がそのことに気づいた時、彼女のあらゆる情報はネットの海に拡散され、あらゆる人々の目に留まるよう強調すらされていた。
「まずい、今すぐ逃げなきゃ……!」
オリビアはモニターの前から身を翻すと、小さなリュックサック一つだけを持って一目散に玄関に走った。
扉を開けた瞬間、彼女の口が大きな手に塞がれた。
「おい、見ろよこの顔。本当にネットで見た娘じゃねえか」
「ほ、本当だ。じゃあ、残りの情報も本当……ってことだよな!」
遅かった。拡散された情報を見た、下衆なごろつきどもが、既にオリビアの部屋の前でたむろしていたのだ。
「んん──!!」
口を塞がれ、男に後ろから羽交締めにされたオリビアは、抵抗しながらそのまま部屋の奥に引きずり込まれてゆく。
見たところ、男は3人。1人の男がオリビアを抑え、もう1人は彼女の正面に立ち下卑た笑いを浮かべ、最後の1人、銃を持った男は見張り役らしく、玄関の扉を閉め、鍵を閉めた。
「おい、暴れるなって。俺たちはお前のために来てやったんだぜ?」
「そうだ。恋人に捨てられて、誰でもいいんですって掲示板に書いてたよな?」
「え? 俺はパン1個分の値段で好きにしていいって広告を見たぜ?」
「おいおい……この女、男を漁るためなら手当たりってことかよ。とんだ変態だな」
「んん!んん!」
これまで誰の助けも借りず、孤児として生きてきた彼女のプライドは、こんな状況でも男たちに反論し、抵抗しようともがいている。
だが、その言葉が男たちに届くことはない。
「どれどれ……」
後ろから彼女を抑えている男が、値踏みするように彼女の体をまさぐる。オリビアの若者らしいラフな普段着の上を、男のゴツゴツとした手が這い回る。肌触りのいいタンクトップに、デニム生地のホットパンツという服装は、熱気を帯びた太陽光が特徴のメキシコでは一般的なものだ。
彼女の小気味よく膨らんだ乳房を、ふにふにと弄る男は、小馬鹿にするように吹き出した。
「へつ、イカれたアバズレの癖して、まだガキじゃねえか」
「よっぽどの変態に仕込まれたな、可哀想に。俺たちがたっぷり可愛がってやるよ」
そう言うと、正面の男がホットパンツ越しに下半身をまさぐる。
「んっ!」
突然のことに、思わず声を漏らしてしまう。
「お、声めちゃくちゃ可愛いじゃん」
「反応も初々しくてそそるねえ、演技か? それとも……」
欲望に火がついた男は、服をひっつかむと、乱暴に彼女の衣服を剥ぎ取り始める。
もうひとりの男はパンツの中に手を入れ、遠慮なくオリビアの恥部をいじくり回す。
「んんッ!」
「カマトトぶりやがって、初めてじゃない癖に」
男たちは欲望のまま、彼女の乳房を貪り、首筋を舐め、恥部を刺激する。
誰とも深い接触を持たず、薄暗い部屋のモニターだけを見て生活してきた孤児の女の子には、いささか強すぎる刺激だ。
「そろそろいいよな?」
男は、おもむろに服を脱ぎ、自らの肉棒を彼女に見せつける。
彼らが欲望のままに、オリビアの身体を蹂躙せんとしたその時、
「まったく、焦りすぎ。
私の演技に、猿みたいに興奮しちゃって」
孤児の女の子は、余裕のある笑みを浮かべて男たちを挑発した。
「ふん、やっぱりそうか、アバズレ女」
「あなたたちだけ、さっさと満足するなんて、許さないわよ。
私も楽しませてくれなくちゃ」
オリビアは意味ありげに笑うと、男の肉棒を右手で撫でる。
だが彼女の左手は、男たちの死角になる場所で虚空を叩いていた。
彼女の着けている手袋は、どこにいようともコンピュータを操作することのできる。虚空のキーボードを叩き、部屋の中の端末に遠隔でコードを打ち込むことも容易い。
(私が暴れるのをやめたら、拘束が緩んだ。後ろの男も、できることなら私を襲うのに専念したいようね)
オリビアは、冷静な計算をもとに脱出の計画を立てる。
「すぐ終わらせたらつまらないでしょう?」
彼女は肉棒にチロチロと舌を這わせ、男を焦らす。
焦らす、といってもハッタリに過ぎない。焦らした先に、男を虜にするようなテクニックなど彼女にはない。
だが、時間を稼げれば、ハッキングで何か活路を……
「小娘が、小細工は無駄だ」
入り口を塞いでいた男がそう言いながら近づき、オリビアの左手を咎めるように掴んだ。
「まだ自分の立場が理解できていないようだな」
違う。この男だけは、他の2人とは全く違う。私の身体に一切興味を示さず、私の逃げ道を塞ぐことに全神経を傾けている。
「あなたが、私の情報をネットにばら撒いたの?」
「埃の被った言い方をすると、お前は知り過ぎた」
口封じ、というやつか。
「あなたは何者なの?」
「世界を裏で操る存在、とでも言えば満足か?」
銃を持った男は鼻で笑いながら言う。
「おい貴様ら、手ぬるいぞ。遠慮はいらん。滅茶苦茶にしてやれ」
「はっ、さてはあんた、このアバズレに恨みでもあるな?」
「まあ、そんなところだ」
「へへ、言われなくても、こんなところでやめられっかよ!」
勢いづいた男は、オリビアのパンツを強引に取り去り、彼女の身体をの全てを顕わにする。
小麦色の肌、つんと上を向いた乳房、細い足に、肉感のある尻。
「やめろ! それ以上近づいたら殺す! ころしてやる!」
男はオリビアの両足を強く握り、拘束され身動きの取れない下半身に、肉棒を近づけていく。
あてがわれた男根は、既に分泌されていた愛液で滑りを得ている。
「それじゃ、遠慮な…くぅぅ!」
彼女の膣に肉棒が侵入する。
「んんぅ!!」
「へへ……おい、オリビア・コロマール!
俺様のモノを咥え込んだ感想はどうだ! ああ!?」
男は欲望のままに激しく腰を振る。同時に後ろの男からは乳房も責められ、快感が身体中を駆け巡る。
「んあっ! んあっ! んああ!」
悔しい。男にモノのように扱われ、ただ快楽を与えるだけの人形となっている悔しさ。
それ以上に耐え難いのは、自らの存在意義ともいえたハッキングスキルでの敗北が、この事態を招いたという屈辱的な事実。
「やめ……て、お願い……」
「へへ、さっきまでの威勢はどうした、オラア!」
男たちの責めがさらに激しさを増す。オリビアの苦痛と快楽に歪む顔を見て楽しむためだけの、乱暴かつ悪辣な責め。
「思い出した。どこかで聞いたことがあると思ったら、オリビアってのは《ロス・ムエルトス》に出入りしてるガキだぜ」
「《ロス・ムエルトス》って、あの革命気取りのギャング集団だろ?」
「そうだ。こいつ、ギャングの後ろ盾があるからって、お高くとまってやがったいけすかねえガキだ。
一度取り引きで見たことがある。間違いねえ」
オリビア・コロマールの全ての情報が、相互に結びつき、もはや彼女に逃げ場などない。
「教育だな、今日の映像も名前付きでアップしてやろう。このガキにムカついてる奴は多い、高く売れるぜ」
「お前らのテロ行為にはみんな迷惑してるんだ。身体で償え!」
男に突き飛ばされ、四つん這いにさせられたオリビアの後ろから、再び肉棒が突き入れられる。
「あっ! あっ!」
「ほらっ! 突かれてるだけじゃなくてもっと締めろ!」
ぱあん、と甲高い音を鳴らし、尻を叩かれる。犬のように這いつくばり、尻を突き出すしながら、差し出された別の肉棒を音を立ててしゃぶらされる。すぐに、彼女のプライドはポッキリと折れてしまったら。
「どうだ、気持ちいいだろ?」
「 じゅぷっ… ふぁい……気持ちいい、です」
「じゃあもっと腰を振れってんだ! 殺されたいのか!?」
「いやっ! 気持ちよくするから! 殺さないで!」
オリビアは無我夢中で腰をくねらせ、男を興奮させるために精一杯の痴態を演じる。
「もっとケツ振れ!」
「はい…!」
「よし、ビデオに撮ってやるから、全世界に向けて挨拶してみろ」
「はい……名前は、オリビア・コロマール……」
男に騎乗位で跨りながら、痴態が記録に残されていく。
「地元のギャングに加担して、調子に乗ってました。ごめんなさい。
本当はセックスしか取り柄のない、ただの小娘に過ぎないのに……んああ!
お尻は! 弄らないで!! んんんん!
ごめんなさい! ごめんなさい! ごべんなさ…あああああん♡」
絶頂に達すると同時に、オリビアは崩れ落ちる。
だが男たちは容赦なく彼女を膣と肛門を交互に責め立て、ついにその時が近づいていた。
「はあ、はあ、あの生意気なガキがここまで従順にな……
こりゃ、相当にそそるぜ」
「俺、そろそろイキそうだ」
「ああ……俺もだ」
「中に出すぞ! イケっ!!」
「くぅぅぅ!!!♡♡」
オリビアは身体を弓のようにのけぞらせ、最大の絶頂を迎えた。
男たちは快感の余韻に浸り、乱れた息を整えている。
オリビアは、両方の穴から白濁した液体を溢しながら、その場に崩れおちている。
乱れた息、恍惚とした表情、そして……虚空を叩く左手。
《ハック完了》
ロス・ムエルトスの好む髑髏のマークが、とある端末に映し出される。
彼女がハックしたのは、部屋の窓から一瞬だけ見えた、無人の自動運転車。
絶対に安全という謳い文句のその車は、いまは彼女の意のままに動いている。
「おい、なんだこの音……」
「なんだあの車……!!」
轟音とともに、大型車がオリビアの部屋に突っ込んだ。
男のうち1人はもろに巻き込まれ、もう1人は意識を失った。
入り口を塞いでいた男は離れて立っていたものの、突然の衝撃によろめいた。
彼女はその隙を見逃さなかった。
素早く起き上がると、男に体当たりし、彼の持っていた銃──マシン・ピストルを掠めとった。
「この……!!」
「遅いわよ、のろまさん」
オリビアの構えたマシン・ピストルの弾がフルオートでばら撒かれる。
逃げ場のない密室、たちまちのうちに最後の男に風穴が開く。
全てが終わった時、裸のオリビアだけが、そこに立っていた。
「一刻も早く、ここから離れないと……」
滅茶苦茶になった部屋から、かろうじて丈の長いコートを見つけ出すと、素肌にそれを羽織り外に出る。
オリビア・コロマールという名前では、もう生きていけない。
ありふれた戦災孤児の女の子は、生活苦に喘ぎついには娼婦に堕ち、最後は部屋に暴走車が突っ込んできて、客の男たちもろともその哀れな命を散らした。
だが、古くなったハードはアップグレードすればいい。
そうして女の子は死に、ソンブラが生まれた。
準備は、できた。
世界を裏で操る者を、暴いてやる。
どんな相手にも、付け入るべき弱点がある。
情報を駆使し、世界は私のものになる。
“ソンブラ”とは誰か。ソンブラは存在しない。
アディオス。